高校の前に、別の学校の制服を着た人物が立っていると、誰の彼女、もしくは彼氏なのだろう、とヒソヒソと聞こえるシチュエーション。俺も何度かそれを見た事があるが、まさかそれを自分が言われる立場になろうとは思ってもみなかった。
事の発端は昼休憩中である。スマホにつぐみからメッセージが送られてきて、文面には『放課後、一緒に帰ってもいいかな?』とあった。これだけのメッセージだがクッソ可愛いな畜生。
お昼休みにウキウキしてしまった俺は、調子に乗って『いいトモロー』と返した。それから数秒して『じゃあ放課後にまた連絡するね!』と返ってきた。
かくして実質的に放課後デートの約束ができたわけだが、帰りのHRが終わるとつぐみからメッセージが飛んできており、見てみると『生徒会の急用が入ったから、少しだけ遅くなるね』と来ており、いつもの場所ーー駅前の事だろうーーにに行っててとあり最後に本当にごめんね、と絵文字もスタンプも無しで個別に来た。
「相変わらずつぐってんなあ」
別にお釈迦になったわけでもないし、多少遅れるだけなら大丈夫なのに、と思いながら『了解でぇぇぇす!』と打っておいた。送った後に気づいたがこれ多分ウゼェな。
と言うわけで待ち合わせ時間が少々遅くなったわけだが、ならば一層の事その時間を使って学校まで行けばいいのではないだろうか、と頭によぎった。
善は急げと言わんばかりにつぐみに内緒で彼女の通う高校に向かった。中学まで通っていたところなので場所もわかるし、なんなら俺が通う学校よりもこっちの方が家から近い。
そして、校門の前。現在に至る。
「……」
これが意外と恥ずかしかった。
なんかジロジロ見られるし、なんだあの野郎、みたいな目で見てくる人もいた。
ーー調子に乗って来るんじゃなかった。
スマホを見るふりをしてなるべく目を合わせないようにするがやはり視線は感じた。
そろそろ本気で退散するべきか、と考えていた矢先。
「じ、尽くん!?」
俺がもっとも欲しかった、聞きたかった声が聞こえた。
ハッと顔を上げたら、息を切らしたつぐみがこちらに駆け寄ってきた。ああそんな急がなくても。可愛いなくそ。
「もしかして、迎えに来てくれたの?」
「いやー道に迷って気づいたらここに」
何を言ってるだ俺は、と思ったがつぐみはふふ、と笑ってくれた。笑顔100点。
「ごめんね、花咲川からだと遠いのに」
「いんや、そーでもないよ。まあ最近運動不足だし、丁度いいんじゃないかなと」
「……そっか」
ありがとう、尽くん。と言ったつぐみは、自惚れかもしれないが心底嬉しそうだった。
さて、と。
「……ちょっとまあ、視線でそろそろ血が出そうなんで一旦離れようか」
「え!?」
見ると、ますます周りから見られている。先ほどのような『気がする』ものではなく『確実に見られている』だ。
つぐみの顔が見る見る赤くなり、とりあえず手を引っ張って校門を後にした。後ろで歓声のようなものが聞こえたが聞かなかったことにしとこう。
「はぁ……はぁ……疲れた……」
「え、えへへ……」
わりと走った気がする。
振り返るとなんだか見たことあるようなないようなという場所に来てしまっていた。
スマホがあるので帰れないことはないし、これはこれでなんだかワクワクする。
「……あっ」
と、ここでようやくつぐみの手をガッチリ握っていることに気づいた。
付き合ってから、ちゃんとこうして手を繋いだことが無かったので、なんとなく照れ臭くなってしまった。多分、つぐみの顔を見る感じ、彼女もそうなのだと思う。
ごめん、と手を離そうとする。が、それをつぐみのもう片方の手で止められた。
「へ……?」
「えっと、その……」
目を右往左往させながら、つぐみが何かを言おうと口ごもった。
「……あの、ね。もうちょっと……このままがいい、かな?」
恥ずかしそうに、絞るようにそう言った。
「……ちょっとでいいの?」
「……いじわる」
改めて握りしめると、彼女もしっかり握り返してくれた。