デュエル・マスターズ Mythology 作:モノクロらいおん
汐と青崎の対戦。それは、異様な光景であった。
宙に浮くカードたち。シールドは強固な壁として屹立し、手札は己の思考、知識と同期するように自在に操れる。
カードから現出する効果演出さえ、現実に侵蝕している。
あまりにも奇異で異常ではあるが、なぜか汐はそれに抵抗感がない。
その感覚を不思議に思いつつも、混乱しないのならば、それでいい。
理性的であれば、ミスもしない。いつものように戦える。
とはいえ、冷静だからと言って優位に立って対戦を進められるわけではない。
《ジェニコの知らない世界》《ブレイン・タッチ》と、汐は青崎のハンデスによって出鼻を挫かれ、序盤の動きに失敗していた。
マナゾーンに見える黒と緑のカード。しかし、マナはいまだ4。マナ加速が上手く行かない。
「僕のターン、《パクリオ》を召喚だ。さ、手札を見せてくれ」
青崎の執拗なハンデスは続く。しかも、ピーピングハンデス。
汐の手札が、汐の意志に逆らい彼女の手元から離れ、背を向ける。
青崎は公開された手札を見て、軽薄な笑みを浮かべた。
「おっと、面倒なのがあるね。《社の死神 再誕の祈》をシールドに埋めるとしよう」
4マナ圏から次ターン一気に7マナ圏まで加速する《再誕の祈》が、盾に埋没する。
汐のデッキにおいて重要な加速を成すカードを潰されてしまうが、しかし汐はピクリともしない。一切表情を変えないまま、次の一手を打つ。
「私のターンです。5マナで《月の死神ベル・ヘル・デ・スカル》を召喚ですよ。墓地の《ダーク・ライフ》を回収、ターンエンドです」
「それじゃあ僕は、3マナで《クラゲン》を召喚。山札から進化クリーチャーをトップに固定だ」
青崎の山札から1枚のカードが摘出される。
それは一瞬だけ汐の方を向き、嘲笑うように翻って、山札の一番上へと座した。
(? 今のカードは……?)
一瞬だけ見えたカードが奇妙に映る。妖しげな感覚、不気味に見える挙動。そしてそれ以前に、まったく見覚えのないデザイン。
刹那のことだけに確信は持てないが、それは汐の知らないカードであるように思えた。
「……青黒ハンデスのようですが、なにか、妙ですね」
それは先ほどのカードが、だけではない。
青崎のデッキそのものも、妙なのだ。
ここまでのハンデスカードはともかく、《クラゲン》がハンデス系のコントロールデッキに入るだろうか。
この唐突にはじまった謎の対戦空間といい、なにもかもがわからないことだらけでおかしい。あらゆる不可解と未知に溢れている。
未知なものへの対処法。それは、じっくりと観察して考察するか、
「私のターン……いいですね。2マナで《ダーク・ライフ》。さらに3マナで《再誕の社》。墓地のカードを二枚、マナに戻すです。ターンエンド」
未知なものは未知のまま、持ち得る最大の力を以て、速攻でカタをつける。
汐はここに来て、一気に加速する。切り札まで繋ぐ土壌は、ほとんど整いつつある。
しかし、
「エンジンかかって来たかな? でも、もう手遅れだよ」
いくら汐が加速しようとも、青崎は既に下準備を終えている。
あとは、先んじて仕込んだそれを、ただ引くだけ。
「《パクリオ》と《クラゲン》のコスト合計は7、よってこれらを神話の贄に。
空間が揺らぐ。世界が揺らめく。
水のように揺れて、歪んで、弾けて、時空は生贄の命を結晶と共に包み込む。
「無限の叡智を渇望する、愚かな賢者。彼の賢しき愚行には、誰も抗えない」
飲み込まれた命は吸収され、化学反応を起こしたように混沌にかき混ぜられ、異物の絶叫を轟かせる。
生贄の魂に、水のマナを注ぎ込み、それは変じていく。
水晶のフラスコの中、不完全なものを完全とするべく、新たな、正しい姿を形成する。
これは進化に非ず。
これは進化ならざる神話の再現。
故に、これは、
「
水晶の中で、その魂は受肉する。
これなるは、愚かしくも賢者の叡智を潤す神話なり。
「さぁ、彼女に神話の叡智を授けようじゃないか――《賢愚神話 ライブラリズ・ヘルメス》!」
地味にヘルメスの名前がちょっと変わっている。