その笑顔が嫌いです   作:じゅぴたー

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羽沢は、諦めるはずがない。

朝だ。

小鳥たちが毎朝日課のように奏でるチュンチュンという音色が俺を叩き起こすようにはっきりと聞こえた。気がする。

にしても昨日は散々ったらありゃしねぇことの連続だったな。

朝の羽沢とか教室の羽沢とか初日から屋上過ごしだとか、放課後の羽沢とか友人に久しぶりの再会と思ったら俺の過去に口を出されかけるわ、最悪の夢オチ喰らうわ姉が煩わしいとか…

 

いや、これほとんど羽沢じゃねぇか。ちょっと聞いただけで名前を覚えてしまったが、こうもアイツが、アイツの名前が頭から離れないのはモヤモヤして仕方がない。

 

「…お前はどこまで俺に迷惑かけるつもりなんだよ」

 

珍しく朝っぱらから考え事というか昨日の想起というか、色々していたせいで少しばかり頭が痛い。

 

 

今日は流石に勘弁だからな。

 

✤ ✤ ✤ ✤

 

「叶汰起きてる〜?朝ごはん出来たよ〜!」

 

一階から姉の声が聞こえる。朝からあんなに朗らかに声を出して元気にしているんだから、もう昨日のことなど気にもかけていないのだろう。まぁそれがうちの姉だ。分かりきっていることだし、不思議とは思わない。

 

「朝からうるせぇよー!」

 

今出る限りの大声で下に怒鳴りつけてやる。あはは〜なんて呑気に笑ってやがる。そっか、これが姉だったな。

そう思いつつ下に降りてしっかりと嗽と手洗い、洗顔をしてからダイニングルームへ足を進める。姉と目が合う。憂いがあるような顔ではないが笑顔でもない…明るい顔には間違いないんだけど。

姉もあの出来事については一通り知っているのだから、俺の事を配慮しての行動なのだろう。

 

「おはよ、叶汰」

「ん」

「昨日はごめんね?」

「…は?」

 

いや、怒りを顕にして今の発言をしたわけではない。

てっきり昨日のことは水に流して今日は今日としてやっていこうといういつもの姉スタンスで来ると思っていた所でのこれだ。稀どころじゃない。むしろ病気を疑うくらいだ。

 

「心配するつもりはねぇけど熱とかじゃねぇよな?」

「そんなんじゃないよ!ただ…ほんとに昨日は申し訳なかったなぁって思ってね」

「…あっそ」

 

意外だ。あの姉が根に持つことがあるなんてな。本当にもしかしたらあの日以来かも…ってまたあの日を思い出すように関連付けちゃダメだろ。

そんな珍しいことがあるんなら、今日は何かがあるのかもしれない…何かかがあるっつっても良い意味の方だからな?羽沢がまた絡んでくるとか俺の中で可能性として1%くらいしかない最悪な意味の何かがあるって意味ではない。そうであると希う。頼んだぞ天の神様さんよ。

 

「あっそってもしかして許してくれてないの…?」

「別に、俺はこれ以上思い出させてくれなければそれでもういいよ」

「ん〜!!やっぱり叶汰だーいすき!!」

「飯食いたいんだけど」

 

そーだそーだ忘れてた!と俺に抱きついてきた姉は俺の元を離れて食器やらを持ってくる。俺と姉の分が配膳されたので2人揃って『いただきます』と告げる。2人だけの空間にその言葉と箸を動かす音だけが小鳥たちの囀りと共に響いた。

朝食は相変わらず、見た目上のバランスだけは良い料理なこった。

 

「…しょっぱ」

 

少しいつもと違う朝に少しの高揚感を覚えつつ、いつも通り無駄に塩を入れすぎてこうなったのであろう姉の料理を食べながらそう呟いた。

 

✤ ✤ ✤ ✤

 

「うーん…」

「おいつぐ?朝からずっと唸りっぱなしだぞ?」

「つぐみは惚れた男について絶賛思考中らしいよ」

「なっ!?ち、ちがうよみんな!!誤解だからね!???」

「えっ?つぐ好きな人いたのー!?全くつぐも隅に置けないなぁー!!」

「蘭〜、お相手は〜?」

「昨日のヤツ」

 

蘭ちゃんがそう告げると共に一瞬にして固まる場。沈黙に包まれた幼馴染たち。やっぱりそうなるよね…って別にすすす好きとかじゃないからね!?

 

「つぐそれ本当か?」

「好きっていうのは誤解だけど…確かに咲実くんのことについては考えてたよ」

「お、名前も聞けたんだね〜」

「けどけど!!昨日あんなに酷い態度だったじゃん?」

「つぐみ曰く、簡潔に言えばきっとその言動一つ一つに何か意味があるから知りたいんだってさ。あたしにはよく分かんないけど」

「そこまで知りたがるか?」

「自分でも言葉にしにくいんだけど…このまま放っておいちゃ駄目な気がするの」

「つぐの母性本能だ〜」

「違うだろ」

「あたしも完全にアイツのこと疑ってない訳じゃないけど、しばらくはつぐみに付き合ってあげて本当にそれなりの理由があったら許してやろうって感じ」

「なーんか私たちの知らないとこで色々と話大きくなってない?」

「けどたのしそー」

「もしつぐに何かあったらアタシと蘭がぶっ叩きにいくだけだしな!!」

「なんであたしも入ってんの?」

 

最初はどうなることかと思ったけどなんだかんだでみんな協力してくれるみたい?

けど人数が多い方が力強いもんね!!ここまで来たら絶対に突き止めなくちゃ…!

 

 

ってあれ…?向こうからこっちに向かってくる男の人がいる。制服を見た感じ花咲川の生徒だし同い年くらいだと思う。ちょっと待って、これって私たちの方に来てないかな?

 

「叶汰の話してると思ったら、もしかして叶汰と同じクラスとかか?」

 

少し低い男らしい声でその人は言った。

ちょっと怖いかも…けど咲実くんの名前を知ってるってことは友人か何かかな?いや絶対そうだ!多分。

それなら咲実くんについて何か重要な手がかりとか聞けるはず…!

 

「はい!咲実くんと同じクラスになった羽沢つぐみって言います!」

 

なんか巴ちゃんと蘭ちゃんが臨戦態勢に入ってる。いや流石にそこまで身構えなくていいんじゃないかな2人とも。

 

「お〜!昨日話したばっかなのに早速どうにかしてくれそうな人がいたぞ!な、柊!…ってそっか、あいつ今日先行ったんだったな」

「あの、どうにかしてくれそうな人ってどういうことですか」

 

蘭ちゃんが少し威嚇的な表情でそう相手に語りかける。だからちょっと攻撃的過ぎないかな。

 

「叶汰をどうにかして救ってくれそうな人!!それっぽいやつがお前!」

「私…ですか?」

 

いきなり指をさされてビクリとしてしまう。私が咲実くんをどうにかして救う…そうだ。そのためにもこの人に聞かなきゃ。羽沢つぐみの本能がそう告げてる。『こいつ何か知ってるぞ』と。

 

「あの、今ちょうどその方法を模索していた所なんです。何か咲実くんについて知っているなら話してくれませんか?」

「おう!いいぜ…ってダメだ。これは柊に話しちゃいけないって言われてた。ごめんな嬢ちゃん!」

 

そうですか、すいませんでした。と告げると彼もこっちこそごめんなと呟いた。悪い人ではなさそうだなと思ったのか、巴ちゃんも蘭ちゃんも既に臨戦態勢を解いている。

 

「そーいうのよく分かんねぇけど、自分で探して聞き出して叩き直してやるってのが最適だと思うんだよな。

俺たちじゃどうにも出来なかった事だからアンタしかいねぇんだ。隅から隅まで他人任せでほんっとに悪いんだけど頑張ってくれな!」

「…はい!」

 

自然と身体が強ばる。友人さんでも出来なかった事を、私はやろうとしてるんだ。

 

「俺は東 慧呉!あとはそうだな…俺から言えることは『あいつは悪いヤツじゃねぇ』って事だけ!んじゃそゆことでいでででででで!!!??」

 

東さんが話している途中で彼の頬が後ろから何者かに抓られる。…って千聖さん!?

 

「あら、Afterglowのみんなじゃない。朝からこの図体デカ男が迷惑かけちゃって申し訳ないわ」

 

ほらいくわよ慧呉。と千聖さんがそのまま東さんを連れていく。

 

なんか、嵐みたいな人だったなぁ。と春の少し強い風に吹かれながら思った。

 

ふと、その強い風に吹かれて靡いて飛んできた桜の花びらに目がいく。たった一瞬気になっただけ。その花びらは、また風に吹かれて何処かへ飛んでいってしまった。

 

✤ ✤ ✤ ✤

 

「あんな悪そうなやつにあんな良い人っぽさそうな友達がいたなんてな」

「あの人…カッコよかったなぁ…」

「それよりもつぐみ、任命されちゃったね」

「じゅ、重大だよね…」

 

所変わって学校に着いた私たちは登校中に会った東さんの話で持ち切りだった。ひまりちゃんは別の意味で東さんについて考えてるみたいだけど千聖さんと仲良さそうだったし、今回は素直に諦めた方がいいと思うよ私。

 

閑話休題。

話を聞いている限りでは、かなり親しそうな友人でもあの咲実くんを元に戻すことが出来なかったようだ。

咲実くんの秘密は知ってるような素振りではあったけど、東さんの言う通りだ。

 

自分で、自分の力で咲実くんの口から聞き出さなきゃ多分駄目だ。

 

「ともかく、つぐはまた一人で抱えこんだりしちゃダメだからな?」

「わ、分かってるよ!!流石にあれは反省してるし…」

 

 

何より、私の事なんてみんなにはお見通しでしょ?

少しくらい我儘でもいいよね。

そんなこんなでこの私羽沢つぐみ、咲実叶汰くんとの激闘が始まりそうです。

何としてでも勝たなきゃ……!!

 

 

…ちょっとモカちゃん、「熱血青春高校生つぐがツグってる〜」ってどういうこと!?

 

 

✤ ✤ ✤ ✤

 

朝食を食べて、学校に登校してきた。

朝の姉以外に今のところ変わったことはない。そうだこれでいいんだ。このまま1日が過ぎてくれれば俺はなーんにも文句を言わないからどうかよろしく頼むぞ仏様。

校門を通り過ぎて生徒昇降口に向かう。

生徒昇降口前のそれは大層ご立派に育てられ、季節も季節のためにその花を開いている大きな桜が目に入る。いつもは通り過ぎてしまうのに、何故か気になった。

 

桜の花びらが一つ一つと散っていく。

こうやって花びらが散っていくのに、桜の木を全体で見た時って花びらが減った感じはしないよな。そのくせして下には大量のピンクの散っていった花びらがある訳だ。

…そんな風に、集団の何かが一つ消えてっても、きっと全体で見ればさほど気にならない。直ぐに忘れられていく。

この地元に戻ってきた時もそんな感じだったな、と今になって思う。

転校してきたとはいえ地元だし、知っている面子もいた。けど向こうは俺の事なんて全然覚えてなくて、事情を説明したって「転校したやつも確かにいたな」って笑われるくらい。

友達だと思ってたヤツが俺が笑顔にならないことを疑問に思ったから突然地元を離れて転校した理由、ここにまた戻ってきた経緯を話したって「そんなんで向こうに行っちまったのかよ」なんて嘲笑された。

 

そんなんって何だよ。何も知らない癖に。

 

…そうだったな、確かそんな時にアイツら3人が俺を庇ってくれたんだよな。俺の事を笑ってきたヤツらと同じで、俺の事なんて何も知らないのに「可哀想だから」なんてヒーローみたいな駆けつけ方をして。

同情なんていらねぇなんて突っぱねたけど正直嬉しかった。

 

でももうこれ以上友と呼べるものなんて増やしたくない。もう十分なんだよ。

アイツらは悪くない。全部全部、不器用で性格も悪くて、今でも過去に囚われて嘆いてるような俺が悪い。

けど、どうしても頭から離れないんだ。

どうしても、何をしても()()()()が、日々頭の中で繰り返される。

その度に『あぁ、俺のせいだ』なんて自己嫌悪に駆られて、兄さんとあのクソ野郎の2人の笑顔を思い出しちまう。

兄さんがああなったのも()()()()()()()()

 

あぁそうだよ。

 

あの笑顔が忘れられないから。

自分があの笑顔を顔に表すのが怖いから。

もしまた笑顔を出したら大切な人が消えてしまうから。

だから自分ごと笑顔を閉じ込めた。人への当たりを強くして愛想がないように見せた。そうすれば、他人と関わらなければそもそも笑顔なんて出てこない。そう思った。

 

なぁ、バカな俺にしてはよく出来た計算だと思わねぇか?

 

もっといい方法があったかもしれないなんてそんなこと考えても無駄だ。それを見つけてこれ以上無駄な後悔背負って生きていきたくねぇしな。そもそもバカなんだし、俺にはこれくらいしか思いつかない。

 

………桜を見るだけで、散っていく花びらを見るだけで、こんなに語れるようになっちまった。妄想癖でもついちまったかな。

 

「そっか、お前も同じか」

 

桜の木の下に毛布のように嵩張った桜の花びらを一葉摘んでそう呟く。

すると横からよく朝の早い時間から校門辺りの清掃をしている爺さんが「どうかしたのかい?」なんて言ってきた。

別にどうってことないし、考えていたのは完全な私情だ。「何でもないっす」と爺さんに告げて昇降口へと歩き始めた。

 

桜の花びらは、まだ散っている。

 

✤ ✤ ✤ ✤

 

昇降口から校内に入り、靴箱に靴を入れて上履きを履いて自分のクラスへと向かう。

割と早く家を出たし、教室には誰もいないだろうと思ったのだが自分のクラスから既に何人かの声がする。随分早く来るやつもいるんだなと思っていると俺の開けようとした自分のクラスの扉が開かれ、昨日の赤メッシュが出てくる。

割とこいつに会う確率高いな、なんて考えていただけなのに向こうは何故かこっちを睨みつけている。

 

「…なんか用かよ」

「つぐみに何かしたら、容赦しないからね」

 

そういって彼女は他のクラスへと入っていった。

 

いや待て、あのなぁ。

今つぐみって言ったか?おい嘘だろ?

神様仏様はどうしたんだよ。珍しくこんなヤンキー口調っぽい俺が神頼みしてやったってのにこの仕打ちか?

天で俺の事を見て嘲笑ってんなら言ってやるけど、俺はMでも何でもねぇからなクソが。

愚痴を垂らしたってどうにもできない相手に文句を心の中で言いながら自分のクラスに入る。

案の定、というべきか昨日の面々が勢揃いしてる。

挨拶もせずに自分の席に座る。すると奴らもぞろぞろと自分の席に座り始める。

何だよ、向こうから絡んでくる気はないみたいだな。そうだそれが正しい判断だ。しかも羽沢には昨日あんなに言ったんだから向こうの奴らが俺の事を好きなわけが無い。嫌いになったに決まってる。そうだよな、いや流石に。

 

「…は?」

 

本日2度目のは?である。正直これ以上呆れたくないのだが。

理由は羽沢にある。羽沢が俺の隣の席に座ったのだ。なんだコイツそんな見た目しといて巷で噂の清楚系ビッチってやつなのか?あぁ?

 

「おはよう。咲実くん」

「自分の席が用意されてねぇんだったら帰ってもいいんだぜ」

「私の席、ここだよ?」

 

嫌味をこれでもかとばかりに端的にぶつけてやったのに平然とする羽沢。

彼女の顔は明らかにこっちを向いている。普通といえば普通なのかもしれないが、よくケアされているのだろうと分かる肌。大きくこちらに向けられた焦茶色の双眼。…よく見れば可愛いんだな。

いやそうじゃないだろ咲実叶汰。

 

「嘘ついたら針千本飲ますとここで誓え」

「嘘じゃないよ。座席表持ってこようか?」

「だー!もういいよめんどくせぇ」

 

こいつ本当に昨日俺が罵りまくった羽沢つぐみなのか?

煽りへの耐性がアップしてるどころかこちらを煽るような言動をする始末だ。

 

「昨日言ってたこと忘れたのか?」

「忘れてないよ。しっかり覚えてる」

「じゃあテメェ…!」

 

立ち上がって真っ直ぐと羽沢を見たが、俺が立ち上がった瞬間に昨日の赤髪長身も今にも殴りかかってきそうなオーラで立ち上がったのでこれ以上面倒臭いことにはしたくないし大人しく座っておく。

 

「私、やっぱり咲実くんの隠してることを知りたいの」

「別にお前には関係ねぇだろ。首突っ込むんじゃねぇクソビッチが」

「どんなこと言われてもめげないから」

 

彼女の口から発せられたその言葉に心底驚いて、今までちらっと彼女の顔を見てからずっと彼女と反対方向を向いていた顔を思わず声の聞こえた方へ向けてしまう。

力強く決心が固まっているような心の底からの言葉。

嘘偽り無き、彼女自身(羽沢つぐみ)の言霊。

 

しかし驚くと同時に疑問に思った。

何故彼女は見ず知らずの、しかも先日散々罵倒されたような男にこんなに執着するのか。ならば聞くしかない。質問攻めされるってのは俺の性には合わなかったみたいだ。

 

「……何でそんなに俺に構うんだよ」

 

 

「君の、笑顔が見たいから。

もう『その笑顔が嫌いです』なんて言わせないために頑張って…つ、ツグってる。少なくとも今はそのつもりだよ」

 

 

 

 

羽沢つぐみという女が、ますます分からなくなってきた。




お久しぶりですどうもサボっててすいません土下座します
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