【完結】ディファレント・ビブロフィリア   作:ユウマ@

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小鈴を書くの初めてダァ…大目に見て…


ディファレント・ビブロフィリア

「よい、しょっと…」

人里に居を構える店、鈴奈庵。その唯一の店員と呼べる私、本居小鈴は、今日も今日とて店の裏で本の整理に追われていた。

この鈴奈庵は主に外の世界の本を扱う貸本屋。中には私も読めないような本もあるけれど、大抵の本はこちらと文字に差は無いから読むのに苦はない。

そして、此処では外の世界の本の他にも、珍しい本を取り扱っている。

 

 

「これ…私の他に読める人居ないのかなぁ…」

 

私が手に持つのは1冊の本、だがただの本では無い。

 

 

妖魔本と、呼んでいる本だ。

 

 

いわく、この本は“昔の妖怪が書いた本”の様で、中には実際に妖怪が眠っているものもあるんだとか。ただ、妖魔本を読む事が出来るものは少ないらしい。

 

ーー私も、その読める数少ない人間なのよね。

 

いつからか、私はこの不思議な本を読めるようになっていた。そしてその存在に惹かれて今では数冊の妖魔本を店に置き、更に集める事も目的ではある。

 

 

「どうせ大半の人は読めないから、盗まれたりも無いしね…。っと?」

 

 

お店の方から、戸の開く音がした。普段はそこまで客入りは良くないし、ましてやこの時間帯にお客が来ることは珍しいのだけど。

 

 

「すいませーん…」

 

透き通るような、どこか困惑した様な女性の声が聞こえる。さて、少なくとも私が憶えている限り、この様な声のお客は来たことはない。

新しく本に興味を持った人か、あるいは時たま幻想郷に迷い込むらしい“外来人”とやらか。後者なら私の知らない外の世界の本を知っているかもしれない。早速格好を整えて店の方へと出ていく。

 

 

 

 

「はーい、いらっしゃいま…せ…?」

 

 

入り口に立っていたのは、やや身長の高い女性だった。だが、人里でよくみる様な女性の姿ではない。

 

入り口から微かに入り込む日光を反射する金色の髪、簡単には形容しがたい、紫を基調としたふんわりした格好に、同じ色の手提げ。何より目を引いたのは、女性の綺麗な紫色の瞳だった。

吸い込まれる様な瞳。髪の色と合わさって、どことなく人形の様な気さえする。

 

 

「あの、すいませーん…?」

 

ぼーっと突っ立っていた私に女性が困り顔で歩み寄る。そこでようやく私は我に返り、取り繕う様に笑ってみせた。

 

「あ、ご、ごめんなさい!初めてみるお客さんだったので…」

「そ、そうですか…」

 

まだ困り顔のまま、女性も曖昧に笑いかけてくる。けどその顔は、すぐにまた困り顔に戻ってしまう。

 

 

「ところで、お客様って…此処はお店、なんですか?」

 

女性が首を傾げる。やはり初めてのお客さんの様だ。格好からして外来人のようだし、こういったお店は馴染みが無いのかも知れない。ならば唯一の店員として、この店や本の事を印象に残して貰わねば。

 

私は勘定を行う机に置いてあった眼鏡をかけて、女性に向き直った。

 

 

 

 

 

 

「はい。ここは鈴奈庵。幻想郷唯一の、貸本屋です」

 

 

 

 

 

 

 

「鈴奈庵…幻想郷……?」

 

女性はいまいちピンと来ていない様子だった。

 

「ええっと…ほ、本を貸す場所です。他にも買ったりとか…」

 

我ながら語彙力が乏しい。あいにく私は友人と違って説明はあまり得意ではない。だが女性が悩んでいるのは、この店の事では無い様だった。

 

 

「幻想郷…?でもこの景色は以前…此処が“見えた”所なの…?」

「お、お客さん?」

 

私の声に、女性はハッとなって顔を上げた。

 

「…お客さん、もしかして此処に来たばっかりだったり?」

「…ええ。目が覚めたらこのお店の目の前に立っていて…」

「…目覚めたら?うちの前に?」

 

それは随分と珍妙な話だ。外来人の中にはそんなケースで迷う人もいるのだろうか。首を傾げる私に、女性は慌てたように手を振ってみせた。

 

「ああ、けどここが気になって入ったので…。それにここ、本が置いてあるんですよね?」

「はい、こっちの本も外の世界の本も、割と幅広く扱ってますよ」

「じゃあ…少し、ここで本を読ませてくれませんか?」

「ええもちろん。気に入った本があれば貸し出しますよ」

女性がなぜ目覚めて此処の前に居たのかも気にはなるけど、当の本人はさして気にしている様子も無いし、彼女にとって驚くようなことでも無いのかもしれない。何より幻想郷では常識破りの事はたびたび起こるのだ、振り回されるより本を勧める方が合っている。

加えて今日はいつもより里が静かだ。元々騒ぐようなお客も来ないため、読書するのは歓迎だ。

 

「じゃあ、少しの間。えーっと…店員さん」

「あ、私は本居小鈴です。小鈴で良いですよ」

 

「小鈴さん…ですか。私は…マエリベリー・ハーンです」

「…ま、まえ?」

「あ、大体メリーって呼ばれてるんで、そう呼んでください」

 

なんとも覚えにくい名前だ。私では舌が回りそうに無い。

 

「ええっと…じゃあメリーさん、よろしくお願いします」

「はい。よろしくお願いします、小鈴さん」

 

 

こうして、私と彼女…メリーさんの、束の間の暇つぶしが始まった。

 

 

 

「へぇ…昔の本とかこんなに沢山あるのね…」

「外の世界の本を扱ってるのはココだけですからね。メリーさんも本がお好きなんですか?」

「ん、そうね。と言っても、私達の時代だともう紙で読む事自体が減っちゃったかな」

「?紙の本以外に本があるんですか?」

 

紙以外の素材で本が作れるのだろうか。そんな私の疑問はメリーさんが手提げから取り出した物体によって解消された。

 

「コレで読めるんだけどね」

「ううん…見たことないです…」

 

見た感じはただの黒い箱の様にしか見えない物体。以前に香霖堂で似たようなものを見た気がするが、あっちは折りたたむ感じのものだった。確かケイタイと言ったかな?

 

眉を寄せる私の前で、メリーさんが何やら箱を操作して。不意にそれを私へと手渡した。

 

「ええと…わ、すごい!」

 

そこに映し出されていたのは、うちで扱っている本と同じ表紙。メリーさんに言われるまま指を横に滑らせると、表紙は消えて今度は目次が映し出された。

 

「コレで、どんな本でも読めるんですか⁉︎」

「どんな本でも、とは言わないけれど…。昔に出た本なんかは手に入りにくいから、こうしてどこでも読める電子書籍が一般的ね」

 

でんししょせき、とはまた聞きなれない単語だ。外の世界はそれだけ発達しているのだろうか、と羨ましく思うと共に、同時に少し悲しくもなる。

 

「じゃあここに昔の本が流れてくるのは、その“でんししょせき”と言うのが主流だからですかね…」

「…?確かにここは珍しい本が多いけど…」

 

 

「ここ…幻想郷では、たまに外の世界、メリーさんの居た世界の物が流れてくるんです。でもそれは、殆どが“外の世界で忘れられた”物ですから…こうして私がお店をやれると言う事は、その分多くの紙の本がそっちで忘れられてるんだなって……」

 

「うーん…でも、外の世界にもここ…鈴奈庵だったかしら?似た場所はあるのよ。多くの本が集まった場所がね」

「だからその分、昔の本はここに流れてきて。ここでもまた本を集めた場所が出来ていく。それは良い事だと、私は思うかな」

 

そんな、ものだろうか。確かにこの箱の方がどこでも読めて手軽だろうけど、やっぱり幻想郷に生きる私には紙の方が合っている様に思う。

 

「と、とにかくコレ、ありがとうございました…って」

 

手に持ったままの箱をメリーさんに返そうとして。メリーさんは私の前からいつの間にか居なくなっていた。

慌てて辺りを見回すと、先程とは別の本棚の前で1冊の本を手にとって眉を寄せていた。

 

「どうかしました?」

「…この本…境界が…?でも、中身が」

 

またも、メリーさんは1人で何やら呟いている。その手にあるのは。

 

鈴奈庵にある数少ない、妖魔本の1つだった。

 

 

「貴女も、妖魔本に興味があるのですか?」

「妖…魔本?」

 

私はメリーさんに妖魔本の事をざっくりと説明した。昔の妖怪が書いた本、なんて外の世界では信じられないものの筈だが、メリーさんにさして驚きは見られなかった。それどころか、どこか興味ある様子で妖魔本を開いていた。

 

「うーん…何書いてるか分からないわね…」

 

やはりメリーさんも読めないようで、ページをめくっては首を傾げていた。と、不意にその手が止まった。

 

「これ…」

「何かありましたか?」

 

彼女の持つ本を後ろから背伸びをして覗き込む。そこには文字ではなく何らかの妖怪であろう絵が描かれていた。

 

「こんな絵もあるのね…」

「絵も多少霞んでるせいで何の妖怪かは分からないんですけどね。それに妖怪なら、もっと詳しく書かれている本がありますよ」

「あら、それは気になるわね」

 

ちょっと待ってください、と私は別の本棚へ向かう。確か借りられてはいなかった筈だけど。

 

「あったあった、と」

 

やや厚みのある本を手に、メリーさんの元へと戻る。私から本を受け取った彼女は、恐らく見たことが無いであろう本を前に目を瞬かせた。

 

 

 

 

「えっとなになに…『幻想郷縁起』?」

 

 

 

「はい!この本はですね、幻想郷の妖怪の事が殆ど事細かに書いてある、最強の1冊とも言えるものなんですよ!」

 

その著者は何を隠そう私の知り合い…というか、幻想郷ではある意味有名人なのだけど。

 

「少し、読ませて貰ってもいい?」

「はい、もちろん」

 

本を手渡す。同時に私に向けて、例の黒い箱が差し出された。

 

「もし良かったらだけど…多分、貴女の知らないものもいくつかある筈だから」

「あ、ありがとうございます!」

 

操作法を教わり、早速読み物を探してみる。彼女の言った通り、私の知らないようなモノがいくつもあって。

 

 

興味のまま、私は映し出された文に目を通し始めて。彼女も同じタイミングで本を開いて。

 

 

 

それぞれの時間が、流れ始めた。

 

 

 

 

 

ーーそして、どれくらい経っただろう。

1つの本(本と呼べるか不明だけど)を読み終えた時には、もう普段お客の多い時間帯になっていた。

 

「いけない、接客接客……?」

 

でも、お店の中にお客の姿は見えない。見えるのは、座って本を読み進めるメリーさんの姿だけだった。

 

「あ、すいません。ちょっと夢中で読んじゃって…」

 

私の視線に気付いたのか、メリーさんが困り笑いで頭を下げてくる。その後すぐに、本を手に私のところまでやって来た。

 

 

「えっと…ここのお店って、本を買う事も出来るんでしたっけ」

「あ、はい。そちらを?」

 

メリーさんの手には、さっき渡した幻想郷縁起があった。幻想郷では割と持っている人は多くてわざわざ借りに来る人の方が珍しいから、売っても構わないだろう。

私の返事に安心したようにメリーさんは手提げを開いて。そこでハッとしたように固まった。

 

「?」

「えっと…ここ、お金は……」

「あっ…」

 

もしかしたら外の世界ではお金関係も変わっているのだろうか。メリーさんに手持ちのお金を見せてもらうと、案の定全く見たことのないお金が使われていた。

 

「ううん…ここの通貨なんて持っていないし…」

 

2人で困り顔をしてしばし沈黙。とは言えこっちとしてもお代を貰わねば売ることは出来ないし…。

 

「…あっ」

「え?」

 

ふと、思いついた。正直可能性は薄いけど、外から来た人ならば、或いは。

 

「なら、今何か、私の持ってないような本を、持ってませんか?」

「本…?」

「はい、うちは貸本屋ですから。本と本で物々交換を、と思ったんですが…」

「ううん…本持ってたかなぁ」

 

 

メリーさんが困り顔のまま手提げを覗き込む。私も思いつきで言っただけで、期待はしていなかった。けど、彼女は不意に「あっ」と呟いて、中から1冊の本を取り出した。

 

 

「あ、それ…」

「そういえば、確か買ったのを忘れてまた買ったんだっけ…。これなら、交換出来ますか?」

「もちろんです!」

 

 

差し出されたのは私の見たことの無い本。これなら大歓迎だ。早速本を受け取って、代わりに幻想郷縁起を渡す。

 

「ふう、良かった…あふ」

安心したのか、メリーさんが小さく欠伸をする。それが私にも移ったようで、つられて私も欠伸が出る。

 

「ふぁ…私も新しい本が手に入ったから、お互い様ですよ」

「そうかもね…っと、私はそろそろ行かないと」

「あ、でも外の世界には神社に行かないと…」

 

神社の霊夢さんに頼む以外に、確か幻想郷から出る方法は無いはずだ。だがメリーさんは、微笑んで踵を返して歩き出す。

 

「帰るのは、大丈夫です。一応、来たのは初めてじゃないので」

「初めてじゃない…?」

 

どういう事だろうか。けどそれを聞く気は、不思議と起こらなかった。

 

「まぁ、大丈夫なら良かったです。是非また、ウチに寄ってくださいね?」

「ええ。その時は、また新しい本でも持ってきますね」

 

 

そして、互いに笑って。

 

「じゃあ、お邪魔しました」

「はい、ありがとうございました」

 

 

外から訪れた不思議な少女は、鈴奈庵から立ち去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「小鈴ー?聞いてるー?」

「聞いてるわよ。名前どうこうって話でしょ?」

 

メリーさんが訪れた数日後。私はいつも通り、勘定の机で本を読みながら友達の話し相手をしていた。

読んでいるのは、メリーさんから貰った本。ミステリー物らしい本は今まで読んだ事が少なかったので新鮮で、やはり交換して良かったと思えた。

そして私に話しかけているのは友達にしてメリーさんにあげた本、“幻想郷縁起”の著者、稗田阿求だ。彼女は数日前から作家になりたいなどと言い始め、何か文を書いては私に感想を求めてくるのだ。もっとも今日はその件では無く、作家になった際のペンネームに関しての相談だったけど。

 

「だからねー、もっと良い名前が思いつかないかなーって考えてるんだけどね」

「自分じゃ思いつかないから相談に来たんでしょ。文章は思いつくのに名前は思いつかないの?」

 

とはいえ私もそんなに思いつきが良い方ではない。うんうん唸っていると、不意に阿求が私の手元の本を覗いてきた。

 

「何これ?見たことない本ね」

「これはねー、外来人の女の人がうちの本と交換でくれた物なのよ。ミステリー物で面白いわよ」

「ミステリー…良いわね。私も書いてみたいわー。でも、そのタイトルはあんまりじゃない?」

 

どこか呆れた様子で本の表紙を指差してくる。本の題名は『そして誰もいなくなった』。私としては内容を読んでいる分違和感はないし、むしろしっくり来るとも思うけども、阿求曰くもっとひねったタイトルが良いんだとか。

 

「そう言うなら私も後で読みたいから借りてくわ。それより今は名前よ名前」

「そう言われても…」

 

真剣に悩んでいる阿求を横目に、何か案はないものかと本を両手で弄ぶ。ふと、この本の著者が目に入った。

 

「ねえ阿求」

「何?何か思いついた?」

「うん。いっそ著者の名前をちょっと変えるのもアリじゃない?この本は外の世界の本だから変える前の名前なんて分かる人も居ないだろうし」

「それもアリね…何か名前本体の案もあるの?」

 

そこまで要求されるとは思ってなかった。少し悩みかけるが、良い名前の案は直ぐに出てきた。

 

 

 

 

「ん。この本、著者は“アガサ・クリスティ”って言うらしいから…。阿求が書くなら、それこそシンプルに、

 

“アガサクリスQ” 、なんてのが良いんじゃない?」

 

 

 

 

 

 

 

それから暫くして、私の名前を採用した阿求は作家として活動を始め、“アガサクリスQ”の名前は広まっていった。

その本を取り扱うウチもお客は以前に比べて格段に増え、忙しさも段違いになった。

それでも私はいつも通りお店で本を読んでいる。最近読む本がもっぱらミステリーが多いのも影響の1つだろうか。

 

 

「でも、まさかこんなにお客が増えるなんて思わなかったなー」

 

 

メリーさんと交換した、たった1冊の本。そしてその名前を改変して考えただけでこうも注目が集まるなんて、さっぱり思ってもいなかった。

 

 

「メリーさんが聞いたら驚くかなぁ」

 

彼女は今どこにいるのだろう。帰れると言っていたから、今頃外の世界にいるのかもしれない。だとしたら、再びここにやって来る事なんて、無いと言って良いほど珍しい事だろう。

でも、彼女は言っていたから。また新しい本を持って来ると、言っていたから。

だから私も、彼女が来てくれたら、この事を話そう。1冊の本から発展したこの事を話して、また一緒に本を読みたい。

 

 

だから私はいつも通り今日もいつも通り、本を読んで店を営む。

そこに来るのは、常連さんかもしれないし、新しい人かもしれない。友達が来ることもあるだろうし、もしかしたらあの人も…来てくれるかもしれない。

 

 

そんな思いを胸に、私は店に訪れた人にいつも通り挨拶をするのだ。

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませ、どんな本をお探しですか?」

 

 

 

 

 

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