深緑の火星の物語   作:子無しししゃも

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第45話です。作者のヒマとやる気が重なり二日連続の更新となっています。


 戦闘&……な回です。


……読んでくれている方には色々すまないと思っている。


第45話 裏切り者

 その生物は探し尽くされた地球で久方ぶりに発見された新種、であった。

 

 しかし、一般的な新種、と異なる点が一つ。それは、この生物が古くからその存在そのものが知られ、人々の間で語り草となっていたところである。

 

 歴史は古く、発見の六百年近く前から幾度となくその生物を発見するために探索が行われ、それは悉く失敗してきた。

 

 それは、その生物が生息地の深層を住処とし、ごく限られた期間しか人間の目に映る場所に姿を現さないという生態と、生息数が限られた希少種である事、二つの要因が重なった結果と考えられている。

 

 この生物は何の仲間であるのか、それも昔から議論されていたものの一つである。

 伝承に伝わる形態から純粋に見て取れる生物の一種。いいや、この環境に見た目通りの生物の仲間では適応できるわけがない。それに形態が似た爬虫類の一種、もしくは語り継がれるその生態から別の動物と見間違えただけではないのだろうか。

 

 様々な説が飛び交い、そのどれもにはっきりとした根拠は無かった。映像記録の一つすら、その生物に関しては発見されていなかったのだから。

―――――――

 

「何……でだよッ!」

 

 低い姿勢で距離を詰め、大槍の死角に入ろうとするプラチャオを健吾は身を退いてさせまいとする。

 戦闘中ですら軽い調子を崩さないその顔には、焦りと動揺の色が濃い。

 

 第一班、第二班を主力とした連合部隊と、第四班+裏切り者の一部精鋭の部隊。

 

 人数にはそこまで差は無い。戦闘能力に関しても、第四班側には幹部搭乗員の存在はあるが、目的を戦闘に絞った連合部隊と戦えるとはいえ技術員も含む第四班の戦闘能力の開きはある。

 

 純粋に戦力としては拮抗している状態。だが、連合軍の側には精神的な動揺があった。

 

「静香、俺ごとでいい、やれ!」

 

(リン)、やらせるな」

 

 臨時の指揮官を務めている健吾が空中戦を繰り広げる静香に指示を飛ばし、それと同時に第四班班長が静香の相手、鈴に対抗するかのように命令する。

 

「わ、わかった……けどっ」

 

「はいよぉ、班長!」

 

 少し躊躇いながらも高度を下げてその専用装備を地上に向け、そこにいる健吾ごと数人の敵に向かってその羽を原料とした毒の粉を散布しようとする。だが、その攻撃ルートに鈴が割って入り、蹴りによってその射程範囲から静香を蹴り出す。

 

「なっ」

 

 専用装備と組み合わせる事によって上空から地上に対し広範囲の攻撃を行う事が可能な静香のベースであるズグロモリモズに対し、猛禽類がベースである鈴は地上を一掃するような真似はできないが、運動能力は明らかに優位に立っている。

 一対一で空戦を行う分には静香も毒と専用装備によって牽制する事ができるため劣るわけではないのだが、静香が鈴を無視して地上に狙いを定めても鈴はそれを容易に妨害する事ができ、逆に鈴が地上を攻撃しようとするのを速度でも機動力でも劣る静香は阻止できない。

 

「くっ……」

 

 空中戦は一方的に制空権を奪われる状態ではない拮抗状態を保っているものの、定期的に脚の鋭い爪で奇襲を仕掛けてくる鈴の存在と、全体的な動揺による士気の低下。

 

「ケンゴ、気持ちはわかる……けどな、今は……」

 

 『裏切り者』の男が一人、背を向けたチャーリーに向けてその腕から生えた生物の刃を振り下ろす。

 チャーリーはその攻撃を見ずに避け、その腕を掴む。その勢いのまま腕を抑え込み、曲げた自身の肘を上向きにした相手の肘に振り下ろす。

 関節が逆側にへし折れ、苦痛でしゃがみこむ『裏切り者』。

 低い位置になったその顔に膝蹴りを入れ、追撃にさらに蹴り飛ばし距離をとる。

 

 

「っ、おう……!」

 

 チャーリーの言葉に、健吾は顔を歪める。敵の目を逸らすために一人で敵の幹部クラスと思われる男と戦っている自分より高順位の俊輝はまだ到着せず、本来自分達の指揮官である剛大も同じく敵の幹部クラスである第四班の副長、欣が部下を引き連れて警戒に当たっているという情報を手に入れ、この第四班本艦攻撃に支障を出さないために足止めを行っている。

 皆の動揺はわかる。自分自身も、もしかしたら自分が最も動揺しているかもしれない。

 

 情けない話だ。火星の開発計画、その支援計画。事情は聞いていた。

 『裏切り者』を始末する。その過程で敵味方の屍を乗り越えねばならない、という事も。

 理解もしていたつもりだ。これまでの戦いでもそうしてきた。

 だが、これは。自分は。

 

 班長と俊輝は合流してくるだろう。きっと、二人なら勝ってくれるはず。

 ならば、今自分がすべき事は。まだ折り合いはついていない。状況を十分に受け入れたとは言い難い。しかし。

 

 その命令は、普段おちゃらけている彼が部隊の指揮官であるという事と同じくらい似合わない、敵本拠地奇襲という勇猛果敢な任務に対する戦闘方針であった。

 

「全員、無理はするな……生存第一、だ!」

 

 冗談に聞こえなくもないそれを聞き、班員達は頷く。

 

 

「時間を稼いでも班長は来ないぞ、きっと」

 

 先ほどからあまり戦闘に参加してこない第四班班長が、健吾の指示とその意図をすぐさま読み取り、口を開く。

 そこにあるのは、自身の副官であり、自身より優れた司令官である欣への自信。

 仮に欣が敗北したとしても、剛大に致命傷を負わせて戦力にはならないであろうという予想。

 

 戦闘に入った際の通信遮断とそもそも通信用の設備を持っていないという事情で両陣営ともその戦いの結果は知られていない。

 事実、剛大は欣を撃破しこちらに向かっているが、その傷は深く、どこまで戦えるかはわからないという状態。

 

「勝手に言ってろ、『裏切り者』」

 

 

 健吾の言葉に何かを返そうと口を動かす班長だったが、途中で気が変わったのか首を振り、それ以上健吾に対して言う事はなく。

 

「仕方がない、か……」

 

――――――

 その発見は、多くの界隈を沸かせる事となった。

 

 昔からその存在を信じ、熱心に情報を集めていた一般の人々。

 

 その生物の属する仲間にとって地獄といえる環境で進化した特異な生態に注目した科学者。

 

 ……そして。

 

 かつて与太話と言われていた、それは現実のものであった異常なまでに他生物の殺傷に特化したその能力を"使える"と考えた、ある新しい技術の開発者たち。

 

 しかし、それを扱うには、いくつもの問題があった。

 

 その生物の存在が最初に語られた時代から、環境汚染等の理由により大幅に減少したとされる個体数。その生態からくる捕獲の難易度と相まって、十分な量のサンプルを確保する事の困難さ。

 

 それをクリアした後に判明した、通常の手術では適合不可能という特性。

 

 ドイツで開発された新型の術式により適合させる事は可能、と判明したものの、その成功率の低さと、新技術をもってしても適正を持つ人間の少なさ。

 

 その多くの条件をクリアし、手術に成功したのは、運命の悪戯と呼ぶべきか。

 

 歴戦の軍人や、凶悪な犯罪者のような特別な人間などではなく。

 

 ただの、どこにでもいる少し不幸な少年だった。

―――――

 

「シャッ!」

 

 掛け声と共に、楔型の、先端に鋭い針が付いている飛び道具が健吾に向けて投擲される。

 

「遅ぇっ!」

 

 それを己の腕から生えた『コガシラクワガタ』の長槍で弾き落とし、同時に襲い来るプラチャオをもう一本の長槍で牽制し、班長に向けて一歩踏み込む。

 

「……!」

 

 だが、そこで健吾の本能が警鐘を鳴らし、それに従い健吾は横に跳ぶ。

 

 直後、空気が爆ぜる音。それと同時に、弾かれて空中で回転しながら落ちてきていた飛び道具が炸裂し、内部から黄色の液体が飛び出し、飛散する。

 

 これに触るとまずい。直感でそう判断した健吾はその液を浴びないよう、転げるようにさらに距離を取る。

 

 だが、そこに再び、班長が懐から取り出した飛び道具が飛来する。

 

 それは健吾の右肩に突き刺さり、その先端の針は甲皮を貫き血を流す。

 

 しまった。このままではモロにあの液体を浴びる。だが、位置的に肩に刺さったそれを即座に抜き取るのは不可能。そして。

 

「ぐあっ……!」

 

 健吾の体が衝撃に跳ね、ごく小規模の爆発が起こる。しかし、先ほどの黄色の液体が飛散する事はなく。

 

 致命傷は免れた、だが、飛び道具が刺さった傷口には、まだ異物が残っている。

 楔型の武器は爆発により壊れたが、その先端、いや、楔型の外装を貫く形で中心に配置されていた金属の針が刺さったままであった。

 そして、その針の末端には、パラボラのような形状のものが付いている。

 

 それの意味する所を理性と直感、二つの組み合わせで即座に理解した健吾は出血を厭わず引き抜き、投げ捨てる。

 健吾の動きが一歩早かったのが幸い。

 

 捨てられた針と班長の体を繋ぐかのように光が走り、同時に空気の爆ぜる音。

 

 班長の隊服の胸の部分が衝撃で爆ぜると同時に焦げ、地の肌を晒す。

 そこに見えたのは、体に埋め込まれた機械であった。

 

 

「電気、か」

 

 

 

 対生物他目的投擲具『雷機雷(ボルテージマイン)』。必要に応じて毒液を充填できる小型容器とごく少量の火薬、電気刺激に反応して起爆する装置を複合し、その中央を導雷針で貫き威力と空気抵抗の兼ね合いで楔型の外装を用いて加工した専用装備。

 

 コートの裏にびっしりと並ぶそれを再び取り出そうとする班長。

 

「健吾っ!」

 

 もんどりうって倒れた健吾に襲い掛かる二人の『裏切り者』をタックルで牽制し、武がそのまま班長に向けて突撃する。

 

 巨体から繰り出される、ベース生物である『トゲクマムシ』の装甲の重さも付加した大重量大威力の突進。

 プラチャオと他の第四班班員の阻止も間に合わず、それは班長に向かって一直線に。

 

「……」

「!?」

 

 それは、正面から受け止められる。

 

―――――――――

 ……その正体は、ヘビか。トカゲか。

 

 事実は、いくつもの科学的考証をあざ笑うかのようなものであった。

 

 

 

 

 乾燥した砂の数十、数百メートルの深層を潜航し、掘り進む事を可能とする圧力耐性と『蟻』のそれに劣らぬ強靭な筋肉。

 

 

 餌とする特殊な種類の植物と何種もの昆虫の成分を混合して生成される、『雀蜂』に匹敵する猛毒。

 

 

 その生物の仲間の多くが持ち、複雑に進化した体構造の影響か弱くはあるがそれでも例外なく持つ『蟹』のような再生能力。

 

 

 時には自身の数倍の体長を持つ大型動物すら襲撃し、その糧とする『蛸』のような貪欲さ。

 

 

 そして、陸上生物としては極めて異常である、『電気鰻』と同じ、放電による自衛と索敵能力。

 

 

 それら全てを併せ持つ砂漠の悪魔。

 

 雷を放ち、毒を吐き、火を吐く。その空想上の怪物であるかのような、人々に語られしその生物の噂は、そのほぼ全てが事実であったのだ。

 

―――――――

 

「悪い、待たせた!」

 

 そして、この戦場に姿を現した人間がもう一人。

 

 流されるようにこの火星にやってきて、友を失い、その敵を先ほど討った青年。

 

 突入口から這い出て、素早く戦闘態勢に映った彼の視界に映ったのは、敵に相対しているため己に背を向けている巨体の仲間。

 

 その体に隠れて何が起こっているのかわからない向こう側から一瞬の光が見え、直後にぐらりとその体が揺らぎ、倒れこんでその先にいる敵を明らかにする。

 

 それを見て、俊輝の様々な思考の入り混じっていた脳内は一瞬で真白に染まる。

 

 変態による赤黒い皮膚、左胸を中心に体に埋め込まれている装置。その手に持つのは、彼のベース生物の能力を発現させるための、点鼻薬型の『薬』。

 

 

 それら全てが、未知の敵の能力を知る為の重要な情報、だが、そんな新たな情報の数々は何も頭に入ってこない。

 何故ならば。

 

 

 

 

 

「よう、久しぶり。元気してたか?」

 

 

 

 

 

「なん……で……だ……拓也……?」

 

 

 

 そこに立っていたのは、紛れもない、彼の友であったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小原川 拓也

 

 

 

 

 

 

国籍:中国/日本

 

 

 

20歳 ♂  181cm 80kg

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『裏マーズ・ランキング』86位

 

 

 

 

 

MO手術 “環形動物型”

 

 

 

 

――――――――イソゴカイ

 

 

 

 

 

 

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αMO手術"環形動物型"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――ゴビサバクオオチョウムシ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――俗称

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――モンゴリアン・デス・ワーム―――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




観覧ありがとうございました!


 今回登場のこの生物は『実在していて噂が理屈で説明できる限り正しいものであった』という条件の元、作者が生態等を予想したものとなります。和名っぽいそれもそれらしく作った架空のものです。

 あと設定作ってる間に愛着が湧いたのと持ってる人の立ち位置の重要さからちょっと最後の紹介の時の演出が強化されてたり。

 これ系のベース使うのは本当に今回だけですから!許してください!
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