深緑の火星の物語   作:子無しししゃも

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前回に引き続き話が進みます。


第18話 陰謀の火星とローマの血雨

「その声、博士ですね。ひとまずは火星内とはいえ通信が繋がった事、安心しています」

 

剛大が、通信機の向こう側のヨーゼフに話しかける。

相変わらずの内心を見せない固い口調と雰囲気だったが、それでもどこかほっとしているかのように俊輝には見えた。

 

「日本班は班長以下3名が現在行方不明となった班員の捜索中、残りは偵察及び本艦の防衛を任せている」

 

「了解した。という事はこれは貴国の本艦からの接続かね。班長と本艦、どちらも無事であると」

 

「そういう事です」

 

「なるほど、日本は健在のようだね」

 

両者が会話している間、他の三人は周囲を警戒する。先ほど岩陰に気配が見えたところだ。いつ襲い掛かってくるのか油断できたものではない。

 

「他の班も応答を頼む。混乱を避けるために、班長及び班長から通信を任された人間以外の発言は控える事」

 

「ああ!? 俺らはてめえの部下じゃねえぞ? なんでいちいちてめえの命令に従ってやらなくちゃなんねえんだ?」

「や、やめてください! 今は喧嘩してる場合じゃないです!」

 

ヨーゼフの言葉の直後に荒々しい男性の言葉が飛んでくる。その直後に、それを諌める少女の声も。本艦の通信設備からさらに通信機を経由して聞こえてくる声なので、剛大にはあまり大きくは聞こえなかったが。

通信は第3班、ロシアからだった。

 

「ちっ、わかりましたよ。でも、ムチャな命令されたらすぐ断るんですよ?」

渋々引き下がったと思われる男の声。ヨーゼフが溜息をつく。

 

「やれやれ、エリシア君、君の国の事情は知っているが、もう少し班員を静まらせておいてくれないか。これでは話がなかなか進まない」

 

「うう……すいません……」

 

「第3班は前線基地と思われる施設を1つ制圧、捕虜を一人確保しています。少し尋問した後、疲労と戦闘で今はぐっすりですが、起きしだい尋問を続行します」

 

ショボーンとした様子のエリシアだったが、すぐに仕事モードに戻り、話を始めた。

尋問をしながら昼寝休憩を挟む甘さにこれまた溜息をつくヨーゼフ。だがしかし、ロシア班はその『少し尋問』の様子を話そうとする様子はなかった。だが、今それを詮索する必要は薄いだろう。それよりも、他の班の報告を聞くのが先だ。

 

「……あ、繋がった! こちら第1班! 至急救援を要請します! 現在敵の大攻勢を受け、班長他上位戦闘員は艦外で交戦中、艦内では復旧作業を続けています!」

 

北米第1班からの通信は、班長のダリウスではなく、年若い女性の声だった。

どこかの班に戦力を集中させ早期に協力の可能性を絶たせる。予想できていた事だったが、米国(アメリカ)がハズレを引いたか。少し考えるが、今は救援どころか無事な班の合流すら成り立っていない。救援は後回しだ。

 

「すまないが、まだ救援はできそうにない。もう少しもたせてくれ」

 

「さて、ローマはまだのようだね。では、第5班の状況を説明しよう」

 

「我々は、敵の大規模な拠点と思われる場を制圧した」

 

各班それぞれがそれぞれの反応を見せるが、気にせずにヨーゼフは続ける。

 

「手短に話そう、敵は火星の山中に基地を築いていた。それを占拠し内部の設備を調べていた時、いくつかの事実がわかったよ」

 

「まず一つ、彼らは我が班が制圧した基地の他にも同等の設備をいくつか有している、そして手に入れたデータによれば、彼らは宇宙船の試運転を口実に地球を抜け出し、この火星に資材を運搬したそうだ」

 

「二つ目、彼らにも彼らで指揮を執っている人間が存在する」

 

「三つめ、私が倒した彼らの指揮官は『紅式手術』を施されていた」

 

山中に築かれた基地、それが複数。大規模といった発言から、敵の戦力は相当なものである事が伺える。そして、大規模な宇宙船の試運転を行った国。剛大の頭には、1つの国が頭に浮かんでいた。

さらに、彼らにも自分たち幹部搭乗員(オフィサー)のような人間がいるのだ。

だが、それを聞く各班には3つ目の『紅式手術』という言葉だけがわからなかった。

 

「……なんで、裏切ったのですか」

 

……通信では聞こえない声で小さく呻く、銀髪の少女を除いて。

 

「詳細は今後資料を提供しよう。ひとまずは各班の合流を目指す、偵察に出している人間がいる班は通信機で連絡、今ここの座標データを渡すので素早い合流を実行したい」

 

「あれ? 第4班の人たちってどうしたんですか? 第6班はまだ修理が終わってないってわかってるのに」

 

きょとんとした声で1班の通信員が質問する。それに対する答えは、理解していながらも、各班に重く圧し掛かるのだった。

 

 

「第4班には、あえて連絡をしていない。この意味、君たちなら理解してくれるね?」

 

―――――――

 

「……さて、どうしようかしら」

 

すでに日の落ちた火星を一人の老婆が歩いている。

右手には苦悶と恐怖が口からあふれ出す血に混じったゴボゴボという音を紡ぎだす人間だった何かを持ち、とぼとぼと変わり映えしない景色に飽き飽きした様子だ。

 

そしてその周囲には、怒りに狂った約10人の集団があった。

 

「オイばあさん、ちょっと待てよ? その手に持ってるやつ、なんだよ」

「こんばんは、今夜は良いお天気ね。地球がよく見えますよ」

 

「一人か、これはもらったな。老人愛護は大切だと思うが、俺たちはそんなに優しくないんだぜ」

「皆さんも帰ったらいかがかしら。きっと仲間の人たちもご飯を作って待っていると思うわよ」

 

「アンタを殺せば報酬が出るんだ、悪いがここで消えてもらうぜ」

「残念だけど私はあなたたちを殺しても何もないのよ」

 

飄々とした返しをする老婆に周囲の苛立ちは募っていく。

だが、突っ込む事はできない。彼らの一団がこの老婆に壊滅させられたというのは事実。数人いた班員こそ始末したものの、ただ一人、生き残っている。『エメラルドゴキブリバチ』の能力で操ったテラフォーマーも用いた完全な奇襲だったにも関わらずだ。

 

不用意に飛び込めば、恐らくは確実に死が待っている。それに、あの老婆は急いでいる様子だが、囲まれて何か動きを見せる様子は無い。つまりは、自分たちを一掃できるような範囲攻撃は持っていないのではないだろうか? 硬直戦になりつつあったが、そうなれば数が多く、囲んでいるこちらの方が当然有利。

 

「どいて頂戴? 私、これから仕事があるのよ? この『捕虜』を持って帰っていろいろと聞かないといけないしね?」

 

だがしかし、その硬直は長く続かなかった。

「あんたああああぁぁぁ! 私の弟をおおおおぉぉお!!」

 

激昂した集団の中の一人、手に持った物体を見た若い女性が、裏アネックス計画戦力の中枢、その一角を担う幹部搭乗員(オフィサー)が一人、エレオノーラに戦いを挑む。

周囲の静止を振り切り、怒りに我を忘れている様子だ。

 

すでに変態を済ませているその姿と俊敏な動きは、最速の肉食獣、『チーター』のもの。

強力な脚力から生み出される時速80kmに匹敵するスピード。

 

エレオノーラに変態を行う間を与えず、その一撃はまっすぐに弟の(かたき)である老婆の首めがけて繰り出されていた。

 

だが、その攻撃は空中で止められる。エレオノーラは、その爪を立てた腕を変態の様子も見られない左腕で難なく受け止めている。

 

「死ねぇっ!」

 

だが、怒りに支配されている彼女はそれに驚くという事も忘れ、次の一撃を繰り出した。

しかし、それさえも、軽く頭の位置をずらしてエレオノーラは回避する。

 

 

「あら」

 

だが、攻撃を回避した拍子に、エレオノーラのポケットから注射器が、『薬』が落ち、割れる。

それを見た周囲は、勝利を確信し、突撃した。

 

突っ込んだ女性は押している。敵は変態できる状態ではない。仲間たちの敵討ちのチャンス。多額の報酬。

自分たちに有利な戦況と、エレオノーラを始末した後で自分たちが得られるもの。

これら全てが判断をさせた。

 

 

だが、やりすぎる包囲は逆に被害を増してしまう。十分に戦闘できる空間を作ろうと思えば、お互いの体が邪魔になってしまうため3,4人が突撃するのがやっとだ。だがしかし、それで十分すぎる。

何故ならば、敵は変態すらしていないのだから。

 

全員が、一撃で相手を殺傷できるように大振りな攻撃を繰り出した。

 

「はい、残念でした」

 

彼らは、あまりにも単純で、あまりにも純粋すぎた。敵の事を信じてしまっていた。

あの薬が、彼女の物であるとは誰も言っていないのに。

 

 

エレオノーラの右手に握られていたのは、一つのスイッチ。

 

 

 

「よい夢を」

 

刹那。何が起こったのかわからないまま、女性の右眼をエレオノーラの左腕が貫き、そのまま頭蓋を貫通し後ろに抜ける。

 

そして、渾身の一撃を与えようと振り上げられた4人の腕が、何かに絡みつかれほぼ同時にねじ切られた。

 

 

 

「あらあらうふふ、さあ」

 

暗い赤色とそれを飾る白色の斑点。腰から生えた四本の触手。そして、何の感情も映さないにこやかな笑み。

 

「次に私とダンスを踊ってくれるのは誰かしら♪」

 

 

彼らの舞踏会(悪夢)が、幕を開けた。

 




観覧ありがとうございました。
次回、ベース解説&バトル&会話パートです。

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