【完結】ディファレント・ビブロフィリア   作:ユウマ@

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リライト・ビブロフィリア

「……例の異邦人に会いたい、ですって?」

私の言葉に、目の前の女性…八雲紫が眉をひそめる。

私こと本居小鈴は、妖怪の賢者たるこの妖怪に、幻想郷の外へと出る許しを得ようとしていた。全ては彼女の言った通り、異邦人ーーメリーさんにもう一度会う為に。

 

以前にほんの短い時間鈴奈庵で会っただけの彼女に、何故こうも会いたがっているのかは、正直自分でもよく分かってはいない。

けれど、私はこんなに人に会いたいと思うのは初めてで。その理由を確かめたいというのも、理由の1つだ。

そして頼み込むことしばし。彼女はようやく、私に外へ至る許可を出してくれた。

 

 

「…良いわ。貴女がそこまで言うのは珍しいし、その異邦人の居場所も見当はついている。直ぐにでもスキマで渡る事もできる」

 

ただし、とその顔を真剣なものにさせて、

 

 

 

「条件があるわ。私が貴女を送るのは1度だけ、そして異邦人と会ったとしても、私達…。妖怪や幻想郷、それに自身の能力など、此方側に通じるものの一切を話す事を禁じます。それが守れるのなら、明日彼女の元へ送りましょう」

 

 

此方側に通じるものの一切を。それはつまり、鈴奈庵や私に関する事すらも、だろうか。阿求の言うところでは彼女は幻想郷を乱すものに一切の容赦はしないと言う。下手に口を滑らせれば私も、メリーさんの身も危険だ。

だが彼女には以前、幻想郷縁起を渡してしまった。この世界の事についても興味があるようだったし、私はそれを否定したくは無いのだ。

 

 

 

 

「…分かりました。その条件、守ります」

 

 

だが守らなければ、会えない。私は首を縦に振り、それを見た八雲紫はどこか意味深な笑みを浮かべて去っていった。

気配が遠ざかる。それを待って私は、そっと筆を執った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♣︎

 

翌日。私はスキマを経由して、メリーさんが居るという“京都”なる場所へ向かっていた。隣にはスキマを作り出した張本人もいる。

 

「昨日の条件は覚えているわね?」

「はい…。けど此方側に通じるものって、何処まで話してはいけないんですか?」

「ほぼ全て、と言えるでしょうね。以前…鈴奈庵に異邦人が現れる直前、博麗大結界に未知の“揺らぎ”がしたの。彼女がどういった形で迷い込んだのかは分からないけど、私が確かめる前に既に幻想郷から消えていた…そんな不可解な存在を幻想郷に近づける訳にはいかないの。貴女個人の事を話すのも駄目よ。どんな情報から近づいてくるか分からないから」

 

 

……これほどまでに警戒する必要があるのだろうか。それに私のことすら話してはいけないとなったら、会ったとしても何を話せばいいんだろうか。ぼけっと考えながら歩いていると、不意に横から箱のような物が手渡された。コレは確かメリーさんも持っていた物だ。

 

 

「外の世界の携帯…通信機みたいなものね。タイマーをセットしておいたから、その時間に迎えに来ます、場所はその時の居場所で決めるわ。他にもカメラとかの機能があるから、それは好きに使ってもらって構わないわ」

 

記憶を頼りに操作すると、夕方辺りの時間にタイマーがセットされていた。現在の時刻はお昼より前。会って話をするには十分すぎる時間だ。

そのまま無言でスキマの中の形容しがたい空間を歩む。程なく出口か、行きと同じ裂け目が開いていた。

 

「この先を行けば彼女が居るわ。後は貴女の好きになさい、迎えの時はその携帯に連絡するわ」

 

 

この先を進めば、メリーさんに会える。1つ頭を下げて、私は出口へと走り、裂け目から飛び出した。

 

 

 

 

そんな私を出迎えたのは、眩しく光る太陽と、それに並ばんと大きな建物が並び立つ圧巻の光景だった。

 

 

「此処が京都…メリーさんの居る所…」

 

周囲には人里の服とは全く違う、西洋感の多めな服装をした人が忙しなく行き交っている。その数も広さも、里とは比べ物にならない程だ。なんだか急に自分の服装が浮いているような気がして、足早に近くに見える屋根付きのベンチに腰を下ろす。

 

 

「うう…メリーさん、何処にいるんだろう…」

 

見渡す限り人、人、人。見る限り姿は無いが、だからといって闇雲に探して迷子になっては本末転倒だ。そもそもあの妖怪がこの先に居ると言ったではないか。

 

取り敢えず軽く周りを探すだけなら良いかな、と立とうとした私の前に、ふっと影が降りた。

 

 

 

 

 

「小鈴…さん?どうして此処に…?」

「め、メリーさん…!」

 

 

 

以前と同じ格好にやや大きめの鞄。小首を傾げるメリーさんが、私の眼前に立っていた。

 

 

 

 

「ええっとその、どんな所なんだろうと見に来たんですけど、迷っちゃって……」

 

 

 

言い訳が苦しい。そも彼女は私が別世界同然の所に住んでいる事はとうに把握している筈だ。

それでも、メリーさんは軽く微笑んで私に手を差し出した。

 

 

「観光ね…この辺りはあんまり見るものは多くないけど、良ければ案内しましょうか?」

「え…良いんですか?」

「ええ。もう今日は講義も無いし、サークル活動も無いしね」

 

 

サークルというのが何かはわからないが、とにかくコレはチャンスだ。メリーさんと一緒に行動すれば、会いたがった理由も分かるかもしれない。私は頷いてメリーさんの手をとった。

 

 

「…はい!是非、お願いします!」

「ん。じゃあここだと…京都タワーかしら」

 

 

メリーさんの後について、私は見知らぬ街を歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁ…高い…」

 

 

しばらく歩いた私達の前に建っているのは、今まで見たものより更に高い建物。私は妖怪の山を登った事は無いけど、それに負けずとも劣らない位には高いんじゃ無いだろうか。

 

 

「ここは一応京都のシンボルみたいな所だから。それなりの高さが必要なのかもね。じゃ、入りましょう」

 

中に入る事も出来るらしい。

中に入ると、メリーさんは慣れた様子で扉のようなものに近寄って近くのボタンを押した。すぐに扉が開かれ中の空間が露わになる。

中に入るメリーさんに私も続く。入ると同時に扉が閉まり、低めの音が鳴り響いた。

同時に、ごく軽めの浮遊感。メリーさんが背後を指差している。振り向くと、そこにはさっきまで私達がいた場所がどんどん遠ざかっていく光景があった。

 

 

「すごい…」

 

まるで空を飛ぶような感覚。飛べる妖怪達はこんな景色をいつも見ているのかな、なんて思っているうちに、上昇が止まる。随分地面から離れてしまったところで扉が開き、好奇心のまま外に出る。

そこは見た限り、土産物やらの店のような場所が沢山あって、一箇所だけポツリと機械のようなものが置かれるエリアだった。確か天狗か何かがぶら下げていた、双眼鏡というものだったか。

 

「双眼鏡から覗くのもいいけど…折角だしカフェから眺めてみましょうか」

 

言うなりメリーさんは店の1つに歩いていく。湯気の立つカップのようなマークがあるから茶屋の様な場所だろう。

 

 

 

「いらっしゃいませー」

 

 

中も人里では見ない、どちらかと言えば吸血鬼の館のような洋風だった。もっともあそこのように目に悪い赤ではなく、落ち着いた色だけど。

メリーさんと一緒に端の席に座り、メニュー表を開く。

…見た限り知らないものがほとんどだし、何より緑茶らしいものが見当たらない。

うんうん悩んでいると、メリーさんが困ったようにメニューの1つを指差した。

 

「ううん、迷ってるならこのティーセットがおススメだけど…やっぱり知らない?」

「知らないです…ティーセットって何が出てくるんですか?」

「紅茶とケーキね。ケーキとかもあるかは分からないけど…」

 

聞いたことがある気もするしない気もする。ただ紅茶ならばたまに里に出回るのを飲んだことがあるので大丈夫だろう。店員さんを呼び2人で同じものを注文する。

店員が去るのを待って、メリーさんは少しだけ興味のある感じの声で聞いてきた。

 

 

「こっちに来たって言うけど、どうやって来たの?どうもこっちとは全く違う感じの場所だったけど…」

 

言葉に詰まる。スキマ…なんて言葉は使えないし、そも八雲紫に此方側の事は口止めされているのを思い出す。

 

「ええっと、出入りは割と簡単に出来るので…。メリーさんこそ、この間はどうやって帰ったんですか?目が覚めたら立ってたって言ってましたけど…」

「私はんー…眠くなって寝て起きたら、としか言えないのよねぇ…貴女に貰った本はちゃんと鞄に入ってたし、こうして貴女がここにいるって事は夢でもないのよね…」

 

何かしら思うところはあるのか、メリーさんも首を傾げて軽く唸っている。

 

「メリーさんは、初めてじゃ無いんですか?幻想郷に来るのって…」

「何回か行った事はあるわ。全部同じような感じで軽く見た程度だったけど、こうして本を見たりするともっとじっくり見るべきだったなぁとか、思うわね」

「そう、ですか」

「行こうと思えば行けない事も無いだろうから、またひょっこり現れるかもしれないけどね」

「それは…!」

 

 

それは私としては困る。口止めされた事は話していないが、もしメリーさんがある程度自由に幻想郷に行き来出来るとしたら、間違いなくいずれ八雲紫に見つかってしまう。

そうなれば彼女がメリーさんをどうするかなど、分かりきった事だ。

此方にとって脅威になりうるものは排除する。あの警戒具合からして、メリーさんもきっと。

 

 

「えっと…幻想郷に来るのは、出来ればもう控えた方が良いと思うんです」

「え?」

「貴女に渡した本…幻想郷縁起にも書いてあるように、妖怪は危険な存在です。高位の妖怪はある程度親交もありますが、低級妖怪なんかは一歩里を出れば襲われかねません。この前、メリーさんは気づいたらウチの前にいたと言ってましたよね。もしそれで、妖怪の目の前になんて居たら……」

 

 

続けようとした所で、お皿が運ばれてくる。湯気の立つ紅茶と、イチゴの乗ったデザートのような物が一緒に載っている。

 

 

「あ、来た来た。それでうーん…何度か行った事はあるけど、特に襲われたりはしなかったし、どうにかなるわよ。それに、幻想郷には妖怪を退治する人だっているんでしょう?」

「いるにはいますけど…」

おそらく霊夢さんの事を言っているのだと思うが、あの人は基本ものぐさで自分から動く事は無いし…けどそれを言ったところで今の私ではメリーさんを丸め込む事は出来そうにない。

 

 

 

「とりあえず、紅茶が冷めないうちにいただきましょう?」

「そう、ですね」

 

 

少しの心残りを感じながら、私は目の前に置かれた甘味と向き合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、美味しかった…」

「それは何よりだわ」

 

 

ここの紅茶は里で出回ってるものより数段味が上品な感じだった。ケーキの方は甘さが強かったけどイチゴの酸味や紅茶と良くあっていて、なるほど考えられたメニューだなと思う。手軽な値段なのも良い所だ。

 

「さて、次は何処に行こうかな…小鈴さんは時間大丈夫なの?」

「はい、まだまだ余裕はあります」

 

 

セットされた時間まであと数時間、この街は相当広いが迎えの場所はおって連絡するらしいから多少遠くに行っても問題あるまい。メリーさんが立ち上がるのに合わせて立ち上がろうとして。勢いあまって、持っていた手提げを落としてしまった。中身が床に飛び散る。

 

 

「あわわ、すみません…!」

 

 

慌てて拾い集める。もっとも大したものは入っていないのだけど。携帯にこの世界での通貨、それから…1つ、封筒があるだけだ。

立ち上がる私を一目見て、メリーさんは思いついたとばかりに手を合わせた。

 

 

「そうそう、最近この近くに図書館が出来たの。良かったら行ってみない?」

「図書館!ぜひ行きたいです!」

 

 

ウチにある本はあらかた読んでしまったし、これほどの街の図書館というなら、相当量の本があるだろう。ならば読まないと言う選択肢は無かった。

きっと輝いているであろう私の表情に、メリーさんは笑って。2人でその図書館を目指して歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

辿り着いた図書館は、私が見た何処よりも広い建物だった。霧の湖の所の屋敷にある図書館より大きいのではなかろうか、というより確実に大きい。

大量の本棚とそこに所狭しと並べられた無数の本。手続きさえすれば好きに借りられるというのだから、私のような本好きにとってはたまらない所だろう。もっとも私が借りるわけにはいかないけど。

 

 

「ここの本全部読むのにどれくらいかかるんですかね…」

「少なくとも生きてるうちに読み切るのは不可能でしょうね。あ、妖怪とかだと別でしょうけど」

 

 

そんな事を言いながらメリーさんはミステリの棚からいくつか抜き取っている。いわく中に読めるスペースがあるようで、ならばと私も気になったものを手に取る。迷ったりしたら返すのが大変そうだけど、今まで見てきたような技術力でどうにかなるだろう。

 

 

席に着き、本を開く。見れば対面に座るメリーさんは、本の他に紙とペンを置いて何やら書いているようだ。

私の手にあるのは以前メリーさんに貰った本と同じ作者、クリスティの本とその他気になったミステリ数冊。読み切る事は出来ないだろうが、気になったから持ってきてしまった。まぁなるべく読んでみることにしよう。

ページをめくり、活字に目を滑らせる。未知の物語の世界に、そのままに入り込んでいくーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー不意に、電子音が鳴った。

 

「あ…」

机に置いておいた携帯。そこから音は鳴っている。

それの意味するところは、つまり。

外を見ればいつの間に時間が経っていたのか、もうすっかり暗くなり始めていた。

 

 

「小鈴さん?何かありました?」

 

紙もペンもしまったのか、読書をしていたメリーさんが訪ねてくる。私は少し口ごもって、それから告げた。

 

「えっと…もう、帰らなきゃいけなくて」

 

 

私が言うと、メリーさんが一瞬だが、寂しいような顔をするのが見えた。けどそれはすぐに消えて、普段通りの顔に戻ってしまう。

 

「そう…。小鈴さんまだ地理とか分からないでしょう?送っていくわ」

「あ、ありがとうございます…」

 

携帯を起動する。画面には迎えに行く旨のメッセージと、場所の地図。コレだけではイマイチ分からないが、どうやら行きに出た所と同じ場所のようだった。

図書館から出て、並んで道を歩く。その道中、ふと気になった事があって。隣を歩くメリーさんに、そっと聞いてみた。

 

 

「メリーさん」

「うん?」

「メリーさんは…今後もまた、幻想郷に来ようと思っているんですか?」

 

 

私の問いに、メリーさんは少し考え込んで。それから、困ったように笑ってみせた。

 

 

「行きたい、とは思うかな。小鈴さんの言う通り、妖怪は危険かもしれないけど…それでも、あの世界を私はもっと見てみたいから」

「……」

 

 

 

やはりそうだろうなと、薄々分かってはいた。けれどそれは、私にとって1番辛い選択かもしれなくて。

幻想郷でメリーさんを知っているのは、私と八雲紫、後は阿求にほんの少し話した程度。その他大勢にとって、メリーさんは“1人の外来人”でしか無い。

そんな外来人に、妖怪を退けて生きていく力は無い。メリーさんに万が一のことがあれば、彼女の存在は殆ど知られないままに終わってしまう。それ以前に、八雲紫がメリーさんを危険と判断して、手を加えるかもしれないのだ。

 

 

 

 

そこまで考えて、私は何故、メリーさんに会いたがっていたのか、薄っすらと分かった気がした。

 

 

 

初めてメリーさんと会った時も今日も、メリーさんと居るときは時間が早く過ぎてしまったけれど。

普段ならば、たとえ阿求と居る時さえも、ここまでそう感じる事は無かった。だから、きっと。

 

 

 

私とメリーさんは、何処か似ているのだ。

それは、私の思い込みかもしれない。けれど、彼女といると心がとても安心するような気がする、もしかしたら、親友たる阿求と居る時以上にさえ。

 

だから私は、こんなにも躍起になっているのか。メリーさんが此方側に来ないように。此方側に来て、喪われてしまわないように。

気づけばもう、迎えの場所のすぐ近くで。私は緩慢な動作で手提げから封筒を取り出し、メリーさんに差し出した。

 

 

「メリーさんに、手紙を書いて来たんです。多分会うのは、最後になると思って」

「最後って…」

「私は、自由に幻想郷から出る事は出来ないんです。今日も、頼み込んで、1度きりだって。だから…」

 

自然と顔が俯いてしまう。そんな視界に、何かが入り込んできた。

 

 

 

 

「これ…」

 

視界に入ったのは、私の差し出した物とは大分違うけれど、確かに封筒だった。

 

 

 

「さっき図書館でね。小鈴さん、やたらと幻想郷について言ってきたから、何かあるのかなーと、思って。私からの手紙」

「……」

 

 

ひょいと封筒が取られ、代わりにメリーさんの封筒が手渡される。

そのままメリーさんは、微笑んで。

 

 

 

「私はこれからも、幻想郷に行きたいと思ってる。もちろん気になることも多いけど…小鈴さんにもまた、会いたいし」

「…!」

 

 

 

 

 

それを聞いて、私は。踵を返して、迎えが来ているであろう路地に駆け出した。

 

 

「あっ…!」

 

 

後ろから、メリーさんの呼ぶ声がする。けれど、私はどんな顔をしていいのか、分からなくて。

スキマの特有の空間が見えてくる。勢いのままに、私はそこに飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…行っちゃった」

急に路地裏に走っていってしまった小鈴さんを追うことも出来ずに、私は1人立ち尽くしていた。今から追いかけたところでどの道かける言葉など見つからないのだが。

「…そんなに、私に来て欲しく無いのかしら」

 

 

近くのベンチに腰掛け、手に持ったままだった封筒の封を切る。中から出て来たのは少し達筆な、短い手紙だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【本当は、この手紙を渡すつもりはありませんでした。けど、どうしても幻想郷に来てもらうわけには行かないから、渡したんだと思います。

幻想郷には様々な妖怪がいます。その中でも、幻想郷全体を管理している程の大妖怪は、幻想郷を乱す者に容赦する事は無いそうです。

私が外に出る事を頼んだ時にその妖怪は、貴女に幻想郷について話してはいけないと言いました。メリーさんがどうやって幻想郷に来ているのかは分からないけれど、また幻想郷に来ればほぼ間違いなく、貴女は目をつけられてしまう。

私は、貴女に危険な目に遭って欲しく無いんです。だから。

 

 

以前渡した幻想郷縁起も、この手紙も、全て処分して欲しいのです。そして、幻想郷や私の事は、忘れてしまって下さい。

どうか、貴女自身の為に。

 

 

 

 

最後に会えて、嬉しかったです。

 

 

 

 

ありがとうございます。

 

 

 

 

 

 

 

さようなら】

 

 

 

「…さようなら、かぁ…」

 

手紙をしまって、1つ息をつく。

彼女の言うことも一理ある。妖怪の事はよく知らないが、彼女に貰った本を読む限り人間が対処できるような者でも無い事も分かる。

けど、それでも。私は忘れるつもりも無ければ、幻想郷に行く事を諦める事も無いだろう。

 

 

「諦めない、か…蓮子の性格でも移ったかしらね」

 

 

どうすれば、彼女にまた会えるだろうか。会ったら怒られそうな気はするけども、それはそれで楽しそうだ。

想像を膨らませながら、私は暗くなり始めた夜道を歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♣︎

 

「小鈴ー?いるー?」

「……」

 

 

私の返事を待たずに戸が開き、阿求が呆れ顔で入ってくる。

 

「アンタねぇ…ここ最近ずっとそんな感じね?何があったのよ」

 

 

メリーさんと別れて数日。鈴菜庵のレジで、私は突っ伏すようにして無気力な日々を送っていた。

 

 

「前言ってた外来人の人の所に行って来たっきりだけど…喧嘩でもしたの?」

「いや、別に…。ただ、危険だから来るなーって、言っただけ」

「なんで自分から友達減らすような事言うのよアンタは…」

「メリーさんが妖怪に襲われでもしたら困るもの…」

 

 

連日、こんな感じである。流石の阿求も手に負えないと思ったのか、早々に立ち上がった。

 

 

「…まぁ、アンタの決めた事に何か言うつもりも無いけど…。もう少し、そのメリーさんを信じてみたら?いつまでもそこで抜け殻みたいな生活してたら、そのメリーさんも、その人に貰った本も悲しむわよ」

 

 

それだけ言って、阿求は去っていった。私はのそりと身体を起こして、レジに置かれた本を見つめた。

 

 

 

“そして誰もいなくなった”。段々と人が消えていくというその話は、今の私の様子にぴったりでは無いか。

 

 

自分勝手な想像でメリーさんを遠ざけて。そのせいで、阿求からも呆れられて離れられて。

そのまま居たら、そのうち誰も、私のよ周りからいなくなってしまうのだろうか。それもある意味悪くはないと、立ち上がった私の目に、1つの封筒が入って来た。

 

メリーさんから渡された、手紙。帰ってきてから手もつけていなかったそれを、私はゆっくりと取り出した。

 

 

 

 

 

 

 

【あまり字を書くのは得意じゃ無いから、何を書けばいいのか、分からないのだけど…。

今日、小鈴さんを見つけた時はとても驚いたわ。貴女も私と同じように、偶然こっちに迷い込んだのかってね。

でも、それは多分違うのね。貴女は初めから、私に会うつもりで来ていた。それも私を幻想郷から遠ざける為に。

貴女は私に幻想郷の危険さを繰り返し話してくれた。私が興味があると言ったら少し複雑そうな顔をしていた理由も分かった。

 

 

貴女は私が何か危険な目にあうのが怖くて、そう言ってくれたのね。好奇心は猫をも殺す、なんて言葉もあるけども、私がそうならない為に。

 

 

でもごめんなさい。私は幻想郷に行くのを諦めるつもりは無いの。そこは今まで見た中で1番魅力的な所だと、私は思ったから。それに…

 

 

 

こう言うと迷惑かも知れないけど、私は貴女の事を、友達だと思っているから。友達に会いたいと思うのは自然な事でしょう?

 

それに、危険を話してくれるのは嬉しいけど、私だって自己防衛くらいは出来るつもりだし。だからまぁ、もっと私の事を信じて欲しいかな。

 

 

 

やっぱり字で書くと難しいわね…。とにかく、いずれ私はもう一度、幻想郷に行こうと思うわ。だから良ければ、その時に貴女の考えを聞かせて欲しいの。

 

 

 

 

 

今日はありがとう。

 

 

 

 

 

またいつか】

 

 

 

 

 

 

「また、いつか…」

 

その文字を見た瞬間、視界が不意に滲んで。慌てて、手紙が濡れないように袖で目頭を押さえ込む。

これでは、一方的に突き放した私が馬鹿みたいでは無いか。似ているなんて言いながら、私とメリーさんはやっぱり違う。

 

 

私だって、メリーさんを友達と思っている。友達に会いたく無い訳はないに、決まっている。

涙を拭いて、手紙をしまって代わりの本を取り出す。アガサクリスQ…阿求が書いたものだ。

 

折角会えたと言うのに、話したい事も全然話せなかった。また会えると言うならば、それこそ話したい事は山程ある。

いや、会える。胸の中で、予感がするのだ。

 

 

 

静かに戸が開く音がする。数日でめっきりお客の減ったウチではまず見ない金色の髪が、確かに見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませ!」

 

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