デュエル・マスターズ Mythology   作:モノクロらいおん

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 対戦パートその2。ヘルメス君の理不尽爆発。


4-4「賢愚の接触 Ⅳ」

賢愚神話 ライブラリズ・ヘルメス 水文明 (12)

神話クリーチャー:メソロギィ/サイバーロード/リキッド・ピープル 12000

■神話化―自分のサイバーロードまたはリキッド・ピープルを含む水のクリーチャー1体以上の上に置く。

■神話降臨[水]

■神々供犠[水]

■神々調和[水]

CD6:このクリーチャーがバトルゾーンに出た時、自分の山札を見る。その中からカードを3枚まで選び、自分の手札に加える。その後、山札をシャッフルする。

CD9:相手がカードを使う時、そのカードとマナコストが同じカードを自分の手札から捨ててもよい。そうした場合、そのカードの効果を無効にし、持ち主の山札の一番下に置く。

CD12:自分のターンの終わりに、このクリーチャーの下にあるカードをすべて山札に戻してシャッフルしてもよい。こうして戻したカードが3枚以上なら、このターンの後にもう1度自分のターンを行う。この追加ターンの間、相手のクリーチャーの能力すべて無視する。

■Tブレイカー

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは、妖しげな笑みを浮かべた青年のようだった。

 冷気を纏い、水流を巻き、氷雪を飾り、飛沫を羽織る。

 右手には蛇のように渦巻く水の杖、左手には鎌のように湾曲した氷の剣。

 彼はつばの広い帽子を押し上げ、翼の靴を弾ませながら地に降り立つ。

 

「これは……」

 

 まったく未知の存在。こんなクリーチャー、こんなカード、こんなものは――“知らない”。

 あり得ない。存在しないはずのカードが、目の前に、確かにいる。

 となればそれは、あり得ること。

 不可解で不条理だが、その現実は、確固たる事実は、ここにある。

 

「さぁ、まずは神々調和(コンセンテス・ディ)6を発動だ。《ヘルメス》の登場時、僕の山札から好きなカードを3枚手札に加える」

 

 《ヘルメス》の杖から光が迸る。すると青崎の山札が広がり、彼を取り囲んだ。

 青崎はその中から、3枚を手に取る。

 問答無用で3枚も好きなカードをサーチ。とんでもない補給力。3枚という数の多さもそうだが、なによりも質が多くのドローソース、サーチカードと比べて段違いだ。

 カードタイプの指定もなく、相手に情報を与えることもなく、好きに3枚。その性能もまた異様であり、未知である。

 

「ターンエンド。さぁ、君のターンだ」

 

 青崎は動かない。青年神と共に、不敵で不快な笑みを浮かべるばかり。

 あまりにも不気味だ。なにをしてくるかもわからない。

 ひとまず放置していては危険だ。早急に処理しなくてはならない。

 汐はカードを引き、念のためにとキープしていた除去札を切る。

 

「これはこれでリスクがあるのですが、盤面に放置するより遥かにマシです。6マナで呪文、《デーモン・ハンド》ですよ。そのクリーチャーを破壊です」

「させないさ。神話というものは、そんなにヤワじゃないんだよ」

 

 悪魔の魔手が《ヘルメス》を握る。そのまま豪腕が握り潰してしまう、が。

 

神々供犠(ネクタル・アムプロシア)[水]、発動。《ヘルメス》が死ぬ代わりに、供物とした生贄を捧げる。《クラゲン》をスケープゴートにし、《ヘルメス》は生き残る」

 

 時空が揺らぐ。電影が走ったと思えば、そこにはもう、《ヘルメス》はいなかった。

 《デーモン・ハンド》が握り潰したのは、《ヘルメス》の進化元として取り込まれたはずの《クラゲン》。それが神話の幻影として、成り代わり、破壊される。

 《ヘルメス》はそれを嘲弄するように微笑むばかりで、傷一つ負わない。

 

「除去耐性、ですか……ターンエンドです」

 

 しかしメテオバーンのように進化元を消費する除去耐性なら、まだ芽は残っている。

 除去を連打していけば、いずれあのクリーチャーも倒れる。手札は少ないが、除去なら汐の十八番だ。切り札まで繋ぐことができれば、処理できるはず。

 と、思ったが。

 

「僕のターン。さて、神話を存続させるには、相応の贄が必要でね。神々供犠[水]のデメリットとして、僕は毎ターン、彼に手札かマナから、供物を捧げなければならないのさ。ここは《第六戦街 ラヴ・ガトラー》を与えよう」

 

 青崎は手札を1枚放る。それは、《ヘルメス》の中へと取り込まれ、吸収されていった。

 リソースを消費するとはいえ、これでまた、《ヘルメス》の耐性が増えてしまった。デメリットと言うが、手札補充が得意な水文明なら、そこまでの痛手でもないだろう。青崎は直前のターンで、3枚も手札を補充しているのだから、なおさらだ。

 

「6マナで《龍覇 M・A・S》を召喚。《ベル・ヘル・デ・スカル》を手札に戻し、《龍波動空母 エビデゴラス》をバトルゾーンへ。ターンエンドだ」

 

 巨大な空母が、遥か頭上に浮上する。

 《エビデゴラス》まで立ってしまった。これで青崎は毎ターン2枚のドローが確定。もはや《ヘルメス》へと捧げる供物に困ることはないだろう。

 こうなってしまえば、除去を連打して《ヘルメス》を処理するというのも難しい。毎ターン進化元を補充されるのでは、こちらが除去を撃つ速度より、耐性を増やす速度の方が早い。

 それならば、もう《ヘルメス》は無視して、こちらの勝ち筋を押し付けるしかない。汐は一瞬でその判断を下し、舵を切り替える。

 

「私のターンです。マナチャージ。そして5マナで、《凶鬼09号 ギャリベータ》を、墓地から召喚――」

 

 

 

ピキッ

 

 

 

 悪寒が走る。怖気が這う。狂気が纏わり付いてくる。

 カードを持つ手は重く、指先が冷たい。視線を落とすと、目を剥きそうになる。

 指が――“凍っている”。

 細く白い指が薄氷に覆われ、その先のカードまでも、凍り付いていた。

 ――そんな虚な現実を、幻視していた。

 

「……今のは……」

 

 次の瞬間には、汐は我に返る。

 指は凍っていない。冷たい感触も現実ではない。カードも、カードのまま。

 だが、召喚しようとした《ギャリベータ》は、召喚されない。それこそ、凍り付いたように、動かない。

 

「神々調和――発動」

 

 青崎の言葉で、《ギャリベータ》は山札の底へと沈んでいく。

 

「無限の叡智を持って、愚かな賢者は、賢しき愚行を為す。賢愚の神智の前では、あらゆる策略は凍結する。だってそれは、“知っている”から」

 

 軽薄で、飄々としていて、そして、冷たい声だった。

 嘲るほどに無情で、蔑むほどに無慈悲で、軽んじるほどに容赦がない。

 神話とは如何なるものか。その事実が、ここにある。

 紛れもない現実という波濤として、汐はそれを直視する。

 

「《賢愚神話》の力は、相手の行動に対する凍結能力。相手の力と同位の力による中和と相殺、即ち君が使用したカードと同コストのカードを消費することで、そのカードの使用及び発動を無効化する」

「っ、打ち消し……!」

 

 デュエル・マスターズでは非常に珍しい打ち消し能力。それも、呪文だけではなくクリーチャーの登場――言い回しからして、恐らくあらゆるカードタイプに干渉可能だろう――にまで効果が及ぶ打ち消しというのは、聞いたことがない。

 

「僕は手札から《傀儡将ボルギーズ》を捨てるよ。《ボルギーズ》のコストは5、同じコスト5の《ギャリベータ》の使用を無効、山札の下に送還する」

「……あなたの手札がある限り、私はカードが使えない、と」

 

 最初に手にした三枚のカード。恐らくあれは、すべてコストがバラバラで、汐の使用カードを狙い撃ちするための布石。

 ツインパクトならばコストが二つ参照できる。大量の手札と、あらゆるコストを参照するツインパクト。これらが揃うことで、汐のほぼすべてのカードは使用できないだろう。

 唯一の救いは手札を消費することだが、手札が尽きるまで乱射するにしても、今の汐は手札がない。そして青崎は《エビデゴラス》で常に手札を供給し続ける。汐にできることなどなにもないし、なにもさせてはくれないだろう。

 

「聡明な君ならわかるだろう? この盤面、この現実が、すべてを示しているのさ。僕には、《ヘルメス》によって与えられた知識で、君の動きを制縛する。足りない知識は《エビデゴラス》が供給してくれる。知識の多寡は戦略の強さ。そして僕に神話の叡智がある限り、君の戦略の悉くを潰してみせよう」

「…………」

 

 癪な話だが、確かに青崎の言いたいことは分かる。現状が絶望的なことも理解できる。

 供給され続ける手札。打ち消されるカード。こちらは手も足も出ず、相手は宣言通り、こちらの行動の一切合切を縛り付け、打ち潰してくるのだろう。

 カードが使えないのでは勝てるはずもない。40枚のカードすべてを紙屑にされて、どうして神話に敵おうか。

 理不尽だ、不条理だ。こんなものは自分の知っているデュエマではない。意味不明で理解不能な未知のカードを引っ張り出されて、どう対応しろと言うのか。初見殺しの地雷にもほどがある。

 そう、嘆きたくもなる。

 なる……が。

 

「僕のターンだ。《ヘルメス》に《エメラル》を捧げ、《エビデゴラス》で追加ドロー。3マナで《ブレイン・タッチ》、君の手札を捨てさせるよ。さらに《水晶の記録 ゼノシャーク》を召喚。そして、攻撃しよう。《ヘルメス》で攻撃! シールドをTブレイクだ!」

 

 《ヘルメス》は水流るる剣を振るう。鎌のように湾曲した刃は、飛沫を散らしながら汐のシールドを3枚、一挙に薙ぎ払った。

 

「……S・トリガー、《邪狩!不死樹MAX》――」

「それは読めているよ。《ヘルメス》、出番だ!」

 

 汐がカードを手繰り、掲げるも、《ヘルメス》はその神智で魔力の奔流を凍らせる。

 マナが通らぬ呪文に効力はない。それはただの紙屑と成り果て、山札の底へと沈んでいく。

 

「《時を御するブレイン》を捨て、その呪文を失効させる! 《M・A・S》でさらにシールドブレイクだ!」

「……これもS・トリガーです。マナ武装5、《惨事の悪魔龍 ザンジデス》を召喚です。相手クリーチャーすべてのパワーをマイナス2000ですよ」

「コスト7? それは……ないね」

「それなら《M・A・S》と《ゼノシャーク》を破壊です」

 

 運が良かったと言うべきか。《時を御するブレイン》――上面がコスト7の《タマテガメ》を消費させたお陰か、あるいはわざと見逃したのかはわからないが、この《ザンジデス》は通った。

 《ヘルメス》自体はどうにもならないが、ひとまず脇のウィニーは一掃する。

 

「やられてしまったか。でもまあ、問題ないさ。《ヘルメス》がいれば、君はなにもできないのだから」

 

 己が神話に絶対の自信を託す青崎。それもそのはず、これほどの支配力を持ったクリーチャーが立っていれば、汐は手も足も出せない。

 それに、それだけではない。

 《ヘルメス》の周囲に霧が立つ。ぼんやりと青年神の姿が揺らめく。

 空間が捻れている。時間が狂っている。

 時空が、凍っていく。

 

 

 

「ターン終了時、《ヘルメス》の神々調和[水]、12を発動! このクリーチャーの下のカードをすべて山札に戻し、僕は追加のターンを得る!」

 

 

 

 賢しき愚者(トリックスター)は、時間にさえも干渉する。

 時間を、空間を、凍らせる。

 汐に渡るはずのターンは水と共に流されてしまう。

 後に残ったのは、凍てつく賢にして愚の世界。

 ただ一人、愚かなる賢者だけが、そこに立っている。

 

「そしてこの追加ターンの間、君のクリーチャーの能力はすべて無効となる」

「っ」

 

 世界が凍り付く。賢者が為す愚行が多う、冷たい世界となる。

 幸いにも《ザンジデス》は、登場した瞬間に能力はすべて解決している。だからその追加効果には意味はない、が。

 

「ターン開始だ。手札から《エイエイオー》を《ヘルメス》に捧げる! これで神々調和9が発動。《エビデゴラス》で追加ドローし、6マナで呪文、《訪れる魔の時刻》! 僕の墓地から好きな数のクリーチャーを回収する!」

 

 《ヘルメス》に新たな供物が捧げられる。

 そして、墓地に眠る贄たちが、一挙に彼の手元へと集まってくる。

 身代わりとして捨てた命、叡智の糧として消えた魂。それらが、すべて、還ってくる。

 

「これだけの手札があれば、本当になにもできないだろうね。なにが来ようと、僕の手札(知識)と、《ヘルメス》の力で、すべて凍結してしまえる。さぁ《ヘルメス》、残りのシールドをブレイクだ!」

 

 首を刎ねるように、《ヘルメス》は汐の最後の盾を引き裂く。これで、汐のシールドはゼロ。トリガーはない。

 青崎の手には、大量のカード。そして、その無限の知識を力に変える《ヘルメス》。

 ここまで追い詰められた汐では、その叡智に飲み込まれることは目に見えている。

 汐は飛沫と薄氷が混じったシールドの破片を浴びながら、汐は無感動な瞳で青崎を、《ヘルメス》を、見据える。

 神話の叡智に苛まれながらも、気丈に立つ。

 そして、ぽつり。

 

「……とりあえず、わかったことがあるですよ」

 

 軽く頭を揺すり、髪についた水滴と氷片を振り落としながら。

 冷ややかな視線と、冷徹な言葉を、彼らに送る。

 

 

 

「あなた、デュエマ下手くそですね」

 

 

 

 痛烈に、忌憚なく、遠慮も容赦もなく。

 辛辣に毒を吐く。

 これほど追い込まれているというのに、なんとも傲岸である。神話を前にしているというのに、不遜なことこの上ない。

 しかし彼女は神も神話も知らぬ存ぜぬ。信仰心はなく、祈りもしない。

 自分に益のない神なぞにくれてやる信心は持ち合わせていないのだ。

 そして本来の目的からずれてしまったが。

 分析が、できた。

 

「そのクリーチャーについては概ね理解したですよ。手札を整え、こちらのカードを読み切り、それに合わせたカードをぶつけ、こちらの動きを完全に封じるというコンセプト、ですか」

 

 意味不明なオリカですね、と苦言のように汐は淡々と呈する。

 《ヘルメス》の恐ろしさは十分すぎるほど理解できた。

 あらゆる行動を封じ込める、圧倒的な拘束力(パーミッション)。それに尽きる。

 

「しかし、ならばこそ、殴るタイミングはもっと慎重になるべきです。打点を整え、手札を整え、完封できるタイミングで仕掛けるべきなのです。ハンデスコンとはそういうものです。それさえも扱えず、オリカのパワーで押し切ろうとするとは、笑止千万ですね」

「……ははっ。痛いとこを突くなぁ。確かに、実戦はあんまり得意じゃないけどさ」

 

 痛いところを突かれた、と言うように笑う青崎。だがその笑みには余裕が残っている。

 分析された。理解された。未知を既知にされた。しかしその先にあるのは絶望だ。

 たとえ理解できようと、現実は無情。理解した先にあるのは、乗り越えられない、打倒不可という不条理。

 だからこそ、青崎は笑みを崩さない。

 

「理解したところで、《ヘルメス》は突破できないさ。すべて氷漬けにしてあげるよ」

「いいえ、攻略法は見つけたですよ」

「え」

 

 ぽかん、と青崎は口を開けて不気味な笑みを絶やす。

 汐は今まで溜め込んできた鬱屈を吐き出すように、言った。

 

「いい加減、好き勝手いいように抑え込まされるのも、苛々してきたところですしね。多少は博打が絡むですが――」

 

 

 

 ――反撃開始です。

 

 

 

 その言葉を皮切りに、彼女の背に、黒い影が差し込んだ。




 ヘルメス君の能力はデュエプレばりの大幅ナーフ。問答無用のノーコスト初回打ち消しという理不尽はなくなりましたが、今度はコストさえあれば無限打ち消しなので、こっちの方がヤバいかもしれません。でも、手札をすべて対抗呪文に変換できるっていうのは、とても青っぽくて個人的にはお気に入りです。水文明の本来の戦い方って、こんな感じな気がします。まあ水というか青ですが。
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