デュエル・マスターズ Mythology 作:モノクロらいおん
それを今の出力で書き直したわけですが……うん、まあそれなりに自信作。
例によって本作はオリカ中心です。特に今回はオリカが軸なので、ご注意を。リメイク前を知ってる人もね。
※話を一部ぶった切って分割しました。
「――見失っただと?」
『そういう見方もできるね。少なくとも、彼女は所有権を放棄したみたいだ』
「臆病風に吹かれたか。厄介な奴だと思ったが、兵士としての素質はないらしい」
『厳しいねぇ、相変わらず。僕の追跡からここまで逃れただけでも、結構凄いと思うんだけど?』
「お前は甘すぎる。どうせ、また適当にやっていたんだろう」
『心外だねぇ。僕だってやることはきっちりやってるのに』
「なら、さっさと次の標的を教えろ」
『そんな急かさないでよ。っていうか、次のターゲットを見つけた前提?』
「お前は軟弱で屑みたいな男だが、情報屋としては有能だ。そして、無駄にプライドが高い。そんなお前が、ようやく見つけた標的が“目的”を手放していただなんて状況になっている。さて、お前はそんな自分を許せるか?」
『それは僕を買い被りすぎだよ。僕はそんな感情論や使命感で自分を責めたりしない。そうなった原因を探って、次の一手をすぐに考えるさ』
「そうだろうな。故にその一手は、既に考えているのだろう?」
『勿論。ちょっと精度には欠けるけど、まあ、たぶんこれで当たりだね。後で詳細を送っておくよ』
「あぁ、頼む……それと、一応、警告しておく」
『え? なにをだい?』
「獲物を横取りするようなことをすれば、焼くぞ」
『……おぉ、怖い怖い。“軍神”様は恐ろしいね」
「本当に恐怖を感じるのならば、それは大事にしておけ。恐怖を見失った兵隊は早死にするぞ」
『肝に銘じておこうか。でもまあ、いいよ。今回はあなたに譲りますとも。最初からそのつもりだったしね。そもそも、僕はあんまり“神話”には興味がないんだ』
「ふん、どうだかな……お前の真意は、いまいち読めん」
『えぇー? 僕なんて単純明快な動機で動いてるだけなんだけどなぁ。わからないかなぁ?』
「わからん。お前は、少し不気味だ。リスクを承知しなければ組めん」
『リスクだなんて、僕とあなたの仲じゃないですか。裏切りくらい容認して仲良くしようよ』
「元よりそのつもりだ。お前も、精々背後くらいには注意を払っておけ」
『背中なんて気にしても意味ないと思うけどなぁ。あなたなら狙撃してきそうだし』
「お前ならスナイプポイントに爆弾くらい仕掛けるだろう」
『なんて物騒な。そういうのはもっと強い敵に使うものでしょ。今回は、そうでもなさそうだけど』
「そうなのか」
『そうだよ。今回も、相手は子供みたいだし、楽勝じゃない?』
「その子供相手に追跡さえも手こずっていたのは、どこの誰だ?」
『それもそうか。それなら、油断せずに頑張ってくださいな』
「無論だ。言われるまでもない。すべてを焼き払い、完膚なきまでに蹂躙するとも」
「軍神――《焦土神話》の力でな」
◆ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ ◇
学校帰りに『御船屋』に寄り、このみや汐とデュエマで遊ぶ。
空城夕陽の日常は、高校に進学しても、変わることはなかった。
東の地平線から昇った太陽が、西の水平線に沈むように、不変なものだ。
――だと、思っていた。
それは、唐突な暗雲であり、突然の猛雨。
空に翳りができるように、物語は与り知らないところで急変する。
「……ん? なんだ、これ?」
いつもの日常をこなして、日が傾いてきたところで、夕陽は帰路につく。
そして今まさに我が家へと到達するというところで、地面に無造作に投げ捨てられた“それ”を発見した。
最初は、ただのゴミだと思った。次に、それがなにかの紙――カード状のものだと察した。
そして最後には、それは自分の見知ったものであることを知覚した。
「これって……デュエマのカードか?」
蒼い
それは、夕陽のよく知るデュエル・マスターズのカードに他ならない。
だが、
「でもこんなカード……見たことないな」
流石にすべてのカードを把握しているとは言い難いが、それでもこのカードは、なにか異常であった。
見たこともない枠。まるで意味のわからないテキスト。神秘的に煌めくホイル。そして、魅入られてしまいそうになるほどの神々しさを感じるイラスト。
奇妙で摩訶不思議だ。こんなカードがあれば、どこかしらで話題になっていそうなものだが、そのような話はとんと聞いたことがない。
「なにかの雑誌の懸賞? いや、それが地面に落ちてるはずないか。わからん……明日、御船にでも聞いてみるか」
ひょっとしたら、自分が情報を取りこぼしているだけかもしれないと思い、この手の事情に詳しそうな後輩に聞くことにした。
それ以上の思考を放棄して、そのカードをズボンのポケットに入れて、玄関の扉を開く。
「ただいま」
「あ、お兄ちゃんおかえりー」
「お前か……もう帰ってたんだな」
「今日はねー」
家に入ると、いつもは部活で帰りが遅い妹が出迎えた。
「なぁ、ちょっといいか?」
「なに?」
「お前さぁ、なにか懸賞とかに応募した?」
「けんしょー?」
「ハガキのやつだよ。あるいは、ネットでカード買ったとか。なんか、見たことない変なカード見つけたんだけど」
「見たことない変なカード? わ、私は知らないよ?」
「……あっそ。ならいい」
若干、挙動が不審だったような気もするが、夕陽はさして気にしなかった。
――あいつが変なのは今に始まったことじゃないしな。
妙にこのみと波長が合ってしまうせいで、彼女の悪影響を受けてしまった妹を憂いながら、靴を脱いで家に上がり、階段を上って自室へ。
このカードがどんなカードか、インターネットでも調べてみるが、さっぱり情報が出てこない。
「検索してもカードの情報がない? 古いカード……とか、そういうことじゃないよな。どういうことだ……?」
公式の検索サイトを利用しても発見できないとなれば、考えられる理由は二つ。
一つは、公式のミスで、そのカードの情報だけ表示を忘れているか。
もう一つは、そもそもこのカードが“存在しない”か。
普通の検索エンジンで調べてもなにも情報が出てこないとなると、公式のミスという線は薄い。
となるとこのカードは、なにか特別なものなのだろう。
特別というより、特異、と言うべきかもしれないが。
「どこかの熱心なファンが作ったオリカの可能性もあるな。だとしても、まったく情報がないのも変だけど」
よく触ってみれば、カード質感も普通のカードと少し違うような気さえする。ほんのり、暖かいような。
「……デッキでも組むか」
なにか、もやもやする。
奇妙なものに触れてしまった。
それが意味することとは。
その影響が広がる先は。
考えてわかるものではない。
それは空想であり想像。架空の物語。
そして、それが現実に侵蝕しようなどと思えるほど、夕陽はメルヘンチックな人間ではなかった。
◆ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ ◇
「あと一枚……どうするかなぁ」
気晴らしにとデッキを組んでいた夕陽は、三十九枚までカードを選び、残り一枚をどうするか、というところで手が止まっていた。
「赤緑だとサーチやドロソなしになりがちだから、安定性を求めようとすると四積みばっかになるんだよな。でもそのせいで、殿堂カード一枚入れただけで形が汚くなる……これだから《ボルバルザーク・エクス》は……」
四枚十種。非常に大雑把だが、並べてみると綺麗な形になる構築だ。
それが必ずしも良いとは言えないが、使うカードの種類が少ない以上、どんな対戦においても、それなりに安定して同じカードが使える、つまり同じ戦術が決めやすい。
動きやすく、動かしやすい、という利点ではあるが……デッキに一枚しか投入できない殿堂カードの存在で、その型が崩れてしまう。ならばその上でどうするか、悩みどころだった。
もっとも、この“悩み”こそが、デッキ構築における楽しさでもあるのだが。
「
残り一枚をどうしようかと、夕陽が楽しみながら苦悩していると、唐突に部屋の扉が勢いよく開け放たれた。
「おにーちゃーん!」
「うわっ! なんだお前、いきなり入ってくるな!」
「なんで? 見られたらまずいものでもあるの?」
「いや……そういうわけじゃないが。驚くだろうが」
「そ、ごめんごめん。そんなことよりさー、ちょっとおつかい頼まれてくんない?」
「おつかい?」
「明日の朝ご飯がないの」
「それは大変だな。米もないのか?」
「お米も今日の夕ご飯の分しかないよ。だからどっかで、適当にパン買ってきて」
「なんでそうなるまで放っておいたんだ……」
「だってー、私も部活で忙しかったしぃー」
唇を尖らせる妹。非常に腹立たしい態度だったが、いちいち突っかかるのも面倒だったので流す。
「はぁ……そうかよ。まあ、わかったよ」
「ついでに牛乳とワサビも買ってきて」
「牛乳はともかく、なぜワサビなんだ」
「お刺身を買ってきたから。今日は赤身が安かったんだよね」
「いつものあれか……身が固いんだよな、あれ」
「文句あるなら食べなくていいよ」
「……まあいい。とりあえず行ってくる」
「よろしくー」
と、妹はパタパタと階下へと降りていった。
正直、おつかいなどというものは面倒くさかったが、家事のほとんどを妹に一任している以上、兄としてはこの程度のことはするべきだろうと、微かな責任感はあった。
財布だけ持って、上着を羽織って家を出る。
「あ………しまった。デッキ持ったまま出てしまった……」
玄関を潜ったところで、三十九枚しかない、デッキにはあと一歩足りない紙束を持ってきてしまった気づくが、わざわざ家に戻るのも面倒だ。カードをデッキケースにも入れていないままにしておくのは憚られたが、コンビニに行く程度ならいいだろうと、家に戻る億劫さが勝った。
デッキに満たない紙束ポケットの中に収め、歩き出す。スーパーが近いか、コンビニが近いかを考え、値段も距離も僅差でスーパーの方が良いと結論を出し、夕陽はスーパーへの道程を行く。
一話を3000~4000字くらいに分割して投稿するっていうと、以前活動していた小説カキコというサイトを思い出しますね。この作品も、元々はそこで投稿していたものなのですが。