北アイルランド地方都市ベイドリック近郊では、月下の下、銃声が鳴り響いていた。
轟音と同時に、男の顔面の左半分が飛び散る。顔半分の無くなった男の顔は土色で、目と歯を剥いて、四肢をバタつかせていたが直ぐに動かなくなった。顔半分を失いながらもがくその生命力は人間のそれではない。そう、男は人間ではなかった。
グール――吸血鬼に襲われた非童貞、非処女の成れの果て――と呼ばれる吸血鬼に操られるゾンビであり、その膂力と頑強さ、生命力は人間のそれを遥かに凌ぐ化物である。
「グールどもめ」
そのグールをゴミの様に撃ち殺した男がぼやく。
この男もまた、人ではなかった。王立国境騎士団、通称『ヘルシング機関』に属するゴミ処理係、吸血鬼を狩る吸血鬼、アーカード、それが彼の名前である。丸いサングラスをかけ、黒いコートを羽織り、黒い帽子を被って、手には特製の拳銃を持っている。彼、否、彼等は出現した吸血鬼を狩る為、その根城であるベイドリック近郊の病院へとやってきていた。
「婦警、ぼっとしてるな。突入して雑魚を掃討しろ」
そう言ってアーカードは階段に腰をかけ、背後のグールを尻目に、懐から夜食用の輸血パックを取り出す。
「めんどうくさい。おまえやれ。さっさとしろ」
アーカードの言葉と同時に、裏手の玄関横に置いてある木箱に腰掛けていた女性が立ち上がった。別行動で先に突入したアーカードは入って直ぐの廊下にいるのだが、その声が耳元、否頭の中に直接響いた様に彼女には感じられた。念話だ。彼女、セラスもまた、人間ではない。アーカードに血を吸われた吸血鬼である。
「はッ、はいーッ!!」
セラスは立ち上がると、玄関の扉を蹴破った。
廊下にいら数体のグールがそちらへと首を動かす。セラスはそれを見据え、銃のハンドルをいよいよ強く握り締めた。婦警服を身に付けた彼女の肩には、不釣合いな程巨大なライフルが掛けられている。
「相手は人形……。人間じゃなくかぼちゃ同然、ただの人形。狙って、射って、一発で終わり」
呟くセラスの頬に汗が滴る。化物とはいえ、元人間を殺す感覚に彼女はまだ慣れていなかった。
グールとセラスは同時に動いた。
グールが両腕を伸ばし、セラスへと歩を進める。同時に、セラスは銃口をグールへと定め引き金を引いた。
一番手前のグールの肩から腕が千切れる。セラスが引き金を引く。手前のグールの頭を引き千切った銃弾が奥のグールの腕を捥ぐ。
背後の血煙を尻目に、アーカードは輸血パックにストローを差込み、血を啜りながら一人呟いた。
「思ったより、やる。そうでなくては、血族にしてやった意味が無い」
そのアーカードの横に、べしょりと音を立てて何かが落ちた。
それは下半身を失ったグールの一体だ。セラスに胴をぶち抜かれ、千切れた半身が今も蠢き、アーカードへと手を伸ばす。アーカードは顔色一つ変えずにそれの頭を撃ち抜くと、空になった血液パックを床に捨てた。
「婦警。狙うなら、確実に頭か心臓をぶち抜け。
彼等とて好き好んでグールになった訳ではない。一度こうなってしまった人間を元に戻す方法は無い――速やかに、ぶち殺してやるのがこいつらの為ってもんだ」
アーカードの言葉の直後、その通りに二体のグールの頭と胸が消し飛んだ。
「イエス、イエッサー、マイマスター」
セラスは弾丸をリロードし、残り一体となったグールへ向って歩を進める。
一歩進むたび、その口元が歪み、頬を伝っていた汗が引いていく。
その顔に遂に暴力への歓喜が浮かんだ時、彼女は明らかに、殺戮を好み血を啜る化物へと変質した。
セラスは一直線にグールへと走った。
最後のグールがふら付きながら拳銃の引き金を引く。しかし、セラスは止まらなかった。明後日の方向へと飛んだ弾丸には目も繰れずに走る。互いの距離が五メートルまで迫った時、拳銃の射線がセラスを捉え、引き金が絞られる。
猶もセラスは止まらない。飛来する弾丸を潜る形で避けると、勢いをそのままにグールの顎を右の拳で跳ね上げる。グールの身体が仰け反り、仰向けに倒れると同時に、彼女の踵が翻り、その頭を踏み潰した。
セラスの靴の下で潰れた頭からぱっと血が跳ね、脳漿が毀れた。
アーカードがそれを感心した表情で見ながら立ち上がる。
「ほお。どうやら分かってきたようだな。我々『夜族』というものが。さあ、雑魚は片付けたのだ。さっさと宿主である吸血鬼も探し出して片付けるぞ」
そう言ってアーカードがセラスに近付き、気付く。
彼女が今、血と殺戮に酔い痴れている事に。
近付くアーカードも眼中に無いのか、セラスは手に付いた返り血を物欲しそうな目で見ながら、肩で呼吸をしている。月下の下、その荒く熱い吐息と、血に濡れてボディラインの顕になった姿、何よりその血の臭いに欲情した目が、凄絶な光景と相まって何とも妖艶淫靡に映った。
直後、セラスが熱に浮かされ、その舌が自らの手に付いた返り血を舐め取ろうとした時、それは飛来した。
「なッ!!」
もっとも早く反応したのは傍にいたアーカードであって、セラス本人では無かった。それ程までに、見事な投擲だったと言う他は無い。
彼女の腹から切っ先が生えている。銃剣の切っ先が突き出ている。それはセラスの背中から腹を貫いていた。
「あ、ああ、あぁあ」
ショックで狼狽するセラスの元に、銀光の奔流が降り注いだ。今度は一本ではない。肩、首、胸と飛来した十本もの銃剣の尽くが彼女を貫き、セラスは血反吐をぶちまけながら前のめりに倒れる。
セラスが倒れると同時に今度は屋内の窓と言う窓、扉と言う扉に聖書の断片が飛来し、釘付けにされた。
そして、ギシギシと木製の階段が軋む音が響き、何者かが階上から下りてくる。
「結界か」
アーカードが聖書の切れ端を横目に言った。
階段から男が下りてくる。
背の高い筋骨隆々とした男だ。その黒いシルエットが動く。それは両手に持った銃剣を右肩の前で十字に交差させる形で構え、
「我等は神の代理人。神罰の地上代行者。我らが使命は我が神に逆らう愚者を、その肉の最後の一片までも絶滅すること。エィメン」
そう言って笑った。
†††
時を少し遡る。
アーカードやセラスが建物へと突入する少し前、ロンドンにあるヘルシング本部、その一室、局長室に一人の職員が血相を変えて飛び込んできた。
「局長!!ヘルシング局長!!ヴァチカンの情報官からの伝言です!!」
その言葉に部屋の奥、窓辺で空を見上げていた女性が振り返った。
金の髪が揺れ、形の良い鼻にかかった丸眼鏡の奥の瞳が細められる。彼女の名はインテグラ、ヘルシング機関の今代の局長である。男が続けた。
「ヴァチカンが……。ヴァチカン特務第十三課イスカリオテ機関が動いています!!」
イスカリオテ第十三課。
異端審問局を含むヴァチカンの非公式特務実行部隊の総称であり、ヴァチカン最強の戦力であり、悪魔退治、異教弾圧、異端殲滅のプロフェッショナルの総称だ。
「ローマ・カトリックの絶滅機関か。兵力は?」
「派遣兵力はただ一人。『聖堂騎士』アレクサンド・アンデルセン神父です!! し、しかし、何故、あの町に連中が? ベイドリックは協定の緩衝地帯のこちら側、我々プロテスタントの土地だ。これは重大な協定違反で――」
「連中はそんな事はどうでも良いのさ。新教と旧教の境界ぎりぎりの所に吸血鬼がいて、暴れている。いるのなら絶滅させる。手段も方法も選ばない。それが連中だ」
うろたえる男の言葉を遮ってインテグラが言った。
彼女は既に協定違反以上にやっかいな問題に気付いていたが、男とは対照的に極めて冷静に振舞っていた。
「問題は、協定違反だけではない。アーカード達だ。もし、あいつらと十三課のアンデルセン神父が鉢合わせになったらどうなる!? 絶対にヤバい」
インテグラはそう言って受話器を取った。
「ウォルター!!」
「はい、お嬢様。報告は既に承っております」
慇懃な彼女の従者の声が受話器から漏れる。
「ヴァチカンと連絡が取りたい。手は無いか?」
「すでにスフォルツァ枢機卿を通じて法王庁と連絡を取りつつあります。それと、これは独断で準備いたしましたが、戦闘部隊二個小隊を待機させておきました」
「流石だ、ウォルター。装備は?」
「重装です。下手をすると、あのアンデルセン神父とやり合うハメになるかも知れません」
「何者だ?」
そう問いかける時、流石のインテグラの声にも緊張が滲んでいた。
「アレクサンド・アンデルセン神父。『聖堂騎士』、『殺し屋』、『銃剣』、『首斬判事』、『天使の塵』、出身・人種・年齢全てが不明。分かっているのはこの数々のアダ名の他一つだけ。
彼が化物専門の戦闘屋であるという事です。我々にとって化物に対する切り札がアーカードである様に、彼もヴァチカン十三課の対化物の切り札であるという事です」
言葉の後、互いに暫し沈黙があった。
「銃と剣、それと護衛を二名。私もすぐベイドリックに行く。ヴァチカンとの交渉はウォルターに任せる。部隊は待機させておけ。命令があるまで絶対に動かしてはならない。下手をするとヴァチカンとの戦争になる恐れがある」
「承知いたしております、お嬢様。くれぐれもお気をつけて下さい」
インテグラは受話器を置くと、窓辺によって月夜を仰いだ。
「化物殺しのあの『聖堂騎士』が、あの絶滅主義者が、アーカード達を目の前にして何もしないはずが無い。今はヴァチカンと争っている場合ではないと言うのに」
†††
同刻、ヴァチカンの一角にある、国務聖省本庁舎――通称『剣の館』――の一室に国務聖省長官カテリーナ・スフォルツァ枢機卿はいた。
真紅い法衣に身を包んだ美しき枢機卿の表情も今は芳しくない。
カテリーナは苦い顔で最後に非礼を詫び、ヘルシング機関、ウォルター老からの電話を切ると、後ろで待機している部下の方へ、執務卓の前に像を結んでいる立体映像の方へと向き直る。
「協定の向こう側、ベイドリックに『聖堂騎士』、アレクサンド・アンデルセン神父が派遣されたらしいわ。十三課の連中、やってくれたものね」
時代錯誤の愚か者ども!!
カテリーナは激昂し、そう心中で吐き捨てると、幾分冷静さを取り戻し、
事が起こってからでは遅いのだ。今ならばまだ少しばかりヘルシング機関に借りを作るだけで済む。
そう思い直した。
それから、彼女は毅然とした表情で、立体映像の女性、シスター・ケイトに問いかける。
「ケイト、十三課局長、エンリコ・マクスウェルに連絡を入れて。それから、すぐに動かせる派遣執行官はいますか?」
「ベイドリック、北アイルランドならば、オデッサ子爵の元から帰る途中の『クルースニク』と『ガンスリンガー』の両名が最も現場に早く到着出来ます」
『クルースニク』の名を聞いた瞬間に、避けるべき人材だ、とカテリーナは思った。
十三課の『聖堂騎士』が簡単に退くとは思えない。逆に、『聖堂騎士』が『クルースニク』とやり合うハメに陥る危険もある。アスタローシュ卿がいるなら尚更だ。と、そこまで考えて彼女は自らの考えを振り払った。
『聖堂騎士』アレクサンド・アンデルセンが十三課の切り札ならば、『クルースニク』、『ガンスリンガー』はAx、教皇庁国務聖省特務分室の切り札だ。
そう簡単に殺られる彼等ではない。
そう思い直して、カテリーナは自らの部下を信じる事に決めた。
「両名に連絡を」
「『ガンスリンガー』とは既に通信が繋がっています」
「聞いていましたか? 神父トレス」
「肯定」
通信機の発した電子音声は恐ろしく抑揚を欠いた物だった。
「では、命令を言い渡します。ヘルシング機関員よりも早くアンデルセン神父と接触し、彼を撤収させなさい。万一、アンデルセン神父が撤収命令を聞かない場合、処置は分かっていますね?」
「肯定。了解した」
†††
ヴァチカン第十三課『イスカリオテ』
暴力を振るう者には、更に巨大な暴力が振るわれなくてはならない。
きれいごとで片付かなければ、手を汚しても片付けなければならない。
彼等はそうして、その為に作られた。
そこにあるのは『教義の為なら、教祖をも殺す』という狂信の理念。
その狂信を原理とするが故に、彼等は『ユダ』の名を与えられ、『ヴァチカン地上神罰の代行者』を名乗る。
男、アンデルセン神父は悠々と廊下を進み、アーカードの眼前に立つ。
窓から差し込む月光が彼を深い闇の奥から浮き上がらせ、その胸にかけた十字架を瞬かせた。彼は銃剣の握った両腕をだらりと垂らし、無造作な格好である。一方のアーカードも銃口を神父に向けようとはしなかった。
「良い月だな。化け物ども」
アンデルセンは、銃剣に貫かれ苦悶の喘ぎを洩らすセラスを見下ろすと、
「随分と可愛らしい声をあげて苦しむのだね、お嬢ちゃん。そんな程度ではおまえ達は死ねんよ。心臓には一本たりとも突き刺していないのだから」
そう言って、口の端を吊り上げた。
「久しぶりの吸血鬼狩りだ。楽しませて頂かねば」
「法王庁、第十三課。特務機関イスカリオテか」
「そのとおりだ。ヘルシングの犬ども。お前がアーカードか」
相対した二人は、吸血鬼と神父は互いに笑みを深めた。
それは絶対の自信故に来るものか。傍にいたセラスには、彼等の発す殺気が一層強まり、轟とうねりを上げた様に感じられ、身の竦む思いであった。
「フン、吸血鬼の分際でありながら、人間に味方し、吸血鬼を狩るヘルシングのゴミ処理屋」
「ここにいた吸血鬼はどうした?」
「とうの昔に始末したよ。とんだ雑魚だった。楽しむ間すらありはしない」
二人は互いに歩み寄る。静かな殺気の泥流に世界は沈黙し、月光の下、薄闇の奥、互いの靴底の立てる音のみが響く中、二人は相対した。
「残っているのは、貴様等だけ」
「そうかい」
二つの影は同時に動き、交差する。
互いの動作に一切の無駄は無く、傍で見ている吸血鬼セラスの目を以ってして、その動きはコマ落としとしか思えない物であった。アンデルセンが銃剣を構え、アーカードが拳銃を抜き、吸血鬼が拳銃を構えると同時に、神父の銃剣は吸血鬼の首に刺し込まれた。
「マスターッ!!」
セラスの絶叫が響く。
単純に武器を抜いていたアンデルセンが速さで勝った。互いの勝敗を分けたのはそんな単純な事であったかに見えた刹那、決死の刺突を喰らったはずのアーカードの握った拳銃が真っ直ぐにアンデルセンの額を捉え、その撃鉄が落ちた。
結果、神父が構えた諸手の銃剣は真っ直ぐ吸血鬼の首を貫き、吸血鬼の放った銃弾は真っ直ぐ神父の眉間に突き刺さったのだ。
アンデルセンの身体は衝撃に後方へと撥ね飛ばされ、仰向けに倒れた。
その割れた額から溢れた血が、床を紅に染め上げる。その赤線の先に、アーカードは微動だにせず立っていた。
如何に吸血鬼と云えど、確かに二本の銃剣が首を貫通していたのだから、呆れた不死性と言う他あるまい。主と従者の差とはこれ程か。先程グールを相手に、猛威を奮ったセラスも、アーカードの前には霞んでしまう。
「喋るな、婦警」
アーカードは事も無げにセラスの方へと向き直り、ず、と首を貫通していた銃剣を引き抜いた。
「夜に、正面から、不意もうたずに吸血鬼に戦いをしかけるとは、勇敢な神父だな。だが、愚か者だ。しかし、人間にしてはやる方か」
と、アーカードは首の傷口を指先でなぞり、手にした銃剣を一瞥する。
「この剣、生意気に全て教会で祝福儀礼を施されている。これで斬られると我々でも傷を塞ぐ事が出来ん。今抜いてやる。動くな」
「マ、マスター……」
セラスがか細い声を上げた。額には脂汗が滲み、血の気が無くて顔は青い。と、その時、その目が驚愕に見開かれた。
「しゃべるなと言っている」
アーカードは気付かない。
セラスの驚愕がアーカードの身体を飛び越えたその後ろ、立ち上がったアンデルセン神父への物であるという事に。
「マスターッ!!」
セラスの絶叫。と同時に、アーカードは彼女の瞳に、巨大な影を見た。
自らの胴を貫く双剣を見た。
「何だとッ!?」
アーカードは驚愕に目を剥きながらも、即座に地を蹴った。そして、一歩神父から距離を取ったと見えた時には、振り返って拳銃を神父へと向けている。
三度の轟音。
額、肩、腕とアンデルセンの身体が爆ぜた。撥ね上がる血飛沫が、彼の被弾した箇所を告げている。神父の身体が後ろに大きく傾いだ。
それは一瞬。
アンデルセンは即座に体勢を立て直し、アーカードへと肉薄した。
「クッ、ククッ、クハハ、クハハハハハハッ!!」
嘲笑が一帯を満たす。
アンデルセンは笑いながら、両手それぞれコートの内にある銃剣の柄を掴む。
如何なる原理で収納されていたのか。傍目にはとてもそうは見えぬのに、彼が腕を引き抜くと共に、刃渡り五十センチ程の銃剣が滑り出て、彼の諸手に握られている。
懐から抜き放った形の一閃がアーカードの拳銃を打ち払い、胴を捉えた蹴りが彼を壁へと叩きつける。瞬間、アンデルセンの腕が翻った。
一本。アーカードの左手を、アンデルセンの投擲した銃剣が貫通し、後ろの壁へと縫い止める。
二本。次は右腕。銃剣が手首を貫き、刃先が壁へと沈んだ。
アーカードの動きが止まり、刹那、アンデルセンも動きを止めた。
見よ、アンデルセンの銃痕を。今も湯気を上げながら、被弾した箇所に肉が迫り出し、弾丸を体外へと押し出したと見えるともう癒着している。余りの肉体の再生速度に、のたくる肉さえしっかりと目に見える程だ。
「再生者……」
アーカードがその様を見て呟く。表情には驚きの影があった。
再生者――生体工学の粋を凝らした自己再生能力と、人体改造による超人的膂力の獲得を以って人を超えた超人。更にアンデルセンは回復法術により、更なる自己再生能力を獲得している。これこそが、彼が十三課の切り札『聖堂騎士』とまで呼ばれる所以だ。
「そうだ。我々人類が貴様等吸血鬼と戦う為に作り出した技術だ」
アンデルセンの両腕が交差する形で内へと入り、その十指が尽く銃剣を掴む。
「エィメン」
合計八本。銀の奔流がアーカードの胴を蹂躙した。
「マスターッ!!」
セラスの絶叫が空しく響く。首、肩、胸、腹と飛来した八本もの銃剣の尽くが彼を貫き、彼と壁とを縫い止める。アーカードの口腔は吐血で溢れ、一度大きくその身体がしなったが、壁に縫い止められた彼は倒れる事すら出来ない。
「ククク、クク、クハハ!! クハハハハハハ!! ゲェハハハハハハハ!!」
アンデルセンが身体を弓形に反らし、一際大きく嘲笑う。
それから、彼は懐から一本銃剣を抜いた。セラスの悲鳴と共に、翻った刃先に月光が揺らめき、翳って見えなくなった。
血だ。刀身に滴る血が刃の反射を失せさせたのだ。それから一拍の間を置いて、ずるりとアーカードの首が床へと落ちた。胴と頭は別れを惜しむ様に自重のみから生ずる加速度でゆっくりと分かたれた。何と見事な一刀か。
転げ落ちたその頭を髪を掴んで持ち上げると、アンデルセン再び笑い始める。生首を掲げて狂喜乱舞する神父。それは確かに狂喜と狂気の図に違いない。