デュエル・マスターズ Mythology   作:モノクロらいおん

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 プロローグ汐編、最終話。汐vs青崎の対戦も決着です。


4-5「賢愚の接触 Ⅴ」

「反撃、と来たか。君にできるかな? 三重の智慧持つ偉大なる賢愚(ヘルメス)の神智を前に、この理不尽極まりない神話を相手にして、ただの人間が抗えるとでも?」

「勿論です。どれだけ力が強大でも、それを扱う“人”の方が弱いですので」

 

 今まで散々、弄ぶような嘲笑を浮かべていた青崎に意趣返しするように、汐は棘のある言葉で彼を煽り立てる。

 

「欠陥構築、ガバいプレイング。頭の中身がまるでこのみ先輩です。そんなぬるい手筋で吠えないでください」

 

 みっともないですよ、と汐は冷たく突き放す。

 《ヘルメス》の纏う氷雪よりも冷淡に、凍えつく脅威よりも冷徹に。

 かの神話の、その担い手の、愚かしき側面を暴き出していく。

 

「手札のカードをすべて打ち消しに変換するシステムクリーチャー、しかも除去耐性持ちでフィニッシャーになれる性能さえ持っているというのは、やれ恐ろしいことです。ハンデスでこちらの行動を削ぎ落とし、限られた手から捻出した一手も無力化されてしまう。とても理に適った戦術だと思うですよ。コンセプトは悪くないです」

 

 実際、汐はそのハンデスで出鼻を挫かれ、まんまと《ヘルメス》の降臨を許してしまった。《ヘルメス》を処理しようにも、限られた手札ではどうしようもなく、苦難し追い込まれたのもまた事実。

 

「青黒ハンデスにしては奇妙なカードが入っているのも、コスト帯を分散させるためなのでしょう。妙なカードはツインパクトが多いようですし、1枚のカードでコストが2つあることを利用し、打ち消しの弾を確保するアイデアも合理的です」

「なにかな? 君は僕を褒めてくれるbotにでもなるのかい? 僕、年下はあまり趣味じゃないんだけどな」

「気持ちの悪い人ですね。そんなわけないじゃないですか」

 

 事実は事実として認める。しかしその上で、そうして組み上がったものの穴も、事実としてある。

 それは、認めさせねばならない。

 

「そのデッキは様々なコストのカードを組み込むためにツインパクトを使用しいて、それ故に本来のハンデスコンとしては歪に仕上がっているようですね。とはいえ本来のデッキの形を歪めすぎると齟齬が生まれるはずです。コストを散らすにせよ、ある程度の汎用性は求められるでしょう。多様なコストのカードを入れたいがために、デッキ基板に合わない無理なカードを入れるのは本末転倒ですから」

 

 《ヘルメス》などという異物極まりない存在が鎮座していようと、デッキの基盤は青黒ハンデス。

 その原質を、どこまで歪められるか。本来の性能、役割を損なわず、あるいは損ねてでも《ヘルメス》を崇拝するためにそちらに寄せるか。

 期せずして、青崎は己の構築力を、あるいは神話への信心を、問われていた。

 

「さてここで、私は考えたのです。そのデッキは“どのコストまで対応できるのか”を」

「…………」

「デッキとして成立させるための合理性。その合理性を捨てられるだけの余裕がどれだけあるか。私の想定以上に、あなたが現実を甘く見て余裕を持っていれば、私の負けです」

 

 しかし現実を現実として重く見ているほど、理性的であれば理性的であるほど、余裕も甘えもなくなる。

 なんたる皮肉だろう。合理的に詰めれば詰めるほど、この一点における配色が濃厚となるというのは。

 叡智を賛美する賢者が理知によって組み上げた策略が、その智慧のせいで、愚か者だと一蹴される。

 無限の叡智を有する《賢愚神話》だからこそ、その可能性も、否定できない。

 

「私のターン。ハンドキープを優先して《ザンジデス》を残した愚行の結果、ここで答え合わせですよ」

 

 汐は静かにマナを置く。そして溜まりに溜まったマナをすべて、倒した。

 

「10マナをタップ。《ザンジデス》を進化」

 

 黒い影が差し込む。

 神も神話も信じない無信仰の汐ではあるが、もし彼女に信仰心と言えるようななにかが存在するのであれば、彼女が信じるものが“それ”である。

 邪教も異教も慣れている。邪神も魔神もこの手にある。

 それはこのカードたちに触れてから、ずっと彼女の傍で付き添ってきたものだから。

 

 

 

「君臨です、悪魔様――《悪魔神ドルバロム》」

 

 

 

 黒い影はすべてを飲み込む。空を闇で覆い、地を黒く染め上げる。

 暗夜に包まれた世界で生きる権利があるのは、魔王に服従する漆黒の意志を持つ者のみ。

 それ以外の異端者はすべて、死。あらゆる土地も資源も剥奪され、圧倒的な殺戮が為される。

 

「打ち消せるものなら打ち消してみてください。そのデッキに、10マナのカードが入っているなら、の話ですが」

「…………」

 

 どれだけ合理的なデッキ構築をできるか。青黒ハンデスを基盤とした青崎のデッキは、無茶をしない構築をするのであれば、コスト10のカードなどまともに使えず、まず入らない。

 彼が愚かにも無謀なコストのカードを入れているのであれば、ここで《ドルバロム》の降臨は許されないだろう。

 しかし彼が理性的な賢者であるのだとすれば、そんな無謀は起こさない。つまり、

 

「……打ち消せない」

「でしょうね。では、死んでください」

 

 青崎のデッキには、コスト10などという巨大な存在を退けるだけの力はなかった。

 闇が世界を包み込み、すべてを蹂躙し、破壊する。

 闇以外のクリーチャー、そしてマナ。ありとあらゆる一切合切が消えていく。

 《ヘルメス》は捧げられた供物が身代わりとなり、神体は残る、が。

 

「無駄な攻撃を隙を晒したたが運の尽きです。自分のプレミを呪ってください。《ドルバロム》で《ヘルメス》を攻撃です」

「力技はちょっと、対応できないかな……」

 

 一度の破壊は免れても、二度目はない。

 供物をすべて吐き出した《ヘルメス》は、《ドルバロム》の無慈悲な一撃で葬り去られる。

 この戦場にはルールがある。神話といえど、その枠内で争う以上は、ルールには逆らえない。

 たとえルールの内側で最大限の如何様(イカサマ)を働こうと、絶対的規律の前には屈服せざるを得ない。

 

「僕のターン、だけど……あぁ、マナが根こそぎだ。なにもできないな」

「では私は10マナで《大地と悪魔の神域》を発動。《ドルバロム》をマナへ、そしてマナゾーンから《邪霊神官バーロウ》と《悪魔神バロム・クエイク》をバトルゾーンへ。《バーロウ》の能力で墓地の《悪魔神バロム・ロッソ》を重ねて進化、《バロム・クエイク》はマナゾーンの《ザンジデス》を進化元に進化です」

「……容赦ないね、君」

「容赦するとでも思ったのですか」

「いやまったく。君たちはそういう人だよね」

 

 知ってたよ、とほとんど諦めたように笑い飛ばす青崎。

 《ドルバロム》で盤面とマナを根絶やしに。《バロム・ロッソ》で手札を根こそぎに。《バロム・クエイク》で踏み倒しも封じられる始末。

 汐の手足を縛り付けていた青崎だが、立場が完全に逆転した。

 今の青崎は、汐に縛られるどころか、手足も臓腑も削ぎ落とされている。

 なにもできないし、リソースがないので立て直すこともできない。

 

「さて、本当になにもできない。マナがない、手札もない、踏み倒しで抜け道を作ることもできない。僕はどうしたらいい?」

「死ねばいいと思うのです」

「辛辣だぁ」

 

 ここから先は無情な時間だった。

 リソースが枯れた青崎に対し、汐は嬲るように、追い打ちをかけてさらに刈り取っていく。

 《ドケイダイモス》で手札を。《ハンゾウ》でクリーチャーを。《ドルバロム》でまたマナを。

 一度ならず二度三度、蹂躙する。

 勝負を焦ったりはしない。けれどもゆっくりのんびり生かすつもりもない。

 最速かつ最適に。

 確実に、死滅する。

 

「8マナをタップ。《ハンゾウ》を進化」

 

 《ドルバロム》《バロム・ロッソ》《バロム・クエイク》と続き、現れる原初の悪魔神。

 それは――

 

 

 

「降臨です、悪魔様――《悪魔神バロム》」

 

 

 

 絶望の魔神が、現世に座する。

 そして、それを皮切りに、悪魔神たちの侵攻が始まる。

 

「まずはこちらから、《バロム・クエイク》でTブレイクです」

「う……S・トリガー《サイバー・ダイスベガス》だ!」

「《ドケイダイモス》で攻撃です、Wブレイク」

「Dスイッチ! 《ガロウズ・ホール》で《ドケイダイモス》を手札に戻して、超次元ゾーンから……」

「なにを出そうと、《バロム・クエイク》で吹き飛ばされるですけどね。《バロムロッソ》で残りのシールドをブレイクです」

「う、S・トリガー、《ゴースト・パイレーツ》……《ドルバロム》のパワーをマイナス8000、そしてバウンスするけど……」

「凌ぎ切るには足りなかったようですね。では、とどめです」

 

 無情に、無慈悲に、容赦なく。

 少女の一言で、魔神の鉄槌が下される。

 

 

 

「《悪魔神バロム》で、ダイレクトアタック――」

 

 

 

◆ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ ◇

 

 

 

「――これは」

 

 汐の手元に、誘われるようにして落ちてきたのは、《賢愚神話》のカード。

 その様子を見て青崎は、やれやれと肩を竦める。

 

「負けてしまったか。流石に敵わないね。《賢愚神話》も取られちゃったし……まあいいか」

 

 負けても、カードを失っても、青崎はあまり気にしていない様子だった。

 それでもいいと、むしろそのつもりだったと言わんばかりだ。

 そんなあっけらかんとした青崎に、汐は不可解な視線を向ける。

 

「……結局、あなたはなんなのですか」

「なんなのって、なにさ?」

「あなたのしたいことがさっぱりわからないのです」

「それはね、今のが君の知りたいことさ。見ただろう? 大いなる神話の偉容を。君の大切な先輩方も、その神話的事象に直面している。関わってしまったのさ、この“ゲーム”に」

「今のようなことに、先輩達も……」

「そ。まあ僕なんて下の下のぺーぺーだけど、十二の神話を求める連中は多いし、強いよ」

「私たちはこの馬鹿げた出来事に触れてしまったせいで、狙われる、ということですか」

「そういうこと。あ、君を引きずり込んだのは僕だけど、君の先輩らを巻き込んだのは僕じゃないから、そこは誤解なきよう」

 

 夕陽を襲った女と手を組んでいることは、ここでは言わない青崎だった。話がややこしくなるだけだ。

 

「僕はただ、仲間はずれな君を同じ場所に一纏めにしてあげようと思っただけさ。縁もあるしね」

「縁……わけがわからないですね。わからがわからないと言えば、あなたの目的もさっぱりです」

「それはさっき言っただろう? 君も一緒に巻き込んであげようと……」

「そうではないです。それは私へちょっかいかけにきた理由であり、もう一歩先はまだ言っていないですよね」

「…………」

「あなたは、あなた自身はなにがしたくて、なにを為そうとするために、なにが目的で、こんなことをしているのですか」

 

 こうして汐に接触した理由。

 青崎記という男の行動原理、理念。それ自体が不明瞭だ。

 青崎はそれを聞くと、愉快そうに微笑んだ。

 

「あぁ、それは簡単なことさ。僕の行動原理なんて、とても単純なんだ。僕が求めるのは、ただひとつ」

 

 青崎は人差し指を一本立てる。

 そして、卑しく、子供っぽい、無邪気で狂気的な笑みを浮かべた。

 

 

 

「“知りたい”」

 

 

 

 簡潔で、短いフレーズ。

 たったそれだけの言葉に、彼の狂気のすべてが詰め込まれていた。

 

「僕はね、すべてを知りたいんだ。世界の真理を、この馬鹿げた“ゲーム”の真実を、神話の生み出す森羅万象、そのすべてを!」

 

 どこか熱狂的に弁舌する青崎。その威迫に、汐は少し引いていた。

 なにか、大変な地雷を踏んでしまったのかもしれないと。

 

「君たちが神話の“ゲーム”に参加して、引っかき回してくれれば、新しい未知を知ることができるかもしれない。この“ゲーム”の真意に辿り着くことができるかもしれない。狂った神話の事象を解明できるかもしれない。そのためなら、僕は手を尽そう。智慧も絞ろう。無関係な人だって巻き込むし、縁も義理も引きずり込もう」

「……気持ち悪い人です」

「なんとでも言うがいいさ、これが僕だ。そして、君たちは僕の知識欲を満たすための餌さ」

「餌、とは。不愉快極まりないですね」

「だけど抗えないだろう? 君の大事な先輩達はどうしたって神話の蟻地獄に嵌まっている。そして君も、僕を倒してしまったばっかりに、《賢愚神話》を手にしてしまった。ここまで踏み込んでしまったら、もう抜け出せないよ。どうしたって君たちは、十二の神話を巡るこの“ゲーム”に、そしてその神話に、向き合わなくちゃいけないのさ」

「……そうですね。癪なことですが」

 

 確かに、無視することはできない。夕陽にこのみ、自分の先輩達が関わっているというのなら、なおさら。

 彼らがひた隠しにしている理由は、これのようだ。確かにこんなふざけた出来事、このみの頭でもなければ口外にはできない。

 そしてこれだけ危険なことであるのなら、やはり、放置もできない。この男のいいように動かされるというのは非常に腹立たしいが、その“ゲーム”とやらを知って行かなくてはならないのだろう。

 

「さて、僕の今回の目的は果たせた。あぁ、その《賢愚神話》だけどね。魔除けの鈴じゃないけど、お守り代わりに持っておくといいよ。持ってると危険ではあるけど、役に立つ。君たちはこれから、もっともっと、神話的事象に直面し、“ゲーム”の渦中に引きずり込まれるだろうからね」

「……御免被りたいところですね」

「しかし現実はそうはいかないのさ。まあそれがあれば、多少のことならどうにかなる。きっと君を守ってくれるよ。たぶんね」

「胡散臭いですね。これも、あなたも」

「ははは、よく言われる。昔からね」

 

 軽快に、そして軽薄に笑いながら、青崎は踵を返す。

 

「それじゃあね、御舟さん。君らの道行きを祈っておこう。精々、僕の知りたい真実に辿り着くために藻掻いてくれたまえ」

「お断りです。私は、私の意志で事を為すだけです」

「あぁ、うん。それでいいよ。君は……君らは、その方が、きっといい」

 

 流し目でどこか遠くを見つめ、青崎はそのまま店の扉へと手を掛け、店を出ようとする。

 それと同時に、店内に入ってくる男がいた。

 それは汐の兄――御舟澪だった。

 青崎は彼を見るや否や、汐に見せたのとはまた違う、どこか柔らかで胡乱げな微笑みを浮かべる。

 

「どうも、こんにちは」

「……あぁ」

 

 ただそれだけの言葉を交わし、青崎は澪の横をするりと抜け、退店していった。

 店には汐と澪の兄妹が残される。

 

「お帰りなさいです、兄さん」

「おう」

「変なお客さんが来ていたですよ。変態なお客さんです」

「あぁ、確かにあれは変な客だ。変態で生意気で胡散臭い客だな」

 

 特に感慨もなさそうな澪。とはいえ、いつもポーカーフェイスで表情を読ませてはくれないのだが。

 

「店番ありがとな。後は俺がやる。部屋に戻っていいぞ」

「……はいです」

 

 汐は兄に店を任せ、部屋へと戻っていく。

 ――大変なことになってしまった。

 神話だとか、それを巡る“ゲーム”だとか、そんなものに巻き込まれるだなんて、なんとも不条理だ。

 夕陽やこのみの身も心配である。今後の道行き、未知なる未来への不安。

 これからどうするべきかも考えなくてはならないが、しかしとりあえず、最初に自分がするべきはひとつ。

 

 

 

「先輩達に、問いたださなくては、ですね」

 

 

 

 後輩を退けものにして隠し事をしていた先輩達を、こってり絞らなくては。




 コスト対応型打ち消しにした弊害として、あまりにもデカすぎるコストのカードには対応できないという欠点が生まれたヘルメス君。ギュウジン丸とかガリュミーズとか名前が長い奴とかは、ほぼ対応不能。強いと言っても完全無欠ではないのです。
 そして今回が書き終わったことで、ちょっと考えている新作にようやく移れます。シリーズになるかは未定。ほとんど単発気分で書くつもりです。
 またメソロギィ本編も、登場人物3人のプロローグが終わったので、次回から本格的に話を進めていこうと思います。
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