深緑の火星の物語   作:子無しししゃも

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第2話です。さあ、ヨーロッパに行こう……までの道のりな回。



地球番外編2話 追手

「今回の事件、どう責任をとっていただけるのか?」

 

二人が船に乗り込んだのと同時刻、孤児院では管理者である車椅子の女性、アナスタシアとそのお供達が到着した政府の役人に追及を受けていた。

兵士を連れ、かなり差し迫った状況である事が伺える。

 

「今回の件、施設の警備と管理体制の甘かったこちらの責任です、申し訳ありません」

 

頭を下げるアナスタシアと、それに追従して頭を渋々下げるお供の4人。

だが、役人はその態度、主に4人のものが気に入らなかったのか、怒りを露わにする。

 

 

「この施設が我々にとっていかに重要なものか理解しているのかアンタらは!」

 

「少し疑問に思いますね。我々はこの孤児院の子ども達の世話と研究を任されている身。施設そのものの管理と警備については国から人員が派遣されているはずでは」

 

しかし、その役人の態度に対して軍服の青年、ヨハンが反論する。

この施設は、選び抜かれた孤児にMO手術を施し、兵士を要請する施設である。だが、その秘匿性とMO手術というものを扱っている事に着目し、それの応用研究が行われている研究所でもあるのだ。

なので、いつ不満を持った孤児達が反乱を起こさないか政府から監査官や兵士が送られているし、研究所には子ども達を使って人体実験を行う権限が与えられている。

 

「アンタらが普通に仕事をしているならいいだろう。だがな、『手術』に関するレポートはこれまで百数十回分送られてきているが子どもは一人たりとも減っていない。これはどういう事だ? 情が湧いて虚偽の報告をしているんじゃ―」

「けほっ…」

 

早口でまくし立てる役人。だが、4人の注目は咳をして赤い液体を吐き出したアナスタシアの方に向いてしまった。

 

「うわっ、先生ヤバい! 大丈夫!?」

「早く医務室に!」

「安静にさせねえと!」

 

話の腰を折られ、苛立った様子の役人。だが、その表情はすぐに困惑と怯えの混じった色に変わった。

金髪の少年、バイロンがアナスタシアを守るように二人の間に割り込んできたからである。

 

「なあ、あんた、ここのガキ共のために先生が何をしているのか知ってんのか?」

 

「結果さえあればそんな事は知った事じゃないな。お前たちは偶然あの手術から生き残っただけ、博士は命を狙われ死にかけていた所を我々救ってやった存在だ。どう使い潰そうが我々の自由だ。ま、もう先は長くなさそうだから使い潰せそうにもない欠陥品か」

 

背後に銃を構えた兵士がいる余裕なのか、役人は堂々と4人とアナスタシアを侮辱する。

兵士も、どこかその言葉に同調するかのような下卑た笑みを浮かべている。

 

「次にそれを言ったらブッ殺すぞ」

 

次の瞬間、バイロンの右手が、手首の辺りから生えた黒い湾曲した鎌のような何らかの生物の顎が役人の首に添えられる。

当然、その蛮行に対しその場にいた3人の兵士が銃を構える。

 

「癪だがバイロンと同意見だ。ドクターに対する無礼は私が許さん」

 

だが、その銃はバイロンに向けられる事なく下ろされる。そして、その動きに合わせて兵士が崩れ落ちた。

死んではいないようだが、地面に這いつくばり、がくがくと痙攣している。

驚愕しながら振り返った役人が見たのは、いつの間にか自分と兵士達の背後に回っていたヨハンの姿。

 

その額からは触覚が生え、体は青みのかかった黒色に、背からはオレンジ色の羽が生えている。

そして、手首からは針が伸びていた。

 

「ヨハン、薬使って変態とか本気モードじゃねえか」

「あの子先生の事大好きだもんね」

看病している残りの二人も、会話しながら役人を殺意の籠った目で睨み付ける。

 

 

「お前たち…我々に反旗を翻すつもりか!」

 

身を守る盾を全て失い、顔面蒼白で役人は震え声で話す。

 

「ちげーよ、お前1人に反旗を翻してんだ」

 

その姿を鼻で笑い、バイロンは役人を蹴り倒す。

 

「お前たちあの片方がどれだけ価値があるものなのかわかって……」

「追いかけるなら勝手にしろよ、捕まえられるかどうかは知らねえけどな」

 

逃げてしまった子どもには特別な価値がある、そう呻く役人。だが、それを否定したのは、口元の血を拭い車椅子から立ち上がったアナスタシアだった。

 

「あの子の特別な価値なんて知りません。ここの施設の子たちは、皆同じく私たちの可愛い子どもで、弟妹です」

 

―――――

 

 

「ねえシロ君、なんであの厳重な警備の中で脱出できましたの?」

「なんで、って言われても困るけど……うーん、ああ、爆破する時と逃げ出す時に警備員が居眠りしてた」

「何とも都合のいい話ですわね」

「なんか皆めっちゃピクピク小刻みに動いてたけどな」

「それって……」

 

船の甲板をモップで掃除しながら、エミリーがシロに話しかける。暇なのである。

この船にこっそりと乗り込んで、もう一週間と三日になるだろうか。このままのペースであれば、明日には目的地であるドイツの港町、ハンブルクに到着するらしい。数百年前の技術では1ヶ月近くかかるルートだという事を聞いて、科学の進歩を実感する二人。

二人は密航しているものの、何もしていないで船内に隠れていれば見つかってしまうであろうという危機感と、流石にヨーロッパまでの船をタダ乗りするのは……という罪悪感から、自主的に甲板掃除をしているのである。

 

それが功を奏し、二人は細かい事は気にしないスタイルの船員たちからすっかり甲板掃除のアルバイトとして扱われ、船員たちの食事にも普通に参加できていた。密航というか、すっかり船の一員である。

 

 

「おう新入り、ご苦労様!」

「あ、お疲れ様ーッス!」

「お疲れ様ですわ」

 

船員が船内へと続く梯子から顔を出し、二人に声をかける。唐突な登場に二人は驚きで肩をぶるっと震わせた。

自分達の事情が悟られてはまずい。適当にごまかして会話しながら、二人は掃除を続ける。

 

「そうそう、なんかこの船に密航者がいるみたいでさ」

 

その発言は、とても唐突だった。二人揃って動きと呼吸も一瞬止まったような感覚になり、頭の中が真っ白になる。

 

「ホー、ブッソウッスネー」

「ソウデスワネー」

 

「お前らもなんか知ってたりしたら教えてくれよな。じゃ、適当に切り上げてメシ食いに来いよー」

 

二人は片言になりながらも辛うじて返事を返す。船員はその謎の発音に少し不思議そうな顔をするが、すぐに船内に戻って行った。

 

「し、心臓が止まるかと思いましたわ……」

「超怖え……」

 

二人ともモップを床に置いて胸を押さえる。すでにばれていた、というわけではなさそうだった。

しかし、何らかの証拠があったのだろうか。自分達は空いている小部屋の倉庫に寝泊まりさせてもらっている。

もちろん、船員たち公認である。乗組員に認められているのに、いまさら何かの証拠があるものなのだろうか。

 

「極力証拠を残さないように、って言ってもそもそも証拠自体が何でどこにあるのかもわからないしなあ」

 

密航者がいる、という噂があるという事は、見知らぬ人間を船内で見た、又は船内に生活している痕跡があるという事だろう。

しかし自分達は密航者ではあるが既に船員たちにとって見知らぬ人間ではないし、生活に使う場所も許可済みだ。

一体どこからそんな話が出てきたのか、と二人は考えるが、やっぱりいくら考えても答えは出てこない。

 

 

「まあ、今は気にしても仕方がないか」

「そうですわね、今大切なのはご飯ですわ」

 

あまり深く考えても仕方がない。二人は軽い調子で、船内の食堂に急いだ。

これから昼食だ。この船は夜に行う業務が多いため、昼食に量や質のあるものを、夕食に軽食、という形式ができている。そして、明日到着なので今日はパーティだ。夜の業務も事前にある程度済ませてあるため、今日は船全体で休息のようなものなのである。さあ、どんな美味しい食事をとる事ができるだろうか。二人は期待に胸を膨らませ、食堂の扉を叩いた。

 

 

――

 

「……では、今夜も穏やかで実り多き海に乾杯!」

「「乾杯!」」

 

食事前の恒例行事である船長の挨拶が終わり、集まった乗組員たちが業務によって空かせた腹を満たすべく食事に突撃する。シロとエミリーも例外ではない。二人は甲板掃除だけではなく荷物運びや見張りなどさまざまな業務をこなしていた。

もちろん、こっそりと乗せてもらっているこの船への恩返しの意味もあるが、いざという時のために脱出経路を確保する、という意味で船内の構造を知っておく、という意味もあった。

 

「二人とも、今日は無礼講だ、飲め飲めー!」

「エミちゃん、一杯どうよ」

「おいシロ逃げるな、立派な男だろうがお前は!」

 

しかし、そんな密航者の考えもここではあまり意味が無く。海の陽気な荒くれ者たちに酒を勧められ、未成年の二人であるが断れずに飲まされている。女の子であるエミリーに対してはまだ遠慮が見られるものの、シロに対しては容赦がない。ワインの瓶を口に突っ込まれるなどの惨劇が繰り広げられている。

 

 

「何ですかその怯えた目は! 早くおかわりを持ってきなさいな!」

「そ、そんなに飲んだら体に悪いぞ……」

 

「……」

「シロ? シロオオオオォォォ!」

 

数十分後。翌日に目標到着を控えた輸送船の少し豪華な昼食会場で、机に片足を乗せ高飛車に歴戦の海の男たちにワインのおかわりを要求するエミリーと光が消えた目で天井に描かれている足が10本あるタコのような生物が船を襲っている絵画を見つめて動かないシロという光景が展開されていた。

 

 

 

――

 

「記憶がありませんし頭が痛いですの……」

「オウェェ……」

 

グロッキー状態の二人が目を覚ましたのは真夜中の事だった。頭を押さえるエミリーと窓を開けて海に向かって吐いているシロ。吐瀉物に魚が集まって来るの見て思わず真顔になるシロだったが、最終的にはエミリー程飲んでいなかったので症状は軽く、一通り吐いた後は少し酔いも醒めてきていた。

 

 

「……ん? なんだありゃ……?」

 

そんなシロは、夜の海で何かがこちらの船に向かってやって来るのを見つけた。

イルカやシャチやのような大型の生き物だろうか、とぼんやり考えていたが、その姿は船に近づくにつれて鮮明になっていく。

 

「オイ、ぶつかるぞ! 危ない!」

 

それは、1艘のモーターボートのようなものだった。もう間に合わないという事はわかっているものの、思わずシロは叫んでいた。騒ぎを聞いて、エミリーも窓を覗き込む。

 

だが、そこからの光景は二人の予想とは全く違うものとなっていた。

モーターボートが激突、それよりもずっと大型であるものの、輸送船が衝撃で揺れる。

しかし、モーターボートに乗っている人々は海に飛び込む、などという事はせず、輸送船に梯子をかけている。

そして、二人は見てしまった。

 

こちらの船に移ってこようとするモーターボートの乗組員たちが、注射器、タブレット、葉巻といったシロもよく知る例の『薬』を持っているのを。

 

「エミリー、行くぞ!」

「ええ!」

 

二人の手を引き、走り出す。追手だ。そして、こうなった原因は自分達だ。

分かれ道。左に行けば潜水用装備の用具庫。右に行けば甲板。

 

 

二人で一瞬迷い、そしてお互いを見つめ、覚悟を決めて頷く。

 

「撒いた種は何とかしないとな」

 

 

甲板に上がり、二人を見て手に持った紙を確認し、ニヤリと笑う侵入者たち。

 

それに対し、シロはポケットから注射器を、エミリーは護身用の拳銃を取り出す。

夜の船の甲板を、輸送艦か侵入者、どちらが使ったともわからない照明弾が明るく照らし出した。

 

 

 




観覧ありがとうございました。
次回、戦闘メイン&最後にベース紹介入るかも
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