深緑の火星の物語   作:子無しししゃも

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遅くなってしまいました、第4話です。


第4話 北国の腹事情

各班による謎の襲撃者の各個調査、そして撃破。

 

それぞれの班の長達は示し合わせたわけでもなくそれを決定し、実行に移した。

 

 

基本的にこの計画の幹部搭乗員(オフィサー)達は好奇心が強い、または職務に忠実で国への忠誠心が強い、という人間で構成されている。

 

 

テラフォーマーを可愛い、と言ってのけたり、それを研究材料程度にしか思っていなかったり。

 

だが、例外な、いや、これがその人間と同年代の一般人の普通の反応だ、というものを見せる人間が一人。

 

 

 

「お嬢、大丈夫か?」

 

所変わり、ここはロシア班の宇宙艦の不時着地点。体中に古傷を持ったアジア系の大柄な男が、震える小柄な少女に手を差し伸べていた。その周りには、無数のテラフォーマーの死骸。いずれも急所である喉を何かに貫かれ、ぴくりとも動かない。その二人の後ろに続くのは、選ばれし搭乗員達。

 

しかし、彼らは一般的にエリート揃いと言われる宇宙飛行士という職業のイメージとはかけ離れていた。

全員が全員目つきが悪く、動作もどこか粗暴だ。この荒れた岩場という環境と合わせてみれば、きっとこれを見た人は数百年前の地球のマンガ、某世紀末救世主伝説のエキストラの集団だと思う事だろう。

 

 

だが、彼らは統率を持って自分達のリーダーに従っていた。その忠誠に、一人たりとも違う者はいない。

 

 

では、彼らのリーダーとは。

 

「オラァ、てめえら、お嬢が話したいみてえだ、静粛にしやがれ!」

彼らの前に立っている大柄な男が、付き従う彼らに怒鳴る。だが、彼が命令を下す様子は無い。

 

その代わり、隣に立っているロシア帽を被った少女がおどおどとした様子で話し始めた。

 

「あの、その……皆さん、お疲れ様でした! ごめんなさい、お役に立てなくて」

 

その声はみるみる小さくなっていき、後半は掠れるような小声に。

一応彼女も変態はしていたらしく、虫ではない何かの触角状のものが額から生え、背中も無数に謎の物体が生え揺れている。そして美しく長い銀髪を振って、ふるふると震えている。どう考えても寒がっているか怖がっている様子だ。

 

 

そんな小動物的な少女を威圧的なオーラを放ちながら見ていた荒くれ揃いの班員達。だが、その顔はみるみるうちに笑顔に変わっていく。

 

 

「気にすんなよリーダー! あんたのおかげで最初に襲撃された時も被害ナシで済んだんだぜ!」

 

「適材適所ってやつよ、こんな時は!」

 

「とにかく誰も犠牲にならなかったんだ、終わりよければ全てよし、だ!」

 

もうその時点で完全に隊列は崩れ、班員達は男と少女を囲んでワイワイと騒ぎ合っている。

 

男はその状況に苦笑しながらも止めようとはしない。自分達のリーダーは規則にこだわらない性格であるし、自分達も規則というものが苦手だからだ。だが、自分達の立場を考えるにあまりにはっちゃけていると後々行う事になる地球への報告で面倒な事になる。

 

だから、彼もオフィサーの彼女も申し訳程度に規則で行動しているのだ。

 

 

アネックス一号のロシア班は全員が戦闘員だ。その勇猛さは出発前から知られ、特に班長であるシルヴェスター・アシモフは軍神と呼ばれた超有名人。憧れている人間はこの援軍組にも多い。

 

 

そして、彼らもとある共通点がある。

 

「わ、私なんかに付いてきてくれて、ありがとうございます……!」

 

下を向いて顔を赤くしながら小さな声でその場の全員に告げる少女。

それに優しげな笑顔を向け微笑ましそうにする強面の男達。

 

幹部搭乗員が上司というよりは娘の様に扱われているロシア班のひと時であった。

 

 

 

――――――――――――――

 

宇宙艦付近に戻り、食事をとっている荒くれ者の集団とどう見ても場違いな可憐な少女。

 

そんなロシア班に近づく、無数の影があった。

 

それらは休憩時間にも油断無く見張りをしているロシア班の数人にも発見されず、彼らの本丸に狙いを定めている。

 

 

そんな事には全く気が付いていないロシア班。なぜなら、彼らは火星の大地、その内側から迫っているからだ。

 

 

各班を相手に先陣を切った者は一班も違わず失敗した。他の班への襲撃は一旦収まってはいたのだが、このロシア班の襲撃を担当している集団は今だに諦めていなかった。

 

 

 

坑道があらかじめ掘ってあるわけではない。そもそも、そこまで正確に不時着地点を予測してあらかじめ準備をしておく事は不可能に等しい。

 

 

 

そんな理由で、襲撃者達は現在進行形で穴を掘っていた。いや、達、というと語弊がある。

 

正確には、その先陣を切る一人が凄まじいスピードで砂を、土を、岩を掘り進んでいる。

 

 

環形動物門貧毛綱、ミミズ。皮肉にも、拓也が使えないと言っていた環形動物のお仲間は、他班襲撃に大いに役立っていた。そもそも、環形動物には種によるが基本的に体中が筋肉の塊である。筋肉といってもミミズのそれは人間とは違い脆弱なため、これが有効な強化になるかと言えば疑問であるが、その掘削能力は衰えていない。単純に筋肉量が増すというだけでも身体能力の強化になるだろう。

 

戦闘での特殊な能力は持っていないためこの火星での任務には優先度の低い生物であるが、今回の相手はテラフォーマーでなく人間。陣地を構築する人間を奇襲するのに、地中からの攻撃はポイントが高いと思われる。

 

 

 

「よし、あと一発で貫通だ。お前ら、わかっているな? まずは幹部搭乗員(オフィサー)のガキから殺るぞ」

 

「おう、全員、変態は済ませたな?」

 

「……。全員大丈夫だ」

 

 

「よし、では」

 

穴が開通し、地上への扉が開かれる。変態する暇は与えない。一瞬で仕留める。

偵察班の報告によれば先程奴らは襲撃してきたテラフォーマーの一団を撃退したところだという。

だから、疲労しているし安心しきって地中からの奇襲なんかに気付いていないに違いない。

そして、この敵班の幹部搭乗員(オフィサー)は女性、しかも年端もいかない子どもだ。

単に強力なベースに適合しただけで、人殺しになんて慣れているわけがないし、そもそも先程のテラフォーマーとの戦闘に参加していない事を思うに、戦闘向きのベースではないのだろう。

 

強力なベースといえど、それの全てが戦闘向きとは限らない。味方を支援するのに向いている、たとえば薬草のようなものも一応強力なベースといえよう。暴論のように思えるが、それは彼女が変態しながらも戦闘に参加していなかったという一点から導き出された確かな答えだ。

 

 

 

そう思った彼らはいつでも突撃できる準備を整え、先頭が敵陣の真ん中に躍り出るのを待つだけだった。

 

のだが。

 

Здравствуйте(こんにちは)! 」

 

開かれたはずの視界には、一人の男が立っていた。彼らには聞きなれない、ロシア語の挨拶と共に。

すでに変態を終わらせていたのか、頑丈そうな両爪と、鼻の部分が変異した放射状に広がった器官。

あっけにとられるミミズ男の首を掴み、釣りでもするかのように穴から引きずり出し、投げ飛ばす。

 

穴の中にいる襲撃者達はそれ以上地上に放り出された彼の姿を見る事ができなかった。

といっても、地上に引きずり出されたミミズの運命など、推して知るべしだろう。

 

 

「クッ、何故バレていた!? 撤退だ、急げ!」

 

このまま外に出ても、待ち伏せにあって全滅するのが関の山だ。それならまだこれまでやってきた道を戻って、態勢を立て直してから挑んだ方が何倍もマシだろう。

 

 

「急げ急げ、やべえぞおお!」

 

後ろを振り向く事もできず、慌てて逃げ出す襲撃者達。しかし、当然タダでそんな事を許すわけがない。

自分の仲間が最後尾から順に悲鳴を上げ、また一人、また一人と悲鳴が近づいてくる。

 

 

そして、ついに最後の一人。自分の真後ろにいた仲間の悲鳴が聞こえ、その気配が消える。

背後を振り向き、覚悟を決めて振り向く襲撃者。

 

「その……あなたが最後の一人、ですね。今降参してくれるなら殺しはしません。いかがですか……?」

 

そこにいたのは、ロシアの幹部搭乗員(オフィサー)。小柄で自信なさげな少女だ。他の班員は一人としていない。

戦闘要員とは思っていなかった意外な存在に焦るも、あくまで彼はポジティブな考えを捨ててはいなかった。

 

ここで幹部搭乗員(オフィサー)を仕留めれば、依頼人からどれだけの報酬がもらえる事だろうか。

 

そうなれば、地球に帰った後で自分に待っているのはバラ色の余生だ。

 

そして、自分にはそれを遂行できる力がある。

 

 

「言っておくがな、俺の手術ベースは『イルカンジクラゲ』!狭い場所で俺と出会ったのが運のツキだったな、ココで死にやがれ!」

 

そう信じて止まない彼は無謀にも自分のベースを目の前の気弱そうな少女に語り始める。

彼の言葉に偽りなく、これまで仲間を巻きこまないように収納していた猛毒の触手が解放され、少女に襲いかかる。

 

 

それがいけなかった。彼がこの少女を仕留めようなどと思わず、降参していたら。ベースが何なのか話したりしないで、素手で殴りかかって拘束されていれば。

 

 

 

 

 

彼は、命を繋ぐ事ができただろうに。

 

 

 

 

 

 

襲いかかる触手を目前に望み、北の大国(ロシア)の荒くれを統べる少女は、先程の震えとは違い、歓喜に打ち震えていた。

 

「いるかんじ……? クラゲ、クラゲじゃないですか!それも猛毒!えっ、それを私にくれるんですか? 嬉しい、嬉しいです! 班の皆さんに見られてたら恥ずかしくてできませんが、今日の私は運がいいです!最高です! 皆さんは外で待機してます!これってどういう事かわかりますかお兄さん!ここには私とあなたしかいないんです!これってどういうことかわかりますか!つまりここには見ている人がいないんです!わーい、わーい!えへへー、きっとこれは神様のプレゼントなんです!私ががんばったから、火星に神様がいるかは知らないけど、私にご褒美をくれたんです!感動です!そうですよね、ね、ね!? どうしたんですか、浮かない顔をしてますよ!ああ、こんな所で!私は幸せ者です!うっふふふふふふふ、あははははははははははははっ!!」

―――――――――――――

 

「なあ、嬢ちゃん、帰って来るの遅くないか?」

 

「ああ、たぶんあいつらのベースに『アレ』がいたんだろうな」

 

「素直ないい子なのに、あれさえなければ完璧なのにな……」

 

「ま、俺達みたいなクズの集まりにずっと優しく接してくれてんだ、ストレス解消くらい自由にやってもらおうぜ」

 

「おう、そうだ、班長のために料理用意しとこうぜ! どうせ満腹だろうから、女の子が好きそうなデザートでも用意してな!」

 

「いいな、よし、お前ら、スイーツの準備だ!」

 

むさ苦しい野郎どもが総出で可愛らしいお菓子やアイスを用意する、そんなロシア・北欧班の一幕。

これから始まる死闘の前の、一息の休息である。




観覧ありがとうございました。
ロシアの幹部搭乗員の少女、第2話ですでに名前だけは出ていますが、どんなキャラなのか、少しだけ紹介する回でした。
正直、生き物に詳しい人なら、この回だけでだいたいMOベースの予想はつくのかもしれません。もし正解が感想に書かれたりしても、作者はしらばっくれますよ!

その後メールで称賛とか口止めとか色々送りますけどね!
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