デュエル・マスターズ Mythology 作:モノクロらいおん
そこは、奇妙な空間だった。
目の前には、五枚の半透明な盾。
手元には、五枚の知識という選択肢。
真横には、三十枚のいまだ眠る叡智の資産。
カードが宙に浮くとか、明らかに身を守るものが硬質化しているとか、あり得ない現象が起こっているが、これは間違いない。
――デュエマだ。
「ドロー……マナチャージして、ターンエンド……」
夕陽の先攻2ターン目。
不必要なカードを、足下に落とす。するとそれは赤い輝きを放つ泡沫を生み出す。
これがきっと“マナ”なのだろう。残念ながら、今あるマナの数では、なにもできないが。
そのままターンを終え、相手のターン。
「あたしのターン……2マナをタップ」
女もふたつのマナを生み出す。その色は、夕陽と同じ赤。そしてもうひとつは、青。
赤と青の輝ける泡沫ををふたつ生み出し、それらは重なり合い、ひとつの生命を形作る。
「《熱湯グレンニャー》を召喚」
泡沫が混じり合い、弾けた。
すると次の瞬間、そこにひとつの命が形を成した。
「っ! クリーチャーが……!?」
それは、赤く燃える炎に、青く流れる水の体毛を有する獣。
およそ地球上の生命体ではない、
「立体映像……とかじゃ、ないのか……?」
「どう思い、どう考えるかはお前の自由だ。ターンエンド」
「……3マナで《コッコ・ルピア》を召喚!」
みっつの赤い泡沫が重なり合う。泡沫が弾けると、そこには一羽の小鳥が羽ばたいていた。
小鳥の囀り、羽ばたきの音、舞い散る火の粉――どれも妙なリアリティを感じる。
これが現実であると思いたくなかったが、しかし認めざるを得ないだろう。
カードの中だけの架空の存在であるはずのクリーチャーは、少なくともこの場では、実体を持つものとして存在している。
(ってことは、こいつの攻撃を受けたら……)
想像もしたくなかった。
たった五枚の盾。その五枚が、いつも以上に、薄く、少なく感じる。
「2マナ、《エナジー・チュリス》を召喚。ターンエンド」
「…………」
まだ困惑しているが、少しだけ落ち着いてきた。
お陰で、今のこの場を“デュエマ”として見ることができる。
(ビートジョッキー……青赤ってことは覇道? いや、それにしては妙だ)
《グレンニャー》も《エナジー・チュリス》も、一般的な覇道デッキで採用されるようなカードではない。
特に《エナジー・チュリス》のセイバーは、破壊されることに意味がある《クラッシュ“覇道”》と
覇道デッキでないとして、ならばあのデッキはなんなのか。ビートジョッキー軸であることは間違いなさそうだが、わからない。
その不透明さは、不気味だった。
「僕のターン! 《コッコ・ルピア》の能力で、ドラゴンの召喚コストを2軽減し、4マナで《ボルシャック・NEX》を召喚!」
不気味ではある。が、夕陽は夕陽で、自分の動きを押しつけることしかできない。
とにかく相手より先に大型を投げつけて、一気に勝負を決める。一刻も早く、この奇妙奇天烈な場所から逃げ出したい。
「《NEX》の能力で、山札から《ルピア》と名の付くクリーチャーをリクルート! 《ルピア・ラピア》を呼んで、ターンエンド!」
「あたしのターン。4マナで《ドンドン吸い込むナウ》!」
焦燥が募る夕陽に対して、女は淡々と、しかし鋭い刃物のようにカードを捲る。
「山札から五枚捲り、《“必駆”蛮触礼亞》を手札に加える。火のカードを手札に加えたので、《コッコ・ルピア》をバウンス! ターンエンドだ」
「僕のターン……《コッコ・ルピア》を出し直して、ターンエンド……」
早くフィニッシャーを呼びたいが、そのテンポを削がれてしまう。そしてまた、焦りを煽られる。
しかも相手が手札に加えたのは《“必駆”蛮触礼亞》。大型のビートジョッキーを踏み倒すための呪文だ。
結局、相手は覇道デッキなのか。それともブランドか、あるいは別のフィニッシャーを使うのか。それはわからなかったが、ここでの夕陽のロスは大きかった。
次のターン。この女は確実に――殺しに来る。
「あたしのターン。手札を一枚破棄し、
「来た……!」
手札を削って高速で詠唱し、たった一瞬のうちに切り札を爆発させて使い切る、刹那の暴力。
《クラッシュ“覇道”》か《“轟轟轟”ブランド》か、それとも《バウンサー》か。
どんな切り札が出るのかと、夕陽は身構えていたが、
「支払うマナを2マナ軽減し、手札から《“末法”チュリス》をバトルゾーンへ。呪文の効果で《コッコ・ルピア》とバトル!」
「《末法》……」
「さらに《“末法”チュリス》の能力で、山札から三枚を捲り、その中のビートジョッキーをバトルゾーンへ出す」
――連鎖してビートジョッキーを並べるようなカード……いや、本命の代わり、繋ぎとしてあるのか。
相手の手札に切り札はいない。だから、山札から探しに行った、ということだろうか。
こちらも《コッコ・ルピア》と《ルピア・ラピア》もいる。そうすればどんなドラゴンでも呼び出せるし、片方だけでも生き残れば、今のマナと手札なら十分強いクリーチャーは呼べる。
実は相手も苦しいのかもしれない、と夕陽には楽観的な思考が浮かびつつあった。
「二体目の《“末法”チュリス》だ。再び能力発動、三枚捲り、《エナジー・チュリス》をバトルゾーンへ」
しかしその楽観も束の間。
「……奴が来た」
ピリピリと。
ビリビリと。
ジリジリと。
焦げるような、焦がすような、痛いほどに熱い“圧”が、夕陽の肌に焼き付ける。
「戦争は、文明の破壊であり、同時に文明の発露だ。多様性ではなく、純然たる文明の“強さ”を競い合う儀式だ」
そのあまりの圧に、ささやかな歓喜など一瞬で吹き飛ぶ。
込み上がるのは恐怖。予想できない現象が起こるということだけが、予想できた。
女は冷徹で、冷血な、けれども燃えたぎる炎のような眼で、夕陽を射殺さんとばかりに睨み付ける。
「我が力で蹂躙してやる。お前の立つ大地すべてを、不毛なる焦土に変えてやる」
宣戦布告のように、宣言する。
その時だ。
「
女のクリーチャー三体が、赤い輝きに包まれる。
それは戦火の如き炎に変わると、三体のクリーチャーを飲み込む。
「《“末法”チュリス》二体と《グレンニャー》の三体を重ねる」
「クリーチャーを三体重ねる……進化か……!?」
「進化? いいや、違うな」
女の足下から、ひとつの赤い泡沫が浮かび上がる。
その泡沫もまた、燃え上がり、炎と化す。篝火の如き、神聖で、猛々しい炎に。
「進化とは、生命の順応と生存による強さの進歩だ。だがこれは、遙かなる強さの――神話の再現だ」
これは進化に非ず。
これは進化ならざる神話の再現。
故に、これは――
「――
三体の
炎の中で、その魂は受肉する。
これなるは、戦乱と蹂躙の火を灯した神話なり。
「我が“神話”は、戦火の軍神――神々よ、調和せよ!」
その一言で、終わった。
炎は晴れる。焼け落ちるように、姿を隠す鎧を剥ぎ取る。
供物をすべて飲み込み、必要な力を蓄え、それはこの世界に繋ぎ止められた。
それをなんと呼べばいいのか。神、あるいは――
「軍神の剣を以て、戦場を蹂躙せよ――《焦土神話 フォートレシーズ・マルス》!」
――“神話”だ。
見た目は青赤覇道、しかしその中身はオリカ軸の特殊デッキ。まあ、普通に覇道をサブフィニッシャーみたいに突っ込んで、覇道デッキとして動けそうではありますけども。