ダンジョンで友人のお守をするのは間違いだろうか? 作:翠星紗
さて、エイナっちに心配されたベル君は現在、主神ヘスティアと共にダイダロス通りを走っていた。
人気のない道を選んで進むベル君。徐々に喧騒から遠ざかることにヘスティアは不安とこれから起きるであろう少しの期待に胸が高鳴る。二人の繋がれた手はより一層強く結ばれ、次第に鼓動は高まり……
「って、そんな状況じゃなぁああああああーーーーっい!!」
「か、神様急に叫んでどうしたんですか!?」
「い、いや…変な解説が聞こえた気がしただけひゃわぁ!?」
オオオオオオォォォォォォォォォッ!!!
「「ぎゃああああ!?」」
背後から白い大ざるの猛追から逃げる二人。怪物祭の目玉として用意されたモンスター”シルバーバック”はヘスティアを見つけた途端、目の色を変えて追いかけてくる。両腕には暴れない様に繋がれていたであろう手錠と鎖があった。腕を振り回し、まるで鎖を鞭のようにこちらへ攻撃してくる。
11~12階層で出現するモンスターであり、今のベルでは到底勝てる相手ではない。
なら、とる行動は狙われてるヘスティアを連れて周囲への被害を抑えられる場所を探しながら逃げるしかできなかった。
そして、たどり着いたのがここ”ダイダロス通り”
度重なる区画整理により迷宮と化したここは、秩序が狂いだした広域住宅街。ここを知らぬ人間が通れば二度と戻ることは出来ないと言われるほどである。
複雑な迷路で行く先が分からない。下手をしたら袋小路に陥ってしまうかもしれない。
一度はここに入ることを躊躇ったベルだったが、背後に迫るシルバーバックから逃げるためには選択肢がなかった。
狭い路地に逃げ込みシルバーバックを撒こうとするも一向に距離を広げることが出来ない。このモンスター自体が2mを超える巨体で素早いのもあるが、冒険者でもないヘスティアはすでに体力が限界だ。息も絶え絶えだ。
なら、立ち向かうか?
オオオオオオォォォォォォォォォッ!!!
「ッ!?」
「ベル、君?」
振り返り襲いかかるモンスターを視認する。
今にも殺さんと咆哮するシルバーバックに恐怖し、ヘスティアを握る手に緊張が伝わる。それを感じ取ったヘスティアは自分を引っぱる彼に声を掛けるも何も言わずにまた前を向いてしまった。
「(いくら勇気を振り絞っても僕じゃあ神様は守れないッ!)」
変わろうとしても結局は怖気づいてしまう。
誰も守ることが出来ない……
――――――また、”大切な人を失ってしまう”
「嫌だ……これ以上家族を失うのは―――」
「正義のヒーローって柄じゃないんだよなぁ、俺っちって♪」
「――――――え?」
ふと、聞こえた声にベルは周りを見回す。
辺りは区画整理により迷路となった上下にある迷路と小さな家の窓ばかり。けど、ベルの耳にはしっかりと聞こえた。
いつもふざけてばかりで周りを引っ掻き回す彼を。
ヘスティア様が僕に抱き付いて困っているところを楽しそうに見ている彼を。
振り回されることは多いけど、それ以上に僕は彼を……ミツキのことをどこか兄の様に思っていた。
聴きなれた声が近づいてくる。それも物凄いスピードを上げて…
「よぉおおおおおお~~~、べるちぃ~~~~~んッ!!」
「え、ちょ?! ミツキ!?」
心のどこかで助けを求めていた人物が現れた。確かに現れたのだが、なぜ、ロープのようなものに捕まりながらターザンの様にやってくる必要があるのだろうか?
急に目の前から現れたミツキは洗濯物をつっていたのであろうロープを掴み、さながらジャングルの王者の様に奇声を上げて、自分たちの後ろにいるシルバーバック目掛けて向かっていく。
彼の頭に紫色のブラジャーが付いていたのは気にしない。窓から身を乗り出して何か怒鳴っているおばさんが居るが気にしない。
とりあえず、彼は助けに来てくれたのだ。
ヘスティアもミツキの登場に心から喜んでいるようで、ターザンスタイルの彼を見つめる。振り子による力をそのままにシルバーバックへ攻撃しようとするミツキ。
誰もがミツキへ視線を向けるなか、ベルは先ほど叫んでたおばさんを見ていた。
なぜなら、おばさんがターザンしているミツキのロープを切っていたのだ。
「いっけぇーーー、ミツキッ!!」
「くらえやああぁッ! おおざぶべら!?!」
ヒーローショーを見ているかのようなヘスティアの横で顔を青ざめるベル。
主神の応援のもと少しやる気が上がったミツキ。かっこよくシルバーバックを仕留めて彼女の双丘へゴートゥーヘブンしようと心を弾ませてる瞬間、ロープが斬られたことによりミツキは地面へ投げ飛ばされる。
地面へ衝突した勢いそのままに、まるでボールの様にゴロゴロと転がっていくミツキ。向かう先は白き大猿。
大猿は目の前まで転がってくるミツキを見ると、またも咆哮を上げ足を振り上げる。
ボールが転がってきたらみんなはどうする?
普通は”蹴り返す”よね?
グオオオオオォォォォォッ!!
「げほぉ!?」
さながらイブラヒモヴィッチを凌ぐ脚力を見せ、ミツキを蹴り飛ばす。
蹴られたミツキは肺からすべての空気が抜けきり、近くの壁に衝突する。体はめり込み意識はすでにない。
主人公なのにこの仕打ち。まじズラタン…じゃなくてツラタン。
「「…………」」
流石の二人もこれには反応することが出来なかった。
何してんだ、あいつと。壁と一体化したミツキに視線を向けた後、大猿をみる。
息を荒くして、今にも襲えるように臨戦態勢を取ってこちらを見据えるシルバーバック。サルの頭にはミツキから勝ち取った紫のブラジャーが乗っていた。
数秒の沈黙を破ったのは大猿だった。
グオオオオオオォォォォォォォォォッ!!!
「「何しに来たんだよおぉぉぉぉぉぉぉォぉッ!!」」
ごもっともです。