魔女のヒーローアカデミア   作:陽紅

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MP34 試練という名の『お節介』

 

 ──いきなり現れたその『オブジェ』を見て、即座にかつ最適な例えをあげられる者が、果たしてその会場にどれだけいるだろうか。

 

 直径にして優に5メートルはあるだろう『蔓の球体』。そして、それを持ち上げ支える『蔓の台座』……色彩やら材質やらをまるっと無視すれば、球技系種目のトロフィーに見えなくもない。もしくは、やや歪な森林地帯だらけの地球儀だろうか。

 

 もっともどちらにせよ、前述にした通り人が掲げられる大きさでは無いのだが。

 

 

 ……緑の津波は、一人の魔女をあっという間に呑み込んだ。そして、そのまま荒々しくうねり上がって『今の形』へと相成ったのだ。

 

 

 ──開始の合図の余韻がまだ若干残っている。審判であるミッドナイトは開始早々またか、と頬を引き攣らせていた。

 

 

『え、ええと。コホン。じ、実況を再開──しようと思ったら急展開だぁー! いきなり塩崎の大技が炸裂ッ! あれか、開幕ブッパが最近流行ってんのか!?

 いや、つーか、これ……早乙女無事かぁ!?』

 

 

 そこへ、やや遅れるようにマイクの実況が響く。それを聞きながら……当事者である塩崎 茨は、どこかやり遂げたような、難関を超えた後のような達成感のある表情を浮かべていた。

 ──チラリと、塩崎は審判であるミッドナイトを見る。「勝敗の宣言はまだか」と、問いかけるように。

 

 

 そして、その視線を受けたミッドナイトだが……実は少しばかり困っていた。

 

 

 球体状になった蔓の中央に天魔がいると思われるのだが、当然ミッドナイトは彼の状態を見ることはできない。つまり、勝敗の判定をしたくてもできないのだ。

 

 先の試合である轟・瀬呂の対戦では、瀬呂の行動不能が誰の目で見ても明らか(会場中からドンマイコールを含め)だったが、中で何が起きているのかわからない以上、安易に勝敗の判定ができない。

 

 ……ルール上では『場外』か『気絶、もしくは審判が戦闘不能と判断』で勝敗が決まる。故に、蔓に覆い隠されている状態では正直ジャッジが難しいのだ。塩崎が球体部を移動させて場外まで転がしてくれれば話は早いのだが、それを審判が要求するわけにもいかない。

 

 

 

(んー、どうしようかしら。それっぽくテンカウントでも……って、あら?)

 

 

 ── サンッ ──

 

 

 悩む最中……唐突に聞こえた、なにやら小気味の良い音。耳を澄ませなければ聞き取れないほど静かに、しかし不思議と会場中に響くという矛盾した音が、蔓で作られたオブジェから鳴る。

 

 何事かと注視して見れば……球体の頂点から台座に至るまで、まるで『定規を当てて引いたような直線』が、一本走っていた。

 

 

「……?」

 

(約五秒、ってとこかしら。あの子にしては随分と長考だこと……こうなると、塩崎さんは詰めを誤っちゃったわね。あのまま場外へ動かしてれば『ルール上で勝てた可能性があったかもしれない』わ。でも……)

 

 

 製作者である塩崎が首を傾げ、警戒を強める──……よりも早く、再び同じ音が聞こえ、今度は球体を横に……地球儀でいうところの、赤道の線が刻まれた。

 

 

 

 それを皮切りに、サンッ、サンッ、と。

 

 サンッサンッサンッ……と。音が鳴る度に線が増え、その間隔は短くなっていく。

 

 

「ま、まさか……!?」

 

 

 やがて、音と線が30を超えると、音と線引きは唐突に止まり……異様な静けさが、場を支配した。

 

 

 そして──

 

 

 

 ──ヴォンッ!

 

 

 

 空気を揺らす独特の異音と共にバラバラに()()()()()()茨蔓は、さらにその中心から弾き飛ばされる。

 

 その状況を成しただろう天魔に、負傷どころか着衣に乱れすらない。まるで、そもそも攻撃などされなかったかのような様子で、平然とそこに降り立った。

 

 

「んー……物は試しとやってみましたが、やっぱりこれ、結構消費が激しいですね……要改善ですね」

 

「……っ」

 

 

 塩崎は自身の勘違いと失策──そして、突き付けられた事実に、息を呑み唇を噛んだ。

 

 

 

 初見。天魔は騎馬戦で六本脚のケンタウルス(?)の姿をしていた。しかし、ここには二本足──人間の姿で普通に出てきたことから、天魔を『変身系の個性かなにかなのだろう』と彼女は予測した。

 

 ……そう予測して、だからこそ変身する暇を与えないために開始直後の全力攻撃を行ったのが……。

 

 

 注視するのは彼の両手。揃えられたその指先から、唸りあげるような音と共に伸びるのは光の剣だ。状況から考えれば、蔓の束縛を斬り裂いたのはあの光の剣で間違いないだろう。

 

 ……所詮は植物ではあるが、それでも塩崎は自分の()の強度には多少の自信があった。生半可な刃物であれば、傷はあっても容易く切断はされないだろうとさえ。

 だが、複雑に絡み合った状態にも関わらず、切断してなお形状を維持できるほどの斬れ味で切断されてしまったのだ。拘束系の手札は全て無意味になったと見て間違いはないだろう。

 

 

 ──しかも、それほどの力を『試してみた』と、軽く言う。

 

 

 ……塩崎は知る由もないだろうが、先のUSJで()()を経た天魔は、ある程度決まっていた方向性を再度見直している。

 それこそ、イメージこそできたものの『効率が悪い』と試行段階にすら届かなかった攻勢魔法を持ち出すほどに。

 

 

『大量の蔓の拘束から早乙女、無傷で脱出ぅ! し、しかもあれは、まさかのライト◯イバー!? 早乙女はジェ◯イの騎士だったのかぁー!? あ、後でよく見せて!』

『公私混同してんじゃねぇよ。……あー、早乙女。わざわざ出し方をアレっぽく変えんな。やり易いやり方で──』

 

「「「「「うおぉおおおおお!!!」」」」」

 

『──……。好きにやれ。以上だ』

 

 

 

 マイクの実況に呼応するように、呆然としていた観客席から歓声が爆発した。

 

 ……有名な某SF映画のファンもこの場に少なからずにいるのだろうが、それ以上に塩崎が見せた速攻と、それを無傷で切り抜けた天魔。どちらも一般人からすれば考えられないレベルだ。

 未来のヒーローたちの見応えのある戦いを求めて観客たちのご希望に、やっと叶う者が現れたのだと興奮は否応なしに高まっていく。

 

 

 ──だが、興奮のボルテージを上げていく観客席に対し、舞台上の二人は開幕から立ち位置すら変えず、どこか静かだった。

 

 

 

「……一体、なんの個性なのですか?」

 

「『相対したヴィランが、正直に自分の手の内を晒してくれると思いますか?』と返しておきましょうか。

 というより、B組の小森さんと小大さんにはお伝えしているんですが……お二人から聞かなかったんですか?」

 

「彼女たちは確かに大切な友人です。ですが、この体育祭ではライバルでもあります。……その二人に『仲間の情報を教えろ』などと、卑劣な謀は致しません。勝負は常に正々堂々。それがヒーローを目指す者の責務です」

 

 

 しかし、こんな事なら聞いておけばよかった──と、そんな後悔が一瞬過ぎるが、頭を振って追い払う。そんな後悔は、自らが掲げる正義の信条の否定に他ならない。

 

 相手の個性が未知数である以上、下手に踏み込むのは危険と判断したのだろう。塩崎は大量の蔓を即座に動かせるように展開し、守りに入る。

 ──相手の出方を待つ、完全なカウンター狙いの構えだ。

 

 物量に優れ、さらには自在性にも優れた彼女の個性を考えれば攻めあぐねるか、最低でも時間をかけて慎重になるのだろう。その時間で相手の個性を探り、突破口を──……

 

 

「『──』、──」

 

 

 耳で聞き取れない小さな呟き。直後、強い風でも受けたように長い黒髪が揺れ……

 

 

 

「それじゃあ、攻守交代です。今度は、私から行かせてもらいますね?」

 

 

 気負いの欠片も無い、あまりにも軽い言葉。踏み込みで生じたその音とは裏腹に、強風を伴った魔女が塩崎へと突貫する。

 

 

「(速い……!?)──ですが!」

 

 

 確かに速いが、対応できない速度ではない。真正面から来るのなら、むしろ対処は容易いだろう。

 

 蔓の先端は鋭く、金属にこそ劣るだろうがコンクリートの舞台を貫けるのはすでに実演済みだ。それを、横にした剣山のように天魔へと殺到させる。

 

 

(あの光の剣は私の蔓を容易く切れる。それでも……ッ)

 

 

 物量には勝てないだろう。

 

 そして、今度は押し出して、確実に場外へ、と。

 

 

 自ら緑色で埋めた視界──その向こうで、ヴォン、という音が連続で唸りながら、()へと登っていく。

 

 

 

 釣られて見上げれば、相変わらず無傷な対戦相手が剣山の壁を超えて、そこにいた。

 

 

 

***

 

 

 

「うわぁ……」

 

 

 そう呟いたのは、果たして誰だったのだろうか。その呟きを耳にしながら、もしかしたら拳藤は自分が呟いたのかもしれない、と思える程度には、同じ意見を感じていた。

 

 ──目の前で起きている級友と、ヒーロー科他クラスの生徒の対戦。それを見た、率直な感想である。

 

 

「……ねえ、一佳。これって……」

 

 

 隣からきた、苦笑を隠しきれない取蔭の声に、同じく苦笑を返す。

 

 

「うん。これもう、試合じゃあないよなぁ……」

 

 

 

 眼下。普段は個性を使用する際に祈るように組んでいた手を必死に振り翳し、指運にて()()()()の蔓の操作を行う塩崎と、その必死の視線が見つめる先で……『おい重力仕事しろよ』な立体的機動力を見せる早乙女がいた。

 

 

 蔓の動きは攻防を重ねるごとに、僅かに……だが確実に早く、正確になっていく。

 それを紙一重で回避・攻略し、その度に何か塩崎に伝え──早乙女は攻め方をさらに変えていった。

 

 

 大きく派手に動き回っている早乙女に対して、塩崎はさながら固定砲台のように動かない。だが、肩で大きく息をしているのは塩崎の方だ。これではまるで……。

 

 

 

「『試合じゃなくて、もう個人訓練だ』──か?」

 

「ブラド先生!」

 

「うむ。一応来てみたが、全員真剣に試合を見ているようだな! 見て学ぶことも成長への大きな一歩だ! 鉄哲は自分の試合に集中することも忘れるなよ!」

「押忍! っすけどブラド先生! 相手のアイツなんなんすか!? こう、真面目にやってるのはちゃんとわかるんすけど、なんか……こう、こう!」

 

 

 言いたいことがあるのに言葉にならない。そんなもどかしさに地団駄を踏む鉄哲に苦笑を浮かべ、ブラドは概ね同意している様子の生徒たちを見渡してから舞台を見た。

 

 

 

(あれは……魔女の本能、とでもいうべきなのか)

 

 

 少年を、英雄へ。

 

 少女を、お姫様へ。

 

 

 微笑みながら導いていく、それは、絵本の中の素敵な魔女のように。

 

 

 本人の生来のお節介気質も相まってか、天魔は試合を早々に思考の向こうに追いやって塩崎の弱点を徹底的に突き、改善を促していく。

 状況だけ見たら白熱した試合に見えなくもない上に、両者とも極めて真面目にやっているので観客達の歓声も殆ど途切れなかった。

 

 ……この試合、穿った捉え方をすれば『下に見られている』と思いかねない塩崎だが、表情を見る限りそんな風でもなさそうである。それもそれで些か問題はあるのだが……。

 

 

「まあ……その辺りは担任のイレイザーに任せよう。うむ。別段、問題があっても実害があるわけじゃあないしな。むしろ、塩崎にはこの上なく有意義な時間のはずだ。正々堂々を自分に強い()()()意識も、これを機に変わってくれるかもしれんしな」

 

 

 

 なお……『一つ一つ、一歩一歩を確実に』という、どちらかと言えば相澤よりも自分寄りの教え方に近いことにちょっと気分が良くなったのは、生徒たちには内緒である。

 

 

 

 

***

 

 

 

 ─放送オフ─

 

 

「…………ねぇなーにー? あの変態機動。早乙女はジェ◯イじゃなくて飛天する御剣な剣士だった?」

「そもそもアイツはジェ◯イですらねぇだろ。……それに、『直接戦闘に向かない個性持ちのヒーロー』なら、あの程度の動きができなきゃ話にならん。むしろ、まだまだ無駄が多いな」

 

「判断基準がおかしいからな? でもおっけぇ。今の発言で誰が犯人かわかったぜ! お前が早乙女に教えたんだろイレイザー!?」

「教えてない。飛行禁止の制限かけて、市街地での追跡訓練を半年やったら……まあ密度にもよるが、あれくらいはできるようになるだろ」

 

「それってつまり、『現役のプロヒーロー』が『自分の得意なフィールド』で『相手にハンデ背負わせて』扱き上げたってことだよな?

 

 ──イレイザー? おいこっち見ろイレイザー。寝たふりとか古典的過ぎるだろマイフレンド! 吐け! お前、絶対他にもなんか早乙女に叩き込んでるだろ!?」

 

「ノーコメント。っつうか、アイツに関しちゃ、俺だけじゃねぇだろ」

 

 

 言葉の応酬が始まり、そのままヒートアップ。誰にも知られず、実況席でプロヒーロー同士の非公式な試合のゴングが鳴った。

 

 その一方で、十五分という試合時間の末に、塩崎が個性の使用限界でミッドナイトにギブアップを申告する。

 天魔の勝利宣言が行われ──疲労と脱水症状でふらついた彼女を抱きとめ、何を思ったのかそのまま横抱きに抱えて、天魔は舞台を降りていった。

 

 

 レベルの高い攻防に満足したのだろう観客たちの歓声。……試合後の、天魔のスポーツマンシップに準ずる行動も良い方向に評価されたのだろう。少なくない数の拍手も所々で起きている。

 

 スポーツマンシップである。……時折、白い花の名前が聞こえた気がしたが、気のせいである。絶対に。

 

 

 

 ──試合前のマイナスイメージは、まあ、ある程度払拭できたようだな。

 

 

 非公式ゴングの直後速攻で個性を抹消。捕縛布で実況者をミイラ巻きにしつつ、A組担任はこっそりと安堵のため息を零すのであった。

 

 

 

 

***

 

 

 

「あー、と。まあ、その、なんだ。おつかれ、茨。残念だっ……たね?」

「…………」

 

「あれは……うん。『アリ』ノコね」

「…………」

 

 

  隣の小森が、なんかジュルリというかゴクリというか、そんな感じのリアクションをする。

 

 ……なにが有りなのかと聞きたいが、絶対に聞かない。そう決意させるほどに彼女の雰囲気は怪しすぎた。

 

 

「…………/////」

 

 

 そして、つい先ほど。早乙女──ブラド先生に聞いたら本当に男──に横抱き、っていうかお姫様抱っこされて運ばれてきた当事者である茨。

 ……両手で顔を覆い隠してはいるけど 耳とか首とかが隠せてないから、そこを見れば分かる。この子今真っ赤だわ。

 

 

(いやでもまぁ……しょうがない、のかなぁ?)

 

 

 試合終了後にふらついた時に足を軽く痛めた……らしい。

 

 ……らしいと言うのも、治療はすでに終わっているからだ。早乙女曰く『問題はないけど、念のため今日は激しい動きは出来るだけ避けるようにしてください』とのこと。

 騎馬戦の時にも腰を痛めたレイ子が治してもらってたから信用はできるけど……。

 

 

 

「──茨? 一緒に、行ってあげるからさ。あとで、謝りに行こう? な?」

 

「……い、いえ。拳藤さんのお手を煩わせるわけにはいきません。これは……これは私の失態なのですから、私自身で……うぅ////」

 

 

 手を顔から外して返事をするけど、すぐに思い出しちゃったのか、再び覆い隠す。……まあ、気持ちは分からなくもない、かなぁ。

 

 

 いや、ね? 早乙女の去り際にさ、茨が思いっきり言っちゃったんだよ。

 

 

 

 

 ──ありがとうございました、お姉様。  ……って。

 

 

 

 

 

 初めて見たよ、あんなに綺麗な『orz』。クリティカルヒットしてたね、あれは。

 

 さらにブラドキング先生に早乙女の性別を訂正された茨が沸騰。お嬢様……この場合カトリック系っていうの? 女子中学出身だから、うん。

 

 

 ……だめだ。本人達には悪いけどにニヤつくの止まんない……!

 

 

 

──おまけ──

 

Q.なんでお姫様抱っこ?

 

A.「女性を運ぶ時は基本横抱きが男らしさの第一歩(でござるぞ)!」と中学時代の友達に……え、もしかして違うですか?

 

Q.……うん、大丈夫。間違っとらんよ? うん。グッジョブ。

 

 

 

 

 




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