このお話は嘘ばっかりでクソの役にも立ちません。

1 / 1
嘘吐き

 よく私を見つけられましたね!どうやって見つけました?貴方もしかして探偵ですか?それとも透視能力者?いや、凄いですよ!見つかるなんて思ってませんでした!

 

 

 

 こんな簡単な嘘に騙されるなんて、おめでたいね。

 

 ……まあ、嘘って解りますよね。普通に、おかしいなって思いますもん。バカでも解る簡単なトリックです。寧ろ私を見つけられない人はバカ以下とかそういうやつですよ。あ、バカ以下の人に失礼でしたね、ごめんなさい……って、バカ以下は見つけられないから私の事見えてないのか。じゃあどうでもいいです。

 さて、こんな簡単な癖に面倒なトリックを仕込んでおいてなんですが、実は特にお話したいことや、物語のようなものは無いんですよね……。いやはや。短編とか銘打っておきながら物語が無いなんて……それこそ「嘘」みたいな話ですよね、本当申し訳ないです。

 

 何も無いんだ。というわけで、もうここから出ることをおすすめしよう。さようなら。

 

 

 あれ、ここから出ることをおすすめした筈なんですけど……貴方、もしかして結構物好きだったりします?あー、そうですか……だったら申し訳ないですね、折角ですので一つ、お話させてください。

 

 私は、舞台役者です。え?名前?えーっと……いや、勿論ちゃんと芸名はありますよ、あるんですけど、ちょっとごめんなさい。お名前は秘密ってことにしておいてもらっていいですか?ダメ?ダメです?じゃあ、私の名前は「田中」です。ググッても出てきません。出てくるとは思いますが、それはきっと別の「田中」です。

 まあ、舞台役者と言いましても、そんな売れっ子役者なんてものではありません。顔も別に美形とかじゃないですし、取り立てて演技が上手いわけでもなく。主役に据えられて華やかになるタイプじゃないんです。かといって名脇役になるには実力が足りない。あるのは舞台が好き!っていうハートだけ。所謂役者の卵の有象無象ってやつですね。まあ、それでも舞台が好きで、演じることが好きだから続けていられるんですけどね。結構いるんですよ、最終的に壁を越えられる気がしなくて諦めたり、もうプライドなんかをズッタズタにされて舞台を嫌いになるような同業者さん。私も同じような思いをした経験はありますし、やっぱりキツイもんだな、とは思いますね。実際、私も辞めたいなって思ったことありますし。

 

 だけど私は続いてしまってるんです。その理由として一番大きいのは、やっぱりとある舞台がきっかけだから……なのかな。きっかけだからです。

 さっきも言ったんですけど、私は役者の卵の中では有象無象です。一応プロを名乗ってますが、役者!と胸を張って言い切れず、まだ自分には伸び代がある!なんて思いながら自分を「卵」だって偽っているくらいには有象無象です。もう伸び代なんて殆ど無いことが解っているのに、自分に嘘ついてる位には。まあある意味「卵を必死に演じている」とも言えますし、やっぱり私は役者かも?……そうでもないですね。

 そんな私に、チャンスが訪れたんです。かなり大きな舞台の、かなり良い役。勿論、主役じゃないんですけどね。脇役ですけど、かなり印象に残る役。そのオーディションの最終選考まで、私が残っちゃったんです。そりゃあ、もう体当たりの演技で、演出家の先生の前で一歩間違えたら大事故みたいな自己PRをして。そんな体当たりが身を結んだんでしょうかね?何はともあれ、私は最終選考まで残っちゃったんです。これってすごいことですよ?例えて言うなら……えっと……とにかくすごいことなんです!

 

 最終選考に残ったのは、私と、もう一人。たった二人だけでした。最後は同時に面接、実技試験。実技っていうとまあ簡単ですね、演出家の先生、脚本の先生の前で、言われた役に入り切って演技をするだけです。もう一人の最終選考に残った子は、はっきり言って超絶美形でした。「ふざけんな、なんでお前主演の方受けてないんだよ」って思いましたね。というか思わずそう言いかけましたもん。もう、「百年に一度のアイドル」なんてクソ喰らえって位には美形でした。アニメの世界から出てきたのかって位に。自信なくしましたね。まあ元々自分の顔にはそんなに自信持ってなかったんですけど。

 

 まあそれでも、それでもですよ。今から選考される役は「美形」であればいいってもんでもなかったし。私は折角掴んだチャンスですから。ここで負ける訳にはいかないぞって、本気で挑んだんです。もう、そりゃあ、全力も全力。体当たりを通り越えて捨て身タックルですよ。反動で倒れてもいいとさえ思いました。

 

 

 いつまで、夢見てんの?

 

 

 ……超絶美形の子に、そういう風に言われた気がしましたね。私の捨て身タックルじゃ、あの子に手も足も出ませんでした。天は二物を与えずって、嘘ですよね。少しでも「いけるかも」なんて思ってた夢を、あの子にぶっ壊されました。オーラが、演技力が、なんというかもう、全てが圧倒的だったんです。私も全力でやりましたけど、あんなものの前じゃあ、私はいないと同義だったんです。

 

 私のお話が「見えない」理由、解りました?そうです。私はあの時あの場所から一瞬「いなくなった」んです。圧倒的な実力が前にあれば、私みたいなちっぽけな奴、簡単に消えてしまう。まあ、多分これに関しては他のものでもそうなんでしょうね。例えば……そうですね、これも同じです。貴方は「物語」が読みたくてここに来たんでしょう?多分、ここも同じですよね。圧倒的な何かに適うこともない、有象無象が地層みたいに埋もれまくってるんですよ、きっと。

 それでも私は、役者を辞めませんでした。そのオーディションの結果は、まあお察しの通り悲惨なものに終わったんですが、その後演出家の先生からお電話が掛かってきまして。その舞台の、オーディションを受けた役じゃなくて、別の役をやってみないか?って言われたんです。蜘蛛の糸が一本繋がった、まだ私は役者として頑張っていける!また私はあの舞台の上で「存在できる」。そう思って、そのお話を受けたんです。

 

 

 バカだね。

 

 

 舞台には立ちました。作品も成功していたと思います。けど、私は「見えない」ままでした。周りが強すぎて、あの子が強すぎて、舞台にライトは当たっているのに、私の姿は映らない。有象無象はどこまでいっても有象無象。スクランブル交差点ですれ違った量産型大学生の顔を一々覚えていられますか?無理ですよね?私は所詮、その程度だったんですよ。

 バカでしょう?だって考えてくださいよ。脇役であのレベルの子ですよ?それより下でも私が太刀打ち出来るとどうして思ったんでしょうね。それ以来私は何処へ行っても「見えない」姿です。きっと、その舞台の中で私が私を見失ってしまったんです。「本当」が、見えなくなってしまった。

 

 じゃあ、「見えない」今の私の存在は「嘘」ですか?答えはノーです。「見えない」私が本当なんです。だけど、「本当」は見えないからそれが「本当」であると証明出来ない。つまり「嘘」足り得るんです。

 

 貴方は「本当」に貴方ですか?その貴方は「嘘」で本当の自分を消していませんか?圧倒的な何かに敗北し、有象無象に成り果てた貴方に聞いているんです。貴方は「私」であり、私が見えているなら貴方は私と同じ「嘘」なのです。

 

 だって、ただ何もせずに見ただけならこの文章は「何も無いからここを出ることをおすすめしよう」って言ってるんですよ?それを貴方は「嘘だ」と決め付けて、トリックを見破って私を見つけたんですよね?バカ以下では無いですが、そうやって何もかも「嘘」だと疑ってかかるのはバカですよ。私もバカです、貴方もバカです。つまり私は貴方と同じです。私は「嘘」であり、見えない本当でもあります。私は貴方と同じなのですから、貴方も「嘘」です。

 

 ……これ、フィクションだと思ってます?実話ですよ。私の、便宜上「田中」の実話です。嘘じゃないですよ?本当です。

 

 あー、元々本当に物語なんて無かったのに、身の上話しちゃったから着地点がどっか行っちゃいましたね。どうしましょう?そうですね……あ、こうしましょう。

 

 

 

 

 貴方が輝いて、有象無象を蹴散らす作品を書いてくれることを願っています。それが、「嘘」であれ「本当」であれ。

 

 

 

 

 

 

 まあ、全部嘘なんだけどね。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。