深緑の火星の物語   作:子無しししゃも

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第109話 集う役者

「快適な空の旅としゃれこみたかったが……そんな贅沢言ってられるような場合でもねえしな」

 

 場所はロシア連邦上空。

 冗談めかした彼の言葉通り、時折ガタンガタンと揺れる機内は快適とは言い難かった。

 座席が機内の両端に向かい合わせとなるよう配置されているその構造は、大人数の旅客を想定したものではない。

 重機材の運搬と迅速な積み下ろしを目的とした、軍用機の特徴だ。

 

「あはは……せっかく来ていただいたのにごめんなさい」

「いえいえ、仕方ね……ないですな。少なくとも俺ら本業にとっちゃ、こっちの方が慣れてるから気が休まるってもんだ」

「おいおい指揮官さんに無礼だぜ軍曹殿よー」

 

 肩をすくめる彼に、向かいに座っているエリシアが苦笑しながら謝罪する。

 それを受け言葉遣いを咄嗟に上官に対するものへと訂正した彼を、部下のひとりが冷やかした。

 

 軍用輸送機の貨物室で現地への到着を待つ彼らは、エリシアたち四人だけではない。

 今現在、機内の座席は各国より派遣された人員によって十数人分が埋まっていた。

 

 エリシアが任を受けてから今に至るまで、おおよそ半日ほどしか経っていない強行軍である。

 2600年代における移動手段の発展様様、というべきか。

 たったそれだけの時間で、各国より派遣された人員はここに集い作戦予定地へと向かっている。

 

「んじゃ、こんな鉄火場だが改めて自己紹介でもするか」

 

 彼らの目的は、謎の武装勢力により占拠された研究都市の潜入及び首謀者の捕縛である。

 個々の能力に加え、各所の滞りない連携が必要になるだろう此度の任務。

 事前訓練も無く複数国の部隊が共同作戦に臨むのは不可能では? という声も当然上層部から出ていた。

 

「正直見知った顔ばっかで同窓会か? って気分だが……」

 

 だが、その懸念は投入予定の人員リストを見た参加者たちが揃って否定することによって解消された。

 今作戦の中心たるロシアの戦力がひとり、レナートは居並ぶ面々を見回し呆れたように呟く。

 

「そりゃいい。今からでも小洒落たバーでも探すか? 『裏アネックス合同打ち上げ会』なんて言ってな」

 

 彼らはほぼ全員、もう既に顔を突き合わせたことがある仲だったからだ。

 レナートの呆れ面を軽く笑い飛ばし、先ほどから口数多く語っている青年がすっと手を挙げる。

 

「久しぶりだなお前ら。元裏アネックス第一班副班長、現U-NASA特別敵対勢力対策局所属、チャーリー・アルダーソンだ。んでこっちは元班員で部下のリックとアシュリー」

 

「おひさー」

「こ、今回もよろしくお願いします……」

 

 紹介に預かり、チャーリーの隣に控えていたふたり、狙撃銃を携えた軽薄な人格を思わせる青年と長い癖っ毛をツインテールに纏めた気弱そうな少女が頭を下げる。

 

 特別敵対勢力対策局。

 U-NASA主導で設立された、とある(・・・)集団に関わる事案に対処するための作戦部隊。

 このふたりにチャーリーを加えた三人が、今回の作戦のため派遣されたアメリカの戦力である。

 

「来た時から気になっちゃいたが……そっちの班長はいねぇのか?」

 

 チャーリーとハンドサインで気安く挨拶を交わしながら、レナートが尋ねる。

 班長──元裏アネックス第一班班長、ダリウス・オースティン。

 火星の戦いを生き残った最大戦力のひとりは、この機内にいない。

 

「おう、今回の任務には向いてない、ってなってな……それとU-NASA本部も国もやべえしな。俺たち三人送り出してくれただけでも奇跡だと思ってくれ」

「……まあ、言われてみりゃそうだよな」

「ダリウスさん……ご挨拶したかったのですが」

 

 しょんぼりしているエリシアはともかく、レナートに落胆はなかった。

 ダリウスが派遣されてくる可能性は低いと、チャーリーが説明した通りの理由を最初からわかっていたからだ。

 

 そのひとつは彼の能力は此度の任務に適性が無いという点。

 有無を言わせぬ広域の破壊は、打撃力という点ではこれ以上無く役立つだろう。

 だが、それで施設を崩壊させ大目的の一つである完成した治療薬ごと吹き飛ばしてしまっては元も子もない。

 この胞子を生み出している元凶を排除したいというだけなら最初からミサイルでも撃ち込んでおけ、という話である。

 

 もうひとつは、ダリウスの立場とアメリカが置かれている状況。

 ロシア側に詳しい情報は入ってきていないが、U-NASA本部では現在大きな混乱が起こっているらしい。

 その状態で監視の目が緩むような国外の任務にダリウスを送り出すのはやはり不安が勝るのだろう。

 さらにはアメリカという国がテラフォーマーの大規模攻撃を受けている以上、“ある程度の制御が聞く人間サイズの兵器”などという代物を国から引き剥がせないというのは想像に容易い。

 

「ま、お嬢さんとそっちの兄ちゃんに伝言は預かって来たからさ。一通り挨拶が終わった後でな」

 

 そんなダリウスの名代としてやって来たチャーリーはまずエリシアを、次いで黙々と機材を触っている一団の代表者を見る。

 

「これはご丁寧にありがとうございます。僕に博士の代わりが務まっているか自信はありませんが──」

 

 流れで自己紹介のパスを渡された代表者、真面目で穏やかな人格を思わせる青年はチャーリーと集った皆に会釈する。

 

「──U-NASA第五支局研究員、ダニエル・アードルング。医療支援と現地でのサンプル分析に全力を尽くし皆さんの助けになれればと思います」

 

 青年、ダニエルを見て、レナートとチャーリーはそれぞれ微かな驚きを内心に浮かべた。

 班長であるヨーゼフの副官。優れた手術ベースを有しているからかランキングでは比較的上位に名を連ねていたが、それ以外は特筆すべき点もない新人研究員。

 かつてのダニエルにふたりが抱いていた印象は、それ以上でも以下でもない。

 よく言えば堅実、悪く言えば目立たない裏方……といったところだ。

 

「危険な戦闘行為は皆様に頼る形となってしまいますが……どうかお力添えを」

 

 だが今の彼の目には、言葉の謙遜に反して確かな気概が宿っていた。

 続いてダニエルに近い席の四人がそれぞれの名を名乗っていく。

 男女入り混じっている彼らの顔は、ここに集った幾人かが知っていた。

 ダニエルと同じ、裏アネックス計画ドイツ第五班の班員たちだ。

 

「そりゃこっちの台詞だ。ある意味じゃ俺らより重要だろうよ」

 

 敵を打ち倒してやろうというような暴力的な気勢には欠けており、各々で機材に触れている彼ら。

 その姿は、計画当時と変わらぬ役割を示している。

 すなわち研究職やエンジニアといった補助役、非戦闘員。

『裏マーズ・ランキング』において、班長であるヨーゼフとランキング上位のダニエルを除けば彼らはいずれも下位だった。

 必然、戦力として期待できる部分はごく少ないと言わざるを得ないだろう。

 そのため、今回の任務においても護衛対象と呼べる存在だ。

 

 では、彼らは守られるだけの臆病者なのか?

 

「これは我々の我儘です。足手まといになった時には見捨てていただきたく」

 

 否。

 たしかに彼らは敵と直接刃を交える戦士ではない。

 だが、その目には確かな技術者の矜持が燃え盛っている。

 

 本来なら、彼らが後方支援とはいえ前線に出る必要は無い。

 現状まだ安全なモスクワで、戦士たちが胞子のサンプルやワクチンを持って帰還するのを待っていればいい。

 事実、上層部のブリーフィングではその方向で話が進んでいた。

 それでも彼らは、反対意見を押し切り今こうして戦地へと向かっている。

 戦士たちと道行を共にするため、入手できた成果の解析をいち早く進めるために。

 

「おう、この調子じゃ俺らの方が足手まといになりそうだ。なあお前ら!」

 

 研究員たちの気迫を受け取り、チャーリーは冗談半分、本心半分で笑い飛ばす。

 各国の戦闘を担当する人員もまた、チャーリーの煽りに苦笑したり気勢を上げたりと和やかな反応で盛り上がる。

 

「そんでもって、最後に問題児が残ったワケだが……」

 

 そして、戦いの緊張が多少はほぐれた空気の中にただひとつ例外が存在していた。

 僅かに気まずそうな間を作った後、レナートは最後の一団へと目を向ける。

 多国より少し離れた席に、青年が一人と女性がふたり。

 皆が同じ戦場(火星)帰りという立場で和やかな会話が飛び交う中、彼らだけは沈黙を保っていた。

 

「んだよオッサン。文句あんのか?」

 

 視線に気づいた女性のひとりが、眉根を寄せレナートを睨む。

 首を傾け下から覗き込むようなそれは、“メンチを切る”という俗な表現がよく似合っていた。

 

「やめなさい鈴。僕たちの立場を考えたら、警戒される方が当然です」

「そ、そうですよ……!」

「うるせー! こういうのは強気で行かないと舐められんだよ! プラチャオも雅维もほら一緒にやれ!」

 

 幸いにも、あとの二人は冷静だった。

 落ち着いた声で、しかしはっきりと女性──鈴を窘める青年、プラチャオ。

 おずおずではあるがプラチャオに同意し鈴を抑える少女、雅维。

 彼ら彼女ら三人もまた、ここの皆が見知った仲ではある。

 

「申し訳ありません、エリシア殿。彼女にはよく言って聞かせますから、無礼をお許しください」

「い、いえっ。その……処刑された、なんて聞いていたので……お元気そうでなによりです」

 

 裏アネックス中国・アジア第四班。

 アネックス計画の第四班と同じく、彼らは国の命に従い裏切りを画策し反目した。

 最終的には状況の変化により協力する運びとなったが、その立場が危ういものである事には変わりない。

 事実、失敗した上で生きて帰られては都合が悪い彼らは『アネックス第四班に呼応し現場が暴走した』という名目で国によって処刑されたとこの場の皆は聞いていた。

 

「……はい。様々な縁があり命を拾い、国から指令によって今この場に座っています」

 

 周囲を見回し、三人の代表としてプラチャオは静かに語る。

 

「でも、それは僕たちの事情でしかない。そして何より、皆さんに明かせない情報もある。信用を得られないのも当然の話です」

 

 向けられる幾つもの視線の中に疑念や微かな敵意が感じ取れたのは、錯覚などではない。

 プラチャオを始め三人とも、その事実を当然だと飲み下している。

 たとえ最後には共に戦った仲であろうとも、人類に背を向ける陰謀に加担した罪を誤魔化すことなどできない。

 

「ですので、もしお望みならば監視を付ける、拘束するといった措置を取っていただいても構いません。僕たちは従いますし、国に報告するつもりもありません」

 

 だから、プラチャオは今自分たちが差しだせるだけのものを差し出す。

 再び鈴が何か話そうとしたが、彼の表情に口を噤んで押し黙ったようだった。

 

「……私は、大丈夫だと思います」

「いや、どうだろうな。念を入れた方がいいんじゃないか」

「研究チームとは引き離したいかもな」

 

 一瞬、場に沈黙が走る。その後に、十人十色の意見表明が次々となされていく。

 別にそこまではしなくてもいいだろう。非戦闘員と接触させるのはちょっと。拘束とまではいかないが、しっかり見張りを付けるべきだ。

 賛否両論、ひとつには纏められないだろう数々の意見。

 

「監視も拘束も不要です。皆さんと同じように、任務に臨んでいただきたいと思います」

 

 その結論は、この場にいる唯一の幹部搭乗員(オフィサー)が……この場で最もか弱く見える少女が、一言で下した。

 

「今回は、最初からいっしょに戦ってくれるんですよね?」

 

 空色の瞳が、プラチャオを静かに見据えていた。

 ただ純粋に、馬鹿正直に言われたままを信じるお人よし……では、なかった。

 

 エリシアの事情を、かつての協力者であると同時に敵対する可能性のある上位戦力としてプラチャオたちは知っている。

 実験動物として生み出され、屍の山を歩んできた彼女は外見通りの無垢な存在には遠い。

 世の悪徳を知る、奥底に暗がりを讃えた瞳にプラチャオは無意識で唾を飲み込み、改めて理解する。

 

「“最初から”とは尋ねても“最後まで”とは確認しないのですね」

「だって、そっちは以前にちゃんと成してくれたと聞いていますから」

 

 そして同時に、そんな彼女が自分たちを信じてくれている事も。

 

「……感謝を」

 

 多くは語らず、プラチャオと雅维はただ頭を下げる。

 自分たちに与えられた温情と信頼に応える。それを何より示せるのは、長々とした挨拶ではなく行動だと知るが故に。

 

「思うことがある人もいるかと思いますが、今はひとりでも頼りになる人がほしい状況です。中国の皆さんがどれだけ強かったかは、私よりも直接戦った皆さんが知っているはずかと」

 

 エリシアの決定に、反対意見は無かった。

 たとえ気迫や武威ではレナートやチャーリーといった叩き上げの軍人に及ばずとも、彼女は正式にこの場を任された指揮官であり、かつての任務で皆それぞれが信頼を置いていた上官の同僚である。

 

「それに……当の私があまり人のことを言える状況じゃないといいますか……」

 

 そうしてひりついた空気は、困ったようなエリシアの声で変わる。

 深い水底のような暗さを湛えていた彼女の表情は、すっかり普段の弱気なものへと戻っていた。

 気まずそうに彼女が見やったのは、己の周囲だ。

 

「……言葉もありません」

「まぁ……あたしとヨハン君がオッケーなら大抵は大丈夫みたいなとこあるよねぇ」

 

 視線の先にいたのは、“裏切者”の幹部がふたり。

 集中した視線に、ヨハンが居住まいを改め恭華が困ったように苦笑する。

 

 それはそうだ、と。

 何とも言えない弛緩した空気で、自己紹介は終わった。

 

――――

 

 アメリカ、ロシア、中国、ドイツ。

 これらが、今回の作戦に戦力を投じた主要国である。

 世界を牽引する大国六か国の中で、戦力を派遣していないのは日本とローマ連邦の二か国だ。

 

「ホントなら俺らと一緒に来る予定だったんだが……裏の方は主戦力が不在中で無理はさせらんねえ、ってなってな。本国はなんかゴキブリ共に不穏な動きがあるから警戒に戦力割いてると」

 

 チャーリーは同盟国の事情を思い、ふうと息をつく。

 今現在テラフォーマーの大規模襲撃を受けているのは各国共通の危機的状況だが、日本ではそれに加えて何やら別のテラフォーマーの群れに不審な動きが見られているという。

 

 国内の戦力が難しいならアメリカに滞在している裏アネックスの人員を……という流れになるのは自然な成り行きだったが、そこでも問題が発生した。

 主要な戦闘員は各々の事情でアメリカに残っておらず、残されたのは多くが非戦闘員や外に出られない事情を抱えた者たちだ。

 その結果として人員の派遣は断念、機材と財政的支援に留まっている。

 

「ローマは……今それどころじゃないよなぁ」

 

 もう一国、ローマ連邦はより切実な理由だった。

 各国の公的な国家間協議、もしくは諜報部門から知らされたかの国の現状は、極めて深刻である。

 

 軍基地が未確認の武装勢力により次々と襲撃を受け、さらにはテラフォーマーとも違う異形の生命体が地下から湧き出しているという、ロシアとはまた違った形での地獄が如き様相。

 このような状態では援軍が飛び立った途端に攻撃され全滅、まであり得る上、とても外に戦力を送り出している状況ではない。

 加えて言えば、アネックス計画での乗員がほぼ壊滅しているという結果から、かの国が送り出せるのは他国と異なり一切の連携経験が無い人員だ。

 これらの要因から、今回の派遣を見送るのは致し方ない状況判断であった。

 首脳会談でのげっそりとやせ細ったように見える大統領の姿を見れば、誰が無理強いできるだろうか。

 

「帰ったら」

「やめましょう……」

 

 本来よりも減った戦力ではあるが、致し方ない。

 それに現状、任務自体は滞りなく進んでいる。

 時折共有されるパイロットからのこのまま何も起こらなければ、あと少しで目的地に到着するという距離らしい。

 乗員たちの中にも、ほっと一安心の空気が少しずつ広がっていた。

 このままであれば、第一段階は何の問題もなくクリアだ。

 

 

「きゃっ……!?」

 

 などと油断している時にこそ非常事態が起こるのは世の常というべきか。

 ひと際大きな振動が、機体を上下に揺さぶった。

 お上品な旅客輸送ではないため、この程度の荒い運転は日常茶飯事……

 

『班長、レナート! やられた!』

 

 ……では、ない。

 

「……見りゃわかる」

 

 叫ぶような機内放送を聞くまでもなく、全員の目線が機体に襲い来た振動の元凶に向いていた。

 

 床から、槍が生えている。

 

 照明を反射しぎらりと光るそれは、当然ながら自然の産物などではない。

 貫徹力と空気抵抗低減に特化しているであろう、槍頭と柄が一体化している直槍だ。

 

 ちょうど何もない位置を貫いたからよかったものの、その着弾位置に人間がいたなら、どうなっていたか。

 ただの偶然で回避できただけの最悪に、乗員たちは誰ともなく喉を鳴らす。

 

「投槍……なんつー原始的な……」

 

 その発射元も、状況からおのずと見当がつく。

 現代戦において、わざわざ発射機から槍を打ち出し狙撃するような武器は用いられない。

 ならばこの凶器は、人の手によって放たれたものだ。

 

『レーダーに感アリ……おい、生身で飛んでんのかこりゃ!?』

「この高度をか……」

 

 その確信めいた予想が正解だと示すように、繋ぎっぱなしの機内放送から驚愕の声が漏れ聞こえてくる。

 ヨハンが高度計を見れば、おおよそ7000mを指し示している。

 目的地が近く着陸を試みるためにある程度降下してはいたが、それでも生身の人間がまともに活動するには高山用の装備を整えてようやく、という高さだ。

 

 ほぼ間違いなく、MO手術による特性の産物。

 しかも、高度な飛行能力に加えこのような高空にまで対応できる生物はごくわずかだろう。

 

『すまん揺れるぞッ!!』

 

 そして、予想を深める暇もなく再び機体が激しく上下する。

 どうにか目を瞑らず衝撃に耐えられた幾人かが、機翼を掠め天へと打ち上げられていく槍を捉えた。

 

「どうする……? 一度引き返すか、不時着するか……」

 

 きっといつまでも避け続けることはできない。

 それが、語らずとも共有している皆の認識であった。

 

 敵の投擲には、軍用機を貫通するだけの威力がある。

 当たり所が悪く死者が出るだけならまだマシだろう。

 最悪、機体の要所を抜かれれば墜落して全滅まであり得る状況だ。

 

 電子地図の座標は目的地が近いことを示しているが、迎撃が激しくなる可能性もある。

 全滅と隣り合わせの状況で踏み切るべきなのか。

 

「ここで引き返したら、再び戻ってくるのにどれだけかかるかわかりません。この辺りに不時着して徒歩で忍び込もうにも、迎撃を受けたという事は敵にこちらの存在がバレている状態……奇襲の強みを潰された状態で、まともにたどり着けるかどうか」

 

 逆に、引き返せばどうなるかをダニエルが語る。

 こちらを選べば、失われるものは時間だけではない。

 ただでさえ戦力が不足している中、奇襲という数少ない戦術的優位すら剥ぎ取られてしまう。

 その場合、これからの任務遂行は絶望的となるだろう。

 

 どちらを選んでもリスクを伴う、かといって立ち止まっていては刻一刻と痛し痒しな状況。

 

「チャーリーよォ……ウチ(ロシア)が作ってる兵器の強み、なんだと思う?」

「あん?」

 

 そのさ中、唐突に重苦しい声で問うたのは、レナートだった。

 問い投げかけられたチャーリーは、反射的に疑念の声を上げただけ。

 対応策に思考を割いていた上質問の意図が掴み切れず、ただ首をかしげることしかできない。

 

「シンプルな作りで頑丈……多少手荒く扱っても平気、だ」

「まあ言われりゃ確かにな」

 

 切迫した状況だ、まともな返答は期待していなかったのだろう。

 即座に明かされた回答に、チャーリーは騒乱の中納得する。

 

 もちろん種類にもよるだろうが、ロシア製の武器兵器はシンプルな構造故に頑丈で扱いやすいものが多い。

 特に小銃などは、性能を十全に発揮できるかはともかく碌にメンテナンスをせずとも最低限は動き量産性も高いため、コピー品がテロリストの間で大量生産されているという後ろ暗い話もある始末だ。

 

「……いや、なんで今その話した?」

「レナートさん? あ、あの……」

 

 説明と共に、レナートは備え付けの受話器を壁から取った。

 言われてみればと納得していたチャーリーの表情が、嫌な予感に曇る。

 エリシアもまた、心当たりがある様子でレナートに恐る恐る何かを確認しようとする。

 

「『タラス、アルテナ。やれ(・・)』」

 

 だが、手遅れだった。

 二人分の名を呼び、レナートはたった二文字で命令する。

 

『え? マジで言ってる? 嫌だぞ?』

 受話器から漏れ聞こえてきたのは、男の声。

 動揺と怯えが混じった早口からは、明らかな拒否の意図が伺える。

 

『待ってましたぁ!』

 しかし直後、感情を弾けさせた爆音が横入りし弱気な通信音声を塗りつぶした。

 通信機のみならず、機内アナウンスからも響く歓喜の大声と同時──

 

 

──機体が、左向きに一回転し爆発的に加速した。

 

「うおぁぁ!?」

「ひゃあぁぁーっ!?」

 

 急激な速度変化と回転する視界に、火星帰りの猛者たちはたまらず悲鳴をあげる。

 ただ一度の回転と加速だけでは済まず、機体が急加減速を繰り返し、機体が幾度となく横転する大惨事。

 

「おおおぃぃ!? どどどうなってんだお前んとこの班員はよよぉぉ!?」

 

 言うなれば、多少揺れる電車の中が突然稼働中の洗濯機になったようなものだ。

 はしゃぎまわる幼子のような荒々しい機動に、かろうじてまだ耐性がある本職の軍人(チャーリー)が質問という名の怒声を上げる。

 

戦闘機動(マニューバ)の優秀賞取得経験者だ。……戦闘機のな」

「あたしらが乗ってんの輸送機!!」

「分析器の拘束取れかけてるぞっ! 手でもいいから抑えろ!」

『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!』

 

 だが、阿鼻叫喚の対価はしっかりと得られていた。

 速度計が大きく振れ、窓から見える雲が今までとは明らかに違う速度で流れていく。

 時折聞こえる『ヒュウあっぶなーい!』や『くぉぉぶつかる! ここで操縦桿を右に!!』というご機嫌な声から推測するに、襲い来る投槍も回避できているようだ。

 

 もはや誰も見る余裕が無い外の景色は『無秩序に飛び交うテラフォーマー』『都市の外観』と移り変わっていき、経たずして──

 

「おいこれ叩き付けられるんじゃねえのか!?」

 

──電子地図上の目的地と現在地を示す輝点の距離と機体高度を示す数値が、限りなくゼロに近付いた。

 

「ひゅっ──」

 

 その頃には、機内では悲鳴すらも消え失せていた。

 不時着、などという表現は生温い。

“墜落”や“撃墜”に近い破砕音を響かせながら、機体が舗装された道路を(えぐ)り無理やりに制動する。

 まともな軍人がこれを見れば、百人中八十人ほどは『重大事故』と状況を分析するだろう。

 

「レナート……後で覚えとけよ……」

 

 よろよろ這い出てくる搭乗員たちも、その印象を加速させる要因である。

 ただ、これが事故でない何よりの証左として。

 

「よし、大成功! 最低限は飛べるようにしといたからさっ!」

 

 その立役者である赤髪の女性はゴーグルを外しながら当たり前のように語った。

 特大のアクシデントを疑う程に機体を荒々しく着地させておきながら、飛行のために必須となる部位の損傷は巧みに避けている。

 出火することも、破断することもなく。

 疲労困憊ながらも皆が問題なく下機できていることからも、その事実が伺えた。

 

 

「ここが……」

 

 各々がふらふらと地面を踏んだ後、最後に機外へと出たのはエリシアだった。

 ただでさえ白い肌が蒼白になっている彼女は、ぼんやりと周囲を見渡して、最後に正面を見据える。

 

 まるで城のような威容を誇る複合研究施設。自分たちの生まれ故郷。

 だが……エリシアは、今までこの外観を見たことがなかった。

 

 生まれてからの全てが施設内で完結し、手術に成功し外に出られるようになった時にも機密を漏らさないために目隠しをされて運び出された。

 だからか、帰郷の感慨は思っていたほどには感じられず、過去の苦痛がフィードバックすることも無い。

 

 それをどう思うべきか、今のエリシアには形容できる言葉は思い浮かばない。

 ほんの少しだけ思索に浸り、そして──

 

「──お嬢ッ!」

 

──頼れる副官の警告に、彼女は今成すべきことを改めて悟る。

 咄嗟に屈めたその頭上を、銀の一閃が通り抜けた。

 

 再び頭を上げたエリシアが背後……皆が睨んでいる空へと向き直れば、狂乱するテラフォーマーの中に猛然と突撃してくる影が一つ混じっている。

 そうだ。ここは愛憎入り混じる故郷であると同時に、戦いの場なのだ。

 

 

「それでは皆さん……作戦を開始します。事前の計画通り、概要以外には何もありません(・・・・・・・・・・・・・)

 

 首を小さく振って感慨を頭の隅に追いやり、エリシアは落ち着いて、冷静に告げる。

 未だ不確定事項が多い今回の任に当たって、彼女が最良だと判断した選択を。

 

「各所に繋がるメインロビー、監視システムがあるだろうコントロールルーム、首謀者がいる可能性が最も高い頂塔。施設の主要区画それぞれに戦力を投入──ほぼ同時に攻撃を仕掛け、各所を制圧します」

 

 戦力の分散。

 

「会敵した敵対者への対応人員は、適宜選出……最も相応しいと思える方に対処を任せる形を取ります」

 

 戦力割り振りの事前未決定。

 

「……きっと、普通であれば悪手なのだと思います」

 

 それはいずれも、一般的な戦闘教義において“愚策”と断じられるべきもの。

 

「ですが、今の状況に向いているのがこれ(・・)です」

 

 だが此度の戦いにおいては、この無策極まりない作戦が最も適切だとエリシアは判断する。

 その判断を、実戦を彼女より知る戦士たちも支持した。

 

 少数精鋭という事だけはわかっている未知数な敵戦力に対する奇襲、というシチュエーション。

 ならば取るべきは、同時多発的に戦闘を発生させ敵に負担を押し付ける事による、対処能力の飽和。

 

 そして何より──

 

「それに、こういう戦いに何より手慣れているのは、私たちに違いありませんから」

 

 分断され瞬間的な判断を連続的に迫られ、何もかもが想定外で思うようにいかない中、せめてもの最良を選ぶため生き足掻く戦い。

 そんな過酷な戦場を、この場にいる皆が経験している。

 

 だから、負ける道理なんてどこにもない。

 半分は未だ弱気な自分自身を鼓舞するためで、もう半分は夢見がちな幼子のようにそう信じている。

 皆の命を預かる指揮官として、ひとりの人間として。

 

「あそこから帰ってきた私たちの力を、悪い人たちに見せつけてあげましょう」

 

 精一杯に強気な声を振り絞って、エリシアは右手を高く掲げ、指を一本天へと向ける。

 その先には、深緑の星が輝いていた。

 

 

────

 

 

「ひ、ひひっ、ひひひっ!」

 

──中央研究練外部。

 哄笑が、テラフォーマーとの交戦で荒れ果てた市街に響く。 

 灰色の雲が一面を覆う空を、滑るように軽やかに、青年が不時着した輸送機目掛けてひとり飛ぶ。

 

「もっと……もっと、高得点……」

 

 背に負ったいくつもの槍、その一本を取り出して狙うのは、背を向け蜘蛛の子を散らしたように逃げ出した侵入者たち。

 彼らの尽くを殺戮するのが、彼が主より預かった使命だ。

 

 速く走る殺す。そうすれば得点が高くなる。遠くまで跳ぶ殺す。そうすれば得点が高くなる。遠くまで投げる殺す。そうすれば得点が高くなる。高く跳ぶ殺す。そうすれば得点が高くなる。速く走る殺す。そうすれば得点が高くなる。

 

 跳びながら走る殺す。そうすれば得点が高くなる。遠くまで投げる殺す。そうすれば得点が高くなる。高く跳ぶ殺す。そうすれば得点が高くなる。遠くまで投げる殺す。そうすれば得点が高くなる。速く長く走る殺す。そうすれば得点が高くなる。

 

「そうすれば……」

 

 得点が高くなれば……どうなる?

 決まっている。誰よりも得点が高くなれば、きっと、全てが上手くいくのだ。

 そう信じていた。だから今日も──

 

「そうすりゃ、なんだよ」

 

 そんな、いつも通りの彼の思考を遮ったのは、女の声だった。

 己よりも高い位置、頭上から聞こえたその声に、青年はぐるりと首をもたげる。

 

「おれの、おれの……上に、飛ぶな」

 

 一面に充血した、真っ赤な目で。

 いけない。自分より高く飛ぶものがいてはいけない。自分よりも高い得点を取る者があってはいけない。排除しなくてはいけない。

 何よりも情動的でありながら、青年の思考回路は機械のようにいつも通りの答えを弾き出した。

 

「わかっちゃいたが……会話が通じる類じゃねえな」

 

 その狂気に染まった形相は、遠目からわかっていたこと。

 呆れたように、彼の頭上を飛ぶ女──鈴は、うんざりとしたように手をひらひらと振る。

 振って──

 

「それは残念だ。もし話ができりゃ……って思ってたんだけどな」

 

 そのハンドサインに、声と銃弾が応えた。

 過たず青年を狙ったのは、青年の真下、一軒家のベランダに潜み狙撃銃を構えていた軽薄そうな青年、リック。

 意識を逸らした上での必殺の弾丸は、吸い込まれるように標的の胸へと飛び込み。

 

「ひ、ひ」

 

 だが、大きく旋回した青年の動きによって空を切った。

 

「ちっ……! 鳥のお嬢さん、もう一回合わせ……」

 

 想定内()の身体能力に舌打ちしながら、リックはそのまま次弾を(つが)える。

 腕に形成された翼に、露出した肌を覆う羽毛。恐らくは鳥類型の手術ベースだ。

 ならば相手がこちらを攻撃する手段は、投槍のみだろう。

 そして相手が回避姿勢を取っている今の状態ならば、こちらの方が先んじる。

 

「う……うう゛ぉえッ……!」

 

 だが、大部分は正解を踏んでいたリックの計画はたったひとつの誤答により崩れた。

 青年が取った選択は、離脱でも投擲の姿勢でもない。

 喉を掻きむしり、吐瀉物をリックへと向けて吐き散らかすという戦闘中にあるまじき行動。

 

「──は?」

 

 天に散らばり落下してくる汚物をいち早く認識し、リックは一瞬硬直する。

 本能的な嫌悪感に退避を選ぼうとし、いや罠だと本能を押し殺す。

 

 汚い。落下してくるそれで狙撃のための視界が僅かながらに塞がってしまう。

 だが、それだけだ。攻撃を止める要因には程遠い。

 そう考え半ばで足を止め、応射を試みようとし。

 

「……だめ!」

「うぉっ!?」

 

 リックの判断に、異をとなえる悲鳴交じりの声。

 刹那、リックの体は室内に引きずり込まれる。

 

「おいおい、アシュリー」

 

 声の主は、鈴とリックと共にこの戦線を任された最後のひとり、アシュリーだった。

 通信員という非戦闘職だった彼女の戦いにおける役割は、基本的には戦闘員ではなく手術ベースによる糸を用いた友軍の救出や退避。

 

「助かったが、今はその時じゃ──」

 

 リックは言葉を選びながら、再び外に出ようとする。

 アシュリーの支援は嬉しいし、事実これで命が助かる場合もあるだろう。

 だが、今は少し慎重すぎた。これからは今のような状況なら無視していい。

 

「いえ、あれを……」

 

 そう話そうとしたリックに対し、アシュリーはおずおずと一点を指さした。

 リックが目で指の先を追えば、そこは先ほどまで彼が立っていた狙撃地点(ベランダ)

 一体なにかとリックは目を向け、そして驚愕と共に理解した。

 

「げ……」

 

 ジュウジュウと音を立てながら、着弾した吐瀉物を浴びた周囲が溶け始めている。

 あれをまともに受ければ、どうなっていただろうか。

 即死──とまではさすがにいかないだろうが、火傷や最悪目に入れば失明まであり得たのではないか。

 

「……前に、本で読んだことがあったんです」

 

 冷や汗を流すリックに、アシュリーは恐る恐る語る。

 

「腐ったものを食べる鳥の胃液は、すごく強い酸だって」

 

 自分たちが相対する敵の宿す特性、その生態について。

 

 

──腐肉食性。

 

 その名の通り、死後暫くが経過し腐敗を始めた肉を主食とする、肉食の一種。

 屍肉を喰らうことそのものは通常の肉食動物の多くにも見られる生態であるが、この食性に特化した生物たちは特殊な発達を遂げたものが多い。

 

 それは例えば、ハゲワシの仲間に代表される猛禽類の中の一群。

 腐肉は分解が進み柔らかい上、獲物の抵抗なくして手に入れることができる利点多き食物であるが、同時に有害な病原体の塊でもある。

 この甘美でありながら厄介な食物を安全に味わうため、彼らは病原体に対する強固な免疫システムを発展させ、金属すら溶解する程の強力な胃酸をその身に宿す進化を果たした。

 

 だが、その代償と言うべきか適応というべきか、獲物を仕留める必要も空に連れ去る必要もない彼らは他の猛禽類と比較し脚や爪がそこまで発達せず、力も然程強くない。

 

 

「だった、よなァ……!」

 

 螺旋を描きながらの空中戦で、最初に仕掛けたのは鈴だった。

 猛禽類。鳥類の中における頂点捕食者たち。

 同じ鳥類型として絶対的な劣位にありながらも鈴が果敢に仕掛けたのは、腐肉食に特化した猛禽の欠点を知っていたからこそ。

 

 彼女のベースであるアブラヨタカは“タカ”の名を持ちつつも猛禽の仲間ではないが、彼らに負けず劣らずの細やかな空戦機動と鋭い爪を持つ。

 

「くひっ、ひひぃ!」

 

 鈴が振るった爪は青年の手により受け止められるが、想定内だ。

 このまま組合い力比べをしている内に、復帰したリックが射抜く。

 

「あぐっ!?」

 

 その計画を、嘲笑うように。

 ぐしゃりと、鈴の手が一方的に握り潰された。

 

 

 ……腐肉食性の鳥類が握力や脚力を衰えさせたのは、選び取った生き様(生態)による必然である。

 ならば──その食性に至ってなお、狩りの為に必要な力を持つ肉体を欲し続ける種がいたならば。

 

 

──その生物は、腐肉に加え骸の中でも極めて堅牢で競合相手の多くが手出しできない部位を特別に好む。

 骨。

 一見して肉が消え去り栄養価に乏しく見えるその内には、骨髄という滋養溢れる可食部が眠っている。

 さて、これを如何に効率よく喰らったものだろうか。

 

 まず、探すところからだ。

 より高いところからであれば、多くのものが見えるだろう。

 彼らは他の猛禽類に違わず、極めて高い視力と7000m以上の高高度にすら対応した飛翔能力を持つ。

 

 見つけたはいいが、どう骨を砕くべきか。

 小さいものであれば、彼らは手間を省く道を選んだ。

 祖先より受け継ぐ、強力な胃酸による消化能力。彼らはそれを屍喰らいの同族たちの中でもひときわ強く発達させ、骨ごと骨髄を消化する。

 

 では大きいものであれば、どうする。

 高く、高く空を飛べるならば……取れる手段が、存在した。

 彼らは堅い餌を高高度から投げ落とし、岩に叩き付けて破砕する。

 時にそれは、屍だけでなく亀などの装甲を持つ生物すら喰らうことを可能とする。

 

 

 重量物を掴み高く飛行するために発展した、猛禽類の共通特性たる強靭な脚力。

 屍肉の中でもより特殊な食事を好むが故の、腐肉食者としての極まった消化能力。

 

 それらの特性を以てして、彼らは峻険な山岳に生き大空を自在に舞う。

 

 

「……なんかさ、微妙に覚えがある顔だなって思ってたんだ」

 

 狂奔に歪んだ敵の顔を改めて映し、鈴は手を裂かれる激痛に耐えながら呟く。

 

──お嬢さんさ、スポーツ観戦とか興味ある?

 

 それは、咄嗟にこの戦線を担当するメンバーを決定した後の、雑談とも作戦相談とも言えない短時間でリックと交わした会話だった。

 

 双眼鏡で敵の姿を捉えたリックが呟いた不意の質問に、鈴はこんな時にナンパかと中指を立てようとした。

 そんな彼女に、リックは違う違うと手を振って続けた。

 

 日本人がこの競技でここまで残るって珍しかったから、なんか覚えててな。あとそこ(日本)の知り合いが珍しい苗字って言ってたからさ。

 そんな要領を得ないリックの言葉と自分の記憶、渡された双眼鏡越しに見える顔を照合し、鈴はある顔を思い出した。

 

 かつて、熱意に溢れたそれを見た覚えがあった。

 少なくともこうして切欠があれば思い出せる程度には、記憶に残っている雄姿だった。

 

 

 再びの支援狙撃が、退避を強要し両者の距離を引き離す。

 翼が二対、再び空で相対する。

 

「ひ、うひっ、しぶとい、獲物……高、得、点……だぁ……!」

「それがなんで、こんなトコでこんなコトなってんのかなぁ」

 

 

 

──後方からの強襲阻止。いざという時の退路、任務完了後の帰路の確保。輸送機内に残した人員、機材の保護。

──侵入者たちの始末。

 

 この都市と造られた命たちを巡る最初の衝突は、かくして幕を開ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

風邪村宗明(そうめい)

 

 

 

 

 

 

 

国籍:日本/フィンランド

 

 

 

 

 

 

25歳 ♂  192cm 86kg

 

 

 

 

 

 

MO手術"鳥類型"

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――ヒゲワシ―――――――――

 

 




ご観覧ありがとうございました!


――没部分

エリシアが到着した感想を噛みしめている前の部分に、もうひとりのパイロット(叫んでた青年)がエチケット袋を手放せない描写を入れようと思いましたが空気感が変わりすぎるため没になりました
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