種ウマ娘   作:こもれび

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第十四話 夢

 それからの私はどうも最悪だったらしい。

 来る日も来る日も繁殖室へと連行され、そこで様々な繁殖ウマ娘さんたちへと種付けを行おうとした。

 でも、何をどうしても、私のペ〇スはうんともすんとも反応しなかった。

 大概のウマ娘さんたちは私よりも年上で、しっかり発情した状態で来ているとのことだったけど、私の方はまるでだめ。

 緊張しているのかもしれないとか、好みの所為かもとか、いろいろと数河井先生は試してくれて、真っ暗な部屋にしたりとか、逆にムーディーな曲を流してみたりとか、ピンク色のライトの下で複数のウマ娘さんがダンスを踊ったりとか。

 年上がだめなら年下では? などという発想から、私よりも大分年下の小柄な子まで連れてきて試そうとしたけど、結果としてはまるで駄目だった。

 それではと、興奮を促す薬や、ペ〇スの勃起を促す薬も使用したのだけど、あれほど収まらず大変だったはずの私のペ〇スは、まったく反応を示すことはなかった。

 いつしか私は、種ウマ娘としては出来損ないのレッテルを貼られていた。

 

 数河井先生も私を見るたびにため息をつくようになったし、廊下ですれ違う繁殖ウマ娘さんたちも、私を見てクスクスと可笑しそうに笑うようになったし。

 こういう風に種付け出来ない状態のことを、ED(インポテンツ)というらしく、種馬失格なのだそう。

 

 それはそうだよね。このままでは子供を作ることはできないのだもの。

 種付け出来ない種牡ウマ娘なんて、本当に価値はゼロだもの。

 レースにも出られない、種付けも出来ない私は、完全な役立たず。

 何が日本一の種ウマ娘か……

 そもそもそんなもの、目指したいなんて思ってもいなかったし、目指せるわけなかった。

 

 私は数河井先生により検査の合間の時間を使って、常に練習用トラックへと出ていた。

 種牡ウマ娘用のサポーターを着用してトレーナーを穿けば、思っていたよりも股間の辺りはすっきりして走ることもできたから。

 でも、やっぱり違和感は酷くて、トップスピードで走ろうとすると、それの違和感の所為か以前のような限界付近の加速を得ることは出来なかった。 

 それでも走る時間はたくさんあったから、ずっと走り続けた。

 それこそ、トレセン学園に居た頃以上に。

 走ることは好き。

 でも、いまここで走るのは何か違っていた。

 楽しくないのだもの。

 トレセン学園でスピカのみんなと練習で走っていた時はまるで違う孤独感がずっと私を包んでいた。

 

「はぁはぁ……」 

 

「だいぶ打ちひしがれている様子だな」

 

「え?」

 

 声を掛けられてそっちを見れば、練習用トラックの入り口にあの真っ黒い服の男の人の姿があった。

 彼は上着を脱いで肩に担ぎ、黒ベストに紐ネクタイ姿でこっちへと近づいてきた。

 

「あなたは……お医者様?」

 

 そう、その人は以前、私の前に急に現れてお腹や背中を触った人で、自分でお医者さんだと名乗った。

 そのお医者さんは私の傍へとくると、腰を屈めて私を眺める。

 

「ふむ。かなり鍛えているようだな。これなら勝負になるか?」

 

「なんのことですか?」

 

 一体なんの話をしているのか、私を見てにやりと笑ったフランケンシュタインのようなお医者様。

 私は身を捩って胸を隠しながら後ずさった。

 本当に、この人は何を言っているのか、勝負? 勝負ってなんのこと?

 意味が分からなくて聞いているのに、私の言葉にこたえるつもりは無いようで、周囲をぐるりと見渡し始めた。

 

「勝負ってなんのことですかって聞いているのですけど?」

 

「ふむ……明かりも十分だな……さて……」

 

「ちょっと……私の話を!」

 

 そう言った時だった。

 彼はくるりと私に向き直って、まっすぐ目を見てきた。

 その仕草に思わず身体が強張って固まってしまう。

 

「スペシャルウィーク号。では答えを聞こうか」

 

「え? なに?」

 

 私を見下ろすその人は、微笑みを浮かべたままで射貫くような視線を向けてきた。

 何を聞かれているのか本当に分からなくて、だんだんと怖くなってきていたけど、彼はそんな私に構わずに口を開いた。

 

「答えだ。君はいったい何を選ぶ? 君はいったい何を望む? さあ、答えたまえ」

 

「選ぶ? 望み? え? どういうこと?」

 

 疑問が頭の中を渦巻く中で、なんとなくわたしはこの前この人に聞かれたことを思い出してきていた。

 この人は私に聞いた。私の夢はなんなのかと。

 私はどうしたいのかと。

 そのことを今聞いている?

 そんなこと……。

 夢は……

 あった。

 確かにあったよ。

 でも、こうなってしまっては……もうどうしようもないじゃない!

 彼に問われた内容は何度も何度も私の中で繰り返し考えたことでもあった。

 それなのになんで聞いてくるの?

 次第と私の中で怒りへと代わってきているもやもやを、私は彼へと叩きつけるように吐き出した。

 

「夢なんて……もう叶えられるわけないじゃないですかっ! いい加減にしてくださいっ! もう放っておいて!」

 

 あまりの苦しさに涙が溢れる。

 でも、もうこうとしか私には言えなかった。

 語気を荒げてしまったことを少し後悔しながら、何か怒られてしまうかもしれないとも怯えながら、私は目をぎゅうっと瞑る。

 何もかもが嫌で、すべてをシャットアウトしたかったから。

 でも、彼の次の反応は、私にとってまったくの予想外のものだった。

 

「夢は叶うさ。望んでいる限りはな。私はただ、君の今の望みを君の口から聞きたいだけだ」

 

「そんなこと……」

 

 言ってもなにもいみなんかない……

 そう思っているのは間違いない。でも、私には確かに望みがあった。

 すでに諦めてはいる。考えないようにもしている。

 でも……

 確かに、のぞみはあったから。

 

「わたしは……」

 

 言いながら彼を見上げた。

 男のお医者様は鋭い眼差しでただ私を見据えていた。

 とても怖かった……でも、言うなら今しかないのではないかと……

 そういう思いから、私は思いを声に出していた。

 

「私はもっと走りたい。もっとスズカさんと一緒にいたい。ずっと一緒にいたいです」

 

「そうか」

 

 涙も溢れてしまったそんな私を見つつ、彼はそれだけをポツリと言った。

 そして、首を横に向けて大声を出した。

 

「だそうだ。これで理由ができたな、サイレンススズカ号」

 

「え? す、スズカさん?」

 

 驚いて慌てて立ち上がった私は、黒いお医者様の方を向いた。

 すると、その背後にもうひとつの人影が。

 そこにいる人の姿を私が見間違えるはずがない。

 そこには、スズカさんが立っていた。

 でも、その雰囲気はいつもとまるで違っていて……

 

 彼女は重賞レース用の勝負服に身を包み、怖いくらい張り詰めた緊張感を漂わせながら私を睨んでいた。

 そしてゆっくりと近づいてくる。

 私はそのあまりの気迫に気圧されて、何も喋れないままで立ち尽くしていた。

 私の正面に立ったスズカさん。

 彼女は、私へと言った。

 

「スペちゃん……いえ、スペシャルウィーク。私と一対一の勝負をしなさい」

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