秘密の遊び 作:seiro
小さく薄暗い部屋の中。
ドアも窓も見当たらないその空間には噛み締めるような嗚咽が漏れる。何処かであって何処かでない。確かであって確かでない、そんな場所。
埃のにおい。甘いにおい。鉄のにおい。
閉塞感に気分が高揚し、目の前の
蔓延る静寂を破るように、手に握る冷たい感覚を振り下ろした。
「ぁ──ッ! やめて……お願い、もうやめて……」
また、振り下ろす。
今度は言葉の代わりに鈍い音だけが鳴った。
「うーん、つまらないなー?」
嗜好を少し変えてみる。叩きつけるのではなく、突き当てる。
強く、強く。非力でも十分痛みを感じるほど、強く。
「あ゛ッ! 痛い! やめて! ごめんなさい、ごめんなさい!」
必死な声。苦痛から涙を流して、特に何をしたわけでもないのに必死に許しを乞うその姿に、胸の内が甘美に震えた気がした。だから、腕にも余計に力が入ってしまう。
どれくらい時間が経っただろう。
もう顔はぐちゃぐちゃだ。ワンパターンにも泣き腫らした瞳は黄金というより真紅に充血し、それでもなお本能のままに雫を零す。
そんな痛みを和らげるように柔らかく名前を呼ぶと、鈍い反応が面白いくらいに希望を宿す。
ネコ、というより飼い主に媚びる子犬のような縋り目にまたもや胸を震わせながら──その長い髪を鷲掴みにした。
「あ゛あっ……! お願い……お願いだからもうやめて────リサ……!」
「アハハッ♪ もう少しだから頑張ろ、ね? ゆーきなっ」
醜く卑しくその口角は釣り上がる。
愉しそうな声はいつまでも続いた。
ー ー ー ー ー ー
「ん〜っ! 今日も書いた書いた!」
腕を高く伸ばし、全身の力を抜いていく。
かなり集中していたようで、ぱきぱきと背中から音が鳴った。
今し方自分が綴っていた文字に目を滑らせる。そこから光景を連想するように、欲望を思い起こすように。
掌に握る鉄の棒。目の前で身動きを取れずに跪く少女。
痣を通り越して血が滲みその柔肌が汚れていく様が、脂汗と荒い息が震えて溶け合う官能的な姿がアタシの心を狂わせる。
「って、嘘! もうこんな時間!?」
丑三つ時に差し掛かった短針に声が跳ねた。
あっちゃー、夢中になりすぎちゃうの、よくないな。
ノートの半分以上をびっしりと埋め尽くす文字の羅列を恨めしげに眺めると、撫でるように表紙を閉じた。
そして、その日記帳をそっと隠す。勉強机の上から二番目、二重底になっている引き出しの最奥には他に何冊ものノートが重なっていた。
鍵をかけるように、封印するように引き出しを閉める。
「……んっ」
だが身体には余韻が残っているらしい。内腿が熱を帯び始め、慰めるように指が這った。
「あっ、はぁぁ……っ」
ふわり浮かぶような感覚に身を任せる。
まだ、眠れそうにない。
ー ー ー ー ー ー
アタシには誰にも言えない趣味がある。
アタシだけの秘密。アタシだけの、ナイショの遊び。
ただ歪みを吐き出すように、思ったままに架空の日記を綴る。
共通する内容は一つ、友希那を虐めること。それは身体的、精神的を問わない。道具を弄することもあれば、言葉を操ることもある。
そして、この遊びのルールは二つ。
決して誰にもバレてはいけないこと。
日記の内容に類する行為を友希那にしないこと。
これが条件。これが制約。自己で完結している限り、誰にも不幸は訪れない。
故に、秘密の遊び。
そして、これは遊びを超えてしまった、アタシのお話。
恐らく続きます。