深緑の火星の物語   作:子無しししゃも

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 第66話です。バトル多めだったり。
 原作でジョセフのベース候補なんじゃないか、とか言われていた生物が出てきたリします。


第66話 U-NASA防衛戦(1)

「おや……道を尋ねただけなのに手荒いね」

 

 目の前のトーガの青年を相手に、第1班臨時編成部隊がとった行動。それは、それぞれの武器を構え、青年を油断無く見据える事だった。

 

「……アンタ、どこかで会った事があるか?」

 

 時代錯誤の衣装を身に纏った不審な人物と言えど、この状況であれば援軍に駆け付けようとしたU-NASAの特殊な隊員か何かと考える事もできよう。だが、彼らが敵意をむき出しの対応をした理由。それは、何の理由もない、ただ直感に従っての事だった。

 

――――敵だとか味方だとか、そんな次元の存在ではない、生存圏をかけて争うべき何か。

 

 さらには、健吾の一言。それは、拓也以外の3人も同時に考えていた事だった。この気味の悪い、腐肉に手を突っ込んだかのような雰囲気。これを、どこかで感じ取った事があるような気がする。

 

「……」

 

 残された拓也の様子は、3人のものとはまた異なっていた。それは、目の前の青年から何かが思い出せそうな気がする、頭痛に近いもの。さらに加えて、3人のものと同じ。そして、それよりも強い既視感。

 

 

「ああ、隠すのは無駄なようだ……では改めて、初めまして。いいや、久しぶり、かな?」

 

 無造作に背の槍を抜く。懐から、パッチ状の『薬』を取り出す。

 その動作に反応できた人間は、4人の中にはおらず。

 

「私はオリヴィエ。家名は……君達に名乗るような下卑たものではないのでいいだろう。今回の襲撃の首謀者だよ」

 

 そう屈託なく笑い、名乗った青年、オリヴィエは。

 

「では、さような……ごぷっ」

 

 その槍を目にも止まらぬ動作で4人の内の最も鈍そうな少女、美晴に向けて繰り出した。

 

 しかし、その攻撃は真っ向から別の人間により止められ、さらにはまた別の方向からの反撃により首に風穴を開けられる。

 

「……下がってろ」

 

「……ったく、ホント運ねぇな俺ら」

 

 槍を正面から受け止めたのは、拓也だった。変態と同時にその腕力で槍を掴み取り、その威力を殺す。

 そこから推定できるのは相手の力。

 確かに、相応の力はある。だが、それほどではない。素体となる人間の能力は相当に高い事が感じ取れるが、そのパワー自体はせいぜい、MO手術による最低限の強化、ツノゼミのそれのみといったくらい。

 

 反撃の、拓也の肩を掠めるように繰り出された槍を放ったのは健吾だ。皮肉にも、自身の武器と同じ槍によって致命傷を負う事となったオリヴィエは、血を吐いて体を震わせる。

 

 健吾は、即座に首を貫いた槍を左右に振り、首を切断しようとした。今の状態でも致命傷。死体を損壊させる趣味は健吾には無い。だが、そうしないとまずい、と脳が警鐘を鳴らしている。

 

「腕を上げたねぇ」

 

 健吾の槍は首を貫き、後ろまで抜けていた。だが、刺さっていたはずの首が、いつの間にか健吾の槍からは消えており、代わりに。

 

「……かっ……」

 

 今度は、健吾の口端から血が垂れる。その胸には、オリヴィエの手に持っていた槍が突き刺さっていた。あと一瞬対処が遅れれば、絶命は免れなかった。

 

「っ……!」

 

 その命を救ったのは、武による咄嗟の一撃だった。いつの間にか『コガシラクワガタ』の槍から自身の首を引き抜き、健吾へと一撃を加えていたオリヴィエ。その動作はほぼ一瞬の内に行われていた。

 しかし、オリヴィエの姿が健吾の槍の先から消えた瞬間に反撃が来ると踏み、それを阻止するために武は拳による一撃を繰り出したのだ。

 

 結果としてそれそのものを阻止する事はできなかった。だが、それは戦友を救う事に繋がり、さらには反撃の機会を与える事にも繋がる。

 

「退け二人とも!」

 

 拓也の声に反応し、二人は一歩背後に下がる。武の一撃はオリヴィエの腹を正確に狙っていたが、オリヴィエが槍から離した左手によりそれは防御されていた。だが、有効打にはならなかったとはいえそれによってオリヴィエの対応に一瞬の隙が生じる。

 

 拓也は、二人が離脱したのを確認し懐から一本の投擲具を放つ。それは、彼の専用装備ではなかった。

 楔型のそれではなく、クナイ型のそれはオリヴィエの肩口に突き刺さる。

 

 一泊おいて、オリヴィエがそれを引き抜こうと手を肩に当てた瞬間、拓也の手とクナイの刺さったオリヴィエの肩、その間に光が一本走る。

 

 衝撃で跳ねるオリヴィエの体。だが、その瞳はまだ生気を失っておらず興味深そうに4人を見つめる。

 

 それを睨み返し、拓也は舌打ちする。本来のそれであれば肩を持っていけたものを、と。

 

 対テラフォーマー受電式スタン手裏剣『レイン・ハード・レプリカ』。

 アネックス計画第5班班長、アドルフ・ラインハルトの専用装備を模倣した武器。

 

 拓也の元に突如としてこれが届けられたのは、つい先日の事だった。U-NASA内部便であるという事以外は差出人不明。同梱されていた説明書の最後に『貴方の親友から愛を込めて♡』などと冗談めかして書かれていたが何の事やら。

 

 兎に角、元の経歴が経歴であるため武装など当然用意されていなかった拓也にとっては、有事の際にも味方を巻き込む事なく電撃を放てるこの装備はありがたいものであった、が。

 

 どうにも、わざとスペックダウンさせられている気がしてならない。それは、武器が悪いわけではない。拓也の元々の専用装備『雷機雷』と今使用している装備のコピー元『レイン・ハード』ではそもそも運用を想定した手術ベースが異なるのだ。

 

 2種に共通するのは、電気を誘導する機能。差異は、それ以外の多数。

 

 電気信管で作動し内部の少量の爆薬が炸裂し、さらには毒液を仕込む容器を内蔵する『雷機雷』は電気以外の部分でも大威力である代わりに多機能で高価、さらには使い捨てとなる。これは生物を即座に殺傷できるほどの電気を放てず、毒液や筋力による投擲といった能力を持つゴビサバクオオチョウムシに適応させた結果と言える。

 

 一方の『レイン・ハード』は構造自体はシンプルな、クナイ型の投擲具に導雷機能を付けたそれだ。だが、その形状は素でも高速の投擲、さらにはレールガンの原理でのテラフォーマーでさえ回避困難な速度の射出を可能とし、刃の部分自体の貫通能力という点でも『雷機雷』に勝っている。さらには、拾うだけで再利用が可能。重量も雷機雷と比べて軽く、多数を携帯できる。これは、高い放電能力を持つデンキウナギの能力と組み合わせる事で真価を発揮するものと言える。

 

 つまりは、生物を容易く殺傷できる強力な電気を放つ事を前提に設計されているレイン・ハードは、そこまで強い電気を生成できないゴビサバクオオチョウムシという手術ベースにはイマイチ合わないのである。

 

 

「ああ……肩こりが取れそうだよ」

 

 オリヴィエは起き上がり、肩を揉む。その首に付いた貫通痕はじわじわと塞がり、肩の電撃による焼け焦げたような損傷も、徐々に元の姿を取り戻していく。

 

 『薬』から察するに、哺乳類型。力が強化されている様子は殆ど無く、代わりに再生能力?

 頭を回転させるが、次々と疑念が浮かんでくる。傷を押さえ武の背後に下がった健吾は、一度戦線離脱したなりに敵の詳細を突き止めようとする。

 

 

「どうしたかな? コレがそんなに珍しいかい?」

 

 長期戦は不利だ。こちらに再生能力持ちは拓也しかいない。しかも、以前聞いた所によると、電気を使用するのは己の身を削る行為なのだという。火星で拓也が体に付けていた、電気による体への悪影響を和らげるための安全装置。それが、今の拓也の体内には存在しないのだ。

 

 長期戦になればなるほど不利だ。首に風穴を開けて、電気で肩を焼き、それを再生される。

 相手の再生能力がどこまでなのかはわからない。手足の完全な切断は再生できるのか。頭を切り落とせば死ぬのか。しかし、わかる事もある。それは、オリヴィエに対する奇妙な既視感、それの正体と言えるもの。

 

 この能力は火星で戦った男、マルクと同一のものだ。あの時も、健吾は相手の首を貫いた。そして、相手はその風穴を再生した。その過程は、再生の速度、その様子はそれとそっくりなのだ。

 

 再度、オリヴィエが準備運動だとでも言いたげに一歩前に踏み出す。拓也と武が構え、それを迎え撃とうとしたが。

 

「じゃあ、まず1人」

 

 見据え、目を離さなかったはずの敵は、拓也と武の構えた防衛線の後ろに立っていた。まるで瞬間移動したかのような動きに、対応が遅れる二人。オリヴィエはその槍を、腹を押さえる健吾の右眼めがけて繰り出す。

 

「……あなた、おかしいです」

 

 オリヴィエの攻撃は、中断された。それは、防衛線を抜けられた2人でも健吾でもなく、最後の一人がオリヴィエに躍りかかったからだ。最初にオリヴィエが無防備だと判断し始末しようと攻撃し、その後は気に留めていなかった少女は。

 

 全身を強固な装甲のような鱗で覆い、美晴はオリヴィエの心臓に向けてその手を、MO手術ベースとして攻撃に転化できるようにデザインされた刃のような鱗の固まったそれを向ける。

 

「イカレてますよ、この人」

 

 それを腹に受けたオリヴィエの皮膚は破れ、血がトーガに滲みだす。だが、それすら気に留めない様子で健吾から標的を変更し、美晴へと槍を放つ。だが、それは角度を付けて受けた鱗によって弾かれる。

 

 正面から殴り合えば、戦闘向けのベースであるにも関わらず本人が弱い事から非戦闘員カウントであった美晴では数秒と持たない。だが、逆に言えば弱い人間の体であろうとオリヴィエ相手に数秒持たせるだけの恵まれたベース。

 それを最大限に活用し、美晴は他の3人の参戦する時間を稼ぐ。

 

 健吾の槍が、背を向けたオリヴィエの脇腹を刺す。だが、直後に再生。

 

 拓也の再度の投擲からの電撃が、その身を焼く。だが、心臓や脳といった絶命を狙える器官には当てられず。

 

 武の打撃も、通りはする。だが、骨を砕く一撃は、すぐさま再生が行われる。

 

 

 美晴の示した、明らかな嫌悪感。その意味を、健吾はオリヴィエの身に宿す生物と同時に察した。

 なるほど、それは確かに、と。

 

 マルクとオリヴィエ。両者に適合し、殆ど同じ効果が生じる生物。

 

 詳しい関係性は不明だが、恐らく同じ組織に属しているであろう別人の2人に施せる、恐らくは適性を得られる人間の幅広さ。

 

 わかった。わかりはしたが、それがわかった所で殺せるのか。

 

 健吾は痛む体を引きずり、オリヴィエの槍を押し返す。

 

 特別な能力も無しに4人を相手に互角以上に立ち回る身体能力。

 

 おぞましい気配、だがその中に残り香のように感じ取れるのは、確かな同種の気配。

 

 

――――――――――――――

 

 この生物は、最強の生物に名乗りを挙げる事ができるだろう。

 

 そして同時に、最弱の生物とも時に言われるだろう。

 

 

 前者。地球で覇を唱える絶対的存在だから。

 

 後者。己が身一つでは、それはあまりに弱いと考えられているから。

 

 

 大きな体を持ちながら、格下と見て利用する動物にも敗れる鈍重さ。

 他の生物では当然の環境に生身一つでは適応できない弱弱しさ。

 

 そう嘲られる生物は、ああ、だがしかし!

 

 

 増え、築き、支配する。他の生物を。彼らよりはるかに強い、巨体を。牙持つものを。そして、同族さえも。

 

 生み出す。住居を、食物を。武器を。他には許されざる権能、雷や神の炎、太陽そのものを。

 

 

 ……わかっていた。MO手術を施す際に、生物との適合性が重要であるならば、これが最も適した生物なのだと。だが、その生物を手術ベースにする事が全くの無意味、本末転倒である、という事も。

 

 しかし、それが無意味ではない、という事が証明された。……ならば、それを持ちいるのは、自明の理。

 

 

 

 

「ああ、ああ、楽しいね、面白いね、人間諸君……もっと見せてくれたまえ、その命の煌めきを!」

 

 ただ、その空虚の瞳を輝かせ、4人を見つめる。

 

 その姿は、正に『人間』という種族を極めた王の一人、それに相応しいものであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 オリヴィエ・G・ニュートン

 

 

 

 

 

 

 国籍:?

 

 

 

 

 

 

 

 ■■歳 ♂  190cm 97kg

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 専用装備:対生物コーティング式西洋槍『ペルペトゥウム・ロンギヌス』

 

 

 

 

         +

 

 

 

 

 

 脳神経接続型量子通信装置『定足感知(●●●●●●●●●)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

MO手術"哺乳類型"

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――ヒト―――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――発生初期胎芽




観覧ありがとうございました!
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