守護者の観る水平線   作:根無草

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絆が欲しけりゃ胃を掴め

 鎮守府の朝は早い。

 それは前線で戦う艦娘達や、指揮を取る提督であっても関係のない共通事項。

 

 午前6時には起床、総員起こしのアナウンスで鎮守府の1日は始まる。

 

 その後、身支度を済ませて執務室へと集合。

 当日の任務確認や情報伝達、朝食、装備点検などを済ませて8時には活動を開始。

 

 夜間哨戒に出ていた艦娘達も午前5時には帰港し、鎮守府のメンバー達と共に食事や補給を済ませて休息につく。

 

 それがこの鎮守府のルーティーンだ。

 

 今朝も早くから、校舎内の至る所に取り付けられた歴史を感じるスピーカーが1日の始まりを知らせている。

 

『マイクチェック、ワン、ツー……起床時刻になりました。支度を終えた艦娘は、執務室まで集合して下さい』

 

 天気は快晴。

 

 昨夜の喧騒が嘘のように爽やかな朝だ。

 

「おや?おはようエミヤ君。随分と早いお目覚めのようだけど、ちゃんと休めたのかい?」

 

 時刻は午前6時手前、執務室へと最初にやってきたのは日渡提督。

 出迎えたのは来客用のソファーで足を組みながら新聞のようなものに目を通すエミヤなのだが、エミヤは最初にやって来たのではなくて、()()()()()()()()

 

「おはよう。おかけで昨夜は静かに過ごさせてもらったよ、身体の方も問題はない。日渡提督こそ気苦労が絶えなかっただろう、十分な休息はとれたのかね?」

 

「はは、さすがに昨日は疲れたみたいでね、久しぶりに深く眠っていたらしい。おかけで疲労はすっかりさ。ところで、妖精さんと会わなかったかい?エミヤ君を起こしに行くよう頼んだんだけど、この様子じゃ入れ違いだったかな?」

 

「ああ、それはすまない。生憎と、私はずっとここにいたのでね。当てがわれた部屋にはいなかったのだ。きっと妖精さんも私が部屋にいないとなれば執務室へとやって来るだろう」

 

 そう言うと、エミヤは手に持った紙を机の上に置いて首の凝りをほぐすように頭を回した。

 

「部屋にいなかったって……ずっとここにいたのかい?休めるような場所ではなかっただろう?」

 

「英霊には基本的に睡眠や食事が必要なくてね、魔力消費を抑えて過ごしていれば自然と回復する。食べる事も眠る事もできるのだが、昨夜はこれを読んでいて気付いたら朝だった」

 

 エミヤの前に置かれたテーブル、その上にはエミヤが読んでいたという書類の山が置かれていた。

 

「これは……戦闘記録だよね?こっちは艦娘のステータス記録に資材の管理表……これを夜通し読んでいたのかい?」

 

「昨夜、休む前の金剛に頼んで出してもらった。戦闘記録については2ヶ月前の物から目を通したが、随分とブラックな運営をしているものだな」

 

 2ヶ月前といえば、倉敷提督が殉職した時期と一致する。

 それ以前に轟沈した者、倉敷提督と共に轟沈した者、その時期こそ個人差はあるのだが、倉敷提督が殉職してからの勤務状況は劣悪を極めていた。

 

 当たり前のように艦娘の休日はなく、昼夜を問わずに出撃の繰り返し。

 かろうじてシフト制度を取り入れているのだろうが、隔週入れ替わりで昼と夜をローテーションしているのみで工夫を凝らしている様は見受けられない。

 

「こんな管理体制で良く士気を保ってこれたと感心するよ。英霊と違って彼女達は食事も睡眠も必要とするのだろう?ならば、休息も取って然るべきでないのかね?」

 

「その通りだとも。以前までは倉敷提督が出撃シフトを組んでいて、それに応じて艦娘にも休日が割当てられていたんだけどね……今の人員ではそれができないのが現状だ」

 

「ふむ、目下の課題が増えたといったところか……まあ良いだろう。ところで日渡提督、これからの予定と私の身分についてはどうなっている?」

 

「エミヤ君には提督業務の把握を目標に今日から5日間の研修をしてもらうよ。その時までは僕もここに滞在するし、それまでに君の身分についても揃えておく。エミヤ君にもいくつか記入してもらう書類があるからそのつもりでいてくれ」

 

「5日とは随分と短く感じるが……軍事経験もない者が5日で提督に着任するような特例を押し通せるものなのかね?」

 

「予定ではエミヤ君の人物設定は海外派遣されていた僕の指揮する特殊部隊の所属という事で通そうと思っている。こんな時代だからね、海外の事情を細かく入手する事は不可能だ。そこから生還した人間となれば軍部における信用もある程度は保証されるだろう」

 

「これはまた無茶な設定をしてくれたものだな。まあ、日渡提督がそれで通せるというのなら一任するがね」

 

「もちろん、上層部の人間にはある程度の説明と面接なんかが必要になってくるけど……そこはエミヤ君にも頑張って乗り切ってもらうことになる。こちらで用意する資料通りに話を合わせてもらえれば問題はないけどね」

 

「具体性が皆無だな……善処はするとしよう。では、本日の業務に取り掛かるとするか」

 

 書類の山を整理しながら、やっと明るくなってきた外を見る。

 小鳥のさえずり、木々の漣、穏やかな海、そのどれを取っても戦争中とは思えない平和そのものな風景。

 

 柄にもなく今日という日に何か良い事でも起きそうな予感すら感じるエミヤだった。

 

 が――

 

 歩く爆心地の登場でそんな風情漂う朝の平穏はブチ壊される。

 

「Good morning!!あーっ!エミヤ提督やっぱりここにいたのネ!部屋まで起こしに行ったのに不在だったので探し回ったデース!!」

 

『助けてくださいであります……金剛さんのバーニングが止まらないであります……』

 

 執務室だというのにノックもしないどころか、ドアを破壊する勢いで入室してきた金剛。

 その肩には、しがみつくようにして息を切らす妖精さんの姿。

 

「お、おはよう金剛君……今朝は随分と元気がいいね?何か良いことでもあったのかい?」

 

「Good morning、日渡提督!今日からエミヤ提督との鎮守府生活が始まると思うとワクワクして寝てられなかったデース!あっ、日渡提督の妖精さんとエミヤ提督の部屋の前で鉢合わせたので捜索活動のHelpをしてもらったネ!」

 

『ヘルプ……ヘルプミーであります……』

 

 捜索活動とは何だと聞きたい気持ちをグッと堪えるエミヤと日渡提督。

 妖精さんの顔を見れば、おそらく知らぬが仏の案件である事は察するに容易い。

 

「ど、どうやら手間を取らせてしまったようだ。すまなかったな金剛、それと妖精さん。明日からは部屋で休ませてもらうよ」

 

「問題nothing!明日からもエミヤ提督の目覚めはこの金剛にお任せネ!」

 

「いや待て、私は特に朝が弱いという訳では……」

 

「遠慮はいりまセーン!エミヤ提督は私が起こしに行くまで時間を気にせず休んでいてくだサーイ!」

 

『エミヤ提督、諦めるであります。残念ですが金剛さんは食らいついたら離さない系の艦娘であります』

 

 ああ、穏やかな朝はどこへ……

 休みも無く働いているとは思えないテンションの金剛に戦慄するエミヤ。

 明日からの朝を思うと、まだ仕事前にも関わらず不思議な疲労を感じるのであった。

 

「あっ、まだ皆さんも来ないデスし、Morning teaでもどうデスカ?」

 

 時刻はまだ6時丁度。

 艦娘達が全員揃うまでは時間に余裕がある。

 

「紅茶か……せっかくだ、私が用意しよう。日渡提督も紅茶で構わないか?」

 

「え?そりゃあ紅茶でも緑茶でもありがたくいただくけど……エミヤ君はそんな事もできるのかい?失礼かもしれないが全く想像できないなぁ」

 

「そこまで言われると心外だな。縁あってこういった事には慣れていてね。茶葉によってもクオリティは変わってくるが、それなりの物を用意させてもらうさ」

 

 そう言うと、金剛が用意していた茶葉やティーカップを受け取り給仕スペースへと入っていく。

 

 数分もすれば、執務室は上品な紅茶の香りで満たされた。

 

「3、2、1……良し」

 

 温められたティーカップが各々の前へ並べられ、そこに紅茶が注がれる。

 柔らかな湯気が立ち上り、それに乗って芳醇な香りが鼻腔をくすぐる。

 

「Wow……いつもの茶葉なのに香りが全然違いマース!まるで高級品で入れたみたいネ!」

 

「うん、味も深みがあって美味しい。何か特別なものでも入ってるのかい?」

 

 エミヤから出された紅茶に驚く2人。

 特に金剛は紅茶に対して一家言あるのか、食い付き方が尋常ではない。

 

「特別な事は何もしていない。紅茶に限らず茶葉という物は単純にお湯で抽出して飲めば良いという訳ではないのでね。適切な量と温度、蒸らし時間、それを飲む時間などを考慮して淹れれば自然と上質な物ができる。例えば、朝に飲む紅茶となれば目覚めを促し、尚且つ内臓に負担をかけないよう少し緩い温度で濃い目の物を用意するのが基本だとかね」

 

 ソファに腰掛けて得意気に説明するエミヤ。

 日渡提督は苦笑し、妖精さんは何やらメモを取っている。

 金剛に至ってはどこか惚けたような目でエミヤを見ながらトリップしていた。

 

「おっはよーさん!ん、なんや?朝から紅茶とは金剛も好きやなぁ」

 

「おはよー。今日もいい天気だねぇ、花見酒にでも洒落込んでみるかい?」

 

 香りに釣られたいのか、軽空母の2名が開けっ放しの執務室へと入室してくる。

 

「す、好きだなんて龍驤は大胆デース!私達は昨日会ったばかりなのに……で、でも好きじゃないって訳では……やっぱり時間が……」

 

「いや、何を言うてるん君?」

 

 音に反応する往年の人形のようにウネウネと動く金剛と、それに氷点下の視線を向ける龍驤。

 多忙が行き過ぎてとうとう致命的にどこか壊れたのかと頬を引きつらせている。

 

「おはよう隼鷹。花見酒は遠慮するが、紅茶で良ければご馳走しよう。朝のミーティングまで時間があるようならいかがかな?」

 

「えっ!?この紅茶、エミヤ提督が用意したのかい!?てっきり金剛さんが淹れたのかと思ったよ……」

 

「君もその反応か……私にとっては戦闘よりも給仕の方がよほど好ましいのだがな。で、紅茶はどうする?」

 

「うーん……ありがたいけど遠慮しとくよ!ミーティングの後は全員で朝飯だからねぇ」

 

 時計の針は6時15分を指している。

 そろそろ執務室へと艦娘が集まってくる頃合いだ。

 隼鷹にとっても執務室を満たす紅茶の香りは魅力的だったが、ゆっくり紅茶を楽しんでる時間もなさそうなので辞退した。

 

 そうこうしている間にバタバタと艦娘達が集まってくる。

 

「良し、これで全員集まったね。では、本日のミーティングを開始する」

 

 ミーティングを取り仕切るのは日渡提督。

 今は見習いという事で、エミヤはその様子を後ろから見学している。

 

 紅茶の残り香は執務室に漂ったままだが、全員の表情は真剣そのもの。

 あれだけハイテンションだった金剛ですら、日渡提督からの指令に直立不動で耳を澄ましていた。

 

 内容は夜間哨戒の報告や資材の回収状況、本部や他鎮守府からの伝達、日中の哨戒ルートや資材ノルマの伝達などだ。

 幸いな事に、昨夜の戦闘報告はなかったようで夜勤組も比較的穏やかな表情をしている。

 

 簡単な質疑応答なども含め、時間にして40分、特に大きな作戦命令も無く午前7時にミーティングは終了。

 

「これにて本日のミーティングは終了だ、今日も誰一人欠けることなく1日を終えてくれ」

 

「了解!」

 

「では各自、食堂で朝食を済ませてくるように。僕達も追って向かうよ」

 

 敬礼の後、執務室から出て行く艦娘達。

 その背中を見送ってから日渡提督はホワイトボードや資料などを片付けていく。

 

「これが一連の朝の風景なんだけど、どうだったかな?」

 

 ミーティングで報告された内容を打ち込んでいるのだろう。

 提督用の机に置かれたパソコンを操作しながら日渡提督はエミヤに尋ねた。

 

「どうかと言われてもね?教官の真似事ならば経験はあるが、提督となると畑が違う。しかし参考にはなったよ、無駄のないミーティングだった。艦娘達の気構えも好感が持てる」

 

「それなら良かった。僕が横須賀へ帰ったらこれらの仕事はエミヤ君にやってもらわなきゃならないからね、今は流れを掴んでくれれば良いよ。内容については今日から必死で覚えてもらうけど」

 

 そう言うと、日渡提督はパソコンの電源を落とした。

 

「さて、そろそろ僕等も向かうとしようか」

 

「向かう?どこへ向かうのだ?」

 

「食堂だよ。食事はなるべく全員が揃って食べるっていうのがこの鎮守府のしきたりらしくてね」

 

「英霊には食事の必要はないと言った筈だが?」

 

「でも食べる事も眠る事もできるんだろう?同じ食卓を囲むのは団結力の向上にも繋がる、これもこの鎮守府での仕事だと思ってエミヤ君にも参加してもらうよ」

 

 そう言うのと同時に、日渡提督はエミヤの背中を押して執務室から連れ出した。

 

 食べるという行為に強い執着がある訳でもないエミヤは戸惑ったが、同じ釜の飯を食べるという行為は、摩耗した記憶の中でも懐かしさを感じるものであり、渋々ながらも日渡提督に同行する。

 

 そうして歩いていると、渡り廊下を通った先に給食室という札が付けられた部屋が見えてきた。

 中からは艦娘達の話し声が聞こえてきて、朝の団欒を楽しむ様子が伺える。

 

「Hey、エミヤ提督!こっちの席を空けておいたネ!日渡提督も一緒に食べまショウ!」

 

 中は給食室という札からは想像していなかった内装になっており、それは小さな定食屋のように改装されていた。

 カウンター席の奥には厨房設備が見え、テーブル席が何組か設置されている。

 

 各々が自由な席で朝食をとる中、奥のテーブルに座る金剛がエミヤ達に向けて手を振っていた。

 

「ありがとう金剛君に霧島君、エミヤ君もこっちに座らせてもらうとしよう」

 

「あ、ああ……それ良いのだが……」

 

 何名かの艦娘に声をかけられながら金剛達のテーブルに座るエミヤ達。

 しかしエミヤにはそんな団欒を楽しむような気配は無く、むしろ険しい顔をしている。

 

「どうかされましたかエミヤ提督?」

 

「……すまないが霧島、君達が食べている()()は?」

 

「ああ、これは本部からの支給品です。エミヤ提督達の分もあちらに用意してありますので、あの中からお好きな物を選んできて下さい」

 

 浮かない表情のエミヤに疑問を覚えたものの、霧島はとりあえず朝食の用意について案内した。

 言われるままに視線を移した先……それを見てエミヤの顔は一層険しくなる。

 

「日渡提督……これはどういう事なのだ?」

 

「どういうって……軍の要請で近くの惣菜工場に支給してもらってる食事だけど?」

 

 そこにあったのはビニールに包装された惣菜パンやプラスチックの容器に入ったサラダ、レトルトの麺類や手作り感の皆無な正三角形のオニギリなどが並ぶバットだった。

 

「あそこに立派な厨房設備があるように見えるのは私の気のせいかな?日夜、身体を酷使する彼女達の食事としては偏りすぎだと思うのだが……たまたま今日だけは配送で済ませたという訳ではないのだろう?」

 

「あぁー……あの厨房設備は現在使われてないんだ。人員不足もあって食事を作れる余裕がなくてね。前までは食事担当の艦娘もいたんだけど……」

 

「休息の件もそうだが人員不足にかまけて福利厚生を疎かにするのは関心しないな。ましてや駆逐艦の艦娘など育ち盛りだろう、こんな物ばかり食べさせているとは看過できん!」

 

「ちょ、ちょっとエミヤ君!?」

 

 何がエミヤのスイッチを入れたのだろう。

 ズカズカと厨房の中に入っていったエミヤは、あらかたの設置を確認した後、日渡提督に詰め寄るように宣言した。

 

「本日の予定はどうなっている?」

 

「どうしたんだい!?今日は近海の深海棲艦の艦種やその特徴、艦娘によって異なる性能や運用の違いについて覚えてもらう予定だけど……」

 

「却下だ、それについては既に頭に入っている。ならば今日は自由にさせてもらうぞ?それと夜間哨戒の艦娘を一名、午前中のみ私につけてもらう」

 

 どちらが上司かわからない光景。

 しかもエミヤは提督として必要最低限の艦娘についての性能を覚えたと言い切った。

 当然、日渡提督は目を丸くする。

 

「待ってくれ!覚えたって、たった一晩で敵艦の特徴や特性を!?艦娘の運用についても覚えたって言うのかい!?」

 

「信用ならないのならばこの場で説明した方が良いか?まず近海で確認されている深海棲艦だが――」

 

 絶句する日渡提督やそれを唖然としながら見守る艦娘をよそに、エミヤはスラスラと敵艦や艦娘について説明していく。

 その説明のどこにも不備はなく、なんなら仮想の戦闘状況に応じた適切な艦隊運用例まで提示してみせた。

 

 その様はベテラン提督とまではいかないまでも、提督業務をこなす上でなんら不足ない程度には有能である事を物語っている。

 

「――と、これくらいで納得してもらえたかな?」

 

「す、凄い……本当に一晩で覚えてしまうとは……でも、自由にさせてもらうって言っても何をするつもりかくらいは報告してもらわないと」

 

「それは昼にはわかる事だよ。さて……昨夜の任務に出ていた者の中で私に付き合ってくれる者はいるかな?心配しなくとも午前中には終わる仕事だ、睡眠時間を削るような事はない」

 

 呆気にとられる日渡提督を言いくるめ、艦娘達に目を向ける。

 夜間哨戒に出ていた艦娘は電、愛宕、龍田、霧島の4名。

 

「私が行きたいところだけど艤装の整備で工廠に呼ばれてるのよねぇ。ごめんなさいエミヤ提督」

 

 摩耶と食事をとっていた愛宕は申し訳なさそうに辞退する。

 

「私も昨日の天龍ちゃんの騒動のおかけで寝不足でぇ、ごめんね?」

 

 後ろで文句を言う天龍を見ぬふりしながら龍田も断りを入れた。

 

「なら私が立候補するデー……」

「私は日中の任務で出てしまうお姉さまに変わって秘書艦の業務を片付けなければならないので……申し訳ありません」

 

 元気良く手を挙げる金剛を遮るように、霧島も目を伏せながら謝罪する。

 というか日中の任務があるのに立候補しようとした金剛は何を考えているのだろうか?

 霧島の隣で悔しそうに騒いでいる姿が不思議でしょうがない。

 

 と、なると……夜間哨戒組で残るのは――

 

「あの……電で良ければお手伝いするのです」

 

 響と一緒にカッププリンを食べていた電が手を挙げた。

 

「すまないな電、助かるよ」

 

「平気なのです、司令官さんのお力になれれば電も嬉しいのです。それに、雷ちゃんも電達に頼ってほしいと言っていたなら頑張らないと!」

 

 あまりに健気な電に思わず笑みがこぼれるエミヤ。

 ありがとうと言いながらその頭を撫でてやる。

 それを見て金剛がさらに騒いでいたがエミヤは気付かないふりをした。

 

「そういう訳だ、午前中は留守にするが構わないな?」

 

「はぁ……エミヤ君が言っても聞かない頑固者だってことは理解してるよ。それに、現状ではエミヤ君の自由を拘束する権利は僕達にはないからね。でも、艦娘を同行させる以上は時間厳守で頼むよ?正午までには確実に鎮守府へと戻るように」

 

「頑固者は心外だが、理解には感謝するよ。心配しなくてもすぐに戻るさ」

 

 こうして朝の騒動は収まった。

 

 その後は渋い顔をしながらだが、サンドウィッチとサラダを食べて金剛達と談笑し、食後は各々が自由に休息を取る。

 食堂で解散した後は、工廠と呼ばれる設備で多数の妖精さんに会い、ワラワラと取り囲まれて狼狽えたり、資材置き場や入渠施設に案内されてその役割などを教わった。

 

 ちなみに、エミヤに妖精さんの声が聞こえる事がよほど嬉しかったのか、提督付きの妖精さんに立候補する妖精さんが後を絶たず、『妖精戦争』と呼ばれる争いに発展するのはまた後の話。

 

 そして午前8時、定刻通りに出撃する艦隊を船渠(ドック)で見送った後、エミヤと電は鎮守府から外出する。

 

「ふぅ、鎮守府の朝というのはあんなにも騒々しいものなのか……というか、妖精さんとはあんなにも大量に存在するのだな」

 

「あはは、エミヤ司令官さんが妖精さんの声を聞けるのがよっぽど嬉しかったんだと思うのです。倉敷司令官さんはどちらかといえば妖精さんに怖がられていたので」

 

「ふっ、会ったことはないが、倉敷提督の口調では小さな妖精さんにとって恐怖の対象になったのかもしれないな」

 

 のどかな街並みを歩く2人。

 その姿は歳の離れた兄弟のように見えているのだろうか。

 

 ちなみにエミヤの服装だが、今日は真紅の外套は着ておらず、上下黒のシャツとズボンというシンプルな服装に落ち着いている。

 街中を歩くのに外套のままでは悪目立ちするという気遣いなのだろうか。

 電はいつもの制服姿だ。

 

「ところでエミヤ司令官さん、お手伝いとは何をすれば良いのです?」

 

「ああ、簡単な買い出しがしたくてね。私はこのあたりの土地勘が無い、電には道案内を頼みたかったのだ。食料品などを取り扱っている店が何店舗かあるとありがたいのだが、心当たりはあるかな?」

 

「それなら商店街があるのです。戦前に比べると物は少ないらしいですが、この辺りは農家の方も多くて比較的たくさんの食材が手に入るのです」

 

「それは助かる、これで少しはまともな食事も出せるだろう」

 

 エミヤの言葉に電は耳を疑った。

 

「もしかしてエミヤ司令官さんは、電達のご飯の為に買い物をしようとしてるのですか……?」

 

「む、何かおしい事でもあるかね?君達は前線で戦う重要戦力、ましてや全員が年頃の女性なのだ。きちんとした食生活は身体や心の健康に繋がる部分、提督として疎かにはできないだろう」

 

「はわわっ!司令官さんにそこまでさせる訳にはいかないのです!それに支給されるご飯も美味しいのですよ?」

 

「私がやりたくてやっている事だ、電達が気にすることはない。それに、どうせ全員が揃って食べるのならば出来立ての暖かい食事の方が良いだろう?」

 

 ポンと電の頭に手を置いて微笑むエミヤ。

 その笑顔は電から言葉を奪うに十分な破壊力を持っていたらしく、赤面した電は俯いてしまった。

 

 電には伝わっていた。

 エミヤの細やかな優しさ、道を歩く時もさりげなく車道側を歩いてくれたり、歩幅の違う電に歩くスピードを合わせてくれたり……そして、食事の話。

 顔は俯いたままでも、その顔は満面の笑みを浮かべており、この優しい司令官を送ってくれた姉達や倉敷司令官への感謝を噛み締めるのであった。

 

 そうこうしていると、目的の商店街入り口に辿り着いた。

 

 いくつかの店はシャッターを下ろしてしまっているが、それでも人の往来は見て取れる。

 戦時中だからと悲観せずに、前を向いて生きている人々の活気が感じられた。

 

「ここなら基本的なものは揃うはずなのです。何から見て回りますか?」

 

「そうだな……では野菜から調達していくとしよう。肉類は生物だからな、できれば最後に購入したい」

 

 そこからのエミヤの活躍は目覚しかった。

 野菜の選定、店主との値切り交渉、定期的な仕入先としての契約――

 

 側で見ていた電は後に語る……あれこそが一騎当千なのです、と。

 

 瞬く間にパンパンに膨らんだ買い物袋が3つ出来上がった。

 

「これで今週の野菜は確保できたか。では肉の仕入れに行くとしよう」

 

「まっ、待ってくださいエミヤ司令官さん!とても2人で持ち切れる量ではないのです!」

 

「問題ない、投影開始(トレース・オン)

 

 現れたのは一台の台車。

 創作主のこだわりなのか、カゴの側面には【鎮守府専用】の札が付けられている。

 

「なんでも……ありなのです……」

 

 呆然とする電がその後のエミヤについていける筈もなく、アタフタとしている間に買い物は終了した。

 

 台車には山のような食材といくつかの嗜好品がギッシリ詰め込まれている。

 それを押しながら鎮守府への帰路についた。

 

「……エミヤ司令官さん、戦ってる時より活き活きしてたのです」

 

「私は戦闘狂という訳ではないからね、戦う必要がないのなら戦いたくないのが本音だよ。こうして献立を考えている時の方がよほど有意義だ」

 

「……電も、本当は戦いたくはないのです。平和な世界で……できれば沈んでいく敵も助けたいと思うのです。やっぱり……変、ですよね」

 

 帰り道の他愛ない談笑の中、そんな話題になった時に電の顔に陰りがさす。

 

「敵も助ける、か……」

 

 エミヤはある記憶に思い至る。

 戦時中、暁型駆逐艦の電と雷は海に投げ出された敵兵を殺す事なく全員救助した逸話を持つ。

 そのような経験が軍艦の化身として生まれ変わった時に、その性格へと影響を与えた可能性は大いにあるだろう。

 

 戦争のために生み出されながら、敵の命を救ってみせた軍艦――

 

 ならば、目の前の電という少女がこれだけ心優しい性格なのも頷ける。

 

「電、君のその優しさは大切にするべき美徳だ。変だなんて思うはずがないだろう?」

 

「でも、天龍さんには甘いって怒られたりするのです……響ちゃんにも足元を掬われないようにって注意されたり……」

 

「天龍や響の言う事も正論だ。電がどう思おうが、死んででも君を沈めようという気概で挑んでくる敵もいるだろう。甘さを見せれば死に繋がる、それが戦場だ」

 

「じゃあ、やっぱり電は間違っているのです……」

 

 心なしか泣き出してしまいそうな電。

 しかし、そんな電に対してエミヤがかけた言葉は予想外のものだった。

 

()()()()()()()()()()。私の知り合いに、手の届く全ての人々を救いたいなどという馬鹿げた理想を掲げた者がいてね、私はそんな理想など空想にすぎないと対立した」

 

「エミヤ司令官さんのお知り合いなのです?対立って……喧嘩なのですか?」

 

「ふっ、まぁ喧嘩のようなものだ。タチの悪い兄弟喧嘩とでも言おうか……ともかく、そんな理想を掲げた馬鹿者と私は戦った。そして……私は敗れた」

 

「エミヤ司令官さんが負けたのですか!?その方、とっても強いのです……」

 

「単純な武力では私の圧勝だっただろうな。だが、奴は心が強かった。そして私は言われたよ……人々を救うという理想、正義の味方になるという想い、それは決して間違いなんかじゃない、と」

 

 台車を押すのを止めて、エミヤは電の目線に腰をおろした。

 電の目を見つめ、その頭を優しく撫でながら言葉を続ける。

 

「だからきっと、電の全てを救って平和な世界を望むというその気持ちは間違ってないんだ。君は君のまま、自信を持てば良い」

 

 そう言って、エミヤは再び台車を押し始める。

 

「……そのお知り合いの方は、今どうしてらっしゃるんですか?」

 

「さてね、どこかで人助けでもしているのだろうさ。そいつに言わせれば、その生き方に後悔だけはしないらしいからな。実際は後悔に塗れているのだろうが……できれば電にも後悔のない生き方をしてもらいたいものだよ」

 

「ありがとうございます……でも、電がそんな事を言っているせいでみんなに何かがあったらと思うと心配なのです」

 

「安心したまえ、そうならない為にオレがここにいるのだ」

 

 その後、特に会話もないまま2人は鎮守府を目指した。

 後ろを付いて歩く電の目には、エミヤの背中がやけに大きく見えたという。

 

 閑話休題――

 

 時は進んで、場所も変わって現在は食堂。

 

 帰還した電は厨房へと食材を運んだ後、自室に戻って休息を取るようエミヤに言われて帰っていった。

 そして入れ替わるようにやってきたのは日渡提督。

 テキパキと凄まじいスピードで食材を処理していくエミヤを呆然と眺めていた。

 

「エミヤ君……生前は魔術師だったんだよね?料理人ではなく?」

 

「魔術師兼傭兵といった感じだったが、料理に関しては周りの環境的にもやらなければならない事が多くてね。自然と身についたといったところか」

 

「いや、どう見ても家庭料理の域を超えてるんだけど!?」

 

「世界中を回っているうちにプロの料理人達と交友を持ってね、知らぬ間にスキルアップしていた」

 

「それに厨房もかなり綺麗になっているような……」

 

「それは私の性分だ。前任者の使い方は大切に使っていたのだろうが、さすがに未使用期間の埃や汚れは酷くてね。勝手だが掃除させてもらったよ」

 

 提督業務はともかくとして、戦争に対する知識が豊富、さらに頭もキレて魔術なんてものまで使える。

 その上、家事スキルがカンストしているとは……

 

 頑固者で皮肉屋という点を除けばMr.パーフェクトではないか。

 

 これには日渡提督も脱帽である。

 

「ん?ちょっと待って……この食材の費用はどうしたんだい?エミヤ君はこの世界のお金を持っていたのかな?」

 

「継続的にこの鎮守府で仕入れをする契約を取り付けてきた。支払いは月末にまとめて払うことになっている。ああ、悪いが契約の判子は昨夜引き出しの中に入っていた物を勝手に投影させてもらったよ」

 

「断りもなしに!?艦娘が運営しているのならともかく、提督が給仕を買って出るための経費が軍からおりるとは思えないんだけどなぁ……」

 

「経費など必要ない、私の給与から賄うつもりだからな。この世界の金銭を貯蓄した所でいずれは消える身だ、それならばこういった事で使う方が有効的だろう?」

 

 エミヤ、まさかのボランティア宣言。

 

 確かに、いずれは座に還るエミヤにとって金銭はあまり意味のあるものではない。

 しかし提督として着任する以上はそれなりの給与が支給される。

 それらの給与を全て福利厚生にあてるというのだから日渡提督は今度こそ言葉を失った。

 

「これからこの鎮守府の食生活については私に一任してもらう。無論、それで提督業に支障が出るような事はしないと約束しよう」

 

「うん、言ってることは無茶苦茶だけど不思議な説得力がある……どの道、この鎮守府の管理者はエミヤ君になるんだ。君がやれるように運営してくれればいいよ。僕が教えられるのはあくまでも基本的な部分だけだ」

 

「結構、明日からのご教示もよろしくたのむよ日渡提督。さて、昼食までまだ時間もある……これならもう一品は仕込めるな」

 

 意気揚々と調理に励むエミヤ。

 

 思っていた以上にオーバースペックだったエミヤを残して退室する日渡提督だが、当初の予定とは大幅に違っているものの、今後の鎮守府活性化には目覚しい期待が持てそうな事に内心では歓喜していた。

 

 午前11時半、午前の哨戒任務兼資材回収に出ていた艦隊が帰港する時間だ。

 

 艦隊達は艤装の補給を行なった後、任務の結果報告をするために執務室へと向かう。

 その道中、廊下まで漂ってくる食欲をそそる香りに一同は首を傾げた。

 

「なんやぁ?めっちゃ美味しそうな匂いがするなぁ」

 

「昼飯は豪華な出前でも取ってくれたのかねぇ?エミヤ提督の着任祝いとか?」

 

「お祝いするなら夜なはずデース。摩耶は何か聞いてマスカ?」

 

「アタシは何も知らないよ?愛宕姉も何も言ってなかったしなぁ……天龍はなんか知ってる?」

 

「俺もさっぱり。しっかし任務の後でこの匂いをかいじまったら腹の虫が鳴きっぱなしだぜ!はやく食いてえなぁ」

 

Xорошо(ハラショー)、こいつは旨味を感じる」

 

 戦闘こそなかったものの、大海原を駆け回ってきた艦娘達にとってはたまらない匂いらしい。

 食堂へと駆け込みたい気持ちを抑えて一同は執務室へと向かう。

 

「艦隊帰還したデース!って、アレ?エミヤ提督はどうしたデース?」

 

 金剛達が執務室に入ると、パソコンを操作する日渡提督と書類整理に追われる霧島が出迎えた。

 

「お帰り、全員無事なようで何よりだ。エミヤ君は所用で外していてね、それより戦闘は無かったのかい?」

 

「制海権より遥か沖合いにはぐれのイ級が2匹おったけど侵攻してくる気配もなかったし今回は様子見やね、それ以外に敵との遭遇はなかったよ」

 

「あんなのちょっと追いかけて沈めちまえば良かったのによぉ……みんなして止めるから仕留め損なったぜ」

 

「お前の深追いで倉敷提督から何発ゲンコツ食らったか忘れたのかぁ?アタシはエミヤ提督のゲンコツなんてゴメンだぜ!あれは食らったらヤバいやつだ」

 

「そうだね、あのゲンコツは天龍専用にしておきたい」

 

「まぁまぁ、とりあえず近海には私の艦載機を飛ばして警戒してるから問題ないはずさ。資材は倉庫に届けて妖精さんに記録してもらったから」

 

「了解した、天龍君もやる気があるのは素晴らしいけど危険な戦闘はなるべく避けるようにね?さて、目立った報告もないようだしそろそろお昼にしようか?」

 

 昨夜に続いて戦闘はなし、資材に関する記録書は後で妖精さんが届けてくれる。

 手元の作業もひと段落ついたのを確認して、一同は昼食をとることにする。

 

 先程の匂いもあってか、待ってましたと言わんばかりに食堂を目指す艦娘達。

 食堂前には夜間組の艦娘達も集まっていた。

 

 しかし、誰も食堂へと入ろうとしない。

 どころかドアの隙間から警戒するように中の様子を伺っている者までいる。

 

「Hey、どうしたデース?こんな所で固まってないで早く中に入るネ」

 

「えっと……あのね金剛さん、私にもわからないけど……エミヤ提督が中で凄い事になってて」

 

「What!?エミヤ提督に何かあったデスカ!?」

 

 食堂前で固まっていたメンバーの中で、愛宕の口から語られる意味不明な言葉。

 それを聞いた金剛は漂う香りも忘れて食堂のドアを開け放った。

 

 そこに広がる光景とは――

 

「ん?ああ、君達か。午前の任務お疲れ様。ちょうど出来上がった所だ、好きなものを取って席につきたまえ」

 

 カウンターに所狭しと並べられた料理の数々。

 それらはまさに出来立てと主張するように熱々の湯気を立てている。

 品数も豊富で、煮物から揚げ物、お浸しや汁物まで用意されていた。

 

 何より異彩を放っていたのは他でもないエミヤ自身。

 真紅の外套はどこへやら、イケメンバーテンダー風の黒シャツと前掛け姿で取り皿などをサーブしていく姿はもはや提督でも英霊でもなかった。

 

「個人の好みを聞き忘れていたのでビュッフェスタイルにさせてもらった。夜間組にはこれが夕食になるのだろう?その辺りも考慮して幅広く用意したつもりだが……他に欲しい物があれば注文してくれ」

 

「Stop!ハッキリとStoooopデース!まさかコレ……全部エミヤ提督が作ったデスカ!?」

 

「そうだが……何か嫌いな物でもあったのか?今からだと簡単な物しかできないが……」

 

「そうじゃないデース!どれも凄く美味しそうデスが……何でエミヤ提督が!?」

 

 並べられた料理を目の前に、全ての艦娘がザワザワと動揺している。

 元から知っていたとはいえ、日渡提督ですらそのクオリティの高さに空いた口が塞がらない状態だ。

 そんな艦娘達に囲まれて、さすがのエミヤも困り顔になる。

 ある程度のリアクションは想定していたが、ここまで驚かれるとは予想外だったのだ。

 そんな中、電がポツリと口を開いた。

 

「電達の為にしてくださったのです」

 

 ザワつきが収まり、全員の視線が電に集まる。

 

「午前中、電が頼まれたのは買い物の案内でした。そこでエミヤ司令官さんが電達に料理を振る舞おうとしてる事を知った時、電も驚いたのです。ですが、エミヤ司令官さんは食生活は心と身体の健康に必要なもので、それを管理するのが提督であるなら疎かにできないと……どうせ全員で食べるなら出来立ての暖かい料理の方が美味しいと言ってくれたのです」

 

 そう言うと、電はエミヤに向き直って頭を下げた。

 

「電達の事を大切にしてくれて、ありがとうございます。お料理、美味しくいただきます」

 

 頭を上げた電は、取り皿を手に取ると並べられた料理へと向かった。

 その顔はとても嬉しそうで、艦娘という事を忘れてしまうようなあどけない少女の微笑みそのものだ。

 

「……そういう事だ、これからは君達の食事の世話は私の仕事とさせてもらう。さあ、君達も冷めないうちに食べたらどうだ?」

 

 エミヤのその一言をきっかけに、料理に飛びつく艦娘達。

 久しぶりの温かな料理がよほど美味しいのか、食堂は歓喜の声でいっぱいになった。

 

「うおっ、うめぇ!おい龍田!これめっちゃうめぇぞ!」

 

「はいはい、天龍ちゃん。お口にソースがついてるわよぉ」

 

「できる男やなぁ提督さん!これだけできる男もそうおらんよ?あっ、この唐揚げ美味しい!」

 

「こっちの煮物も絶品だよぉ!鳳翔さんに負けず劣らずだ!こりゃ夜までとっといて酒の肴にしたいねぇ、たっはっはっ!」

 

 圧倒的な主婦力。

 お艦鳳翔の後継、オカンエミヤが爆誕した記念日である。

 そこからは、これが夜なら大宴会という程の大騒ぎ。

 相当な量があった筈だがそこは10人以上の大所帯、あっという間に料理は完売した。

 

 日渡提督の目から見てもこんな幸せそうに笑う艦娘達は、倉敷提督が殉職して以来はじめて目にするくらいだ。

 

「なるほど、艦娘達の事を一番に考えて行動できる……やっぱりエミヤ君は優秀な提督になる人なんだろうね」

 

 食後のお茶を出された日渡提督はカウンター越しにエミヤへと語りかける。

 

「そう大層な事でもないだろう?それに、君が言った事ではないかね?」

 

「えっと……僕が何か言ったっけ?」

 

「この国の為に戦う彼女達が、平和になったこの国で幸せになる権利がないはずない、と。ならば、その平和を守る彼女達に温かい料理を出す事くらいはやって当然だろう?」

 

「そうだったね。うん、ありがとう」

 

 昼の平穏な時間は満ち足りた気持ちで過ぎていく。

 ここからは再び戦場に赴く時だ。

 しかし、海へと出撃する艦娘達の顔はとても晴れやかだった。

 

「行ってくるぜ提督!晩飯も楽しみにしてるからなぁ!」

 

「あっ、天龍は下戸だけどアタシ達は飲兵衛だからな!旨い肴があると助かるぜ!」

 

「心得た、腕によりをかけて準備するから君達も無事に帰ってきたまえ」

 

 見送りに出たエミヤに手を振って出撃する艦娘達。

 着任2日目にして、その距離はグッと縮まったように見えるのであった。

 

 ちなみにだが、しばらくの間はエミヤの提督研修を厨房で行う事になった事は言うまでもない。

 

「エミヤ提督……私のお嫁さんになってくだサーイ!」

 

「なんでさ!?」




オカン降臨でした。
これからもエミヤの主婦力は遺憾無く発揮される予定です。

次回、自由提督エミヤの日常
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