深緑の火星の物語   作:子無しししゃも

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20話です。ここから結構話が動いてきます。
これからはベース紹介も多くなると思います。


第20話 群

「おいおい、なんだよこれ……」

 

剛大が通信を終え、指令を出そうと振り返る。

すると、十数メートル離れた位置に移動していた俊輝が見えた。

 

勝手に場を離れるな、と叱ろうとした剛大だったが、その俊輝の様子を見て少し固まる。

手と膝を地に付き、その目線の先、といってもすぐ近くの大地にあるのは、大量の血液。

すでに時間が経過しているのか赤黒いシミとなっているそれは、かなりの量だった。

 

剛大にも、他の二人にもここで何があったのか、容易に想像はできた。

俊輝にかける言葉が見当たらない。

 

「なあ、班長、俺って何がしたかったんだろうな。本艦の守りを手薄にしてまで一緒に来てもらって、警戒する分の薬まで使わしちまって、それで得られた結果がこれか……はは……」

 

 

血の跡、いくつか抉れている大地。ここで戦闘があったのははっきりとわかる。そしてこの場が、俊輝の記憶にあるものだという事も、彼の様子を見れば理解できる。

 

その上で、自分達が探している拓也は見つけられず、敵の幹部と思われる人間の姿もいない。

もし拓也が勝利または逃走に成功したならば、本艦に戻ろうとするだろう。

本艦の位置を悟られまいと別方向に逃走したのだとしたら、血の跡が道のように続いているはずだ。

だからこそ。ここで行われた戦闘の結果は簡単に想像がつくからこそ。

 

「班長、翔、健太、ありがとう。もういい。本艦を守りに戻ろう」

 

絶望に染まった顔で、3人に帰還を促した。

 

 

「……俊輝、こんな時になんだが、我々の今後の行動方針を通達する」

 

剛大は、あくまでも冷静に話を進めた。自分の声が震えてはいないか、確認しながら。

各班との協議の結果、ひとまずはドイツ班の制圧したという拠点、そこを集合地点に設定して戦力の合流を行う事が決定した。かといって各国には自国の宇宙艦がある。全てを回すわけにはいかないだろう。

 

なので各班に受け渡されたノルマは、『現在生存している班員のうち、戦闘員を含む1/3以上の人員』。

連合軍を組織するのに、少しでも人数が欲しい。各国の思惑でそう簡単に人は集まらないだろう。

だが、今は自己利益を優先している場合ではない。

 

敵の全容がわからない以上は、協力するべきだ。各々の目的を果たすのは、その後でいいではないか。

それが今回のスタンスのようだった。ヨーゼフとエリシア、それに無線機から唐突に通信を繋げてきたエレオノーラ。自分含め4人の幹部搭乗員(オフィサー)で決定した事項だ。

 

それを踏まえた上で、地球の最高司令官(蛭間首相)がこんな時にどのような命令を下すのか想像し、剛大は指示を出した。

 

「我々は本艦の機密情報を抹消し、総員で新たな拠点へと向かう。本艦の連中にもそれはすでに通達している。わかったな」

 

少しの間。自分の国の利益を捨ててでも、協力の道を歩む。馬鹿だ。だが、馬鹿正直だ。

この馬鹿馬鹿しいほどの正直さこそウチの国の長所なのかもな、と三人は少し笑みを浮かべる。

もちろん、疲れている様子の俊輝もだ。

 

「新拠点の座標データもすでに手に入れてある。通信は本艦の設備が整っていない状態だが、向こうの拠点の通信設備は思ったより強力らしくてな。通信機があれば会話だけは可能なようだ」

 

「了解です。そうと決まったら急ぎましょう!」

 

 

「だがな、その前に」

 

「そこの奴、出てきやがれ」

 

俊輝の言葉に、岩陰に潜んでいた人間が姿を現す。

 

それは、一人の青年だった。意思の籠った目で三人を見つめ、静かに近づいてくる。

 

「……」

 

「君は確か……第四班の」

 

どうしたのだろうか。剛大が三人の前に出て、青年に近づく。歩みを進める青年。

そして、剛大と正面から向かい合い、名乗りをあげた。

 

「僕は第四班所属、プラチャオと申します」

 

そういうと、青年、プラチャオは拳と開いた手を合わせ、頭を下げる。

 

「島原剛大殿、我が班の悲願の為、貴方の首をいただきたい」

 

少しの間、剛大がその言葉を聞き終わり、薬を自分の体に打ち込み変態したのを見届けた後、プラチャオはベースの特徴なのか鉤爪のような物に変化している足で薙ぎ払うような蹴りを剛大の首めがけて繰り出す。

剛大はバックステップでそれを回避し、素早く左腕から生えているトビキバアリの牙でプラチャオを狙う。

 

「流石だ、班長が絶賛するだけの事はある」

 

一瞬だけ感心した様子のプラチャオの動きが止まるが、即座に状況を判断し、身を反らせて打撃を回避する。

たとえ牙を回避しても剛大のベースはアリ、そのパワーで殴っただけでも致命傷だ。

 

猛毒を備えた鋭い針、強靭な牙、力持ちの虫の代表格ともいえるアリのパワー。あらゆる攻撃が致死。

だが、プラチャオはひるまない。

 

剛大の懐に潜り込み、肘の打撃を叩きこむ。それは胸部に直撃し、一瞬剛大の呼吸が止まる。だが、そこまでだった。アリの筋肉は、ただそれだけでも攻撃に対する鎧として機能する。

 

捉えた。剛大は空いている右腕を構え、自分の胸に繰り出されている肘に叩きこむ。

 

骨が折れる音。プラチャオは退き、剛大も姿勢を整える。

 

「悪いな、決闘の途中で済まないが俺たちは一人じゃないんだよ」

 

退いたプラチャオに攻勢を仕掛けるのは、剛大の後ろで変態を済ませた俊輝。

 

折れ、動かなくなった右腕を垂らすプラチャオに、右側寄りに近づき、オオキバウスバカミキリの刃を繰り出そうとするが。

 

「それは我々もそうではない」

 

俊輝の右腕が、突然現れた人間に掴まれる。気配は無かった。剛大でさえも驚きの表情を浮かべている。

 

探知能力を考慮して連れてきた他の二人も全く気が付いていなかった存在。

 

魚類型と思われる鱗の生えているその人間にそのまま俊輝は投げ飛ばされ、戦線から引き離される。

再び始まる、剛大とプラチャオ、二人の決闘。そして、俊輝と新手。

 

1対2、ではなく、戦いは二つの1対1となっていた。

 

 

――――――――――――

 

「さて、これから諸君には働いてもらう事になる、訓練の成果を存分に発揮してくれ」

 

1隻の宇宙艦。極めてテラフォーマーに見つかり辛く、さらにテラフォーマーもほとんどいない地域に在るその宇宙艦の前で、短めの髪をオールバックにした、見るからに頑強そうな体つきの男と隣に立っている青年が並んでいる班員達に向かって話をしている。

 

「早くも彼らは通信を回復し、どうやら合流を目指している様子だ。君たちには、この場所の防衛と私と共に合流しようとする敵の攻撃、この二つに分かれてもらう。哨戒に出ている二人も、もうすぐ帰ってくる事だろう」

 

それを班員は黙って聞いていた。ついにこの時が来たか、と士気を上げる者もいれば、面倒くさい、とこっそり溜息をついている者もいる。

 

だが、その空気も少しだけしか続かなかった。班員達が、飛び退くかのように左右に分かれたのだ。

その飛び退いた隙間を通って悠然とやってきたのは、5人の男女だった。

 

 

「へいへーい、欣ちゃん、調子はどうよー」

 

軽い口調で男、欣に話しかけるまだ若い金髪の男。だが、その目には暗い光が宿っている。

 

 

「ダメですよ、バイロン。私達の上司さんなのですから、もう少し丁寧にお話するのです」

 

静かに、少し弱気で金髪の男を窘める、パッと見少女にしか見えない銀髪の小柄な色白の女性。

 

「まあまあ、いいじゃねーか、アナスタシアちゃんよお、俺たち、この火星の仕事仲間の上司ポジションって事で対等みたいなもんだろ?」

 

金髪の男を庇っている、巨体の、しかしそれは脂肪ではなく筋肉であるという事が見て取れるアジア系の顔つきの強面の男。

 

「あははっ、わざわざ来てやってんだから感謝しなさいよね!」

 

明らかに節操が無さそうな、染められている金髪と体中に高級そうなアクセサリーを付けている女性。

 

「全くキミたちは粗野で困る。僕みたいに高貴な振る舞いをしてみてはどうなんだ」

 

銀髪の女性以外の三人とは打って変わって上品な立ち振る舞いの、貴族という印象がぴったりな、軍服に身を包んだ青年。

 

 

集まった5人に、静かにうなずきながら、中国・アジア第4班班長代理、欣は告げる。

「わかっているとは思うが、アントニーが敗れ、基地を奪われたようだ。君たちに下す命令はただ一つ」

 

 

そして、欣の隣に立っている『班長』が、その続きを伝えた。

 

「持てる全戦力を率いて、奴らを残滅するんだ!」




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