くだらないヒーロー 作:ヤンデレの婿
夢を見ていた。幼いころには毎日のように見ていた夢で、しかし最近は全くと言っていいほど見ていなかった夢だ。
燃え盛る夜の街並みの中を、まだ幼かった僕が少女に手を引かれて走っている。炎に照らされた彼女の長い黒髪が跳ねる背中を一生懸命に追っていると、突然に何かにぶつかった。 思わず尻餅をついてからぶつかったのが彼女の背中だとわかって、彼女が急に立ち止まったのだと思った。
抗議しようとして立ち上がろうとする僕に、彼女が振り返ってーーー
ピリリリリリリリ!
「っ!」
なんとなく気の抜けるような音がする目覚まし時計を叩きつけるようにして止める。時刻は六時半。今から準備して学校に行くならちょうどいい時間だ。
でも、行きたくない。春休みという長期休暇が昨日で終わってしまった今、始業式とかクラス替えがあるから色々と確認しに行くしかないのだけれど。
今日から僕は高校二年生となる。つまり、新しく一年生が入学してくるということであり、それこそが僕が学校に行きたくない理由になるのである。
「学校、休もうかな…」
いや、弱気になってはいけない。わかっている。わかっているともさ。でも、行きたくないのだから仕方がないではないか。あぁ、でも…
「憂鬱ぅ…」
少し巻き舌口調で言ってみるも、全然気分が上がらない。
大体、なんで僕がこんな思いをしているのかというと、ずばりそれは僕の通う学校のクソみたいな伝統行事のせいである。コミュニケーション能力に乏しく、人と話すのがあまり得意ではない僕にとって、その伝統行事はとてつもない鬼門なのだ。
しかもその伝統行事の何がクソかっていうと、結果が一学期の成績にもろに反映されることなのだ。そう、つまりーーー
「行くしかないかー…」
と、いうことである。
さあ、決意が出来たのなら、それが鈍ってしまう前にさっさと学校へ行く準備をするべきだ。
取り敢えずは、ということで布団をたたみ、制服を着て、身嗜みを鏡の前でチェックする。ボタンよし、チャックよし、髪型よし。寝癖が付いてないのはラッキーだった。そう思いながら、毎朝のルーティーンを開始する。
二階の寝室から一回の洗面所まで向かい、鏡の中に映る自分に向かって喋りかけるのだ。
「おはよう、僕。大丈夫さ、心配しなくても。どうせ、だれも僕のことなんか見てやしないって」
これが僕のルーティーン。臆病で弱虫な僕が少しだけ変身するための魔法の言葉。大切なあの人に教えてもらった、勇気の呪文。それは、なんの根拠もないたった一つの言葉。
「大丈夫、僕ならやれるさ」
それが終われば、朝食を食べ、仏壇の中で微笑む両親に手を合わせてから玄関に向かう。
ドアを閉める前に、一言ーーー
「行ってきます」
プロローグが一番大変なんですよねぇ。
気まぐれ更新です