1-1.目覚めと出会い
ーーー痛い…。
首に感じる鈍い痛みで、少年…アザミは目を覚ました。
どうやらいつの間にか寝てしまったらしい。…それも椅子に座ったままで。首を前に倒す姿勢でいたため、痛めてしまったのだろう。
ーーー余程疲れていたんだな…。
寝る時は必ずベッドでと、そう決めていたのだが。次からは気をつけよう。
そこまで考えたところで事の異常さに気がつく。
ーーーあれ…、ここ…、
どこだ?
知らない壁、知らない家具に床。間違いなく自分の部屋ではなかった。ここに来た覚えもない。あたりをキョロキョロ見回すと、部屋の隅には青いベッドがあった。
ーーーくそっ…、首が痛い…。
ここにいる理由なんてないのでさっさと家に帰ろうと、アザミは部屋の扉へと歩いていった。扉に手をかけ、そして…
ーーーん…?
ドアノブが回らない。アザミは何度も試すがやはり開かない。よく見ると鍵穴がついていた。
ーーー内側に鍵穴か?珍しい構造だな…。とりあえず鍵がないとダメそうだ。
部屋にはテーブルがあるが、鍵は置かれていない。ならば本棚かと目を向ける。さすがに一冊一冊本を開いて確認するのは少し面倒だ。なので他を探す。すると本棚の横に、申し訳なさそうに置かれている白い小さな箱があった。
ーーー怪しすぎるな…。
箱を持ってみると意外と軽かった。次は振ってみる。
“カランカランッ”
そんな音が聞こえた。おそらく小さな何かがこの中に入っている。
ーーー…ん?この箱、パネルがついている…。
どうやら3文字のパスワードが必要みたいだ。アザミは試しに《ちくわ》と入力してみる。が、もちろん開かない。
視線を上げるとちょうど壁に張り紙があった。そこには、
【キミの名前は?】
そう書かれていた。
ーーーということは…
アザミはパネルに自分の名前を入力した。
“ガチャッ”
そんな乾いた音がして、箱のロックが解除された。
箱の中身は予想通り小さな鍵が入っていた。
ーーーパスワードが僕の名前…。というか鍵を隠す必要はあったのだろうか?
アザミの頭には一つの仮説が浮上した。
ーーーこのパターン…、僕は何かのゲームに参加してるとか…?例えばリアル脱出ゲームとか…。
にしても直前の記憶がないのはおかしい。
ーーー妙だな…。
アザミは扉を開ける。すると出たのは長い廊下だった。この長さ、“家”というより“屋敷”だ。
アザミが呆気にとられていると、不意に誰かが声をかけてきた。
???「君もボクと同じかな…?初めまして、ボクの名前はセビア。君の名前を聞いてもいいかな…?」
声をかけてきたのはアザミと同じくらいの少年だった。白い綺麗な髪と、赤い瞳。表情、声…、とても強そうな感じがしない。動物で例えるのなら兎である。しかし彼の赤い瞳からは強い何かを感じた。
アザミ的には関わりたくなかった。今すぐ家に帰りたい気分だった。というのも、アザミは人付き合いが苦手なのだ。しかし無視するわけにもいかず…
アザミ「…アザミ。」
とだけ答えた。
セビアはそれでもなお笑顔で、
セビア「アザミ君か〜。うん、よろしくね!」
と言ってきた。その後数秒間、お互い何か喋るわけでもなく、沈黙が流れた。耐えかねたのはアザミの方だった。
アザミ「もしかして、ここの家の人…?」
そうセビアに聞くと、
セビア「違うよ。ボクも君と同じで気がついたらここにいたんだよ。」
と返してきた。
アザミ「違うならここで何してるんだ?帰らないのか?」
セビア「帰れないよ。だからこうやって挨拶まわりをしていたんだ。アザミ君もまだなら今から一緒にどう?」
言っている意味が分からなかった。帰れないから挨拶まわりとセビアは言った。
アザミ「帰れないってどういう意味だよ…?」
するとセビアは見るからにキョトンとした顔をした。そして言った。
セビア「そっか…。もしかして起きたばかりだった?なら知らないのも仕方がないよね…。」
嫌な予感がした。アザミにはセビアの続く言葉が容易に想像できた。ほら、よくフリーホラーゲームである…あのシチュエーション…。
セビア「アザミ君…、挨拶は必要なんだ。ボク達はこれからずっと一緒に生活していくかもしれないんだ…。
なぜなら…
出口なんてどこにもないのだから。」