魔女のヒーローアカデミア   作:陽紅

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注意 【本編とは一切関係がありません】


現在、世界中で新型コロナウイルスが猛威を振るっております。

どうか、
『できる限りの対策』を。

どうかどうか 、
『最大限の注意と危機感』を。


皆様がこの窮地を平穏無事に越せますことを、心よりお祈り申し上げます。



MP25 しょうがいぶつそう

 

 

 

 障害物走。その競技名を聞いてまず思い浮かべるのは、校庭のトラック内に設置された、平均台や網、ズタ袋などが一般的だろう。純粋な足の速さもそうだが、全体的な運動神経が求められる競技である。

 

 

 『一般的な』障害走であれば、の話だが。

 

 

 

 

(220人が一斉にスタートする時点で、もう一般的じゃないですよねぇ)

 

 

 ──眼下、スタート地点に犇めく同級生たちをカメラに収めながら、天魔は内心裏方でよかったと呟く。生徒たちは少しでも良い位置を得ようとするので、ゲート周辺では正直圧死者が出るのではないかという密集率だ。満員電車などの比ではない。

 

 そして、カメラを前から後ろへ動かして順に写していき……一塊の最後尾よりも、僅かに余裕を置いてスタートを待つ選手たちを写した。

 

 

 念入りにストレッチをする者、リラックスしてスタートの合図を待つ者と様々だが、この時点ですでに優劣が付けられつつある。

  ……なお、ヒーロー科の大半がここにいる。つまりはA組の面々もそこにいるというわけで──そのことが嬉しいような誇らしいような、どこか、自慢したいような。

 

 

 

(スタート前から勝負はもう始まっている。そして、障害物走の障害は、コース上にあるギミックも勿論そうですが……)

 

 

 そして、主審であるミッドナイトから──スタートの合図が、下された。

 

 そのゲートが開いた直後……後方から、生徒たちが犇めく狭いトンネルの地面を、強烈な冷気が真っ先に駆け抜けた。

 

 

「……悪ぃな。篩に掛けさせてもらうぜ」

 

 

 冷気はすぐに氷となる。足首あたりまで凍りつき動けない生徒たち頭上を飛び出したのは、左右で赤と白に分けられた特徴的な髪の男子生徒だ。

 

 

 

 轟 焦凍。今期入学の一年生の中で、推薦入試を果たした一人である。狭き門たる雄英ヒーロー科……その中でも、さらに狭いたった四席を勝ち取った実力者だ。

 

 

(──強力なライバル。それが、なによりも警戒しなきゃいけない障害ですよ?)

 

 

 開いたばかりのゲートを一人悠々と越え、おまけとばかりに巨大な氷の壁を作り上げる。その轟を写したあと、天魔はすぐに氷壁へとカメラを向けた。

 

 氷とはいえ、厚さは軽く1メートルを超える。砕くことは勿論、削ることさえも並大抵の力では不可能なはずだ。

 

 

 

「──『スマッシュ』!」

 

 

 一声、そして、一撃。それだけで、轟が作った氷壁は粉々に砕かれ、陽光が反射してダイヤモンドダストが生じる。

 

 

「あんまり、見くびらないでよ轟くん……こんな篩なら、なんの障害にもならないぞ……!」

 

 

 氷壁粉砕しただろう右腕に異常はなく、また破壊の直後に駆け出す様子から、すでに自爆のデメリットは超えていると考えていいだろう。たった二週間……成長速度は、おそらく今年の一年でトップクラスだ。

 

 そして、緑谷が開いた突破口から、続々とA組のメンバーがそれぞれの方法で飛び出してくる。

 

 

 

「やると思ったよ『開幕ブッパ』! 二度も同じ手かかるか!」

 

「上等だこのクソ紅白! 篩ごとテメェを爆破してやらぁ! つかでしゃばってんじゃねぇぞクソナード!」

 

「緑谷サンキュ、助かった! ──『初っ端で躓く』なんて格好悪いとこ、見せられないからね!」

 

 

 

 『何よりの障害は、強力なライバル』……それは例外なく、選手全員に共通することだった。推薦入学の轟もそれに変わりはない。

 

 

 スタートから白熱した駆け引きに観客は再度爆発する。それを聞きながら、天魔はインカムを操作した。

 

 

 

「こちら『ウィッチマザー』、第一関門担当スタンバイ! おそらく、『開幕ぶっぱ』が予想されます! over!」

 

『了──……? 『開幕ぶっぱ』ってなんですか? over』×4

 

 

「……。各自で解釈してください! over!」

 

 

『……本体、まさかあなた。over』

『さては聞いたばかりの言葉を使いましたね? over』

『昔それで田中くんに散々からかわれて大変だったじゃないですか……over』

『あ、早くも先頭きましたよ。轟さんで……ああ、なるほど。これが『開幕ぶっぱ』 over』

 

 

『『『『……っていうかコレ、安全措置は大丈夫なんですか? 今、切島さんと金属個性っぽい方が潰されましたけど……。over』』』』

 

「…………。

 

 よし、現場判断です。四番、五番カメラ担当は自己判断で『あ、これはダメ』と思ったら全力で救助を。普通に考えて数トンある機械に潰されたら異形系個性の人でもない限り普通に大怪我しちゃいます! ……あと、流石にもうoverいいですよね?」

 

『『了解! そして賛成です!』』

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「……安全措置だって、イレイザー。なんか知ってる?」

 

「むしろなんでお前が知らねぇんだよ。……当然、しっかりとされている。ロボ全体のシステムを『過剰な攻撃はなし』に、小型は大型が崩れた際に割り込んで隙間作るよう設定されている。さらに大型のはデカイだけで動きは入試の時よりもずっと鈍くなってるくらいだ。難易度的には入試よりずっと『優しい』んだぞ」

 

 それにな。

 

「『あの程度の障害』に怖気付いて尻込みするようなら、ヒーロー科には入れねぇよ。開会でお前が言ってたろうが。『世界を変えたきゃ自分で変え ……おい、待てマイク。お前なに放送のスイッチ入れてんだ」

 

「──と! いう訳で観客リスナー! 雄英体育祭は安全措置を徹底しておりまーす! ……ちょ、待てイレイザー! 首! スピーカーに入り込んで一本首にかかって……! だって俺が言うよかお前が言った方が説得力とかいろいろ、ちょ待て、あっ……」

 

 

 

 

***

 

 

 

 はい、皆さんこんにちは。いいお天気ですね。実に体育祭日和です。早乙女天魔が分身の……えっと、何番目かはわかりませんが、とりあえずカメラ七番機を担当しています。

 

 大きくて重いカメラが肩に食い込んでちょっと痛いですが……ここは我慢。皆さんの勇姿を収めないといけませんからね! 責任重大です。

 

 

 

 

 

「そういえば、本体……じゃなかったウィッチマザーは?」

 

「本日三度目の不幸を攻略中です。なんでも、『撮影のために低空飛行していた時に偶然大型のロボが数体重なって倒れてきた』みたいで」

 

「えっと、一つ目が崩れてきた建設現場の足場(二階建て一軒家)、二つ目が落ちてきた植木鉢……でしたっけ。やはり人が密集していると不幸の『強度』が跳ね上がりますね」

 

 

 二つ目の障害物……いや、障害『地形』。軽く底が見えない巨大な穴に、 無数の石柱が生えていて、その間をロープが張られている。マイク曰く『ザ・フォール』とのこと。……掘るのもそうだが、埋め立てもとても大変そうだ。

 

 ここは先程の『ロボ・インフェルノ』と違い、激しい動きがほとんど無いので定点カメラで十分なため、天魔たちは比較的暇らしい。

 

 

「現在一位は轟さん。二位は結構集団になって……そろそろ、爆豪さんが温まってくる頃合いですかね?」

 

「……ヒーロー科はほぼ全員順調。あとは、多分サポート科の女の子と……ほら、この前偵察やら宣戦布告と言ってきた紫髪の」

 

「たしか普通科の方でしたよね。……すごく、睡眠補助の魔法をかけてあげたくなったのを覚えてます」

 

 

 あと体もちょっと細かったですよね、食事はちゃんと──云々。

 食事といえば、今日の八木さんのお昼はなににしましょうか──云々。

 今度煮物の味付け、新しく挑戦してみませんか? 少しピリ辛系で──云々。

 

 

 

 ──選手も魔女も、特筆するようなあれこれはあまりなし。

 

 

 

 

***

 

 

 

(ここまでは順調……! かっちゃんも先頭の轟くんに向かって行ったから、一位のタイムはどちらにしろ遅くなる。順位的にもタイム的にも、このままゴールしても十分第二種目に進める安全圏には食い込んでるはず!)

 

 

 肝の冷える綱渡りを突破し、最後の障害である地雷ゾーン(マイク曰く『怒りのアフガン』)に突入。個性で空を飛べる爆豪に有利と思いきや、左右の森の中から高精度狙撃されるという徹底ぶり。

 ──目を凝らし、神経を尖らせて進む。そのため、走る速度はどうしても遅くなるだろう。

 

 緑谷の現在の順位はおそらく十位前後。スタート直後に轟が行った篩でヒーロー科以外のクラスの殆どが出遅れたため、抜かし抜かれても今の順位から大きな誤差はないはずだ……と冷静に分析を行う。個性であるワンフォオールも氷を砕いた後、ロボ相手に一度使っただけで殆ど使用していない。体力も温存している。

 

 

 

 

 ……順位は、十分安全圏。

 

 だが、鮮烈に自らを世間に刻みつけるなら……仕掛けるべきは、ここしか無い。

 

 

 

「……っ」

 

 

 地面に所狭しと埋められている地雷。派手に爆発するが威力は低いとのこと。──かなり矛盾しているような気がするが『痛くはないけど盛大に吹き飛ぶ』と考えればいい。

 

 天魔との訓練で発動時間こそ相当に短縮できたが、まだ連発はできない。最低でも三十秒ほどのインターバルを置かなければ、今出せる自壊しない威力を発揮できないし、最悪制御ミスで自滅だ。

 ──だが、裏を返せば……両腕で一発ずつ。両足も含めれば、()()()()()()()()()()使()()()()()()()()ということである。

 

 

 

 そして最後に……ゴールであるスタジアムまで、完全に一直線。ラストスパートには、もってこいの状況である。

 

 

 

 

「いける、かな……いや、違う……!」

 

 

 ……思いついた策。上手くいけば一気にトップに躍り出るが、行程の一つでも失敗すれば安全圏からすらも転落しかねない。そして言ってしまえば、ここで無理をする必要性はほぼ皆無なのだ。第二、そして例年通りなら第三まである種目で巻き返せば十分優勝を狙えるだろう。

 

 

 そう考えて──なお、緑谷は加速した。彼がいた集団の全員が減速していく中で、緑谷だけが全力の短距離走のように加速したのだ。

 

 ここで一気に、三位集団から三位に繰り上がる。そして、地雷原ギリギリのところで、大きく強く踏み込んだ。

 

 

(行けるかどうかじゃない……『行くんだ』!)

 

 

 発動は右足。

 太腿と脹脛を意識し、膝と足首に限界まで力を込める。

 

 ……経験は、ある。

 入試で一人の少女を救うために、ビルよりも高く跳んだ。今回はもっと楽だ。横へとただまっすぐ跳べばいいだけなのだから。

 

 

(教えてもらった。助けてもらった……! 迷惑もかけた! なんのメリットも義務もないのに、入学試験の時からずっとだ!! だから僕は……! 自分に出せる最高の結果を、出し続けなきゃいけないんだ!)

 

 

 

 

 

 だって目指すのは──彼を継ぐ、最高のヒーローなのだから。

 

 

 

 

 

「いっ、けぇぇぇえええええ!!」

 

 

 

 跳ぶ。地雷ギリギリで踏み込んだため、爆発は起きずに姿勢は安定した。相当な距離をぶっ飛んでいくが……高度と飛距離が全く足らず、落下地点は地雷原の三分の一に届くかどうかだ。

 

 『ヤケになったか』と後続が見上げる中で、緑谷は再び力を、今度は腕に纏う。

 

 

 

利き腕(右腕)は残しておく……! 精度はいらない、むしろ、ブレて広範囲に広がったほうが好都合!)

 

 

 姿勢を前に崩す。頭が下に回り、顔は後ろを向いた。

 

 狙うのは真下から後方の広範囲。後続に道を作ることになるが、その時自分がゴールしているなら問題はないだろう。

 

 

「──スマッシュ!」

 

 

 真下の地雷が複数起爆し、体は爆風によって再び空中へ。そして、殆ど間を置かずに後ろが連鎖爆発し、馬鹿げた推進力を得た。

 

 再び前へ跳ぶ。高度・加速ともに申し分ないが、それでも三分の二を超えた程度。だが──

 

 

「──はっ、今更何しに来やがったクソデクぅ!?」

 

「ちっ、爆豪の次はお前か……!」

 

 

 地雷原故に速度は落ちているが、それでも十分走っているという速度を出しつつ、並走する相手と攻防を繰り広げる──

 

 

 

 二人のトップに、ついに追いついた……!

 

 

 

(かっちゃん、轟君……!)

 

 

 やはり凄い。付け焼き刃な自分とは比べようもないほどに、長い努力と類稀なる才能が合わさった実力者だ。

 

 

 轟が緑谷の急加速の原因を理解し、右……氷結で地面の広範囲を地雷ごと凍結させる。

 爆豪はそれを察知し、さらに緑谷が落ちてくるだろう場所を予測して彼を脅威から除外。放とうとした爆撃の対象を轟へと向けた。

 

 流石に判断が早い。だが……『甘かった』。

 

 

 残していた右腕。力はすでに込めてある。狙うは、自分を無視して競い合う、二人の間の地面。

 

 氷に覆われる直前に、明らかに『ここにあるぜ!』と主張しているのを確認した。

 

 

 

(今度は精度……! 一点集中で『貫くように』!)

 

 

 

 放つ。氷は容易く砕かれ、それを確認した二人が、本来の緑谷の一撃の範囲を脳裏に浮かべて反射的に左右へと跳び……。

 

 

 ──貫通した衝撃により起爆した地雷の大爆発で、さらに吹き飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

『──喜べ観客リスナー! 嬉しいだろマスコミリスナー! ご希望ご待望の胸熱展開が来たぜぇ!?』

 

 

『怒涛の追い上げ! ラストスパートでド派手に決めたその男! 一体、誰が想像できただろう! 注目集まるライバルたちを見事追い抜き、このスタジアムに最初に戻ってきたのはァ…!!!』

 

 

 

 

『緑谷 出久だぁぁあああああ!!!』

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 〜緑谷少年が仕掛けた頃の魔女部隊〜

 

 

「っ!? まって、緑谷さんが仕掛けます! 地雷原前! 先行し……跳んだ!? そんな、脚はまだ受け身が不十分だからと……きゃあ!?」

 

「私ぃ!? 無事ですか!?「カメラは死守……!」ナイスファイトです! カバーに入りま──……あっ」

 

 

 

「わー……最後の方の地雷だから、爆発も大きいですね……また一人巻き込まれ……うん? あ、あの、もしかして二度目の爆発に巻き込まれたのって、まさか本体だったり……しちゃったりします?」

 

 

「「「「…………。over」」」」

 

 

 

 




読了ありがとうございました!

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