デュエル・マスターズ Mythology   作:モノクロらいおん

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 プロローグっぽい序盤導入、このみ編は今回で終了です。凄い短くなってしまった……


3-4「萌芽の選定 Ⅳ」

萌芽神話 フォレスト・プロセルピナ 自然文明 (12)

神話クリーチャー:メソロギィ/スノーフェアリー/アース・ドラゴン 12000

■神話化―自分のスノーフェアリーまたはアース・ドラゴンを含む自然のクリーチャー1体以上の上に置く。

■神話降臨[自然]

■神々供犠[自然]

■神々調和[自然]

CD6―このクリーチャーがバトルゾーンに出た時、自分の墓地にあるカードを好きな枚数マナゾーンに置く。

CD9―このクリーチャーがバトルゾーンに出た時、または攻撃する時、バトルゾーンのクリーチャーを1体、持ち主のマナゾーンに置いてもよい。そうした場合、自分のマナゾーンから、そのクリーチャー以下のコストの自然のクリーチャーを1体バトルゾーンに出してもよい。

CD12―自分のターンのはじめに、このクリーチャーの下にあるカードをすべて山札に戻してシャッフルしてもよい。こうして戻したカードが3枚以上なら、自分のマナゾーンにあるクリーチャーを好きな数選び、バトルゾーンに出す。その後、相手のマナゾーンにあるクリーチャーを好きな数選び、バトルゾーンに出す。

■T・ブレイカー

 

 

 

 百花繚乱の花々が乱れ咲き、数多の花瓣が舞い散る。

 蕾が花開き、可憐なる妖精の神が目覚める。その半身に、恐るべき古龍を従えて。

 命の発芽、心の芽生え。

 それは、あらゆる信仰の起源にして、純心の形。あらゆる民が宿す意志、生の実り、万人が秘める想いの神話。

 

 即ち――《萌芽神話》

 

 すべての心と通わせる穢れ無き花が、現世への顕現した。

 

「…………」

 

 呆然と、かの神話を見上げるこのみ。

 その目は、キラキラと輝いていた。

 

「かわいい……それに、ドラゴン、カッコイイ……すごい、きれい……!」

 

 妖精のような矮躯に、小さな翅。そして、その半身であるかのように蜷局を巻き従する、古木の龍。

 彼女を中心として、花々が咲き誇る。

 ここは神が支配する地である。しかし、それを超える神話が、ここに現れた。

 即ちそれは、支配領域の上書きである。

 神の地は、今、春の萌芽を告げる花園へと塗り替えられた。

 妖精は、満開の花々を一輪、手折る。

 それを、このみの手にスッと添えた。

 

「わっ、ありがとう」

 

 なんの花なのかは、わからなかった。桜色の、可憐な花。仄かな甘い香りが鼻孔を突き抜けていく。

 彼女は嬉しそうに微笑むと、古龍を従え、戦場――否、彼女の花園へと、戻っていく。

 

「神話カード……回収、最優先……終焉、迅速、に……《マッシヴ・アタック》」

 

 大地を喰らう海神が、大口を開ける。

 その巨躯が、このみを飲み込まんとする、が。

 

「……っ」

 

 その口は開かれない。

 伸びた植物が、絡まり、集い、力ずくで抑え込む。

 新生なる神は、ピキ、ピキとひび割れていき、そして。

 ――崩壊した。

 

「ぁ……」

 

 古き神話の神秘に、耐えられなかった。

 神として、否、神話としての歴史が違う。その大きさも、強さも。

 これほど可憐で、華奢で、小さな妖精と言えども、秘められた力は新生の神を遥かに上回る。

 これが、その証左だ。

 妖精は再びこのみの下へと飛んでくる。

 

「え? な、なに? クリーチャー、出していいの? なんでもいい? なんでもはダメ? マナに送ったのと同じくらい……?」

「……理解、不能。神話カードと、会話……? 状況、不明。論理、不明……不可解、未処理情報、過多……」

 

 言葉を交わしている、のだろうか。いや、妖精の声は、聞こえるようで、聞こえない。言葉などわからない。

 傍から見ても、それは異常な光景にしか見えない。人と、人ならざるものが、意思疎通しようなどと。

 ただ、伝わってくる。なにが言いたいのか。なにを伝えたいのか。

 彼女の気持ちが、心が、このみの中に入ってくる。

 

「えーっと、なら、これかな! 《無双竜鬼ミツルギブースト》! マナに送って、もう1体の《マッシヴ・アタック》を破壊!」

 

 妖精の贈り物。それが、新たな命を育む。

 マナゾーンに咲き乱れる萌芽の花々から、絶えず命の奔流が溢れ出る。

 自由自在に、我先にと、クリーチャーが小さな植物の芽吹きのように、顔を出す。

 世界が《萌芽神話》の花園に塗り替えられたことで、新生なる神の権威は失墜した。

 もはや、妖精の“お気に入り”である少女に、害為すことは叶わない。

 

「よーし、あたしのターン! ……え? なに? あたしのマナがどうかした……あっ!」

 

 勝手気ままに飛び回る妖精。彼女はこのみの足下の花を一輪摘み取る。

 すると、古龍がそれを飲み込んだ。

 

「ちょっと! あたしのマナのカード勝手に食べちゃダメ! ……もしかして、お腹すいてた? それならしかたないね!」

 

 マナゾーンのカードが1枚消えている。これは妖精の悪戯か。

 否、ただの悪戯ではない。

 子供と言えども、此なるは神話の具現。さすれば奉納されるべき供物がある。

 これはその義務。そして、

 

「元気になった? うん、それじゃあ――」

 

 力を解放するための、糧だ。 

 

「――めいっぱい、やろっか!」

 

 刹那。

 

 

 

 このみのマナゾーンのクリーチャーが、すべてバトルゾーンへと現れた。

 

 

 

「っ!? じ、状況、不明……処理、追い、つかな……」

「いっくよー! 《リュウセイ・カイザー》の能力で全部スピードアタッカーだ!」

 

 百花繚乱。正しく、一瞬のうちに咲き乱れたクリーチャーたちの勇姿は、咲き誇る花々のようであった。

 妖精も、龍も、獣も獣人も虫も植物。

 すべてが一堂に会し、雪崩れ込む。

 種族の垣根を越え、ひとつの輪となり、和を成す。

 

「――《プロセルピナ》!」

 

 このみの呼びかけに、彼女は頷く。

 言葉を交わさずとも、通い合う心はある。

 彼女たちには、それだけで十分だった。

 このみは、言葉がなくとも理解し合えるものを知っている。意識の中にない、本能としての純心を知っている。

 故に《萌芽神話》は選んだ。

 春の訪れを委ねるべきは誰かと。

 その結果、支配を目論む者は剪定され。

 無垢で、純心で、穢れを知らない少女が、選定された。

 これはそんな、幼い少女の我儘。

 ただ、それだけの話。

 

 

 

「ダイレクトアタック――!」

 

 

 

◆ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ ◇

 

 

 

 世界は現世へと戻っていく。

 気付けばそこには、花畑はなく、クリーチャーも、神も、妖精もいない。

 

「あの子、行っちゃった……なんだったんだろ、今の」

 

 ただあるのは、手元のカード1枚。

 《萌芽神話 フォレスト・プロセルピナ》。

 冷静になって思う。あの時の声は、本当に彼女のものだったのだろうか。

 問い返しても、答えは返ってこない。

 

「んー……」

 

 やはり夢のようなものなのか。気のせいか。思い込みか。幻想か。

 一瞬、逡巡するが。

 

「ま、いっか。なんかよくわかんないけど、楽しかったし」

 

 事実など、どうでもよかった。

 思い込みでアあれ、幻想であれ、夢幻であれ。

 彼女の声を聞き、その声を聞き届け、こうして自分と彼女はここにある。

 そこに確かな楽しさがあった。

 それだけで、いいのだ。

 その楽しさがあれば、それで。

 次にすることも、自ずとわかる。

 このみは走る。いつもの、行きつけの店へと。

 友の場所へと。

 

 

 

「よーし! このこと、ゆーくんにも教えてあげよう――!」




 切札を出すタイミングで切ったせいで、文字数が3000文字に届かない……ここまで短いと、逆に不安になりますね。普段はもうひとつ桁が多いので、落ち着かない。
 そんな与太話はさておき、プロローグを兼ねた各キャラ導入、二回目は春永このみでした。能天気で頭の悪いバカキャラくらいに思ってくれればいいです。マジカル☆ベルでいう、ユーちゃんの知能指数がさらに下がったようななにかだと思ってくださればわかりやすいかと。
 次回は各キャラ導入の最後、三人目の御舟汐にスポットを当てていくつもりです。その前にやりたいこともなくはないのですが……まあ、細かいところは未定です。

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