ダンジョンで友人のお守をするのは間違いだろうか?   作:翠星紗

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そう。社会的に

リリっちとの契約も終えて一人家でゴーロゴロ。あ、それゴーロゴロ……

 

 

 

 

 

「はぁ……飯でも食いに行くか」

 

 

とてつもなく虚しくなりました。

 

服に付いたホコリを掃い。家を出て目指すは素敵なエルフさんがいる酒場に向かうことにした。オラリオも夜が近づくにつれ、ダンジョンから帰ってきた冒険者の数が多くなる。

通りにある酒場からは今日の成果は良かっただの、明日はもっと頑張ろうだの聞こえてくる。路地裏に耳を傾ければ、酒に酔った冒険者達が喧嘩していたりと相変わらず賑やかなことだ。

けど、そんな喧騒も悪くない。だっていつも喧嘩している声が聞こえたかと思うと、懐にいつの間にか金貨が入り込んでいるのだから。

なぜか利き手が少しジンジンするのはなんでだろう? オラリオ七不思議のひとつである。

 

 

懐が温かくなったことを不思議に思いつつ行きつけの店”豊穣の女主人”に着いた。

ドワーフの女性が主人をしているこの店は、働く人すべてが女性である。それが原因で男性客が後を絶たないのだが、この店の店員は一癖も二癖もある者ばかりだ。店員に手を出そうもんなら殴り飛ばされ、喧嘩が始まるもんなら店からたたき出される。

ヘタな冒険者よりも強い店員ってどんな店だよと最初の頃は思ったが、静かに過ごせばとても居心地のいい店である。

中から聞こえる暖かい空気と笑い声に誘われつつ店の戸を開け――

 

 

「そうだ、アイズ! お前、あの時の話聞かせてやれよ!」

 

 

店に入った途端、聞きたくない声が聞こえてきた。てか、今日だけであいつに何回会うんだよ……

関わると面倒なことになることこの上ない。触らぬバカに争いなしだ。

静かにかつ離れて歩き、カウンターに座り込む。すると、カウンター越しからお目当てのエルフ様が…

 

 

「よく飽きずに来ますね」

 

「相変わらず冷たい態度すぎない、流石にちょっと泣くよ俺?」

 

「貴方を甘やかすとろくなことにならないですから」

 

「…フンだ。いつもの頼む」

 

「分かりました。あと、拗ねないでください」

 

 

目の前の綺麗なエルフ。リュー・リオンは俺がこの店に来た時に惚れ込んだ女性である。

目が合った瞬間、彼女に近づき”俺とけっきょんしてくりゃはい!!”と言ったのは今でも覚えている。良い思い出だ。緊張しすぎて口が回らなかったわけではない。見惚れてただけだ。

 

 

「あれだって! 帰るとき、何匹か逃したミノタウロス!」

 

「はぁ……うるさいねぇワンコは」

 

 

折角、いい気分でいたのにワンコの声で気分を害された。てか、話を聞いていたらあの時のミノタウロスってこいつらのせいかよ。

チラッと席を見てみると、ロキファミリア幹部が勢ぞろい。てか主神のロキまで居るよ。

ワンコが一人で盛り上がり、アマゾネス姉妹とロキはその話に入る。フィンくん、リーさん、ガレスのじっちゃんは会話に入る気もないようで静かに酒を飲んでいた。

ワンコは楽しそうに話しているが、自分たちの犯した不手際を楽しそうに笑っているあいつが馬鹿らしく思える。

 

 

「それでアイズが助けたいかにも駆け出しっていうようなひょろくせぇ冒険者(ガキ)が! 抱腹もんだったぜ。ウサギみたいに壁際に追い込まれちまってよぉ! 可哀そうなくらい震え上がっちまってやんの!」

 

 

光景を思い出してワンコは笑いを堪えながら話を進めていく。ミノタウロスの返り血を浴びて真っ赤になっていたトマト野郎……

泣き叫びながら逃げていくトマト野郎……

こいつがさっきから笑いの種にしているのは――

 

 

 

「ベルさん!?」

 

 

「……ベルちん?」

 

 

女性の声が聞こえたかと思うと一人の少年が酒場を走って出ていくのが見えた。彼の行動で店内は一瞬静まり返ったが、またすぐに賑やかな喧騒に戻った。

けど、俺は去って行った少年…ベルちんの表情が脳裏に焼き付いた。口惜しさと情けなさで涙を堪える彼の姿が…

 

 

「ミア母さんの店で食い逃げとは、命知らずですね」

 

「リューさん。これ、さっきの冒険者の勘定」

 

「なぜ、あなたが? それにこれ……どう見ても」

 

 

リューさんに有り金全部渡して立ち上がる。彼女の言葉などすでに耳に入っていない。俺の視線はすでに目の前のあほ面しか捉えてなかった。

フィンが俺に気づいて止めに入る。しかし、俺はそれを払いのけベートに近づく。未だに意気揚々と話し続けるベートだが俺に気づいた瞬間、威嚇するように荒々しく席たち詰め寄ってきた。

 

 

「てめぇ!! 今日はよくもやっ―――ガァ!?」

 

「きゃあ!?」

 

 

ベートの顔を掴み後頭部から机に叩き付けた。衝撃で机は砕け料理や酒は辺りに飛散する。一緒の席に座っていたエルフの少女は驚いて声を上げていたが。アマゾネス姉妹、アイズは驚いてそれを見つめていた。

ガレス、リヴェリアは”馬鹿者が…”とため息を漏らしていた。

 

 

「ちょ、ちょっとあんた何してんのよ!?」

 

「いやぁー、このワンコが俺の仲間を笑いものにしてたんでな? 流石に頭に来ちゃったのよ。けど、まだまだ足りないよね? ク・ソ・イ・ヌ♪」

 

「ゴォハ!?」

 

 

ベートを掴んだまま勢いよく店の扉に向かって投げ飛ばす。扉にぶつかって肺から空気が一気に抜けたのか苦しそうに声を上げていた。

投げられたベートは扉を抜けて店の外に消えていった。しかし、扉は無傷で壊れていないのが不思議な所。店を出る前に主人の方を向くと、えらい怒ってらっしゃること。

 

 

「店の修繕費は明日もってくるよ」

 

「当たり前だ!! これ以上店で暴れるんじゃないよ!」

 

「はいはい」

 

 

適当に返事をして店を出る。

今までの騒動のせいで、店の中は静まり返っていたがまたも女主人が一喝。”頼まないんなら出ていきな!!”

その一声でロキファミリア以外の冒険者は慌ててメニューを見直していたのは言うまでもない。

 

宴会の席の机を破壊され、今だ静まり返っているのはロキ・ファミリアだけだ。数人の冒険者はベートのせいで面倒な所に喧嘩を売ってしまったと頭を抱えていたが、状況がまだ掴めていないのは主神様。

 

 

「な、なんやねん急にあいつ!」

 

「彼はミツキ。確かLv.4の冒険者だよ」

 

「ミツキ? あぁ、ベートがよく話してた冒険者かいな……って、Lv.4!? どう見ても」

 

「あぁ、ベート同様にLv5でもおかしくない強さだよ。けど、そろそろ行かないとベートが死んでしまうかもね」

 

「そ、そんな死んじゃうだなんて……」

 

 

フィンの言葉に金髪のエルフの少女は声を出すが、周りの仲間たちは黙りこ込んでしまう。少女は慌ててアイズの方を見ると、フイっと顔をそむけた。

 

 

「ミツキを怒らせると、不味い」

 

「あぁ、何をしでかすか分かったもんじゃない」

 

「あーあぁ、私しぃーらない」

 

「ま、これで少しは静かになるでしょ?」

 

「あやつにも少しはいい薬になるだろう」

 

「同感じゃな」

 

「え? え?」

 

 

フィンの言葉からベートに死の危険が迫っていると思っていた少女だったが、何やら自分の考えと周囲の考えているとこは違っているようで、またも頭に?が飛ぶ。

それはロキも同様で要領を得られなかったようだ。説明を求めようと口を開いた瞬間、外からベートの叫び声が聞こえてきた。

エルフの少女が彼の声を聴き、心配して店の外に出る。

 

 

 

「きゃああああああああああああッ!?」

 

「な、なんや!? どないしたレフィーヤ!!」

 

 

エルフの少女――レフィーヤの叫び声を聞きつけロキが外に出ていく。そのあとを他の団員が付いていき、店を出る。外ではレフィーヤはしゃがみ込み、外に広がる現状を見ない様に両手で顔を覆う。

ロキに至っては細い目が見開いて信じられないと固まる。

 

彼等の目に広がるのは……

 

 

 

 

 

 

 

パンツ一丁で逆さづりにされているベートの姿であった。

その姿はあまりにも滑稽。両手も縛られ、足は何処から持ってきたのか分からない柱に括りつけられており。

彼の腹には”僕は悪いワンコ。ワンワンクゥ~ン”と書かれている。顔には赤い頬紅を丸く描かれ口紅までしている。おでこにはワンコ。

あまりに滑稽。

これがロキ・ファミリアの第一線で戦う凶狼(ヴァナルガンド)なのか。目の前の残虐さに笑うことさえできず、目を背けてしまう。

 

 

 

「て、てめぇら見てんじゃねぇ!!」

 

 

周りからクスクスと笑い声が聞こえており、ベートの怒号も今では効果なし。確かに彼は死んだ。

 

 

社会的に。

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