魔女のヒーローアカデミア   作:陽紅

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MP38 一欠片の可能性

 

 

 

「……『納得できない』って顔してるな」

「──……。すみ、ません。こればかりは、流石に……」

 

 

 隣を少し遅れて歩く天魔を横目に見る。苦笑を浮かべようとしたのだろうが失敗してしまったようで、なんとも筆舌しづらい表情をしていた。

 無理もねぇか、と思いながら視線を前へと戻し……相澤は言葉を続ける。

 

 

「──いや、それでいい。絶対に納得するな。今回に限っては、議論の余地なく全面的にお前と婆さんが正しく、俺と八百万が間違っているんだからな」

 

 

 一息。

 

 

「本来なら、小言やら説教やら……俺は八百万に色々と言わなきゃいけないんだろう。

 『後に続かない自爆紛いの切り札』に『練度の低い技術をいきなり実戦投入』。それだけじゃない。最後に常闇に銃口を突きつけてたが……あの怪我じゃ、まともに撃てていたかどうかも怪しいと思うんだが……どうだった?」

 

 

 八百万の怪我の詳細を把握している天魔に問う。骨にヒビが入っていたらしいが、軽いヒビなら結構動ける場合がある。指やらを複雑骨折しても動き回る緑谷が良い(医療関係者からは悪いだろうが)例だろう。

 結果を思い出しながら、併せてあの武装が弾丸を撃ち出す際の反動や当時の体勢などを考慮して考察する。

 

 

「ギリギリ、本当にギリギリですが──撃てた、と思います。

 

 ですが同時に、確実に八百万さん自身のトドメにもなっていました。……最悪、三つのヒビが連鎖して、かなり複雑な骨折をしていたかもしれません」

 

 

 あの時撃っていれば、ギブアップではなく常闇の戦闘不能での決着になっていただろう。

 だがその代償として、八百万の負傷は大きくなり……リカバリーガールの治療を受ければ、ほぼ確実に次の試合には挑めない状態になっていたに違いない。

 

 

「婆さんの治癒とお前の魔法。『現状どっちが上か』──はこの際置いておくが……『今の八百万がどちらの治療を受けるべきか』と聞かれたら……間違いなくお前の治療魔法だろう。

 婆さんの治癒は怪我をした本人の体力を消耗するが、お前の場合はお前の……MPだったか? それの消耗だけだ。それに、消耗の度合いも桁違いに違う」

 

 

 本当に非合理的極まりない、と言葉が出掛けたが飲み込む。──今からでも、天魔を連れてUターンしてやろうかと行動にしかけたが、これも抑えこんだ。

 

 

 

「あの、相澤先生……」

 

「ん?」

 

「その……何故、先生と八百万さんは、私の魔法による治療を止めたんですか? 八百万さんに至っては、かなり頑なに拒まれていましたが……」

 

 

(……コイツ、もしかして、『最適な治療を受けないことを理解・納得ができない』っていうよりは、むしろ、『八百万に治療を拒まれたこと』がショックなのか……?)

 

 

 

 ──『子煩悩な母親が、子供にいきなりやってきた反抗期で冷たく遇らわれて、涙目でオロオロとしている』様子を、母役:天魔、子役:八百万で想像してしまった相澤は、頭を振ってその光景を追い出す。

 

 ……合理的じゃない行動の反動だろう。きっとそうに違いない。

 

 

「あー、さっきも言ったと思うが、多分『意地』だ。

 あの負傷は、八百万自身の『未熟の証』だ。お前の治療じゃ、それを完全に近いレベルで()しちまう。……体育祭が終わってからならまだしも、体育祭()には消したくなかったんだろ。意地じゃなければ、ケジメ、と言ってもいいかもしれん」

 

「……それが原因で、次の試合で相当不利になったとしても?」

 

 

 

「その不利が原因で、早々にみっともなく負けたとしても──だ」

 

 

 

 

 嗚呼──本当に、合理的じゃない。

 

 そう内心で苦笑しながら。だが、それが今の彼女にとって、最も必要なことだと相澤は確信していた。

 

 

(俺にこんな合理的じゃないことをさせたんだ。……しっかり、進んでくれよ?)

 

 

 

 ─*─

 

 

「そうと決まれば、まずはお父様とお母様に連絡をしませんと! あとは、式場の予約とお客様への招待状と、ええと、ええと、あとは何が必要でしょうかリカバリーガール先生!」

「まずは冷静になりな! 年齢とか学生とか、もっと色々大切なもんがあんだろうよ!」

 

「!? そ、そうでしたわ、私ったら大切なことを……最短でも九月の終わり( ヤオモモ9/23誕)くらいまで待たないと……! はっ、ウエディングドレスと白無垢、早乙女さんはどちらがお似合いになるでしょうか!?」

「そりゃあんたの歳だろう!  男は18からさね! ……うん? あの子は一年留年してるからどの道最短だと学生……ちょっと待ちな。あんたあの子に何着せる気だい!? どっちもあんたが着るもん──?

 あ、こりゃダメだ。アドレナリン出過ぎでブレーキ壊れとるね」

 

「だめですわ!  まず何よりも、私がプロヒーローになりませんと! 八百万家の財力ではなく私自身の収入で養えるようになってから……」

 

 

治癒(ちゅ)ぅぅぅぅううううう!!!」

 

「はうあ!?」

 

 

 

***

 

 

 

 

 ゴガインッ、という異音。

 

 開幕と同時に響いた、長く耳に残るような聞き慣れないその音に、耳郎は顔を顰めながら緩く耳を塞いだ。

 同類の音が再び──今度は連続でかき鳴らされる。音質的には不協和音に近いだろう。個性の関係上聴覚が一般人よりずっと優れている彼女には、この試合は少し厳しいのかもしれない。

 

 

「ここまで個性が被ってる試合っていうのも、結構珍しいんじゃないか?」

「二人とも防御系の個性なのに()()()()()()()()だもんなー。おーい緑谷ぁ! A組の個性博士的には、この試合どう見るんだ?」

 

 

 砂藤に瀬呂が続き、そのまま緑谷へ渡す。

 え、僕? という顔のままキョトンとしていると、自分にこの場にいるA組全員の視線が集まっていることに慌てた。

 

 

「え、えっと……僕なんかの意見でいいの……?」

「自己評価低すぎない? 少なくとも、爆豪に聞くよりは参考になるだろ」

 

「ざっけんなコラ! 誰がこんなクソナードに負けるかドンマイ醤油面がぁ!」

 

 

 爆豪 の 暴言 !

 瀬呂 の メンタル に エゲツないダメージ !

 瀬呂 は 『心の記憶(魔)』 の効果により ギリギリのところで踏みとどまった!

 

 

「おっ、耐え切った」

「──たった一人でも、理解してくれる人がいる。それが結構大切なことなんダゼ。じゃあそう言うならば爆豪クン、わかりやすい解説をお願いします」

 

 

「はっ、両方くたばれ」

「「「「うん、知ってた」」」」

「ってことで、緑谷頼むわ」

 

 

 爆発と怒号が断続的に聞こえるが気にしない。大半のメンバーが爆豪の扱いに早くも慣れ始めていた。

 

 

「ははは……そう、だね。瀬呂くんの言う通り、切島くんも相手のB組……鉄哲くんも防御系の個性だ。『硬化』と『スティール』……相手は体を金属──鉄、個性名的には鋼かな。それに変えられる個性。防御力の優劣はちょっとわからないけど現状は同じとして……攻撃手段も打撃のみ。硬い拳は十分武器になるけどそれも同じ。あえて差があるとしたら腕力だけど、それでも決定的な差にはまずならない」

 

 

 ステージのど真ん中。そこで、まるで『一歩でも退いたら負け』という新ルールでも加えられたようなゼロ距離で、拳を打ち合う二人の男。上半身のジャージはすでに破れて布切れになり、中のシャツもほとんど同じような状態だ。

 

 

「でも服が破れているのは主に切島くんの個性が原因かな実際に破れているのは二人の()()()()()()が起きている上半身だけだし前に見せてもらったけど可動部である関節以外にも鋭利な棘みたいになっていたしだとしたら切島くんは戦い方を変えるだけで『硬さで殴る』以外のことが色々とできるようになる問題は鋭利になっている部分がどの程度まで意識して変えられるのかだもし仮に細かく全体に均一に出来るなら鮫肌みたいになって硬いだけじゃなく素手で殴ったほうに傷を負わせることもできるしあと──」

 

 

 

「服がっ、破れる……!? き、切島ぁ!! なんでそんなむさ苦しい奴相手にしてんだよぉ!? 脱がすなら女──足への攻撃はやめてくぎゃああああああ!!!」

 

 

 悪が滅ぼされ、その絶叫で我に返った緑谷は、後ろで用意されたカカト落としを逃れることができた。

 

 

「(ありがとう峰田くん。君の犠牲は忘れないよ)えぇっと、そうだね後は……二人とも尾白くんみたいな武術をやってる感じじゃない。だから、勝負の決め手になる要素があるとしたら『個性の発動限界』か──」

 

 

 

 会場のどよめきに、緑谷は解説を止める。どうやら顔にイイ一撃が当たって、互いに大きく仰け反ったようだ。そこから……負けるものかとゼロ距離を、さらに一歩踏み込む。

 

 すれ違うように、鏡写しのように繰り出した渾身の拳は、互いの顎を綺麗に捉えていた。

 

 

 この試合で一番の怪音。それを最後に、あれだけ激しかった打ち合いはピタリと止まり──二人は倒れる。

 

 

 

「──『脳震盪』。防御系の個性は、基本的に表面だけのことが多いんだ。もしそうじゃなくても、生き物なら脳を揺らされたら気絶してしまう。

 どっちがそれを先にできるか、が勝負の鍵になると思ったんだけど……」

 

 

 それも、二人揃って前のめり。互いの健闘を讃え合うように支え合い……立ったまま気絶する。

 

 

 ──引き分け。

 そう告げる審判のジャッジをかき消し、男たちの大歓声が轟いたそうな。

 

 

 

 

 

 

「…………ちっ」

 

 

 舌打ち。母親から幾度となくやめろと頭をド突かれ、それを開戦の合図に、幾度となく戦争を繰り広げたそれを、盛大に打つ。

 

 両方くたばれ──つまりは、相打ち。自分が予想したとおりの結果だ。周りは何やらナードの言葉を重視したようで気に入らないが、この際はどうでもいい。

 

 

「だから避けんなクソナード」

「なにが『だから』なのかっちゃん!? むしろ避けたのいまのが初めてだからね!?」

 

 

 生意気な。

 

 なおも喚くモジャモジャ緑から視線を外し、今まさにタンカで運ばれていく同級生を見る。二人が目を覚ましてから改めて再戦するらしい。なおも続く盛大な拍手をもって見送られていた。

 

 

「はっ。情けねぇなおい」

「い、いやいや爆豪! お前試合ちゃんと見てなかったのかよ!? そりゃあもう一歩も引かないステゴロガチバトルで──」

「うるせぇぞクソ雑魚スタンガン。逆立ち正座して死ね」

「言葉が本当に暴力になってるぞお前! ……ん、あれ? 正、座……?」

 

 

 友を弁護しようとした罰則違反者を即座に切り捨てる。切り捨てられた彼はなにかを思い出したのか、面白いように顔を青くしていった。そんな黄色を緑色と同様に無視し、ため息。

 

 

(一歩も引かねぇ? んなもん当たり前だろうが。テメェの個性じゃ、進まねぇと意味がねぇんだよ。仮にも──)

 

 

 ──この俺の馬やったやつが、情けねぇ様さらしてんじゃねぇよ。

 

 

 そんな馬鹿げた思考を浮かべた自分にもう一度舌打ちを鳴らし……さらに振り払うように立ち上がる。この後は、トーナメントの一番下、その最後の試合。

 

 爆豪の出場()る 、試合だ。

 

 

 相手は女。名前は……まだ覚えていない。初めて視界に入ったのは、入学最初の実技授業の時だ。

 

 ──緑谷(デク)に負けた、という人生初の苦渋を一気飲みさせられたアレを思い出すと今でも掌がバチバチと賑やかになるが……まあいい。

 

 確か、指先で触ったモノを無重力状態にできるだけの没個性だったはずだ。あと丸顔。関西系の方言も使っていたようないないような……丸顔だったことは間違いない。

 

 

(態々、覚える意味はねぇ。意味は、ねぇんだが……)

 

 

 ──口角が徐々に、しかし確実に釣り上がっていく。元から鋭かった目はさらに鋭く、さながら獲物狙う猛禽類の様に。

 

 

 

 

 常闇。八百万。そして……緑谷。

 

 常闇は未だ意識だけの変革に過ぎないが──後の二人は、目を疑う様な進歩を遂げた。特に、デク・ナードと蔑んでいた最後の一人に至っては進化とすら言っていい。USJ事件も前までは、自爆しかできなかった個性にも関わらず、現状では体育祭で総合一位を維持し続けるまでに至っているのだ。

 

 

 

 

()()()()()……!」

 

 

 

 十中の十(100%)、勝つのは自分だ。苦戦はなく、危なげすらなく勝てる。

 

 触られたらアウトなら、触らせなければいい。機動力は余裕で圧倒できる上に、攻撃範囲でも雲泥の差があるのだ。

 もし仮に、万が一触れられて無重力になったとしても──爆豪はそもそも爆破で飛べる。負け筋をみつけろ、というのが難しい。

 

 

 

 ……だが、もしも。

 

 

 あの三人と同様の……もしかしたら、あの三人を超える様な進化を、相手が遂げていたなら?

 

 

 

 もちろん可能性は、低い。非常にと付けていいほどに、低い。

 

 

 八百万の様に個性を創意工夫できる余地がほとんど無く、また緑谷の様に先が見えないほどの伸び代があるわけでもない。

 常闇の様な、そもそも戦闘に優れている個性ですらない。本人のフィジカルを鍛えたとしても一週間ではタカが知れているし、武術を身につけたとしても一朝一夕の付け焼き刃……むしろ邪魔になるだろう。

 

 

 それでも、『だがもしも』という言葉が、ある人物と共に脳裏に浮かぶ。

 

 

 

 黒い長髪の、黒い衣装の──底知れぬ微笑みを浮かべている、それは、一人の魔女。

 

 爆豪 勝己が生まれて初めて……オールマイト(No1ヒーロー)以外に、『超えるべき相手』と認めた存在。

 

 

 

 

 ……体育祭には参加しないと笑う姿に、ふざけるなと殴りかかりたかった。

 

 欠員やらの偶然と教師陣の入れ込みで第二種目からの出場が決まった時には、笑みすら浮かべた。

 

 初見殺しの普通科はこの際は置いておくとして……繰り上げ進出を、騎馬を組んだB組の女子二人から譲られ第三種目へと進み──。

 

 

 

 そして、互いに順当に勝ち進めば、決勝の舞台で戦うことができる。

 

 

 ──昇がるな、というのが無理な話である。

 

 

 

 

 

 

「…………。み、緑谷。おい緑谷! あれ、爆豪……いや、むしろこの場合アレの相手をする麗日、大丈夫なのかよ!? ヒーローどころか、もう人として浮かべていいレベルの笑顔じゃねぇってあれ! 夜道で出会ったら上も下も決壊する自信あるよ俺!」

 

「うわぁ、かっちゃんすっごい楽しそう……幼稚園のころから変わってないなぁ」

 

「「「幼稚園のころからあの顏してたの!?」」」

 

 

 

 

 

 *おまけ*

 

 

「う、麗日の上も下も決壊……? じゅるり……っ」

 

「「「「「成敗!!」」」」」

 

「ヒーローどころか人としてダメなのがここにもいるんだけど……いや、ベクトルは違うけど峰田(コレ)と一緒にするのは、流石に爆豪がかわいそうかなぁ……」

 

 

 




読了ありがとうございました!

 切島くvs鉄哲はほとんど原作通りです。
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