デュエル・マスターズ Mythology 作:モノクロらいおん
というわけで、そんな神話をモチーフとした『メソロギィシリーズ』と称した作品群の原初の作品をリメイクして書き直します。基本的には昔に投稿していたものと同じ展開ですが、描写やカードプールはだいぶ変わると思います。
また本作でもオリジナルカードを使用します、というかオリカが話の核なので、ご注意ください。今回は出てないけど。
1-1「神話の予兆」
――我らはあまりにも大きすぎた。命は巡る。大いなる存在は力を絞り尽くし、その流転を塞ぐ堰となりかねん。故にこそ我々は、その理を繋ぐべく、この世界の輪廻から外れねばならぬ。それが摂理よ。
――お別れは嫌だ。離れ離れになんてなりたくない。私たちが生きたこの星から去りたくない。でも、みんなが生きる世界を残すためには、こうするしかないんだよね。それで救われるのなら、ちょっとだけお別れも我慢するよ。
――後のことは、すべてあいつらに任せるしかない。そうせざるを得なかった自分の不甲斐なさに腹が立つ。だが、あいつらなら大丈夫だと信じてる。希望を持って、輝かしい未来に進めるとな。
――思い残すことはねぇ。ずっと戦って来た戦場から去るのは名残惜しいが、新たな戦場が待ってると考えればいい……あいつらと、もう一度だけ、剣を交わしてみたくもあったがな。
――星のための己はなく、この星は己のための道具に過ぎん。故にこの結末、俺は残念でならない。愚民のために、我が身を捧げねばならんとはな。本当に、愚かしい。
――私たちの存在そのものが間違っていた。そんな理不尽には怒りしか湧かないけれど、あの戦争でやりすぎてしまったことは認めましょう。故に罪を認め、その罰を背負いましょう。それが私たちの責任。私たちができる、唯一の贖罪なのだから。
――太平のためには致し方なし。我らは調和を維持する義の責を負う者。世界の機構に縋るべきに非ず。我らが退去することで救われる星があるのなら、それが最善の道だというのなら、その義を通すまで。
――もったいない。本当にもったいない。ここからこの世界の秘密がさらに浮き彫りになりそうだという時に追い出されるとは。ま、こんな面白い星が失われる方がもったいないし、外から観察できる可能性ができたと考えようか。
――その選択が最良であり、最善であり、それしか道がないというのなら、この身を喜んで捧げましょう。自我など不要。この星を守護し、存続させることができれば、それでいいのです。
――私たちの帰るべき場所が失われる。愛を分かち合った同胞たちと離別する。なんと悲しいことです。しかし、それでこの星すべての命が救われるのなら、そうしなければ救われないのなら、致し方ないのでしょうね。
――新たな命が、新たな生誕が、待っているのでしょう。
――新たな世界を、新たな支配を、望むのだろう。
その時。
混沌から生まれた秩序、調和せし神話たちは――
――世界から追放された――
◆ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ ◇
狭く薄暗い路地裏に、ひっそりと佇むようにして建てられているのは、店――カードショップだ。
そんな劣悪な立地のせいで日差しさえも遠く、どこか陰気さを感じさせる店内には、三人の人影。
そのうちの二人は、互いに向かい合っていた。
「3マナで《コッコ・ルピア》を召喚! ……ターンエンドだ」
一人は少年だった。
まるで形容できないほどに、印象に残る説明など不可能とでも言わんばかりに特徴のない容姿。強いて言うのなら、やや女顔に見える、という程度のものしかない。
「あたしのターン! 2マナで《桜風妖精ステップル》召喚! マナを増やして《雪精 ジャーベル》も召喚! 《ベル・ザ・エレメンタル》を手札に!」
そして、そんな没個性な少年と向かい合うのは、夕陽とは対局の――即ち、個性に溢れた容貌の少女だった。
小学生くらいだろうか。幼い顔立ちに、小柄な背丈。全体的に華奢だが、彼女の幼さや小ささに反して、非常に肉感的であった。二つに結んだ明るい髪も目を引く。
彼女の名前は、
二人は、カードを手にして、大きな台の上でなにかを競っている。
――デュエル・マスターズ。
四十枚のカードを用いてデッキを組み、クリーチャーと呼ばれる使い魔や呪文を駆使してプレイヤーを守る五枚のシールドをすべて打ち砕き、とどめを刺した者が勝利する、世界的にも有名な
夕陽とこのみ、二人が興じているのは、正しくそれである。
「《ステップル》で攻撃! 二枚目をブレイク!」
「残り三枚……間に合うか? 僕のターン、《コッコ》でコストを2軽減、《ボルシャック・NEX》召喚!」
小型のクリーチャーを並べて攻めたてるこのみに対して、夕陽は出遅れ気味なものの、大型クリーチャーへと繋げる構えを見せる。
「《NEX》の能力で、《ルピア》をリクルートする! 出すのは……《ボルシャック・ルピア》! 能力で《キング・ボルシャック》をサーチする!」
「お、ゆーくんの切り札きた!」
「打点は届かないけどな。G・ゼロ! 《超竜キング・ボルシャック》! 《NEX》の上に重ねて進化だ!」
流れるような
夕陽は少し考えてから、《キング・ボルシャック》を横に倒す。
「《キング・ボルシャック》で《ステップル》を攻撃!」
「やられちゃった……」
「《ステップル》が破壊されたから、マナを一枚墓地に置けよ」
「はーい……マナ破壊、やだなぁ」
「だったら殴るなよ」
「攻撃しなきゃ勝てないもん。あたしのターン!」
このみにターンが返ってくる。
夕陽のシールドは残り三枚。見た目では、クリーチャーが二体しかいないこのみが、このターンに夕陽にとどめを刺すことはできないように見える。
ただし夕陽は知っている。今のこのみの手札に、なにがあるのかを。
「マナチャージして、1マナで《冒険妖精ポレゴン》召喚! そして4マナで、《ポレゴン》を進化!」
このみは召喚したばかりのクリーチャーの上に、さらに一枚、カードを重ねる。
「――《ベル・ザ・エレメンタル》!」
小さな雪の妖精は、華やかな花の妖精へと変貌する。
《ベル・ザ・エレメンタル》はWブレイカー。そして、進化クリーチャーは召喚酔いしない。
つまり、王手だ。
「《ベル・ザ・エレメンタル》で攻撃! Wブレイクだよ!」
「っ、なにもない……!」
「《ステップル》でシールドブレイク!」
これで夕陽のシールドはゼロ。
このままでは、残った《ジャーベル》にとどめを刺されるだけだが、
「よし、S・トリガー発動! 《爆殺!! 覇亞怒楽苦》」
「うぇっ!?」
最後のシールドから捲られたのは、S・トリガー。
あらゆる意味で、デュエマを最も盛り上げる要素。ある時は忌み嫌われ、ある時は尊び喜ばれる、天運の贈り物。
シールドから手札に加えられたそれを宣言し、夕陽はノーコストでトリガーを発動させる。
「コスト8以下になるよう相手クリーチャーを破壊する。《ジャーベル》と《エレメンタル》を破壊! さらにシールドがゼロだから、スーパー・S・トリガーのボーナスも発動! 山札を五枚見て、その中から《ボルシャック・ドラゴン》をバトルゾーンに!」
「うわぁ、やばいよー……ターンエンド」
「僕のターン。ここまで来たらもう、殴るっきゃないな。《NEX》を召喚、《ボルシャック・ルピア》をリクルートして、《キング・ボルシャック》をサーチ、G・ゼロで《NEX》を《キング・ボルシャック》に進化だ!」
前のターンと同じ流れで、二体目の《キング・ボルシャック》が登場。
シールド五枚の相手に対して
「とりあえず、クリーチャーは処理しておくか。《ボルシャック・ルピア》で《ステップル》を攻撃。マナを一枚、墓地に置け」
「うぅ、ゆーくん、少しは手加減してくれても……」
「まったく手加減するつもりのなかった奴が、どの口で言うんだよ。《キング・ボルシャック》でTブレイク」
「S・トリガー! ……うー、ないよ」
「《ボルシャック・ドラゴン》でWブレイクだ!」
三枚、二枚と一気にシールドを粉砕する夕陽。
このみのシールドも、これでゼロ。そして夕陽にはまだ、攻撃できるクリーチャーが二体。
《ナチュラル・トラップ》のようなトリガー一枚では問題ない。夕陽はそうタカを括っていた――が、
「あ、S・トリガー!」
「来たか。まあ、単体除去一枚なら問題はな……」
「《アポカリプス・デイ》!」
「はぁ!?」
素っ頓狂な声を上げる夕陽。
いやさ、夕陽でなくとも、そのカードには驚きを禁じ得ないだろう。
《アポカリプス・デイ》、バトルゾーンのクリーチャーをすべて破壊するという、豪快なリセット呪文だ。
ただし条件として、バトルゾーンのクリーチャーの数が六体以上でなければ発動しないのだが、
「ひーふーみー……よし、六体いるから全部破壊!」
夕陽の場には、《キング・ボルシャック》と《ボルシャック・ルピア》が二体ずつに、《コッコ・ルピア》《ボルシャック・ドラゴン》が一体ずつ、その数合計六。
ちょうど、黙示録が発動する数だ。
クリーチャーが全滅し、夕陽はこれ以上の行動ができない。
「あたしのターン! 《ステップル》を召喚して、《ベル・ザ・エレメンタル》でダイレクトアタック!」
「……あり得ねぇトリガーに負けた……」
夕陽には、その最後の一撃を防ぐ手立てはなく。
釈然としないまま、このみに敗北した。
「やったー! あたしの勝ちぃ!」
「いやいやいや! おかしいだろ! なんで《アポカリ》が入ってるんだよ! せめて《ホーリー》にしとけよ!」
「? だって
「ウィニー環境になりそうだから刺さるデッキが増えるという意味で強いと言っただけであって、どんなデッキに入れても強いという意味ではないです」
「あ、汐ちゃん」
と、そこで。
二人の対戦を、少し離れた場所で見ていた、汐ちゃんと呼ばれた少女――三人目が、ぬぅっと現れる。
このみほどではないが、小柄で童顔な少女だった。そして彼女も、このみとは正反対と言える姿をしていた。
全体的に痩せており、儚げで、どことなく不健康そうにさえ見える。どこか青みがかっている暗く黒い髪は、サイドでぴょこんと結われていた。
そしてなにより、表情がない。ポーカーフェイスというより、機械のように無表情だった。
少女――
「そもそも、自分のデッキへの被害は考えなかったのですか」
「まったく?」
「相も変わらずの馬鹿野郎め……」
呆れて息を吐く夕陽。
このみの頭が弱いのは今に始まったことでもないが。
「とはいえ、結果はこのみ先輩の勝ちですね。では、たった二人の『御舟屋』BOX争奪戦の勝者は、このみ先輩ということで」
「わーい、やったね! ありがと汐ちゃん!」
汐は拡張パックの詰め込まれた箱を一つ、このみに手渡す。
今までの対戦は、このカードショップ『御舟屋』の大会。優勝賞品として拡張パック1ボックスが贈呈される、いわゆるBOX争奪戦だった。
もっとも、立地の悪すぎるこの店の客入りは非常に少なく、気まぐれに開催されるこの大会の参加者を数えるのに、両手を使ったことは一度もないが。
そして汐は――名前からも分かる通り――この『御舟屋』の店員だった。正確には、彼女の兄が店長で、まだ中学生である汐は、純粋に手伝いとして店員をやっているだけなのだが。
「しっかし、参加者たった二人で1ボックスも景品にしてもいいのか?」
「どうせ古いパックの在庫処分みたいなものですしね、構わないですよ。それに先輩方、このお店の数少ない利用者ですし」
淡々と、しかし自嘲的に言う汐。
そこに、にこやかな顔をしたこのみがやって来た。
「ゆーくーん! 汐ちゃん! はいこれ!」
「賞品のパック、ですか」
「みんなで分けよう!」
「……こいつとデュエマやっても、勝った気も負けた気もしないな」
「悪いこと、ではないでしょう。これも日常です」
「日常な。少し退屈な気もするけど……まあ、悪くはない、か」
特に意味もなく、小さな空間で、時間を貪る。
ささやかな楽しさと喜びに従事し、なんの変哲もない流れに身を任せる。
それは刺激的ではないが、それなりに、心地の良い時間であった。
英雄譚になどなろうはずもない、当人たちだけが満足できる、平凡な物語。
しかし彼らはまだ知らなかった。
そんな平々凡々で面白味のない物語が、いつしか変じることを。
――混沌なる秩序から生まれた、調和せし神話へと――
◆ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ ◇
「はっ、はっ、はっ――!」
荒い息遣いが聞こえる。
その影はひたすらに疾駆する。なにかから逃れるかのように。
そしてその手には、一枚のカード。熱く燃え滾り、光り輝く、大空の炎球の如き一枚。
それを大事そうに、あるいは疎ましそうに、その手に握られている。
――大事なものに違いはない。けれど、危険なものというのも間違いない。
手放したいのに持っていたい。そんな矛盾が思考を蝕む。
疲労、痛苦、不安。あらゆる負荷が襲い掛かる。もはや、心身共にボロボロだった。
これ以上は、戦えない。
これ以上は、戦いたくない。
なにもかも、すべての重荷を投げ出したい。
「…………」
大事な、一枚だった。
その出会いは劇的で、運命的で、平凡な物語を激変させた。
しかしその先は苛烈だった。熾烈で、凄烈だった。
悍ましく、恐ろしい。惨たらしく、痛ましい。
その世界は、正しく神話の再現。只人が足を踏み入れていい領域ではない。
それを、嫌というほど感じていた。
英雄譚に憧れた子供が、真に英雄と同じ道を進んでも、それは自殺願望と相違ない。
つまるところ、限界だ。
肉体もそうだが、なにより精神が保たない。
敗残兵と罵られようと、敗走兵と蔑まれようと、構わない。
「……ごめんね」
彼女は、その力を、太陽を――神話を。
――放棄した。
以上、一話です。
今回、特にデッキや対戦として面白いものを提供しようというつもりはまったくなくて、こいつらの日常風景を描写する程度です。プロローグみたいなものですね。
次回からはちゃんと物語として動かします、たぶん。
そういうわけなので、感想や誤字脱字等ありましたら遠慮なくどうぞ。