一着フィエールマン、二着グローリーヴェイズ、三着パフォーマプロミス。
ディープインパクト産駒でワンツーフィニッシュと、前評判違わぬ強さに痺れましたね。
特にフィエールマンはラストの直線でもまだまだ身体がしなやかで、他のウマががむしゃら
に走る中、悠々と飛ぶように走っていたことが印象的でした。
フィエールマン、父親譲りのとんでもない末脚を持っていそうで、今後楽しみですよ。なにしろ、史上最少6戦目Vで、G1二つ目ですしね。
本当はこの天皇賞前にこの物語は完結させておくはずだったのですけど、遅れまくりで書けませんでした。なかなか思うようにいきません。
さて、今日でもやもや回が最後です(笑)
で、あと数話、いちゃいちゃが続きましてエンディングですね。
ゴールデンウィーク中に書き上げたいところです。
では、平成最後の投稿、行きまーす!!
「か、彼女がフィラリアに感染? そんなわけないわ。だって、もう完全に治癒していたし……検査でも何も問題はなかったし……」
「そ、そんなところに病巣なんてあるわけない……」
「う、うそ……。それは『肉腫』なの!? まさか、そんなものが筋肉繊維の中に……? え? 子供の頃のフィラリア感染で出来た物?」
「たしかに、ウマ娘の身体は人間に酷似してはいてもまったくの別物で、筋肉の密度は人のそれとはまったく別物だけど……でも、MRI検査でも確認はできなかったのよ? え? 腫瘍はもともとあった? 筋肉密度が濃すぎて腫瘍の判別が出来なかっただけ? それでその腫瘍の干渉によって脊髄にも腫瘍が出来てしまったと、そう言うこうとなの? だったら、あなたはどうしてわかったというの? え? 触診と筋肉の動かし方を見て? え? それだけで!?」
「待って!! 脊髄腫瘍が血管や神経に完全に癒着してしまっているわ! それを全て取り去るなんて無理よ! いったん閉腹してきちんと精密検査を…… ええっ!? このまま続行!? あなたっ! 患者を死なす気!?」
「うそ……な、なんて正確なメス裁きなの……切除後の血管がまるで乳幼児のものみたいに綺麗になっている。こんなの見たことないわ……」
「そんな……こんな短時間で全て切除を終えてしまうなんて……。この子の体内の全てを記憶していたとでもいうの?」
「…………」
「あなたを疑ってしまって悪かったわ。確かにこの腫瘍を放置して悪性化が進んでしまえば、いずれ脊柱神経まで侵されて、半身不随どころか脳もダメージを負っていたかもしれないわね。本当にありがとう。あなたのおかげでスペシャルウィークは救われたわ」
「え? まだ終わりじゃない? 何を言っているの? 今完全に腫瘍は取り去ったじゃない!? え? それだけじゃ約束は果たせない……って、あなたいったい何をする気なの?」
「やめなさいっ! そんなこと絶対に無理よ!」
「え!? そ、そんな方法で……!?」
「…………」
「ああ……か、神よ……。わ、私は今奇跡を目の当たりにしています」
「…………」
「あ、あなたは……いったい……!?」
「本当にごめんなさいスペシャルウィーク。私は危うく貴女のウマ娘としての生涯を壊してしまうところでした。そしてありがとう、ドクター……。私は間違っていました。ウマ娘は所詮人ならざる者……人の都合でどうこうしても構わないと、心の何処かでそう思っていたことを自覚できました。これからは心を入れ替えます。あ、あの……お願いです。どうかあなたのお名前を……」
と、そんな風に数河井芽衣が涙を流して反省しつつ、黒服のドクターに名前を聞いたりしているところで全ての手術が終わり、『手術中』のランプが消えた。
× × ×
長時間の手術が終わり、私はその後退院するまで長い長い入院生活を送ることとなってしまいました。
入院先は良馬繁殖センター……ではなく、トレセン学園そばの総合病院。あのスズカさんが入院していた病院になりました。
最初の頃は、麻酔も効いていたし、痛み止めもよく効いたのであまり気にならなかったのですが、何をするにも本当に痛くなってしまって、ずっと泣いていました。
でも、そんな私の元には、毎日スズカさんが通ってくれて、寝返りもろくに打てない私に、飲み物を飲ませてくれたりとか、手足をさすってくれたりとか、身体を拭いてくれたりとか、本当にいろいろお世話をしてくれました。
あ、でも、スズカさんは学園のことも、レースのことも全然おろそかにしてなんかなくて、今年は負けなしのG1三連勝を達成してしまいましたし。本当に凄い!
実はお母ちゃんも府中に来てくれていて、退院するまで毎日私のお世話をしてくれました。
傷が塞がってからは歩けるようにもなりましたが、数か月ベッドの上での生活だったせいで、足も手も力が入らなくて、まるで他の人の身体みたい。
全力で走れる気が全くしませんでした。
骨折したスズカさんは、もっと酷い絶望感を持っていたのかもしれません。それなのに、完全に復帰してしまったのですから、やっぱりスズカさんは凄いです。
私もリハビリを頑張って少しづつ走り続けました。
大手術であったと聞いていましたが、手術跡が痛むようなこともなく、身体を鍛えていくうちにそこを切ったということが自分でも信じられなくなりました。
ストレッチをしても違和感があるわけでもなく、足を大きく上げても、手術前の感覚に近いような感じ。
次第に身体が元の様に動くようになってくると、スズカさんが並走してトラックで走らせてもくれました。
ただ、かつての様にはまだ走れませんでした。
身体を鍛えているといっても、あの頃の様に常にトップレースを走り込んでいたころに比べれば、衰えてしまっていることは自分が一番良く分かっていましたから。
あのレベルまで回復させるためにはまだまだ練習が必要ですけど、もうレースを走れない私にそこまでモチベーションを高めていくことがやっぱり難しいみたいです。
本気のレースはあのスズカさんとの一騎打ちが最後ということですね。
それが私にとって寂しくもあり、嬉しくもあるのです。
あのレースを走らせた黒いお医者様。
ひょっとしたら、私にこの思い出を残そうとしてのことだったのでは?
上がったウマ娘が、もう二度とレースを走れないことを、あのお医者様は良く分かってくれていたのだと思います。
あのあと、あのお医者様は私たちの前から忽然と消えてしまいました。
手術を終え、担当の数河井先生に後のことを全て任せたそうですけど……
あの手術のあと、色々なことが変わりました。
まず私の種牡ウマ娘としてのお仕事が終わることになって、例の繁殖センター内のお屋敷も引き払うことになりました。
じいやさんは寂しい寂しいと何度も言ってくれました。ほんの少ししか一緒に居なかったのに、そう言って貰えて本当に嬉しかったのですけど。
「今度必ず府中に遊びに行きます、お嬢様!! パチンコの帰りにでも!!」
だ、そうです。
府中には良く出るパチンコ屋さんがあるそうです。
じいやさんってば……
もう一つの変わったこと。それはあの10億円です。
黒いお医者様に治療費として渡したはずのあのお金。実は全額私の信用金庫の口座に振り込まれていました。
だから今私はとんでもないお金持ちです。
数河井先生から聞いた話では、いずれ必要になるから持っていなさいと言っていたとのこと。
最初は何のことか分からなかったのですが、今になってようやく理解できました。
そしてもう一つ変わったこと、それは……
「スぺちゃん。そろそろ行きましょう」
「あ、待ってくださいよぅ、スズカさん」
二人して真っ白なドレスに身を包んで、私とスズカさんはその扉の前に立つ。
そして、ゆっくりと開かれたその扉の先には、たくさんのドレス姿の友達や仲間達の姿。
スピカのみんな、お母ちゃん、トレーナーさん、エルちゃん、グラスちゃん達、先輩たち……
みんなの視線を感じつつ、厳かなオルガンの楽曲に合わせて二人で腕を組んでその『バージンロード』を進む。
その先には優しそうな笑顔の神父さんの姿が。
神父さんの前で二人で誓いの言葉を交わし、それから向き合って熱く熱く抱擁しながらキスをした。
居並ぶみんなの歓声が心地よく耳に響く。
そう……
私とスズカさんは……
今日、結婚した。