デュエル・マスターズ Mythology   作:モノクロらいおん

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 実はリメイクするにあたって、身体的なパーソナルデータが大きく変更もとい上昇したのが春永このみというキャラクターなのですが、作品の品性を損なわないために、そのへんを描写する機会はあんまりなさそうっていう。


3-2「萌芽の選定 Ⅱ」

 それなりに人通りのある、住宅街と繁華街の狭間。今は定休日の札が出ている喫茶店。

 閉ざされた、けれども和やかさを失わない店内で、二人の女性が、カウンターを隔てて向かい合っていた。

 片や、女性と呼ぶにはあまりにも幼い少女。小学生くらいに見えるほどに背が低く、童顔で、手足も細いが、それでいて凄まじくふくよかさを主張している体型。そのアンバランスとも言えそうだが、彼女の可憐な容姿は奇跡的なバランスでそのスタイルを完成させていた。

 もう一人は、少女とよく似た面持ちの女性。目鼻の筋がスッと通った、整った顔立ち。少女のようなアンバランスさは微塵もなく、背丈も手足もすらりと長い、完璧なスタイル、佇まいの美女だ。

 春永このみと、その姉の、春永木葉。

 そしてこの喫茶店――『Pople』は、彼女たちの店だった。

 このみはカウンターに着き、不満そうに口を尖らせている。

 

「でさー。なんかさー、ゆーくんが変なんだよー。最近ぜんぜんかまってくれないんだよー」

「このみが構いすぎな気もするのだけれどね。かなり治ったとはいえ、夕陽君の女の子への認知が歪んじゃったの、あなたのせいなのよ? 少しは自分を省みなさい」

「えー? あたしが悪いの? あたしなにかしたっけなー?」

「あなたみたいな子が、思春期真っ盛りの男の子に、自覚なくベタベタしてるとね。男の子は困っちゃうのよ。ただでさえあなたは、スタイル抜群で超絶可愛い、私の自慢の妹なのだから」

「えへへー、ありがとー、おねーちゃん! あたしも、美人でスタイルいいおねーちゃんのことは自慢だし大好きだよ!」

「うん。その通りなんだけどそうじゃないわ」

 

 木葉はカップを拭きながら、口を酸っぱくしてこのみに言う。

 

「ずっと言ってることだけど、あなたはもうちょっと、夕陽君は男の子で、あなたは女の子っていう自覚を持って欲しいわね。あと自分の身体についても」

「むー、わっかんないよー。あたしとゆーくんは親友! それだけは譲れないよ!」

「それはいいんだけど、それと同時に、男女の意識が少なくとも夕陽君にあるわけで……っていうところを、あなたはなかなか理解してくれないのよねぇ」

 

 嘆息する木葉。

 中学生の時点であらゆる成長が止まっている、というのが春永このみという少女だ。

 元々、朗らかだが頭が弱く、人懐っこいが内面が幼かったのだが、中学三年間を以てしても、身体も精神も成長が停止してしまった。

 ……身体の方は、あらゆる意味で極端に早熟ではあったが、精神面が未熟なのは、姉として心配なところである。

 精神というよりは、教養や常識のなさかもしれないが。

 特に貞操観念の薄さと、それによる無遠慮さは、しっかりと矯正したいところだが、いまいちこのみには伝わってくれない。

 根本的に、感覚的な部分で、なにかが噛み合っていないのだ。

 

「澪君が私に酷いことばっかり言ってたのは、こういうことだったのね。自分が見る側になるとよくわかるわ」

「レイにーさんがどうかした?」

「なんでもないわ、こっちの話」

「?」

「まあ、夕陽君があなたを無碍にするのは今に始まったことでもないわよね。そうおかしなことでもないし、平常運転とも言えそうだけれども」

「でもでも、汐ちゃんだって「最近の先輩、なにか隠しているみたいで様子がおかしいですね。このみ先輩はなにか知らないですか」って聞いてきたよ?」

「汐ちゃんも? じゃあ、本当になにかあるのかしら? 隠れてアルバイトとか?」

「えー。よそで働くなら、うちで働けばいいのにねー」

「そうねぇ。夕陽君ならいくらでも枠を空けておくのに。もったいない」

「ねー」

 

 と妙なところで意気投合する春永姉妹。

 木葉が次のカップに手を伸ばしたところで、このみの方を向く。

 

「そんなことより、今日もお店に行くんじゃないの?」

「あっ、そうだった。汐ちゃんのお店に行かなきゃ。今日は汐ちゃんがデッキ作ってくれるんだー」

「あなた、デッキ組むの本当に下手だものね……昔の私より酷いわよ」

「むぅ、あたしは可愛いカードも、カッコいいカードも使いたいのっ」

「それ自体はいいのだけれどね。まあ、いってらっしゃい。遅くなる前に帰るのよ」

「はーい。行ってきます、おねーちゃん!」

 

 忘れて、気付かされて、思い出して、すぐさま跳ねるように椅子から飛び降りる。

 このみは軽快に弾む足取りで、店の扉を開け放った。

 その時だ。

 

「わっぷ!」

 

 一陣の風が吹き、このみの顔に、なにかが張り付いた。

 このみは慌ててそれを引っぺがす。

 

「な、なに? これ……カード?」

 

 それは一枚のカードだった。

 風で飛ばされてしまった誰かの落とし物だろうかと、キョロキョロとあたりを見回すが、誰もいない。

 誰かが捨てていったのだろうかと改めてカードに視線を落とす。

 

「このカード、なんだろう? はじめて見た。汐ちゃんなら、なにか知ってるかなぁ?」

 

 まったく知らない、見覚えのない不思議なカードに首を傾げるこのみ。

 彼女が顔を上げた瞬間。

 それが、視界に現れる。

 

 

 

「勧告」

 

 

 

 そして、淡々とした、機械染みた小さく震える声が、耳に届く。

 いつの間にかこのみの正面に立っていたのは、フードを目深に被った、小柄な人影だった。

 

「え……? だ、誰? ちっちゃい、子供……?」

 

 このみも人のことは言えないが、しかし彼女以上に、その人影は小柄な矮躯だった。

 それは、フードの隙間から、ぼそぼそと、しかし確かな指向性を持って、囁く。

 

「及び、要求、する。神話カード、《萌芽神話》、引き渡し……それは、余人の、手に、余る」

「なに? なんて? ほーが、しんわ……? ほーがって、なに?」

「再度、要求。それを、こちらに」

 

 ズイッと、右手を差し出す。

 なんとなく、カードを渡せ、と言っている雰囲気だけは伝わってきた。

 よくわからないが、きっと落とし物を返して欲しいだけなのだろう。

 そう納得して、このみは手にしたカードを差し出す。

 

「これがキミのものなら、返すよ――」

 

 

 

 ――イヤ。やめて――

 

 

 

「!」

 

 

 

 このみの脳裏に、なにかが響く。

 ほんの一瞬、微かな刹那の時。

 なにかが、訴えかけている。

 

 

 

 ――そっちは、イヤ――

 

 

 

 幻聴……気のせい?

 いや、違う。

 これは確かに、誰かの心からの叫びだ。

 では、誰の?

 目の前の子供。違う。

 自分? そんなわけがない。

 なら、この声は――

 

「……キミ?」

 

 手元のカードに呼びかける。

 返事はない。当然だ、これはただのカードなのだから。

 しかし、なぜだろうか。

 “彼女”が、頷いたような気がする。

 このみは、差し出した手を引っ込める。

 

「……再三、要求。」

「ダメだよ」

 

 引っ込めた手をそのままに。

 このみは、要求される手を、拒む。

 

「この子……嫌がってる」

 

 カードが叫んでいるだなんて、とんだ空想の夢物語。

 誰かに言おうものなら鼻で笑われるような幻想の妄言だが。

 春永このみは、それを信じる。

 自分の内に訴えかけているこの慟哭を無視することなんてできない。

 たとえそれが空想でも、幻想でも。

 この心に届いたものを、なかったことにはしたくなかった。

 

「…………」

 

 だから、このみはカードを渡さない。

 それにより、一瞬、相手は硬直した。

 

「……理解、不能……カード、対話……不可能……前例、検索。検索結果、該当なし。神話の力、ならば、あるいは……推測、不確定。検証、余地、あり……しかし」

 

 次の瞬間、ぶつぶつと、フードの中から声がする。

 誰に言うでもなく、自分自身に確認するように。

 

「現行、考証、時間、不足。判断、要求拒否、認識……想定任務時間、超過……迅速な、対処、必要……」

 

 機械的な声で言って、フードの奥から、感情のない瞳が覗く。

 声からしてそうだったが、陰りある双眸は、少女だった。色白で、痩せこけ、生気も覇気も感じない。

 声だけではない。その出で立ち、空気感、それらすべてが、なにかのシステムに則った機械のようだ。

 

「敵性反応、確認。対象、少女。齢十前後。体躯照合、誤差85%、照合せず。暫定、前述記録、保持。思考レベル、推定、(ツヴァイ)から(ドライ)。最終結論。強制徴収、強行」

 

 少女は面を上げる。

 すると袖口から、一枚のカードを取り出した。

 刹那。

 

 

 

「疑似神話カード、使用権限、ランクD、解放――偽装神話空間(イミテーション・アテナ)法規構築(ルーリング)

 

 

 

 彼女たちを渦巻く世界が“神話”に覆われた――

 

 

 

◆ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ ◇

 

 

 

 わけがわからない。

 一言で言えば、そういうことなのだろう。

 カードが喋った、などという空想もそうだが、今この場にある現実もまた、不可解に過ぎる。

 手元に5枚のカード、正面にも同じく盾のように並んでおり、まるでデュエマの対戦風景。

 いや、まるで、ではない。

 その先には、先ほどのフードの少女もおり、これは完全に、今から対戦するということがわかる。

 わかって、しまった。

 春永このみ。

 彼女の頭は、理解などという言葉こそを理解できるものではないが。

 そうだと感じたものがあるのならば、それが真実となる。

 つまりどういうことか。

 確かにこの状況は、わけのわからない、意味不明な状況だが。

 少しでも自分の領分と重なるのであれば。

 それは彼女にとって、親しみを持つものに他ならない。

 

「……なんか、よくわかんないけど――」

 

 不可解さも、不気味さも、使命感も責任感も、幻想も空想もすべてを吹き飛ばして。

 

 

 

「――おもしろそうっ!」

 

 

 

 彼女は、花のように笑う。




 適当に書いてると、凄い話が急転直下だなと我ながら読み返してて思う。
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