深緑の火星の物語   作:子無しししゃも

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第四章のプロローグにあたる話です。

拙作第二部後半戦(前半より確実に長くなる)、次回から本格的に開始となります。



第2部 4章 フラスコの中の憐歌

──夢を見た。

 

 もう二度と覚めないと思っていた眠りから覚めた時、最初にわたしを迎えてくれたのがあなたの冷ややかな目でした。

 

 厳しいあなたのことが好きです。

 わたしの事を育てればすごく強くなる武器としか考えてないはずなのに、ほんのちょっとだけ優しくしてくれるところに胸がきゅんとします。

 

 楽しいことから大事なことまで、わたしにいろんなことを教えてくれるあなたが好きです。

 力さえ使えたらなんでもいいわけじゃなくて、外に出ても我々の品位を貶めないように~、なんて言ってお勉強をさせてくれたのはあなただって、知ってます。

 

 わたしとちょっと似てるところがあるあなたが好きです。

 わたし、お姉ちゃんと違ってちょっといじわるで“ねにもつ”タイプなので。

 その上似た生き物が入ってる、って聞いた時は、これは運命だ! って思いました。

 それだけで嬉しかったのに、使い方のお師匠さまと弟子ってことでいっしょにいられて役得です。んふふ。

 

 わたしはきっと、もうちょっとしか生きられないけど。

 わたしのおかげであなたがもっと偉くなってるところが見られたらいいなーって思ってました。

 

 でも、今こうして目を覚ましても、あなたはもういません。

 火星に行って、そこで死んでしまったと聞きました。

 わたしはまだ、あなたにお返しのひとつもしてあげられていませんでした。

 

 だから、ご恩返しがしたいんです。

 あなたが喜んでくれそうなものはわからないから……世界を征服しちゃって、好きなものを選んでもらいます!

 発想は大きくですよね!

 

 それで……怒らないでほしいんですけど。

 わたしがあなたを生き返らせてあげられるのか、上手くできなくて先に死んじゃうのかは……別に、どっちでもいいんです。

 

 あなたが悪い人だってこと、知ってますから。

 わたしが今から悪いことをすれば、いっしょのところに行けるでしょう。

 お姉ちゃんたちと会えなくなるのは寂しいですけど、一世一代の決断です!

 私はそれで、満足できます。

 

 ……。

 怒らないでって言いましたけど、もしまた会えたらどちらにしても怒られるってわかってます。

 あなたはそんなこと望んでないかもしれないですし、またわたしが失敗するかもしれないので。

 本当は、今になっても迷ってます。もしかしたら怖くなっちゃってできないかもしれません。

 

 でも、その迷いを乗り越えて、あなたにもう一度会えたなら。

 ちょっとだけ……ほんのちょっとだけで、いいので。

 

 がんばったな、えらいなって褒めてくれたら嬉しいです。

 教えてもらったことを、ちゃんとできた時みたいに。

 

 それじゃあ、行ってきます。

 

 

 

 

──夢を見た。

 僕が尊敬する先生は、不器用な人だった。

 この学術分野における大天才。歴史を変える発見をするに違いない。

 

 そう誰もが囁くあの人を、世間の誰もが理解していなかった。

 新人だった僕があの人の研究室に配属されると決まった時、胸が高鳴った事を覚えている。

 たとえどれほど人格に問題がある人間だろうと、歯を食いしばって付いていく覚悟を決めていた。

 

 でも、実際に会ったあの人は違った。

 人並みに笑い人並みに悩み、人並みに気遣いがあって人並みに欠点もある。

 孤高の天才、マッドサイエンティスト、などという言葉とは程遠い、どこにでもいるひとりの人間。

 それが先生に抱いた第一印象だ。

 

 失望した。こんな人に、多くの人間を救う偉大な研究なんて成せるのか?

 それが率直な感想だった。

 

 

 そして数年後。先生は変わった。

 己の望みがいかに罪深く愚かなものだったのかを、僕は思い知ることになった。

 

 

 

 それからの出来事を思い出すつもりはない。

 誰にも話そうとは思わない。

 

 それが、僕が人類を裏切り悪魔の手を取った理由だ。

 そして──今から、世界を滅ぼそうとする理由でもある。 




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