種ウマ娘   作:こもれび

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突然雰囲気が変わるのも、二次創作の醍醐味ですよね。
CV:大塚明夫さん的な声の黒い人が登場しちゃいます。


第十話 黒い医師

 ここに来て、もう驚くことばかりで、これ以上驚くのが怖くなってきていた。

 でも、やっぱり逃がしてはもらえなかったみたい。

 続いて驚愕したのは、良馬繁殖センターこと、モンサンミッシェル……もとい、湖上の白城。

 森の切れ間から伸びる荘厳な広い石の橋の上を車でそのまま走り、湖底から直接石を積み上げて壁とした人工島とも言うべきその巨大な建造物を下から見上げつつその中へと入った。

 島全体が巨大な城の様に見えていたので、門をくぐれば屋内なのかと思いきや、そこは広い広い園庭で、丁寧に手入れされた植木の数々や、様々な花の植えられた花壇が広がっていた。

 その庭を何人ものウマ娘たちが、手を繋いだりしながら仲良さそうに散策している。

 よく見れば、どの人も、以前テレビなどで見たことのある娘ばかりで、名前と顔を思い出すたびに驚愕を繰り返すことになった。

 

 正面入り口に着いた時には、もう精神的にへとへと。

 じいやさんの案内で、センターの受付へと向かうことになったのだけど、いろいろと疲れてしまって一先ず受付をじいやさんに任せて私は小休止することにした。

 外観が古城のイメージだったわけだけど、中はといえば綺麗に整備されていて、新しめの病院の様にも感じられた。

 そんな綺麗に清掃の行き届いたロビーの端のの方で、一人私は佇んでいた。

 まさか驚きすぎて疲れ切ることがあるなんて思いもしなかった。

 こんなことなら車中で眠ってくるのだったと今更ながらに後悔しつつ、でももし他にも連れがいたら、疲れるよりも楽しいの方が勝っていたかも……

 それがスズカさんであったなら……

 そんなことを思いつつため息をついた。

 

 その時……

 

「失礼。君の腰と腹を少し触らせてもらうぞ」

 

「へ?」

 

 急にそんな声が頭上からして、そっと顔をむけてみると、そこには真っ黒な服を羽織った目つきの鋭い男性が。

 

「へ? へ?」

 

 いったいなんで私に声をかけて……? あれ? 今、この人なんて言ったんだっけ? え? 腰? 触る? へ?

 

 疑問符が頭に浮かびまくっていた中、何もしゃべれず見上げていた私の顔に、その黒い男の人の顔が迫ってくる。

 よく見れば、顔に大きな傷跡があって、その左右の皮膚の色が違っていた。

 え? なに? フランケンシュタイン? え? お、オバケ? ええ!?

 背筋がどんどん冷えてくるのを感じつつ、カチコチに固まったままだったわけだけど、その人は大きく息を吐いて私を睨んだ。

 

「君は、スペシャルウィーク号だな? 急に触れると蹴られると聞いたからこうやって先にお願いをしたのだが……、無反応ならば勝手に触らせてもらうしかないな」

 

「え?」

 

 その男の人はそういうと急に私のお腹に手を当てて、下腹部に向かって力を込めた。そしてすぐに私をくるりと180度回れ右させて、両手で私の腰から脇腹にかけて指を這わせていく。

 ぞわぞわっと、身の毛のよだつ感触が背中を走り、頭を抜けたタイミングで私はその人を思いっきり蹴った。

 ……つもりだった。

 ぶんと、その人の脇を私の足が素通りする。

 その人は何もなかったかのように私の前に立って見下ろしていた。

 

「なるほど……ウマ娘とは不思議な生き物だな。まあ、良く分かった」

 

 そう涼し気に言ったその人を見て、私はさっきされたことのあまりの恥ずかしさに声を荒げてしまった。

 

「な、何をするんですか!! 痴漢ですかっ!!」

 

 そう言った私のことを彼は完全に無視。

 表情ひとつ変えないままに続けた。

 

「君に聞いておきたいことがある。君の望みはなんだ?」

 

「え? の、望み? な、なんでそんなことを痴漢に言わなきゃならないんですか?」

 

「答えられないのなら、私はただ去るのみだ。契約不履行になるからな。だが、君の望みが『依頼人』と同様であるというのなら、私は私の為すべきことを為そう。さあ、君の望みはなんだ?」

 

 望み? 契約?

 いったいこの人は何を言っているの?

 それと、依頼人とこの人は言った。確かに言った。

 つまり、誰かに頼まれて私のところに来た……そういうこと?

 じゃあ、いったい誰が頼んで……

 そこまで考えて、ふと思い浮かんだのはあの優しい笑顔だった。

 ひょっとしたら……

 もしかしたら……

 まさかと思いつつ、そのことを聞いてみようと思い顔を上げた先で、黒い服の男の人はニヤリと笑っていた。

 

「まあ、急ぐまい。時間はまだ十分にあるからな。私は君の答えを待って行動することにしよう」

 

 そう言ってくるりと向きを変えて、その人はスタスタとこの施設の出口へと向かって歩き出した。

 私はその背中に向かって焦って声を掛けた。

 

「ま、待ってください。貴方はなんなんですか?」

 

 それに彼は顔だけをこちらへ向けた。

 

「私は……ただの医者だよ」

 

 そう言って黒服に黒い鞄を持ったまま、その人は歩み去った。

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