デュエル・マスターズ Mythology   作:モノクロらいおん

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 昔の自分の作品を見るのって辛いね。なんていうか、物書きとしても、DMPとしても、本当に未熟者だった時の作品だから、技術も理論もメチャクチャで、マジで色々見てて恥ずかしかった。
 それを今の出力で書き直したわけですが……うん、まあそれなりに自信作。
 例によって本作はオリカ中心です。特に今回はオリカが軸なので、ご注意を。リメイク前を知ってる人もね。
※話を一部ぶった切って分割しました。


2-1「戦場の太陽 Ⅰ」

「――見失っただと?」

『そういう見方もできるね。少なくとも、彼女は所有権を放棄したみたいだ』

「臆病風に吹かれたか。厄介な奴だと思ったが、兵士としての素質はないらしい」

『厳しいねぇ、相変わらず。僕の追跡からここまで逃れただけでも、結構凄いと思うんだけど?』

「お前は甘すぎる。どうせ、また適当にやっていたんだろう」

『心外だねぇ。僕だってやることはきっちりやってるのに』

「なら、さっさと次の標的を教えろ」

『そんな急かさないでよ。っていうか、次のターゲットを見つけた前提?』

「お前は軟弱で屑みたいな男だが、情報屋としては有能だ。そして、無駄にプライドが高い。そんなお前が、ようやく見つけた標的が“目的”を手放していただなんて状況になっている。さて、お前はそんな自分を許せるか?」

『それは僕を買い被りすぎだよ。僕はそんな感情論や使命感で自分を責めたりしない。そうなった原因を探って、次の一手をすぐに考えるさ』

「そうだろうな。故にその一手は、既に考えているのだろう?」

『勿論。ちょっと精度には欠けるけど、まあ、たぶんこれで当たりだね。後で詳細を送っておくよ』

「あぁ、頼む……それと、一応、警告しておく」

『え? なにをだい?』

「獲物を横取りするようなことをすれば、焼くぞ」

『……おぉ、怖い怖い。“軍神”様は恐ろしいね」

「本当に恐怖を感じるのならば、それは大事にしておけ。恐怖を見失った兵隊は早死にするぞ」

『肝に銘じておこうか。でもまあ、いいよ。今回はあなたに譲りますとも。最初からそのつもりだったしね。そもそも、僕はあんまり“神話”には興味がないんだ』

「ふん、どうだかな……お前の真意は、いまいち読めん」

『えぇー? 僕なんて単純明快な動機で動いてるだけなんだけどなぁ。わからないかなぁ?』

「わからん。お前は、少し不気味だ。リスクを承知しなければ組めん」

『リスクだなんて、僕とあなたの仲じゃないですか。裏切りくらい容認して仲良くしようよ』

「元よりそのつもりだ。お前も、精々背後くらいには注意を払っておけ」

『背中なんて気にしても意味ないと思うけどなぁ。あなたなら狙撃してきそうだし』

「お前ならスナイプポイントに爆弾くらい仕掛けるだろう」

『なんて物騒な。そういうのはもっと強い敵に使うものでしょ。今回は、そうでもなさそうだけど』

「そうなのか」

『そうだよ。今回も、相手は子供みたいだし、楽勝じゃない?』

「その子供相手に追跡さえも手こずっていたのは、どこの誰だ?」

『それもそうか。それなら、油断せずに頑張ってくださいな』

「無論だ。言われるまでもない。すべてを焼き払い、完膚なきまでに蹂躙するとも」

 

 

 

「軍神――《焦土神話》の力でな」

 

 

 

◆ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ ◇

 

 

 

 学校帰りに『御船屋』に寄り、このみや汐とデュエマで遊ぶ。

 空城夕陽の日常は、高校に進学しても、変わることはなかった。

 東の地平線から昇った太陽が、西の水平線に沈むように、不変なものだ。

 ――だと、思っていた。

 それは、唐突な暗雲であり、突然の猛雨。

 空に翳りができるように、物語は与り知らないところで急変する。

 

「……ん? なんだ、これ?」

 

 いつもの日常をこなして、日が傾いてきたところで、夕陽は帰路につく。

 そして今まさに我が家へと到達するというところで、地面に無造作に投げ捨てられた“それ”を発見した。

 最初は、ただのゴミだと思った。次に、それがなにかの紙――カード状のものだと察した。

 そして最後には、それは自分の見知ったものであることを知覚した。

 

「これって……デュエマのカードか?」

 

 蒼い宇宙(ソラ)に渦巻く黄炎と、中央に座す龍のシンボル。

 それは、夕陽のよく知るデュエル・マスターズのカードに他ならない。

 だが、

 

「でもこんなカード……見たことないな」

 

 流石にすべてのカードを把握しているとは言い難いが、それでもこのカードは、なにか異常であった。

 見たこともない枠。まるで意味のわからないテキスト。神秘的に煌めくホイル。そして、魅入られてしまいそうになるほどの神々しさを感じるイラスト。

 奇妙で摩訶不思議だ。こんなカードがあれば、どこかしらで話題になっていそうなものだが、そのような話はとんと聞いたことがない。

 

「なにかの雑誌の懸賞? いや、それが地面に落ちてるはずないか。わからん……明日、御船にでも聞いてみるか」

 

 ひょっとしたら、自分が情報を取りこぼしているだけかもしれないと思い、この手の事情に詳しそうな後輩に聞くことにした。

 それ以上の思考を放棄して、そのカードをズボンのポケットに入れて、玄関の扉を開く。

 

「ただいま」

「あ、お兄ちゃんおかえりー」

「お前か……もう帰ってたんだな」

「今日はねー」

 

 家に入ると、いつもは部活で帰りが遅い妹が出迎えた。

 

「なぁ、ちょっといいか?」

「なに?」

「お前さぁ、なにか懸賞とかに応募した?」

「けんしょー?」

「ハガキのやつだよ。あるいは、ネットでカード買ったとか。なんか、見たことない変なカード見つけたんだけど」

「見たことない変なカード? わ、私は知らないよ?」

「……あっそ。ならいい」

 

 若干、挙動が不審だったような気もするが、夕陽はさして気にしなかった。

 ――あいつが変なのは今に始まったことじゃないしな。

 妙にこのみと波長が合ってしまうせいで、彼女の悪影響を受けてしまった妹を憂いながら、靴を脱いで家に上がり、階段を上って自室へ。

 このカードがどんなカードか、インターネットでも調べてみるが、さっぱり情報が出てこない。

 

「検索してもカードの情報がない? 古いカード……とか、そういうことじゃないよな。どういうことだ……?」

 

 公式の検索サイトを利用しても発見できないとなれば、考えられる理由は二つ。

 一つは、公式のミスで、そのカードの情報だけ表示を忘れているか。

 もう一つは、そもそもこのカードが“存在しない”か。

 普通の検索エンジンで調べてもなにも情報が出てこないとなると、公式のミスという線は薄い。

 となるとこのカードは、なにか特別なものなのだろう。

 特別というより、特異、と言うべきかもしれないが。

 

「どこかの熱心なファンが作ったオリカの可能性もあるな。だとしても、まったく情報がないのも変だけど」

 

 よく触ってみれば、カード質感も普通のカードと少し違うような気さえする。ほんのり、暖かいような。

 

「……デッキでも組むか」

 

 なにか、もやもやする。

 奇妙なものに触れてしまった。

 それが意味することとは。

 その影響が広がる先は。

 考えてわかるものではない。

 それは空想であり想像。架空の物語。

 そして、それが現実に侵蝕しようなどと思えるほど、夕陽はメルヘンチックな人間ではなかった。

 

 

 

◆ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ ◇

 

 

 

「あと一枚……どうするかなぁ」

 

 気晴らしにとデッキを組んでいた夕陽は、三十九枚までカードを選び、残り一枚をどうするか、というところで手が止まっていた。

 

「赤緑だとサーチやドロソなしになりがちだから、安定性を求めようとすると四積みばっかになるんだよな。でもそのせいで、殿堂カード一枚入れただけで形が汚くなる……これだから《ボルバルザーク・エクス》は……」

 

 四枚十種。非常に大雑把だが、並べてみると綺麗な形になる構築だ。

 それが必ずしも良いとは言えないが、使うカードの種類が少ない以上、どんな対戦においても、それなりに安定して同じカードが使える、つまり同じ戦術が決めやすい。

 動きやすく、動かしやすい、という利点ではあるが……デッキに一枚しか投入できない殿堂カードの存在で、その型が崩れてしまう。ならばその上でどうするか、悩みどころだった。

 もっとも、この“悩み”こそが、デッキ構築における楽しさでもあるのだが。

 

このみ(あいつ)はそういうところを分かってないからな……まあ、あいつのことなんてどうでもいいけど」

 

 残り一枚をどうしようかと、夕陽が楽しみながら苦悩していると、唐突に部屋の扉が勢いよく開け放たれた。

 

「おにーちゃーん!」

「うわっ! なんだお前、いきなり入ってくるな!」

「なんで? 見られたらまずいものでもあるの?」

「いや……そういうわけじゃないが。驚くだろうが」

「そ、ごめんごめん。そんなことよりさー、ちょっとおつかい頼まれてくんない?」

「おつかい?」

「明日の朝ご飯がないの」

「それは大変だな。米もないのか?」

「お米も今日の夕ご飯の分しかないよ。だからどっかで、適当にパン買ってきて」

「なんでそうなるまで放っておいたんだ……」

「だってー、私も部活で忙しかったしぃー」

 

 唇を尖らせる妹。非常に腹立たしい態度だったが、いちいち突っかかるのも面倒だったので流す。

 

「はぁ……そうかよ。まあ、わかったよ」

「ついでに牛乳とワサビも買ってきて」

「牛乳はともかく、なぜワサビなんだ」

「お刺身を買ってきたから。今日は赤身が安かったんだよね」

「いつものあれか……身が固いんだよな、あれ」

「文句あるなら食べなくていいよ」

「……まあいい。とりあえず行ってくる」

「よろしくー」

 

 と、妹はパタパタと階下へと降りていった。

 正直、おつかいなどというものは面倒くさかったが、家事のほとんどを妹に一任している以上、兄としてはこの程度のことはするべきだろうと、微かな責任感はあった。

 財布だけ持って、上着を羽織って家を出る。

 

「あ………しまった。デッキ持ったまま出てしまった……」

 

 玄関を潜ったところで、三十九枚しかない、デッキにはあと一歩足りない紙束を持ってきてしまった気づくが、わざわざ家に戻るのも面倒だ。カードをデッキケースにも入れていないままにしておくのは憚られたが、コンビニに行く程度ならいいだろうと、家に戻る億劫さが勝った。

 デッキに満たない紙束ポケットの中に収め、歩き出す。スーパーが近いか、コンビニが近いかを考え、値段も距離も僅差でスーパーの方が良いと結論を出し、夕陽はスーパーへの道程を行く。




 一話を3000~4000字くらいに分割して投稿するっていうと、以前活動していた小説カキコというサイトを思い出しますね。この作品も、元々はそこで投稿していたものなのですが。

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