デュエル・マスターズ Mythology 作:モノクロらいおん
本作はリメイク前の話の流れを大体そのまま流用してるのですが、やはり昔は凄い単刀直入というか、話が早い。早すぎる。なんでこんなにハイスピードで本題に持って行けるんだというか、途中の過程を流石にすっ飛ばしすぎじゃないかと不安になります。
それは、摩訶不思議な世界での、摩訶不思議な戦いだった。
呪文を唱えれば、その現象は実像を結ぶ。
クリーチャーを呼べば、肉体を持つ命として召喚される。
夢にまで見た本物のクリーチャーと共に戦う対戦。
かつてないほど、このみは高揚していた。この臨場感溢れる、夢想が現実となった世界に。
けれど、理解はしていなかった。
この世界に渦巻くものが、真なる命であることを。
「神、左腕、招来――《妖精左神パールジャム》」
少女は、分たれた1枚のカードを翳す。
天から暖かな光が差し込み、それは舞い降りた。
一見するとそれは、神を招来するための巫女に見えるかもしれない。
しかしそれは、紛れもなく新生なる神。
不完全な姿なれども、神は確かにここに在る。民に恩恵をもたらし、畏敬を求め、顕現する。
「《パールジャム》、登場時、マナ、追加。ターン、終了」
「おぉー! なんかすっごいきれいなの出てきた!」
しかしこのみは神の威容に平伏などしないし、畏怖も崇拝もしない。
ただただ、子供のように見上げ、目を輝かせるだけ。
そしてその輝きを以て、発奮する。
「よーし、あたしもやるぞー! 5マナで《ミステリー・キューブ》!」
無邪気な笑顔で、このみは恐怖の核弾頭を、ドッジボールでもするかのように放り投げる。
しかしそれは当たれば即死のドッジボールであり、神をも恐れぬ暴挙。どころか、神をも爆殺しかねない、不可思議の箱形爆弾。
そんな恐るべき最終兵器で手にした彼女は、とても楽しそうだった。
「これ、すっごいドキドキするよね! なにが来るかわからなくて、ワクワクする!」
なにが捲れるかわからない。なにが来るかがわからない。
その未来への不確定性。混沌に満ちた瞬間が、なによりも楽しい。
その楽しさは、相手からすれば一瞬で恐怖と憤怒に変換され得るものだが、このみはそんなことなど意にも介さず――否、理解せず、ただ歓楽に従い、山札を捲る。
その先にある、楽しい結末を願って。
しかし。
「あれ? はずれちゃった」
捲られたのは、《フェアリー・ライフ》。
クリーチャーですらない。完全なハズレだ。
「敵戦力、分析。デッキタイプ・キューブ。記録データ、照合。ノイズ率、28%。定型との、差異、あり」
そしてフードの少女は、このみのような歓楽も、《ミステリー・キューブ》と相対する恐怖もない。淡々と、事務的で機械的に、生者ならざる死者のように、彼女を分析している。
――このみのデッキは、いわゆるキューブ。《ミステリー・キューブ》による、超大型フィニッシャーの早期踏み倒しを目的とするデッキ……なのだが。
このみ自身、そのデッキコンセプト、デッキの強さ、その指向性、セオリーを理解していないことは明白だった。ただ自分の好みに従って乱雑にカードを入れているせいで、デッキの完成度は著しく低い。それどころか、ジャンクデッキ一歩手前とさえ言える。
先ほどの《フェアリー・ライフ》のような不純物も多く、キューブの強みをほとんど殺してしまっていた。
「ターン、開始。神の、左腕、招来――《戦攻右神マッシヴ・アタック》、召喚。《パールジャム》と、G・リンク」
そして、この1ターンのロスは、決して小さくない。
少女は続けて、右腕の神を呼ぶ。
鳴動し、大地を喰らうようにして現れた海神。
それは妖精神の手を取り、繋がり、結びつく。
即ち、神はする
「《マッシヴ・アタック》の、能力、解決。登場時、リンク時、ドロー。《パールジャム》の、能力、解決。マナ加速」
清らかな水を湛える海、大いなる自然の大地。
それらは豊潤な命を育むための糧を生み出す。
少女の手札が、マナが、増えていく。
「《霞み妖精ジャスミン》、召喚。破壊、マナ加速。ターン、終了」
「あたしのターンだよ! 4マナで《未来妖精ミクル》を召喚!」
「……データ、補正。キューブ、可能性、下降。ノイズ、過多。デッキタイプ、分類、不能」
このみのデッキに、あまりに不純物が多すぎるため、少女の認識では、それはキューブデッキと認識できなくなった。
よくわからないデッキに《ミステリー・キューブ》が入っている。それが彼女の現時点での認識。
それはそれで、正しい結論なのかもしれない。
「えーっと、マナにレインボーは……あれ? 文明の違うツインパクトって、レインボーになるんだっけ? まあいいや! とりあえずマナを増やすよ!」
もはや自分の使うカードのルールすら危うい。
これが普段の対戦ならば、相手が指摘していただろうが、ことこの場においては、不正はあり得ない。
正しく、本来あるべき規律に従って、マナ武装が発動する。
「あ、2枚マナに行った。やったね! じゃあ、これで4マナ残ったから、《フェアリー・シャワー》! 山札を見てー……うーん、こっちかな? こっちはいらないや」
「デッキタイプ、再分析。ビッグマナ、または、それに準ずる、デッキと、仮定」
少女の認識が更新されていく。
それはもう、キューブという先鋭化された指向を持つデッキなどではなく、漠然としたマナを大量に溜めるデッキ、ビッグマナだろうと、彼女は判断する。
その情報に意味があるかどうかはさておき、彼女はそう分析した。
――弱すぎる。
彼女の意志ではなく、集積された情報から導き出された回答。
最低限のルールと、多少のセオリーを理解している程度で止まっているだけの熟練度。個々のカードのルールは
神話を手にして戦乙女に刃向かうだけの胆力があるのだから、もしかしたら彼女も勇士たり得る資質があるのではないかと、副次的使命も考慮していたが、その可能性は切り捨てる。
『ワルキューレ』は朽ちた勇士を歓待する死神。
その在り方は、戦死者を導くだけに非ず。
ただただ、力を以て敵対する者を殺す。
歓待も歓迎もせず、
認識固定。機能更新。最終結論決定。
ノイズは排除。当初の目的を完遂する。
「召喚――《イズモ》」
神の子が、降り立った。
新生の神にして、真性の神。
彼は諸手を広げ、左腕と右腕、両方に他の神を手繰り寄せる
「G・リンク。《パールジャム》、《マッシヴ・アタック》、能力、発動。マナ加速、及び、ドロー」
真なる神と繋がった新なる神は、各々の権能を解き放つ。
《パールジャム》は大地の恵みを、《マッシヴ・アタック》は大海の潤いをもたらす。
マナが増え、手札が増え。
神の信仰は、拡大する。
「6マナ、《マッシヴ・アタック》、召喚。中央G・リンク、発動。《パールジャム》、《マッシヴ・アタック》、《イズモ》、リンク解除。再構成」
「ん? え、なになに? どうなってるの?」
神の腕が切り替わる。その挙動に、このみは目を回していた。
中央G・リンクを持つ《イズモ》がいる限り、ゴッド・ノヴァが出るたびに神のリンクは切り替わる。
《イズモ》は新たに出て来た《マッシヴ・アタック》を取り込み、リンクを解除された《パールジャム》と《マッシヴ・アタック》が再び繋がる。
「能力、再使用。《マッシヴ・アタック》の、能力。合計、三枚、ドロー。《パールジャム》の、能力。マナ加速」
幾度と解除とリンクを繰り返し、リソースを広げていくフードの少女。
神の恩寵は、潤沢な資源という形で信者に行き渡る。その信仰と名声はどこまでも轟き、民を震わせる。
しかし信仰とは、信ずるからこそ生まれるもの。信じる以前の理解――あるいは、直感、そして受容がなければ、それを受け入れることはおろか、気付くことさえない。
「よーし、あたしのターンだよ! 5マナで《ミラクル・ブレイン》! あたしのマナに全部の文明が……ないや。闇だけないから、文明の数は四つ? 四枚ドローするよ! そのまま5マナで《ミステリー・キューブ》!」
そして、仮にこのみに神を信ずる精神性があったとしても。
神そのものを知覚できていなければ、当然、信心もない。
このみは神も畏れず、ただ自分の思うままにカードを操る。
神なんて信じていない。神頼みなんてしない。信じたから良い結果が出る、だなんて。そうではないだろう。
出たとこ勝負だ。ここで出た結果を楽しむ。
無論、外れれば落胆するだろう。
けれど、
「――やったね! 《
それが“アタリ”ならば、それは何物にも勝る喜びだ。
「! 脅威、確認」
フードの少女は身構える。
《鬼丸「覇」》。不確定要素の強いカードだが、運が悪ければ延々と追加ターンを取られて負けかねない、不測の脅威を持つクリーチャー。
巨竜に騎乗した戦士が、相棒と共に咆える。
「《鬼丸「覇」》で攻撃! ガチンコ・ジャッジ!」
互いの山札が捲られる。
このみはコスト8の《悠久を統べる者 フォーエバー・プリンセス》。
対する少女は、コスト6《霊騎右神ニルヴァーナ》だ。
「あたしの勝ち! それじゃあ、シールドをTブレイク!」
「防御、不可……S・トリガー、なし……」
「《ミクル》でも攻撃だよ! シールドブレイク!」
追加ターンを得て調子に乗ったこのみは、そのまま攻撃を続ける。
それが妙手か悪手かを考える間もなく。
ただ勢いのまま、進む。
そして
「S・トリガー、発動」
罠に、かかった。
「《地獄極楽トラップ黙示録》。《鬼丸「覇」》を、マナゾーン、へ」
結果的には、それは悪手だった。
《鬼丸「覇」》が消え、追加ターン連打という脅威が取り除かれてしまう。
「うぇ、やられちゃった……でもへーきだよ! 《鬼丸「覇」》の能力で、もう一度あたしのターン!」
エクストラターンという、デュエル・マスターズにおける最大レベルのアドバンテージを得たというのに。
この流れは、そのアドバンテージを削ぎ落としていく。
「《龍仙ロマネスク》を召喚! なんかマナいっぱい増やして、《ミステリー・キューブ》! 山札をめくるね! 《イチゴッチ・タンク》をバトルゾーンに! ついでに《ジャスミン》も召喚!」
もう一押し。もう一押しで、勝ちきれる。
その気概のままに、このみは前に進み続ける、が。
「《ミクル》で攻撃! 最後のシールドをブレイク!」
「ニンジャ・ストライク、《光牙忍ハヤブサマル》、召喚。《イズモ》、指定。ブロッカー化、ブロック」
「うっ、やられちゃった……ターンエンドだよ」
押し切れない。
届かない。
神の御許に、人間が手を伸ばす領域は存在しない。
神は信託を告げる。
神の声を聞き届ける、巫女へと報ずる。
「私は、『ワルキューレ』……識別名称、[
巫女は神託を受ける。
神から授かった指令に殉ずる。
そこに彼女の意志はない。
ただ戦死者を導く戦乙女として、戦場に舞い降りる死神として、神の遣いとして。
天命を執行するまで。
少女のマナから、溢れるほどの力の奔流が迸る。
神の恩寵によって肥大化したマナが、解き放たれる。
「詠唱――《ゴッド・サーガ》」
それは神と人との決別、神による人の支配、神と神の戦争。
あらゆる神を綴る物語が、ここに再現される。
「マナ、から、呼び出す。《龍機左神オアシス》《霊騎右神ニルヴァーナ》」
大地が鳴動し、奥底から二柱の神が顕現する。
そして、神たちは、繋がっていく。
切り離された穴を埋めるように、新たな神を手繰り寄せる。
「リンク解除、及び、G・リンク」
《イズモ》は両腕に、《オアシス》と《ニルヴァーナ》を接続。
そして二体の《マッシヴ・アタック》と、《パールジャム》はリンク解除。それぞれ単独のクリーチャーとして、場に残る。
「《ニルヴァーナ》の、能力、発動。登場時、リンク時、相手クリーチャー、タップ。《イチゴッチ・タンク》《ジャスミン》。《オアシス》の、能力、発動。登場時、強制バトル。《ロマネスク》と、バトル」
「やば、ブロッカーが……!」
《ロマネスク》が切り裂かれ、龍の左腕を飲み込まれる。
このみを守るクリーチャーはいなくなった。
残っているのは、5枚のシールド。
「龍の、左腕。霊の、右腕。完全体、三神、《イズモ》。攻撃――Tブレイク」
《イズモ》が、龍の力を宿した左腕を、神霊の力を秘めた右腕を、振るう。
神の
神の力は、少女の肌を焼く。皮膚を裂き、肉を抉る。
人の身で神に逆らうことなど愚かであると。
人は神に圧されるものなのだと。
神の理が、世界を支配する。
「っ、つぅ、なんでデュエマなのにこんな痛いの……って、と、トリガーは? ない!?」
「《パールジャム》、Wブレイク」
追撃は無情。
びゅんっ、と笏の刃が、残りのシールドを切り裂く。
これでこのみのシールドはゼロ。そして《マッシヴ・アタック》が控えている。
ここで止めなければ、後はない。
「っ……S・トリガー! 《ミステリー・キューブ》!」
希望か絶望か。
災禍を運ぶ匣が、転がり落ちる。
「山札をめくるよ!」
この場は神によって支配されている、神話の世界。
数多の神が集う聖域にて、人が生き延びる道は、恭順以外にあるのか。
このみは、神秘の込められた箱に、手を伸ばす。
「あれ? このカード……」
……仮に、この神話の如き神が集う地で、このみに反逆の手があるのだとすれば。
より強く、大きな神話で、この世界を塗り替える他ない。
一輪の花を、彼女は手折る。
匣の中に秘された命の芽吹きが、鼓動する。
《ジャスミン》と《イチゴッチ・タンク》を取り込んで、それは進化――否。
――神話化。
花弁の内で、その魂は受肉する。
これなるは、 百花に命と心を咲く神話なり。
かの神話は、繚乱の萌芽神。
神々よ、調和せよ――
――《萌芽神話 フォレスト・プロセルピナ》
最初期よりは随分とマシになったこのみのデッキ。ハズレの多いノイジーキューブ……彼女の性格を考えると、単純にインパクトある強いカードとか、イラストがカッコイイとか可愛いとかでカードを選びそうだったので、自然とデッキがそっちに寄りました。まあ、何度見ても酷いデッキだなぁ、という感想しか浮かばないですが。
でも、わざとジャンクなデッキを組むって、逆に難しい気がします。