ダンジョンで友人のお守をするのは間違いだろうか? 作:翠星紗
しゃがみ込んで俺をおぶさろうとしている自称妹を無理やり立ち上がらせ、その場を即離脱。流石の俺でもあの光景には耐えられません。
なりふり構わず逃げ回っていたら、いつの間にか円形闘技場の入口近くまで逃げていたようだ。久しぶりの全力疾走で疲れが溜まる一方だよ、ちくしょうめ。
「さぁ、兄上。私に!」
「いや、もういいから」
また、しゃがんで俺をおぶさろうとしてくる自称妹・命の頭を軽く叩く。
なぜ、俺がツッコミ役に回らなければいけないのだろうか? 俺はボケ専門なんだよ、ちくしょうめ。
叩かれた頭を軽く撫でながら自称妹は立ち上がる。何かに気づいたようで周囲に目を配り始める。
「急にどった、自称妹よ」
「いえ。何やらギルドの人たちが少々慌ててるように思えまして」
確かに円形闘技場入り口近くにギルドから派遣されたであろう人間が見受けられる。そもそも怪物祭は神々が発端で開催された催しものではない。ギルドが考えた企画だ。
オラリオにさらなる娯楽と発展を考えて生み出された観客たちの前で行う冒険者の調教。これを聞いたお祭り大好きミツキの筋肉仲間である神ガネーシャが食い付いてきて、彼のファミリア監修で行っているのだ。
毎回、お祭りの時にはギルドの人間がこうして視察に来ているのは当たり前なことであるが、自称妹の言う通り様子が変だ。
視察で来ていたであろうギルドの人間が集まり忙しなく話していたり、さらにはガネーシャ・ファミリアの団員まで集まる始末。
これはもしかしなくても、最悪の事態が起きたんだろうなぁ……。
「はぁ……」
「どうしたのですか、兄上?」
「命、家に帰って自分の武器とってこい。モンスターが逃げた」
「なッ!? それはど ムゥ!」
「騒ぐな。周りに聞かれたら混乱が起きる。とりあえずさっさと行ってさっさと戻ってこい、ほら駆け足!!」
「は、はい!」
号令と共に自分の家に走り出した自称妹を見届ける。ガネーシャ・ファミリアの団員がまた散っていき、ギルドの職員だけになったところにって……
「誰かと思えばエイナっちじゃん。はろはろー」
「ミツキさん!!」
ギルドのアドバイザ-であるエイナっちが少し驚きを見せたが、何処か安堵の表情が垣間見えたことで俺の予想が当たっちまったかなぁと、気が重くなる。
「ミツキさん。協力してほしいことが…」
「逃げたモンスターの数と種類、それと逃げた方角を教えてくれ」
「な!? 何故それを知ってるんですか!」
「ふふ。この名探偵ミツキにかかれば造作もないよ」
驚愕の表情を見せるギルド職員たち。そんな彼らに腕を組んで鼻高々な俺は少し誇らしげである。
「そんなん推理のうちに入らんわ」
「あん?」
人が勝ち誇っていたらめっちゃ水を差された。聴き馴染みのない独特な口調の声は後ろから聞こえてくる。
無礼な輩を見てやろうと振り返り、そこにいたのは神ロキとその眷属であるお姫がいた。相変わらずの無乳神はさておき、お姫はいつもとは違う服装で可愛さアップだ。
どこか楽しそうに笑みを見せるロキはギルドの方ではなくて、俺の方を見つめていた。
「この間はどぉーも」
「? はて、何のことやら??」
「って、忘れてるんかい! うちのベートをギタンギタンにのしてくれたやないか」
「……ミツキさん?」
「おいこら。エイナっちに誤解を招くような言い方をするな。あれはワンコが悪い」
ジト目で俺を見てくるエイナっちの視線から逃げつつ。無乳神に言い返す。
あれはベルちんの悪口を酒のつまみにしたワンコへのしつけだ。
「あれでベートの奴。まだホームから出てきてないんやけど?」
「んじゃ、調教せいこ……おっと」
「何をしたんですか、ミツキさん!!」
「そんなに怒んないでエイナっち! あれはもとはと言えば――」
「こちらにも非があるから、気にしなくていい」
「ほら! お姫からの証言きました!! 今日は可愛い服装だから、抱きしめていい?」
「そ、それは…困る」
「おいこらクソガキ! うちのアイズたんに寄り付こうとするなんて百年早いんじゃ!!」
すこし頬を染めて困ったようにするお姫ちん。あぁ、可愛らしい反応してくれるじゃないか……なんて思ってたら、無乳神が間に入ってきて、めっちゃ睨んできてんですけど。
怖くはないが、どんだけお姫のこと好きなんだよ。
てか、お姫助けるふりして抱き付いてしたが、お姫にひっぺはがされてますけどいいんかい?
そんなやり取りを見ていたらエイナっちの横にいたミイシャちゃん(エイナっちの同僚)が大きめな声を上げる。
「み、みなさん! 今は緊急事態なんです!」
「そ、そうです! モンスターが逃げてしまって、ロキ・ファミリアにもお力をお借りできませんか?」
「エイナっち。忘れてただろ?」
「ミツキさん!!」
「はい、ごめんなさい!」
そんなに睨まなくてもいいだろうに、本音を言われたくらいで。
ミイシャちゃんも乾いた笑いが見えてんぞ?
そんな俺たちのやり取りを気にもせず、無乳神はニヤリと笑みを見せた。
「ええよ。ガネーシャんところに貸しをつくっとこ」
「うん」
「ありがとうございます!」
「んじゃ、話を戻すが。情報をくれるか?」
やっとこさ脱線した話が戻り(誰のせいじゃ、誰の
逃げ出したモンスターは東部周域に逃げた模様。数は9体。
ソードスタッグ、トロール、そしてシルバーバック。すべて11階層以降のモンスターばかりだ。
「住民の避難と周囲の安全確保はガネーシャ・ファミリアと協力して当たりますが、人員が足りてません。どうかよろしくお願いします!」
「報酬はギルドからたんまり要求するからよろしく!」
「うぅ…わかりました」
「よっし交渉成立。んじゃな、お姫」
「うん」
今からモンスターを討伐しにいくというのに何とも軽い別れを行う二人。冒険者にとってモンスター討伐は日常の一部である。
そんな二人のやり取りを見ていたロキは、”ほなうちらも行くで”とアイズと共に歩いていく。
エイナは一人。去って行く冒険者たちの無事を祈りながらある人物を思い浮かべた。
「(ベル君、お願いだから避難していてよ?)」