深緑の火星の物語   作:子無しししゃも

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アームレスリングって言うとなんかかっこいいですよね。という事で番外編です。


番外編 そうだ、アームレスリングをしよう

「……小吉さん、これはなんでしょうか? アシモフさんが1位、小吉さんが6位……」

 

 

U-NASAの夜は長い。実働部隊であるアネックス1号&裏アネックス計画の班員達は戦闘訓練や火星に関する様々な知識を学び、実働部隊を援護するため、一刻も早くA.E.ウィルスの脅威から地球を救うため、様々な目的で研究員たちは栄養ドリンクと仮眠用枕を手にそれぞれの区画で努力を続けている。

 

その職務練から明かりが消える事はない。

 

「ん?ああ、それね、この前やった幹部搭乗員対抗腕相撲の結果だよ」

 

そして、特に忙しいのが、彼ら。アネックス計画の各国部隊を率いる幹部搭乗員(オフィサー)である。

激しい訓練を日々行い、各国の思惑が入り乱れる会議に参加し、自国が最大限の利益を得られるような計画を立て、表裏共に最強クラスのベース生物を有する彼らは、非常にハードな職務を行っている。

 

 

「そうですか。それよりもこのダンボール、二号室に運べばよろしいのでしょうか?」

 

「ってスルー!? 今の流れだったらもっと別の回答をしてくれてもいいんじゃないか!?」

 

「……仕事の途中ですので」

 

 

その班長の中の日本人二人。『アネックス一号』艦長、小町小吉と『裏アネックス計画』日本第2班班長、『島原剛大』。

彼らはダンボールを持っては他の部屋に運ぶという地味極まりない業務を行っていた。

 

「ああ、もう止めだ止め! 今日の業務は終了とする! 剛大君、裏の方の幹部さん達を集めてくれ!」

 

「わかりましたが……何をするのですか?」

 

 

……三時間後。

いつ終わるとも知れないダンボール輸送任務に小吉が叫び、終了を宣言する。

真面目だが、それ以上に上司の命令に忠実な剛大もそれに従い、運ぼうとしていたダンボールを下す。

 

 

「決まってるだろ! そりゃあ」

 

その後始まった小吉の解説に、剛大は無表情のまま頷く。なるほど、それは良い案かもしれないと。

 

「あらあらー……面白そうじゃない……」

 

小吉が話を聞いていた直後、背後から一人の老婆が姿を見せた。

全く気配を感じ取れなかった二人の肩がビクっと震える。

 

 

裏アネックス計画ヨーロッパ・アフリカ第6班班長

 

ローマの恐怖"悪魔に最も近い女エレオノーラ"!!

 

 

「エレオノーラ……いつの間に」

 

小吉が驚きで鳴り響く心臓を抑えながらエレオノーラに質問する。

 

「うふふ、『……小吉さん、これは~』の辺りからですわ、艦長」

 

「かなり前じゃないかそれ! 手伝ってくれよ!」

 

 

 

(たお)やかなレディーに、しかもこんなよぼよぼの年寄りに力仕事を任せないで頂戴」

 

「エレオノーラさん、話を聞いていたのなら早い。参加しますか」

 

突っ込みどころは満載だが、それをあえて無視する剛大。

 

「ええ、やりましょうか、『アーム・ランキング~裏アネックス編~』!」

 

 

裏のありそうな暗い笑みを浮かべるエレオノーラに不安な顔を突き合わせる日本班長二人。

こうして、彼らの長い夜が幕を開ける事となった。

 

 

―――――

 

「班長! 腕相撲するんだってな! 俺も見届けますよ!」

 

「すみません班長、うちのバカが見に行く見に行くって聞かなくて……」

 

 

戦士たちを待つ三人の元に訪れたのは、男女のペアだった。

深夜テンションで盛り上がる青年と、その頭をべしべし叩きながら剛大に謝る青年と同い年くらいの女性。

 

「えーと、2班の俊輝くんに静香ちゃん……だったかしら?」

 

「はい、そうです!」

「はい……」

 

主に俊輝が地味に嫌そうな目を剛大に向けられるが、そんな事はどこ吹く風。

興味深そうに周囲を歩き回っている。

 

「うおぉ、すげーぞ静香! 開いてるダンボールの中に堂々とエロ本があるぜ! 何々、『私物 膝丸 燈』……すまねえ燈、お前の秘密、守れなかったよ……」

 

 

いきなりガムテープが外れて開いているダンボールの中と貼ってあるタグを覗き込み、中身と所有者を堂々と言い放った後、天を仰いでさめざめと涙を流す俊輝。凄まじい情緒不安定っぷりである。酔っているのではないだろうか。

 

 

 

「むう、艦長と剛大君からの招集、何事かと思ったがこんな事だったとは……」

 

裏アネックス中国・アジア第4班班長(代理)

 

この筋肉がすごい!~裏アネックス編~1位"不動の欣"!!

 

 

次にやってきたのは、筋骨隆々の武人。オールバックにした短めの髪と相まって、凄まじい威圧感である。

中国班班長、欣。

 

「すまないな欣! 劉さんも参加したんだ、我慢してくれ!」

 

 

「アームレスリング、ですか。興味深いです」

「ねえプラチャオ君、私達こんな所にいていいのかな……?」

 

欣の背後で並んでいた二人、長めの髪を三つ編みにして後頭部に流した礼儀正しそうな青年と少し気弱そうな黒髪の少女が顔を見せる。

 

最も、少女の方はなんかヤバイオーラを出している老婆、ムキムキの大男3人、なぜだか走り回っている馬鹿、それを追いかける女性という謎のメンバーにすっかり萎縮してしまっているが。

 

「二人とも、私の勇姿をしっかり見ておくのだぞ」

 

腕まくりをする欣。案外ノリノリなのである。

 

 

 

 

「……馬鹿馬鹿しい、私は帰るぞ」

 

裏アネックス計画ドイツ・南アフリカ第5班班長

 

この筋肉がすごい!~表裏アネックス混合編~167位(男女混合)"毒薬のヨーゼフ"!!

 

 

次に、部屋を覗き込んだ後、何かを察した顔でそのまま通り過ぎて行ったのは丸眼鏡に白衣というステレオタイプな博士、ヨーゼフ。

 

慌てて小吉が外に出てヨーゼフを呼び止める。

小吉とヨーゼフに付き従っていた青年の説得の結果、渋々と部屋に戻ってくるヨーゼフ。

 

「ダニエル君、君が私を裏切るとはな……」

 

「誤解ですよ博士! こんな楽しいイベント参加しなけりゃ損ですって!」

 

ダニエルと呼ばれた、見るからに生真面目なドイツ人、という風貌の青年は笑顔で俊輝が作り上げた即席観客席(ダンボール製)に腰を下ろす。

 

 

ーそして

 

 

「剛大君、艦長、俺の存在忘れてたでしょ! エレオノーラさんから連絡来ましたよ!」

 

 

裏アネックス北米第1班班長、ダリウスがノリノリでやってきた。顔は赤く染まっていて、飲み会の最中だったのでは……という予想を抱かせ、小脇に抱えている酔いつぶれた二人の部下がその予想を確信へと変える。

 

 

 

 

「こんなよるおそくにーなんのようなのですかみなさんー」

 

眼を擦りながらふらふらと入っていた銀髪の少女、裏アネックスロシア・北欧第3班班長、エリシアと彼女をここまで連れてきたと思われるスキンヘッドの強面の男。

 

 

 

時刻は午前1時30分……今ここに、戦いの火蓋が切って落とされた!

 

 

ー第一試合 剛大VSヨーゼフ

 

「では私はこれで」

 

「待って博士! これ総当たりだから!」

 

無表情のまま腫れた手をぶら下げ、不機嫌オーラを出しながら部屋を出るヨーゼフ。追う小吉と剛大。

 

 

ー第二試合 エレオノーラVSエリシア

 

「んー! んんーー!!」

 

顔を真っ赤にして必死に力を入れるエリシアと、微動だにしないエレオノーラ。その顔は孫を慈しむ祖父母のように穏やかだ。皆のひと時の癒しタイムである。

 

 

ー第三試合 欣VSダリウス

 

「Wassyoi!」

 

「英語っぽく言えばアメリカンな雰囲気出ると思うなよ若造」

 

思いっきり机に叩きつけられ、悶絶するダリウス。観客席の全員が目を背けた。

 

 

一回目の組み合わせで、早くも力の差が現れた。

すでにぐったりしているエリシア、腫れた手を水袋で冷やしているヨーゼフ、手を押さえてうずくまっているダリウス。

 

そう、彼らはわかっていなかったのだ。アネックス計画の幹部はベースの強さに加えて個人の能力も同時に評価が高い。だから、幹部搭乗員は4人がマッスルを誇る男性、アドルフこそ彼らと比べれば劣るものの、決して平均を下回っているわけではない。他が強すぎるだけなのだ。唯一の女性であるミッシェルもその生い立ちから筋力は決して他の5人に劣らない。

 

だが、裏アネックスは違う。例外は約1名いるが、ベースを重視して集められた彼らにとって本人の身体能力は二の次。立派な研究室栽培のモヤシ、ヨーゼフと生い立ちの関係もあって身体能力普通以下、未成年の女の子というそれだけで圧倒的な差、しかも時々吐血するという嫌すぎるオプション付きのエリシア。あと碌に鍛えていないダリウス。

 

他の三人は身体能力が高いが、それと比べて弱すぎる。

 

なので、不機嫌な顔で敗北するヨーゼフ、必死に頑張るが結局力尽きるエリシア、もうなんか目が死んでるダリウスという三人の構図が試合のたびに見られる事となった。ダリウスは二人に勝ってはいたが。

 

 

その後は剛大と欣の激しく、暑苦しい戦争かと間違える程の戦いの末に欣が勝利したり、ヨーゼフが怪しい薬を飲もうとして小吉に押さえつけられたりと見どころはあった。そして、最後の三戦である。

 

 

エレオノーラVS剛大

 

「うおおおおお!」

 

「おほほほほほ!」

 

凄まじい力と力のぶつかり合い。両者、一歩も退いていないし退く気もない様子だ。

観客席でも俊輝と静香が剛大を応援し、息ピッタリで盛り上がっている。

 

 

だがその均衡は徐々に崩れ始めた。歳から来るスタミナの差なのか、単純な腕力の差なのか、剛大の腕がエレオノーラの腕を押し、傾けていく。

 

あと3秒、このペースでいけば剛大の勝ちだ。

客席も、他の搭乗員も結果を察したその時。

 

剛大だけが、それを確認できた。エレオノーラの目の色が変わる。

どこか、ぼんやりしたような、不思議な目だ。そして次の瞬間。

 

「ぬおおぉぉっ!?」

 

一瞬で戦局が逆転。剛大の腕が机に叩きつけられる。そして砕ける机。飛び散った破片の一つが俊輝の頭を直撃し、俊輝がその場にどさっと倒れる。

 

何が起こったのかわからず、目を白黒させる剛大。それに、立ち上がったエレオノーラが楽しげに告げた。

 

「ババアの負けず嫌いを舐めちゃいけないよ、若人ちゃん」

 

 

ー欣VSエレオノーラ

 

実質の決勝戦。どちらも他4人に対して全勝している。ここが盛り上がり場だ。

中国班の二人は緊張した顔つきで戦いが始まるのを見守り、他の皆も足を延ばして観戦している。

静香は俊輝の看病中である。

 

「それでは開始しますよー。よーい、どん!」

 

 

瞬間、衝撃波でも起こったのではないかという激突。お互いの筋肉がうなりを上げ、目の前の敵を全力で押し倒さんと力を与えている。エレオノーラはやせ身のはずなのだが、どこからそんな力が出ているのか。

U-NASA7不思議に入れてもいいのではないだろうか、という疑問だ。

 

 

「悪いが婆さん、私はこの戦いに勝って、班員達に力を示さなくてはならん!」

 

「ほほほ、私の方は見に来てくれる班員がいなくてよ!」

 

寂しいなそれは……と観客席の空気がブルーになるが、戦いは熱い。

だがやはり、剛大に押し勝った欣とエレオノーラでは欣が優勢だ。

 

 

そして再び、エレオノーラの目が……

 

 

と思った瞬間、エレオノーラの腰から響く鈍い音。

それと同時に体は崩れ落ち、手はあっさりと(テーブル)に沈む。

 

えっ? という疑問渦巻く中、駆け付けたヨーロッパ班の班員達が担架でエレオノーラを輸送していった。

 

決勝でのまさかのぎっくり腰。無理が祟ったようだった。こうして決勝戦はなんだか微妙な雰囲気の中、幕を閉じた。

 

 

 

 

 

ーヨーゼフVSエリシア

 

そして残っていた最終戦。最弱決定戦である。

成人男性と未成年の少女、お互いひ弱なら、どっちに軍配が上がるかは明らかだ。

 

エリシアは最初からわかっていたとはいえ度重なる負けに少し涙目になってしまっている。

その場にいる全員の目が、ヨーゼフに向けられる。

 

 

「「(どうすればいいのかわかってるだろうな、博士!)」」

 

わかっている心配するな、と無言で頷くヨーゼフ。

 

「よーい、スタート!」

 

 

「ふんッ!」

 

「あぅ」

 

 

ヨーゼフの本気。一瞬で沈むエリシアの細く、小さい腕。

 

 

「ふざけてんじゃねーぞ博士ぇ!」

 

「もうちょっと容赦してあげるとか……した方が……」

 

「お嬢になにしやがるこの××××野郎!」

 

ブーイングと野次が飛び交う。この博士は難しい論文は読めても空気が読めないのだ。

 

 

「エリシア君は少し腕が細すぎるな。栄養が足りていないと見える。もう少し肉類を中心に多くを食べた方がいいようだ」

 

「は、はい……」

 

どうやらあの皆の目は、アドバイスしてやってくれ、という意味に捉えていたらしい。

 

 

 

 

 

各国のお客さん方は帰り、やはり微妙な雰囲気の中、片づけ作業に入る小吉と剛大。

 

「結局片づけで手間ですね」

 

「まあいいじゃないか、それに剛大君」

 

「はい、なんでしょうか」

 

「これだけ仲良くなれば、各国班が一つになって任務をこなせるんじゃないのか?」

 

小吉の一言で剛大は理解する。

ああなるほど、この人は、自分達裏アネックスの幹部に仲良くなってもらいたかったのか、と。

自分達裏アネックスの真の目的、それは『裏切り者の排除』。けれども、その裏切り者なんていないのがベストに決まっている。

 

「はい、そうありたいと願っています」

 

「じゃ、俺はこの辺で」

 

「お疲れ様です、小吉さん」

 

 

小吉が帰った後、剛大はようやく目を覚ました俊輝、看病していた静香、そして。

 

 

 

部屋の外からこっそり様子を伺っていた拓也に声をかけた。

 

 

 

「お前ら、今から食堂にでも行くか? そうだな、アジアの良心ともいえる具なんてほとんどないラーメンくらいなら作ってもらえるかもしれん」




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