「スズカさん、本当にこれで行くんですか? バレちゃいませんか?」
「大丈夫よスぺちゃん。ほら、私も一緒に持ってあげるから」
「あ……す、スズカさんに触られると、また出ちゃいますから」
「それも大丈夫。ちゃんとビニール袋被せてあるからね。安心して」
「あ、出ちゃいます」
そんな会話をしつつ、私とスズカさんは並んで部屋を出た。
廊下を見渡してみるけど、とりあえず今は誰もいない。
私はそれにほっと安堵しつつ、私にぴったり寄り添って立つスズカさんと並んで、『それ』を手にして歩き出した。
『それ』とは当然『ペ〇ス』のことなんだけど、この長いそれを服の内側に隠したところで、服が不自然に盛り上がって怪しいだけだし、またさっきみたいに顔に向かって噴射するに決まっている。
もうあんな臭くてべとべとしたもの顔に被りたくなんかない。
ではどうするか。
スズカさんが提案してくれたのがこれだった。
「あれ? スぺシャルウィークにスズカか? どうした、今日はずいぶんとゆっくりだな、二人とも」
「ふ、フジキセキ先輩」
突然階段から現れたのは寮長でもあるフジキセキ先輩だった。先輩は私達を通せんぼするように腕を組んで仁王立ち。
「こんな時間じゃ学校にはもう間に合わんぞ?」
そう言われても、流石に今朝の今までの出来事を話す気にはならなくて、どうしようか困っていたら、スズカさんが言ってくれた。
「私達はこれからトレーナーさんと約束があるんです。その……今後の進路について……なんですけど」
「進路? ふーん」
フジキセキ先輩は覗き込むように私たちを見た。
背中に嫌な汗が流れたかと思うと、さっきまでビキビキと痛いくらいだったあの棒が、嘘みたいに力が抜けて、手の中で少し柔らかくなっていた。
あれ? これってもう平気なんじゃ……
そう思っていたら、端を掴んでいたスズカさんの手の力が籠って再び棒の先が圧迫。
見る間にまた元通りに。
うう……
スズカさんはそれを握ったままで先輩に言った。
「先輩こそ、こんな時間にどうして寮に?」
「ああ、私は今日から大阪なんだ。だからその準備をしていたんだ。そうそう、さっきから気になっていたんだが、二人とも。その二人が手にしている『長い包』はいったいなんだ?」
「あ、えと……」
フジキセキ先輩が指さしたのは、紛れもなく私の股間から伸びた棒。
でも、今はそれはむき出しにはなっていない。細長い布製の袋にすっぽりと収まっていて、その口をしっかりとひもで締めてある。
そう、この状態であればこれは紛れもなくあれに見えるはず。
「こ、これは……『竹刀』です。トレーナーさんに持ってくるように言われて」
「竹刀?」
「は、はい! 私たちがたるんでいる時に、この竹刀で喝をいれるそうです。いえ、私達を叩いたりではなく、意識的に啓発できるようにということのようで……」
一瞬フジキセキ先輩の眼光が光った様に感じたのは気のせいではないだろう。彼女は明らかに怪しんでいる。
それが解って、私はその『竹刀』に偽装した『ペ〇ス』をスズカ先輩の背中に隠した。
スズカ先輩は絶対大丈夫と言ってくれたけど、この偽装、結局は竹刀袋を頭から被せただけ。
一番根元の部分まで覆ってから、その辺りをひもで縛って、跡は竹刀の柄の部分のようなテーピングした棒を袋に固定しただけのもの。
確かに遠目に見れば、逆さにした竹刀に見えないこともないし、よくカモフラージュできているとも言えるけど、そもそも竹刀って逆さに持たないし、こんな股に挟むような格好、絶対おかしいよね!?
なんでスズカさんがあんなに自信まんまんなのか分からないけど、私もう心臓バクバクで。
そうおもっていたら、またペ〇スが縮んだような気がした。
あれ? また小さくなった? やったこれならスカートに隠せるかも?
スズカさんの背中に隠れたままで、なんとかやり過ごそうと思っていたら、フジキセキ先輩が言った。
「たとえトレーナーの指示でも、竹刀は武器になる。この寮の中では持たせるわけにはいかないな。さあ、渡したまえ」
「い、いえ、結構です。大丈夫です」
そう言いながら、スズカさんの背中がどんと私にぶつかってきて、そのままペ〇スをこすり上げた。
ああ、また……
「大丈夫ではない。それを決めるのは寮長の私だ。さあ、渡しなさい」
「いえ、そういう決まりは無かったと思います。それにこれは……だ、大事なものなんです。いくら先輩でも渡せません」
スズカさんの背中がぐりぐりと私をこすってくる。
あ、あ……
「スズカ……君がそこまで強情だったとは……知らなかったよ。だけど、規則は守ってもらう。危険物は私が預からせてもらう」
「いえ、絶対にだめです。これはたとえ私が罰を受けても渡すことは出来ません。出来ないんです!!」
確かに渡せない。だって身体にくっついているのだもの。
私をかばうスズカさんがまた身体を動かした。今度は上下に……
もう、ダメ……
竹刀袋の先の方が微かに盛り上がったけど、ビニール袋も被せてあるし、フジキセキ先輩には知られなかったみた。
手を広げて通せんぼするようにしているスズカさんの背中に隠れて、ペ〇スを握ったまま後ずさる私。
フジキセキ先輩はそれを見て……
「ふ……、分かったよ。私の降参だ。本当に大事なものなのだろうな、それは。ならば、危険物ではなく、貴重品として所持を認めよう。でもいいかい? 決してそれを人に向けてはならないよ。私は君たちを信じたんだ。だから君たちも決して暴力をふるわないと約束してくれ」
そう言われて、私とスズカさんは大きく頷いた。
「はい約束します」「信じてください」
それに先輩はうんうんと頷いた。
そして言った。
「では、気をつけていきなさい」
にこりと微笑んだフジキセキ先輩に、私達はおおきく頭を下げた。
そのとき竹刀に扮したペ〇スが斜めになって、袋の端から少し中身が漏れてしまったのだけど、慌てて口を締め直して起き上がった。
「じゃあ、私達はこれで」
そう言って立ち去って私とスズカさんは再び竹刀袋を握ったまま小走りに駆けた。
× × ×
「まったく慌ただしい二人だ。ん? スンスン……なんの匂いだ? 栗の花?」