「いや、これはとんでもないモン生やしやがったなぁ」
校舎内の狭い生徒指導室に三人で隠れてから、トレーナーさんの目の前で竹刀の袋と、さらに白いのがタプタプ揺れているビニール袋を外して棒を露出させた。
その作業をスズカさんがしてくれていたのだけど、それだけでもうドキドキが激しくなってしまって、目の前の棒は更にガチガチになって腫れ上がる。
っていうか、これトレーナーさんに見せて本当に大丈夫だったのかな? 今更になって怖くなってきた。
スズカさんは不安げな顔のままでトレーナーさんに言ってくれた。
「あの……スぺちゃんは大丈夫でしょうか? これ、なんだか、とっても痛そうですし、その……これじゃあ普通に生活するのも大変そうですし…… 走れ……ないかもですし……」
「え……」
走れない。
悲しそうなスズカさんのその言葉で漸く思い至る。
そう、走れない。
こんなものがあったら、気にもなるし、邪魔だし、とてもじゃないけど今までみたいに走ることなんかできない。
それじゃあ、私、もうスズカさんと一緒に走ることは……
一緒にいられない。
そ、そんなあぁ。
愕然となって目の前が真っ暗になった気がしたけど、すぐにスズカさんが私を抱きしめてくれた。
「スぺちゃん。安心して。今度は私が付いて居てあげるから。走れなくなった私をまた走らせてくれたのはスぺちゃんだもの、だから今度は私がスぺちゃんを助けるから」
「す、スズカさん……」
優しく微笑んでくれるスズカさんの言葉が本当に嬉しくて涙が溢れる。
と、同時にスズカさんの胸にまたあの棒が挟まれて、感動とは別に快感も昇ってきてしまう。
あ、出そう……
少し身体をスズカさんから離して、必死に頭の中を邪な思いを払う。暫くそうしていたら大分気持ちが治まってきて、でも最初に昂ぶった分の少しだけが棒の先から噴出した。
ほ……少しだけで良かった。
と安心したのもつかの間、その白い液は、トレーナーさんの頭に。
「あ、ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
謝る私を手で制したトレーナーさんは、ハンカチを取り出してそれを拭った。
それから椅子に深く腰を掛けて大きく伸びをした。
「まさかスぺが最初に『上がる』ことになっちまうとはなぁ。これは流石に予想外だった」
「上がる……」
その言葉の意味することを私はもう知っている。それは引退するということ。つまりやっぱり私はもうレースには出られないということ。そういうことなんだ。
また涙が出そうになったところで、スズカさんが聞いてくれた。
「トレーナーさん、あの。このスぺちゃんに生えた物って、『ペ〇ス』ですよね」
それにトレーナーさんは小さく頷いた。
「ああ、そうだ。ペ〇スだ。所謂男性器という奴だな。レースレースで俺もお前らにきちんと説明してこなかったし、そもそもウマ娘へのその類の教育は各ファームの方が専門だからな、ここまで碌な知識を与えてやらなかったんだから困惑しても仕方がない。悪かったな」
そう頭を下げる。
「いえ……トレーナーさんは悪くないです。でも、これって、『普通』のことなんですよね。特に問題はないんですよね? また、走れますよね?」
「スぺちゃん」
矢継ぎ早に問いかけた私の目を、トレーナーさんは穏やかな瞳で見つめていた。
そして、口を開いた。
「問題は……ある。今まで通りとはいかない。それに一度上がったウマ娘は、もうレースで走ることは出来ない。そういう決まりなんだ」
「そ、そんな……」
私が何も言えないまま泣きそうになっていたところで、私の前にスズカさんが身を乗り出した。
「それは納得いきません! スぺちゃんはこんなに頑張ったじゃないですか。それなのに、なんでですか? なんで走ってはダメなんですか? そんなの……あんまりです!!」
「スズカさん……」
私より先に叫びながら泣き出してしまったスズカさん。私はそんなスズカさんにそっと触れて、静かに泣いた。
私のことを思って泣いてくれていることが素直に嬉しくて。
「おいおい、待てよ二人とも。少し落ち着け、いまきちんと説明してやるから。確かに今まで通りではないけどな、これは嬉しいことでもあるんだ?」
「嬉しい事?」
それがどうしてなのか、この大きなペ〇スが生えたことのどこが嬉しいことなのか、全く想像はできなかった。
トレーナーさんが椅子に座る様に手招きする。
それを見て、私とスズカさんは手近なパイプ椅子へと腰を下ろした。
けど、私の方はペ〇スが金属製の机にぶつかって上手く座れない。
それを見かねたスズカさんが私のペニスの先の方を持って、自分の方へとかたむけてくれた。
そのままニコリと泣き笑い。
スズカさん。嬉しいです。
「…………う、うーむ。あまり健全な絵面ではないが……まあ、気にするのは止しておこう。野暮だしな。さて、では……」
トレーナーさんはこの指導室の一角にある、書棚へと向かうと、そこから一冊の本を選んで持ってきた。
それから、ペラペラとページを送って、ある一ページを開くと私たちの前へと差し出した。
そこに書かれていたものは……
「いいか、スぺ。GIを何度も制してきたお前は、全国のファームからすでにかなり注目されていてな、『上がる』日を誰もが待ちわびているんだ。それはスズカも他のみんなも同じなんだが、お前は少し早めに『卒業』して次の道へと進むというだけのことなんだ。なあ、スぺ。お前は納得していないかもしれないが、俺はお前は日本一と言ってもいい結果をレースで何度も残したと思っている。だから俺は言いたい。お前はこれから目指すんだ、第二の日本一を。日本一の種牡ウマ娘を! 日本一の種ウマ娘をぉぉぉぉ!」
バキリと加えていたキャンディーを噛み砕いたトレーナーさんは、拳を握り込んでそう叫ぶ。
それを見ながら、スズカさんと私の二人は、聞きなれない言葉を繰り返しただけだった。
「シュボウマムスメ?」
「タネウマムスメ?」
「「はい?」」