ダンジョンで友人のお守をするのは間違いだろうか? 作:翠星紗
「だからリリは誘拐なんてされてません!!」
「ううぅ……現実逃避するまでに心が追い詰められていたんだね。でも、大丈夫だよ。おじちゃんが守ってあげるからね」
「どこがおじちゃんですか! それに人の話はしっかりと聞いてください!」
全く現実を受け止めない少女にまた涙を流しながら俺は家の扉を開ける。家はリビングとキッチンのほかに個室が3部屋ある。
ヘスティアちゃんたちをこの部屋に呼ばないのは冒険者と個人を一緒にしたくないからである。それぞれが充実しているからこそ、楽しく出来るのである。というより、教えたら居座られて色々と迷惑だからだ。
ということで、少女をリビングにあるソファに降ろして、自分は消毒用のポーション等を取ってくることに。
「……ここに住んでいるんですか?」
「ん? まぁ、一人の時もあるし、時々泊まる奴もいるからなー……で、お嬢ちゃんの名前なんだっけ?」
「さっきからリリって言ってるじゃないですか!! 聞いてなかったんですか!?」
「そっかリリっちかぁ……」
「変な呼び方しないでくださいって……もぉ良いです」
反論する気も失せたリリはため息をついて辺りを見回した。ソファの他に机や椅子、鮮やかな装飾を施された絨毯。ただの冒険者がここまで裕福な生活を送れるものだろうか?
名のある冒険者、または他国の有力者の可能性もあるとリリは考える。
「あの……お名前はなんていうんですか?」
「ん? そういえば、名乗ってなかったか。俺はミツキだよ……しがない冒険者さ」
「ミツキさん……」
リリの中で名前を復唱する。都市の大派閥である、フレイヤ・ロキ・ガネーシャファミリアでもその名を聞いたことが無い。
彼に対する疑問が増えていく中で、ようやくミツキがリビングに姿を見せる。それに気づいたリリが彼に視線を合わせた瞬間、目を見開いた。
「いやぁーまいったまいった。俺の家に消毒液とかないからさ……これで治療するわ」
「な、な、な……」
言葉が出てこず彼が持ってきたポーションに指をさしながら震わすリリ。
そんな彼女を不思議そうに見ていたが特に気にすることなく、ミツキは持ってきたパーションらしきものが入っている瓶を開けて彼女の膝の傷口にかけた。
それもぉ、勢いよくドバドバぁ~っと。
「……っよし。これで終わりだな」
「ちょッ!! ちょっと待ってください!?」
「どった?」
「な、なんて高価なもの使ってるんですか!?」
「高価? いや、傷口から菌が入って病気になったら困るし……”エリクサー”なら傷口の菌とか殺せて傷も綺麗に治るいいことしかない」
「こんな傷口なんて舐めてたらなります!! これ一本でいくらすると思ってんるんですか!?」
「5万ヴァリスした。俺が買ったんだから覚えてら」
「冒険者ならこのアイテムの価値ぐらいわかりますよね!? バカなんですか、あなたは!!」
リリから出たとは思えないほどの大声が部屋中に響き渡る。彼女の叫び声がミツキの頭の中で反響し、現状頭を押さえて蹲っていた。
そんな彼を見てリリはぜぇぜぇと肩で息をしていたが、呼吸を整えるため大きく息を吸い込んでいた。
「……ったく、アイテムの価値ぐらいわかってるっての」
「ならッ―――」
「それを分かったうえで、リリっちの傷を治したかったんだよ。だから気にすんな」
「ぅ……」
悪戯が成功したときに見せる子供の様な笑顔にリリは少したじろいでしまった。彼に聞こえない声で”なんなんですか……”と軽く睨んでいると……目の前に一枚の紙。
静かに受け取りかかれてる内容を見る。
――請求書 治療費1,000,000ヴァリス――
「………」
「あ、今月中に払ってね♪」
「お、お金とるんですか!? というより、なんでこんな高いんですか!」
「そりゃ、”高価なアイテム”使って治療したからね。大変な治療だったよ、成功したのが不思議なくらいだ」
「エリクサーぶっかけただけですよね!? それにエリクサーって5万ヴァリスでしたよね! 擦り傷なんかで死ぬわけないでしょう!! それに貴方が勝手に連れて来て治療したんでしょう!!」
「こら! 女の子がそんな喋り方しちゃいけません!! そんなふうに育てたつもりはありませんのよ!!」
「誰なんですか!! 貴方は誰のつもりで言ってるんですか!!」
「ミラージュ・ツベルクス・キュリー夫人」
「だから誰なんですか!! それでミツキなんですか!? って、夫人じゃないですよね!?」
尻尾さえも逆立って叫び続けるリリを見て楽しそうに笑うミツキ。そんな彼の姿に手を震わせながら怒りを抑えるリリだったが、彼の足を思い切り踏みつけた。
急な痛みにミツキは顔をしかめて踏まれた足を抑え込んで唸りだすのを見て少しスッキリしたリリであった。