魔女のヒーローアカデミア   作:陽紅

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MP7 最高のヒーローが刻んじゃった一歩目

 

 Q.個性把握テストの時に何やったの?

 

 

立ち幅跳び → 透明な足場的な物を作って走った

 

握力  → 念力に近い何か。重ね掛けして握る部分を無理やり引き合わせた

 

持久走 → 足の裏の摩擦を消して、さらに体勢が崩れないように遠心力を無効化したり色々固定。

 

反復横跳び・上体起こし → やれないこともないが確実に気持ち悪くなりそうなので未使用

 

長座体前屈は『体の柔軟性測るのに必要ですか?』ということで未使用

 

 

ボール投げ

 

 ボールを空間に固定 → ジャイロ回転(常時加速)を設定 → ボールと掌の間の空間に空気を超圧縮 → 自分の防御用の風壁展開 → 角度調整 → 圧縮した空気を爆発させて発射

 

 ジャイロ回転をし過ぎた空気摩擦で発熱し、強度が落ちたボール内の空気が膨張したことで破裂。

 

 

 

 ***

 

 

 

「はい、体力テスト終了。じゃあ感想とかは置いといて、早速結果発表な」

 

 

 特にタメを作ることなく相澤が淡々と端末を操作し、空中に画面を投影する。

 

 半数以上が慌てて自分の名を探し、慌てなかった者も上から何番目かを見て頷いたり納得したり歯軋りしたりと、また別の意味で落ち着きはなかった。

 

 

 ……その順位表の、一番下。

 

 

「…………」

 

 『緑谷 出久』の名前を見つけた彼は、それをしばらく見つめ……違和感に気付く。

 

 一番下にあるのは自分の名前だ。それに間違いはない。だが、その横にある数字は『20』ーー21人いるはずのクラスにも関わらず、だ。

 

 

 そして、慌てて『その名前』を探す。上位にいるはずの名前だが、上にはない。一つ二つ足を引っ張った種目があったので下位なのかと探したがーーやはりその名前はなかった。

 

 まだろくに自己紹介もしていないが、唯一相澤が全員の前で指名したから、その名前は全員が知っている。色々見せつけたことで印象に残ったのも要因だろう。

 

 

 視線は順位表から……そこに名前のない早乙女 天魔に集中した。

 

 

『最下位は除籍』

 

『21名なのに20位までしかいない』

 

 

 倍率300倍を超えてきたのは伊達ではないのか、全員が早々にその可能性にたどり着いていた。

 好意的に見ていた女子六人は悲しそうだったり呆然としていたり。男子も男子で実技試験から見ている者もいるわけで、しかもすごい美人なので少なくないショックを受けているようだ。

 

 ーー冷静な少数は、あの成績で? と疑問を持ち、苦笑を浮かべているだけの本人と、この場においての絶対者である相澤を交互に見る。

 

 

 

「ちなみに、最下位除籍は嘘だ。君らを追い込んでやる気にさせるための『合理的虚偽』」

 

「「……はぁ!?」」

 

 

「虚偽ってつまり、嘘ってことですか!? メッチャ頑張ったのにぃ!」

「騙されたぁ……!」

 

「当たり前でしょう……初日に除籍なんてあり得ませんわ」

 

 

 どうだろうな、と。何人かは苦笑する。少なくとも、言った瞬間の鋭い眼光は嘘を言っているようには見えなかったからだ。

 

 

「静かに。ーーまあ、結果嘘ではあるが、少なくとも冗談ではなく本気では言っていたよ。やる気云々もそうだが、『入学初日にテストで、しかも最下位は除籍』という状況を、君らは理不尽極まりないと感じたはずだ。

 ……だがな、こんな低レベルの理不尽なんぞ、プロヒーローになれば日常茶飯事。よくあることだぞ」

 

 

 

「『ボロボロになってやっと捕縛したヴィランに増援』は常識。『要救助者の下に駆け付けたら他のヒーローが先にたどり着いていた』事もしょっちゅう。

 ーー『必死の努力が社会に正当に評価されない』ことなんざ……今この瞬間にも起きていることだ」

 

 

 

 淡々と、淡々と。それは見てきたことか、或いは自ら経験してきたことか。

 

 生々しく語られる『憧れの職業』の裏側に、不満を見せていた生徒一同の顔は真剣なものになっていた。

 

 

雄英教師(俺たち)は三年間、君らにあらゆる理不尽を投げつける。君らが将来プロになり理不尽に飲み込まれても、膝を屈することなく乗り越えられるように。

 

 だから、気張れよ。有精卵共」

 

 

 一瞬の間。そして、約二十名の強い返事を聞き、相澤は捕縛布の奥で微かに笑みを浮かべた。

 

 

 

「けろ……先生。除籍のお話が嘘だというのはわかったわ。でも、その順位表に早乙女ちゃんの名前が無いのはなんでかしら?」

 

「それは……まあ、丁度いいから紹介しておくか。 ーー早乙女、前へ出ろ」

 

 

 相澤の横に並ぶ。どこか不安そうになって見てくる何人かに、大丈夫と笑顔を返すのを忘れない。

 

 

「早乙女は君らとは少し状況が異なる生徒でな。本来なら一年ではなく、今の二年に在籍しているはずの生徒だ」

 

「二年に在籍しているはず? あれ、それってつまり……」

 

「ああ、留年だ。先に言っておくが、留年の原因はこいつの学業不振や成績不良じゃない。……あまり多くを語れないが、留年の非は雄英側にあり、寧ろこいつが全面的に被害を被った形だ」

 

 

 相澤の説明に、クラスでも一足先に団結を見せていた女子陣が表情を硬くする。

 

 ……体操服の下にあるはずのない怪我を想像し、『実技中の事故』やら『留年せざるを得ないほどの大怪我』にバージョンアップしていた。

 

 

 そしてこれは一同に言えるが、年上、と聞いてどこか納得している節もある。

 

 

「留年という結果だけ見て、コイツを劣等生扱いをする生徒はいないとは思うがーー言っておくと。実力、その他諸々を考慮しても、現雄英高校でも上位に入る実力者だ。

 順位表に名前がない理由も、早い話が『テストするまでもなく大体把握している』からだ。本来なら参加する意味も言ってしまえば無いんだが……まあ、一人だけ見学させるのも変だろ?」

 

 

 やる気を出させるために嘘まで吐いたのに、そのやる気を削ぐ要因は減らしたかったとのこと。

 

 

 

「本日はこれで解散。着替えてからは教室で自己紹介するなり、好きにしていいぞ。明日から普通に授業があるから、そのつもりでな」

 

 

 

 ***

 

 

 

「……で。物陰に隠れて、何やってんですかオールマイトさん。あとそれ、本気で隠れる気があるんですか?」

 

「あ、ああ。いや、そのー……ちょ、ちょっと相澤くんの授業が気になってネ! ほ、ほらっ私、明日の午後に実技演習入ってるじゃない? ちょっとでも参考にできたらなぁ! って」

 

「ーー『室内対人戦、かつ当日でくじ引きでチームを決める』でしたか。それなら正直、大怪我や危険行為に注意を払うくらいしかできません。あとは、生徒同士に評価をさせて自主発展性を促すくらいです。

 

 で、本音は?」

 

「いや、その……聞いた話だと、相澤くん、去年一クラス解散させたらしいじゃない? ちょっと心配な子がいてさ。大丈夫かなって」

 

「(山田か。あとで縛る)その『心配な子』というのが誰かは聞きませんが、あんまり一人の生徒に個人で入れ込み過ぎるのは……あー、まあ、生徒たちに気付かれない程度にしてくださいよ」

 

「それはもちろんさ! ……でも、よかったのかい? 早乙女くんの個性とか性別とか、丸投げしてるみたいだけど」

 

「まあ、本人たっての希望ですからね……女性扱いに慣れることも含めて、『自分で説明をしていく』と」

 

 

 

***

 

 

 

 

 場所は変わって、A組教室。

 解散、と言われたもののもちろんそのまま解散するわけがなく、着替え終わった数人は現状でクラス一のイレギュラーである天魔を囲むように群がっていた。

 

 

「とりあえず!」

 

「まずなによりも!」

 

「第一に!」

 

 

 

「「「一体どんな個性なんですか!?」」」

 

 

 

 なお、性別を(勘違いしたまま)考慮してか、女子六人が囲みの前列にいる。

 

 どうでも良さそうに帰り支度をしている赤と白のツートンカラーが目立つ男子。そして、ヤクザでもビビりそうな睨みを見せる爆破死に晒せ男子は関心がなさそうな振りをしつつ情報を得ようとしている。

 ……それ以外は関心があるが積極的になれず離れて様子見、という具合だ。

 

 

「飛行能力と治癒、しかも今日のテストでもすごい色々なことができていた。テスト一位の人も凄いけど彼女は『物を作る』個性で説明ができるのに対して、早乙女さんの場合その前提が一切ないし、どれをとっても関連性が見えてこない。個性をここまで見ていて予想が一つも立てられないなんて……! でも逆に考えたらヒーローとして知名度が上がってもそれだけ『ヴィランに対応されにくい』ってことだ。これはとんでもないアドバンテージになるぞ……!」

 

「今日で一番イキイキしてないかい!?」

 

 

 

 そしてそのノートはいつの間に出したんだ……? とツッコミを入れておく。

 

 そして、ノートにペンでガリガリと記入していく出久に、そこになにやらカクカクした動きでツッコムメガネ……と。

 

 

 ーー天魔は、初めてこの教室が、賑やかになっていることが何よりも嬉しかった。

 

 

「ふふ……あ、すみません。えっと、私の個性ですか? 『魔女』ですけど」

 

 

「「「「さらっと答えた!?」」」」

 

 

 イベント的に焦らしたりクイズっぽくしたり云々。場の空気的なノリが欲しかった数名は不完全燃焼のようだが、答えられたその答えに、キョトンと呆ける

 

 

「って、魔女? 魔女ってあの……童話とかお伽話に出てくる感じの?」

 

「童話もお伽話も=な気がしますが、概ねそんな感じの魔女です。あ、出来れば毒林檎系の魔女は除外してくださいね?」

 

 

 あれじゃあヴィランですので、と苦笑する本人に、集まった者は理解をするよりもまず納得をする。

 

 

「で、では、先ほどのテストは魔女の個性をお使いに?」

 

「ですね。えっと……あの、そろそろ簡単な自己紹介くらいしませんか?」

 

 

 

 とりあえず名前と、出身中学。今いる面々だけでも。

 

 

 

 

「ーー魔女の、魔法?」

 

「想像以上にすっごいファンタジーなのが来たね……」

 

「けろ。でも、それなら全部説明がつくわ。棒に乗って空を飛んだり、怪我を治したり、今日の色々なことも……あの黒い棒が魔女の箒みたいな感じかしら。

 

 ねえ、早乙女ちゃん。一つ、言い忘れていたことがあるの」

 

 

 ーーちゃん付けに軽く戦慄している天魔の手を、梅雨がすっと取る。両手を添えて、真っ直ぐ見上げた。

 

 

「ありがとう。試験の時、助けてくれて。……おかげで、私は夢を諦めずにすんだわ」

 

「あっ それなら、ウチもかな。あの時早乙女が助けてくれなかったら、結構ポイント的に拙かったかもだし……だから、その、アリガト」

 

 

 梅雨に続き、どこか照れ臭そうに語るのは耳郎 響香。その二人にキュンときている男子が三人ほどーーいるが放置でいいだろう。

 

 なぜなら。

 

 

 

 

  「ーーふふ、はい。どういたしまして」

 

 

 

 ーーあ、かわいい。を軽く塗り替えてしまう魔性の女がここにいるからである。

 

 二人の少女の頭を優しく撫でるその姿は、正しく『とびきり綺麗で優しいお姉さん』そのもの。そしてそれは、新男子高校生の好みを全無視して内角低めのストライクゾーンを豪速球で撃ち抜いてしまった。

 ゴハッ、と見えない血を吐き出し、これから赤くなると確信した顔を必死に逸らし……それでもチラチラと視線を向ける純情男子達。

 

 

 その破壊力は女子達にも及ぶ。むしろ男子より近くにいたからかダメージがデカイ。

 

 芦戸 三奈と葉隠 透は蹲って床を殴って必死にナニカを発散し、リアルお姉様や……! と意味不明な言葉を呟いた麗日はテンション高めに手をバタバタとさせ、リアルにお嬢様である八百万 百は、唯一愛読している少女漫画のワンシーンを生で見られた事に感動しーー

 

 そして、近距離からさらに踏み込んだ、ゼロ距離地帯。頭を撫でられて微笑みを向けられている二人はーーなんと思考を止めていた。

 

 

 『魔女』の力の一端……『魔性の女』。

 

 性別を無視した全方位無差別魅了攻撃が、ある意味で一番危険なのかもしれない。

 

 

 

 なお……数秒ほど経っても瞬きすらしない二人に流石に違和感を覚え、目の前で手を振ったり額に手を当てて熱を測ったり。

 大丈夫ですかっ? と、少しオロオロし始めた辺りで二人が我に返ったのを見てホッとして。

 

 

 

「はぁ、はぁ……っ! と、年上属性で母性キャラとお姉様キャラの両立だとぉ? 加えて小動物属性まで揃えてやがるなんて……! 胸はねぇけどそれ以外がパーフェクト! オイラの高校生活勝ち組決定じゃねぇかよぉでゅへっへっへ」

 

「……息荒いぞ大丈夫か? 病院いくか? 110番するか?」

 

「それは警察……否、この邪な気配、それが正しき判断か。……しかし、魔女とは……道理で我が魂が揺さぶられるわけだ」

 

 

 

 

「あ、そうだ、お礼なら僕も! ……結局、怪我の治療してもらっちゃって、あれだけ大見得切ったのに……」

 

「あはは、いや、治療しなかったら入学早々リカバリーガールにお説教されちゃいますよ?

 

 

 

 

 

 

 ーー私が」

 

 

 

 

 

 『なんで治さなかったんだい?』

 

 『外傷系の治療法は叩き込んださね?』

 

 『放置したら感染症云々大事になるだろう?』

 

 

 

 というお説教が、淡々と。正座二時間は確実だろう。

 

 普段は優しいお婆ちゃんだが、治療が絡むと途端に厳しくなるのだ。

 

 

 ……リカバリーガールの個性は『治癒』。唇で吸い付くことで肉体を活性化させ、自然治癒力を爆発的に上昇させることで治療を行う。故に、怪我が大きければ大きいほど体力の損耗が激しくなりーー最悪、患者が治療に耐えきれないので治療ができない、という場合もありうるのだ。

 

 

 だが、天魔の治療は魔法である。消費するのは、彼のMPのような精神エネルギーのみ。患者が軽傷だろうが瀕死だろうが、全力で治療を行えるのである。

 

 『二代目』を仕込むつもりで叩き込んでる最中さ、とリカバリーガールは公然と語っている。

 

 

 その甲斐もあってか……複雑骨折・内出血もろもろで紫色になっていた二本の指は、今では何事もなかったように肌色である。入試試験の時と同様……痛みどころか、違和感のカケラもない完璧な治療が施されていた。

 

 

(……怪我を治す、魔法。これだけ凄いならもしかして、オールマイトの怪我も治せるんじゃ……!?)

 

 

 ヒーローとして活動する時の筋骨隆々とした姿からは想像もできないほど痩せ細ってしまった現No.1ヒーローを思い出し、出久は強い希望を抱いた。

 

 ……凄惨な傷跡、呼吸器半壊と胃の全摘。五年前に負った負傷だが、もしかしたら。

 

 

 聞いてみたい。可能性があるのかどうかだけでも。でも、事が事だけに大っぴらに聞ける内容じゃない。

 

 他の人に知られる可能性は極限まで下げなければと考えて、閃くまでもなく思い至った。

 

 

 

 

 

 

「さ、早乙女さん!

 

 

 

 

 

 ーー僕と、連絡先を交換してください!」

 

 

 

 

 

 

 ……発想は、良かった。言葉の選択も、まあ固いが、問題はない。

 

 

 ……深く頭を下げ、手を、握手を求めるように前へ出すその姿勢が、大変拙かった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 ーー でーんーわーが、来たー! でーんーわーが、来たー!

 

 

「あれ、緑谷少年から? なんだろう……。はい、もしもし? どうかしたのかい?」

 

『……あ、オール、マイト? 僕です。ちょっと、お話があり、まして……』

 

「ねえ大丈夫? 声死んでるよ君」

 

『だいじょうぶです、大丈夫。そのちょっと手違いというか自爆と、いうか……それよりも! その、オールマイトの怪我が、もしかしたらですけど、良くなるかもしれなくて』

 

「!? ……詳しく、聞かせてもらえるかい?」

 

 

 

ー*ー

 

 

 

 ーーtururururu……

 

 

「……早乙女か。どうした?」

 

『すみません……その、お願いしたいことが、あるんですが……』

 

「おい大丈夫か? 声死んでるぞお前」

 

『ははは、だいじょ……ばないです。なんか、普通に女子だと思われていたみたいで、若干、その、告白ーーとまではいかないんですけど、それに近い感じのを……性別を説明する間もなく皆がヒートアップしてしまって』

 

「……待て。流石に管轄外だ。今ミッドナイト先生に代わる」

 

 

 




読了ありがとうございました!

ヒロインアンケート改 深く考えずに直感で

  • A組女子
  • B組女子
  • ヒーロー科じゃない女子
  • 前提が違う。天魔がヒロインで皆ヒーロー
  • 八木先生(ネタですヨ?)

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