魔女のヒーローアカデミア   作:陽紅

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生存報告も合わせてお送りします。



MP35 フォローしきれない魔女

 

 

「女性に対して言っていい言葉ではないと思う……! だが、だがそれでも言わせてくれ!

 

 

 ──僕はキミが嫌いだぁぁっ!」

 

 

 

 

 

 舞台の上で渾身のシャウトを決めた飯田を、1-Aの級友たちはそれぞれ遠い目や苦笑を浮かべて眺めていた。

 

 『ヒーロー科なのにサポートアイテムフル装備ナンデ?』という登場時の疑問をそのままに試合開始。

 『試合が終始某通販番組化してるのナンデ?』と試合中の疑問に繋がり……全てのベイビー(自作の発明品)を紹介しきった対戦相手の発目 明は、満足感溢れる笑みを浮かべて、なんの躊躇いもなく場外へ降りていき、そのまま退場。

 

 ……どこか投げやりなミッドナイトによって勝敗が宣言され、今現在に至る。

 

 

 前試合の茨・早乙女の試合が白熱したものだったこともあってか、観客席の温度差が凄まじく。拍手していいのかわからず数秒ほど間をおいて、パラパラとした疎な拍手が上がった。

 

 

「……なんと言うか、『試合には勝ったがなんか色々と負けた』と言う感じだな」

「真面目な飯田には色々と受け入れ難いだろうな、尚の事。でー、えっと次は……上鳴と芦戸、か。同じクラス同士だと、ちょっと応援がしづらいな……」

 

「応援する間も無くドンマイされた俺に地味ぃなダメージが来るなそれ。──まあ。真面目な話、どっちが勝つと思うよ? 俺的に上鳴かなぁって思うんだけど。放電して速攻! みたいな」

 

「オイラは芦戸だ! あいつ運動神経すげぇからな! ……いやでも待て、上鳴の電撃受けて服が破けることを考慮すれば……!」

 

 

 そこで『ハッ』と劇画タッチに顔を変形させる一部の思春期ボーイズに、女子たちは超低温の視線を向ける。

 

 それでも、やはりヒーロー科としては気になるのだろう、『どちらが勝つか、若しくは有利か』の考察を語り合った。

 

 

 ──その中にあって二人だけ……全く別のことを考えている者がいた。

 

 

 

「やっぱり早乙女さんの引き出しの多さは群を抜くレベルだわかってはいたけど基本的に『不利な状況がない』下手したら器用貧乏に成りかねないのに早乙女さんはその場その場で最適解を『作り出すことができる』でもあの動きはどう見ても一朝一夕で出来るようなものじゃあない何かしらの魔法で身体能力を強化しているんだとしても『強化された身体に振り回されてない』ってことはつまり──」

 

「ノンブレスブツブツ止めろって言ってんだろが。酸欠のまま息の根止めんぞクソナード」

 

 

 爆豪は前に座る緑のモジャモジャ頭に軽く蹴りを入れつつ、だが、と舌打ちを打つ。

 

 

(デクの言う通り──確かに、あの男女野郎の引き出しの多さは異常だ。しかも、ただむやみやたらに多いわけじゃねぇ……しまってあるモンの殆どが、かなり有用ときていやがる)

 

 

 横目に、その魔女の姿を捉える。その本人は先ほどの通販番組じみた試合内容を思い返しているのか、柔らかい苦笑を浮かべて何やら耳郎たちと話していた。

 ちなみに……『お姉様』呼びされたダメージはもう回復しているらしい。すでに全国放送でチア姿を晒しているだけあって、もう些細なダメージにしか感じられないのだろう。順調に麻痺し始めていた。

 

 

(留年っつー、ある意味最悪のレッテルを貼り付けられて得た、極上のレベ上げ期間……あの担任はくだらねぇ世辞をいうタイプじゃねぇから──間違いなく、現時点で雄英トップクラスの実力者)

 

 

 ──思い返されるのは、まだ記憶に新しいUSJ襲撃事件。

 

 爆豪は切島と共に転移させられたので、直接その目で見たわけではないのだが……聞いた話では、あのオールマイトが全力で戦ったヴィランを相手に真っ正面から挑み、時間を稼ぎきったのだという。

 

 それも……負傷した二人のプロヒーローの治療をしながら、その場にいたクラスメイトたちを守りながら、だ。

 

 

(…………俺には、()()()()

 

 

 ギリ、と強く奥歯を噛みしめる。

 一対一ならば時間を稼ぐくらいはできただろうが、治療と護衛をやりながらでは無理だ。

 

 再び自分の中に燃料が投下されたのを意識しながら、トーナメントの組分けを見上げる。

 

 

 

 ──順当に勝ち進めば……挑める。

 

 それも、最高の舞台で。

 

 

 

 

「……はっ、面白ぇ……っ!」

 

「あのさ、かっちゃん? 人の頭蹴っておいて面白いとか酷くない……?」

 

「うるせぇだあってろクソナードぉ……!」

 

「……うん、なんか御機嫌だねかっちゃん」

 

 

 行動と話の流れが全く理解できない二人のやり取りであるが、「そういえば幼馴染だったなこいつら」と理解はできないが周りの一同は納得はできた。

 

 

 

***

 

 

 

「ふむ。発目 明さん……あとでご挨拶に行くべきでしょうか」

 

「つぅ、あ……ん、挨拶て、どう、して?」

「くっ、そ、そうですわ……! しょ、正直に申し上げます、と、今のぉ、飯田さんっとの試合、も!」

 

 

 天魔の右側に座る耳郎と八百万が彼の呟きに応じるが……彼女たちの顔は赤く、必死に耐えているその様は、その切なげな声も相まって健全な少年に非常によろしくないナニカがあった。

 

 

 ──まあぶっちゃければ、正座で足が痺れてきついだけである。椅子の上でやっているから、尚更に。

 

 

「あの、大丈夫ですか……?」

 

「大丈夫です、わ。これしきのこと……! ワタクシ達がっ、早乙女さんにしてしまった、し、仕打ちに比べれば!」

(ごめん、ウチそろそろ泣きそう……!)

 

 

 震えながら強がる八百万と、ちょっと真面目にヤバそうな耳郎を見て、流石に居た堪れなくなったのだろう。天魔は席を立ってスマホを取り出す。

 

 ……試合は、まだ始まらない。上鳴も芦戸も舞台に上がる前に、やたらと入念に足メインの準備運動をしているからだ。

 

 

『──どうした? 早乙女』

 

「早乙女さん!? 何を──ああぁ……っ」

「ちょ、やおもぉみゃあぁぁあ!!!」

 

 

 僅かなコールの後に聞こえたのは、担任である相澤の声だ。

 

 ……天魔の性格から彼が何をするつもりなのか察した八百万が、咄嗟に手を伸ばしてバランスを崩し、隣の耳郎を巻き込んで決壊。

 椅子から落ちることこそしなかったが、あまり年頃の女の子がしてはいけない格好で震えている。……その光景をベストポジションで見ようとした峰田が正座のままやけに機敏に動き、蛙吹の舌ビンタで沈黙した。

 

 

 

「……まあ、その、聞こえた通りでして。これ、私のほうが罪悪感諸々が酷いので、そろそろ放免ではだめでしょうか……?」

 

『はぁ──どこかのタイミングで言ってくるとは思っていたが……これまた随分と早かったな? まだ、トーナメントの一巡目が終わってねぇぞ』

 

 

 苦笑を滲ませた、大きなため息が聞こえる。天魔にスマホを操作させ、その場にいる全員に聞こえるようにさせた。

 

 咳払いが一つ。

 

 

『──まだ学生だから、こういう行事に浮かれちまうのはしょうがない。だが、『超えてはいけない線』ってものが、世の中にはたくさんある。それは学生だろうと大人だろうと関係はない。

 ……今回の件は、まあ、被害者の早乙女も強く拒まなかった事と、なにより本人が許してるから大目に見るが……しっかりと反省し、教訓にして、以後このようなことが無いようにしろ。いいな?』

 

「「「は、はい!」」」

 

 

 八百万と耳郎、そして、葉隠の声が合わさる。流れ的には、今試合目前の芦戸も対象なのだろう。

 

 

 

『──ああ、ちなみにだが、放免は()()()()だ。峰田と上鳴は継続して罰則内容に従事するように。早乙女を含め全員、甘やかすなよ』

 

「えぇー!? なんでっすか先生! 今のいい話だなぁ的な流れでオイラたちも……!」

 

『…………いい話の流れで、さらにお前らだけ課題を追加してやろうか? 首謀者』

 

 

 声だけでここまで人の背筋を凍てつかせる人も早々いないだろう。

 

 何一つ反論することなく即座に天魔のスマホに向かって五体投地礼を見せる峰田に、いく度目かのため息を一つ零して通話は切れる。

 そして、タイミングを合わせたように観客席から歓声が上がり、選手二人が舞台に上がったことを確認した。

 

 

「うぅ……し、痺れが……で、でもこれで集中して試合を見れますわ!」

 

「同、意。これまでの試合がウチらにはあんまり参考になりそうにないってのが、まあ、唯一の救いかな。って言っても、次も微妙だけど。

 それで、早乙女。さっき言ってた、サポート科の子に挨拶ってどういうこと? ……もしかして、あーいうのが好み、とか?」

 

「確かに可愛いらしい方でしたし、こう、『放っておいたらまずい……!』的な意味で庇護欲は掻き立てられますが──純粋に、発目さんは現時点で『一番優秀なサポート科の生徒』ですよね? ヒーロー科としては、面識くらい作っておいて損はないと思いますよ?」

 

 

 耳郎の言葉の後半から周囲のクラスメートの視線が一気に集中するが、当の本人は特に恥じらう様子もなく個人に対する所感を言って、続くサポート科として見た言葉もいたって真面目だった。

 

 確かに、今回の体育祭で目立ったサポート科は彼女だけである。障害物走しかり、騎馬戦しかり……結果をしっかりと残しているのは確かだ。

 

 

「【『得意を強くすること』『苦手を補うこと』そして何よりも『一人でも多く助けられるように』──それを多くのヒーローに提供するのが自分たちの役目だ】──サポート科の先生の金言です。私の使っているこの黒棒の素材も、その先生がわざわざ探し出して海外の会社から特注してくれたものなんですよ?」

 

 

 そう言って、いつものように虚空から身長よりもやや長い黒い棒を取り出す。

 鉄の数倍重いが、剛性と延性に優れた特殊合金。腐食にも強く、さらには天魔の魔法で形状も自在なため、なかなかに反則じみた性能を誇っているサポートアイテムだ。

 

 

 尤も、それを提供した『重機と恐竜』を連想させるサポート科ヒーロー教員は、少し不満気であったという。

 

 基本的に魔法という反則じみた万能手段を持つ天魔は、殆どサポートアイテムを必要としない。必要なのはどちらかというと魔法開発に転用できそうな知識や発想力の類なので、そう言った意味では天魔はサポート科泣かせの生徒と言えるだろう。

 

 ちょっと特殊な金属を渡しただけ……では、いろいろと矜持に触れているらしく、仕事の合間を見つけてはいろいろと試行錯誤しているらしい。

 

 

 

「なるほど……なぁ。うーん、でもなぁ……」

 

 

「「「さっきの飯田(くん/さん)とのやり取りを見たあとだと、ちょっと……」」」

 

「──まあその、サポート科の人全員がそうとは限りません、よ?」

 

 

 『メカニックとして優秀なほど変な人が多い』……昨年度のサポート科工房棟の爆破件数が3桁に迫る、という事実にはそっと蓋をし、天魔は言葉を濁すことにした。

 

 

 区切りは良くないが会話が途切れ……そこにミッドナイトの声が通る。流石に準備運動に時間をかけ過ぎだと判断したのだろう。

 

 まだ一歩毎に変顔を浮かべる二人が舞台に上がり……。

 

 

「あびゃぁああぁっ!?」

「ぎゃっゔぇええいっ!?」

 

 

 ……開始の合図とともに、情けない二人の悲鳴が上がることになった。

 

 

 

***

 

 

 

「りょ、両者半ば自滅な感じでノックダウーン!! いや、まあ……うん。はい、解説のイレイザー! なんかコメント!」

 

「……空が、青いな」

 

「──イレイザー。辛いのはわかる。分かるけど解説して! 戦うんだ現実と!」

 

 

 

「……解説も何も、見たまんまだろ。二人とも動き回りたくねぇから開幕ブッパを選択。動かない放出個性持ちなら当然、個性同士がぶつかり合う。

 ──芦戸は酸を止めればいいものを、放出を続けて酸、まあ液体か。そこから通電。上鳴は上鳴で、飛んでくる大量の酸を押し返そうとさらに放電してキャパオーバー」

 

 これ、正座させた俺のせいになるんだろうか──と眉間を揉む。トーナメント出場生徒には試合敗退後と通知したのだが、合理的ではない選択をしたのは当の二人だ。

 

 相澤に非はない。無いだろうが……モヤりとする何かが胸中にあるのもまた事実だ。

 

 

「現実って残酷なのね!

 そんな訳でこの試合の決着は、一試合挟んで二人が気が付いたら行うZE!

 今んとこブッパか不思議系ばっかだから、そろそろ手に汗握るやつ頼むぜリスナーぁ!」

 

「そういう振りは止──……いや」

 

 

 トーナメント表を見る。そこには今の試合と同様、自分の受け持つクラスに在席する、二人の名前があった。

 

 そして、思い出す。

 

 

 「自分の事を頼ってくれた」と嬉しそうに。

 

 「という訳でこの施設を使わせてください」と、仕事を増やしてくれた、魔女の笑顔を。

 

 




読了ありがとうございました。

若干ダイジェストみたいになってしまいました……
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