深緑の火星の物語   作:子無しししゃも

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第一部の最終回に当たる回です。



第57話 争いの凶星

「ごプッ」

 

 若干の粘性を持った液体が土から湧き出したかのような音がマルクの喉から響き、それと同時に血を吐く。

 

 片足を折られ、肩を潰され、聴覚が損傷し。普通の人間であれば、よくて痛みに耐えて気絶しない、が限界。訓練を受けた軍人であっても、その動きは大きく減じられるであろう重傷。

 

 特に、このように5人もの猛者に囲まれた状態であれば、これ以上の抵抗は無意味といえるだろう。取る事のできる選択肢としては素直に降伏するか、少しでも相手に被害を与えんと特攻するかくらいである。

 

 

「……いやぁ、驚いた! 本当は面白いものを見せてあげようと思ったのだけど、君達の健闘に敬意を表し―」

「うるせぇよ、とっとと失せろ」

 

 しかし、マルクはそんな状況であっても楽しそうな表情で周りの己に傷を負わせた戦士達を見回す。

 そんな、口の端から血の筋を垂らしながらも饒舌に語るマルクの喉を、健吾の右手が変質した槍が背後から貫く。

 

 

「あ……?」

 

 健吾の攻撃は通った。その槍はマルクの喉を後ろから貫通し、前に抜け致命傷を与えている。それを引き抜き、完全にトドメを刺すべく次の攻撃を行おうとしたが、衝撃によりマルクの隊服、そのポケットが破れ、複数の小物が地面に落ちる。

 それを見て、健吾はその意味が理解できず、一瞬思考がフリーズする。

 

「そう急かさないでくれたまえよ……落ちちゃったじゃないか」

 

 首に大穴を開けたマルクが、窘めるように声を出す。

 こぼれ落ちた小物。具体的にその内容を言えばそれは、錠剤の入った瓶、ガム、タバコ、といった一貫性もあったものではないものの数々。しかし、一件何の関連性もなさそうなそれは。

 

「てめぇ……何だ?」

 

 最後に、プランジャと呼ばれる部位がポケットに引っかかっていた小物が一つ、落ちる。

 それは、注射器。

 

 そう、マルクが持っていた小物、それは、全て。

 

「おや、偶然これが残ってたかぁ」

 

 マルクは残っていたか、などと言いながらも落下していく最中に素早くつかみ取っていたパッチを自身の首に当てる。

 

 それは全て、変態用の『薬』だったのだ。

 

 

「試したいものが沢山あるのだよ、付き合ってくれたまえ、諸君」

 

 それが『薬』である事はわかる。しかし何をしようとしているのかはわからない。でも、わかる事はある。

 危険だ、と。

 

 健吾はその手の槍を再び繰り出し、マルクの頭を正面から貫こうとする。一瞬で絶命させなければ、恐ろしい事が起こる、そう直感が告げている。

 

「ハプニングに弱い所は短所だが良い腕をしている。君、私の部下にならないか?」

 

 健吾の右手は、マルクに届く前に動きを止めた。それを掴むのは、先ほど肩から砕いたはずのマルクの左腕。

 その戒めは1秒と経たない内に解かれるが、槍の先にマルクの姿は無く、それは虚しく空を切る。

 

 『オオゲジ』の機動力、それは健在。しかし、動くのに必要な足は、先ほどのプラチャオの一撃によって折ったはず。

 導き出されるのは、あり得ない、という結論のみ。だが目の前の現実は、それを否定する。

 

 

「そうだな、まず君から」

 

 声と同時に、マルクの姿を探していたプラチャオの首にその死角からマルクの腕が伸びる。

 

「……やらせるか」

 

 だがその一撃は、硬いゴツゴツとした壁のようなものに阻まれ失敗する。

 両腕に盾状に形成された壁のような殻、二つのそれの隙間からマルクを睨むのは、第五班副官、ダニエル。

 

 これを破るには正面からは無理だ、と一旦背後に下がり、五人の各国班員達を眺めるマルク。

 五人からの殺意が深々と突き刺さるが、それはどこ吹く風、といった様子で楽しげに手に持った『薬』をいじる。

 

「国を超えた友情、結構な事だね、皆まとめてぶち壊しちゃうのが惜しいなぁ」

 

 マルクの手は、足は、首の穴は、元の姿を取り戻していた。

 『オオゲジ』の能力は拘束された時に手足を自ら切り離し離脱する自切が可能であるが、脱皮の際に再び足が生える元のオオゲジとは異なり、MO能力としてのオオゲジはそれを持たない。

 そもそも、持っていたとしても、首に開けられた風穴を塞ぐのは不可能だ。

 

 だが、目の前にはこうしてほぼ無傷と化したマルクが立っている。

 

「くっ……」

 

 仕留めきれなかった、と健吾が苦い表情を浮かべる。

 戦況としては、5対1。だが実際にはどちらが有利かと言われると、現状は裏アネックス連合にとって非常に厳しい状況と言わざるを得ない。

 

 第四班やテラフォーマーとの戦闘で傷を負ったチャーリーと健吾とダニエルに片翼を潰されている鈴、本来であれば安静にしなければ命が危ない、という傷のプラチャオ。

 

 これまでの苛酷な戦線を潜り抜けてきて、彼らの体もまた、限界に近い状態となっている。最初の不意打ちで完全に殺しきる事ができるはずであった。だが、傷つき疲弊した状態では、不十分であったのだ。

 

 一方の、目の前の敵。悠然と火星の地に立つ、"裏切り者"とはまた別の勢力であろう裏切り者。

 そんな彼は、先ほど受けた傷などすっかり忘れたかのように五体満足で立っている。

 戦闘能力も、幹部搭乗員に匹敵するか、それを凌ぐ程。

 

 

 

「良いねぇ……弱いながらも手を取り合って強大な生物に立ち向かう、それでこそ、脆弱な人間という生物だ」

 

 嬉しそうな調子で、マルクはどの隙に拾ったのか、その手に持った槍を構える。

 武器を拾われていた、その動作ですら気付けなかった相手の速度に、健吾は戦力の差を実感し、悔しげに唇を噛む。

 

 今マルクの注目は自分達戦闘員に注目している。非戦闘員だけでも、逃がせないだろうか。仕留める、から何とか逃がす、にまで変わってしまった戦況。だが、最悪の中でも全てを失う、それだけは避けなければ、と健吾は声を―

 

 

 

「あ、一人紹介し忘れてたぜ」

 

 それは、一瞬の出来事であった。苦し気に肩を押さえる鈴が、唐突に呟く。

 直後、マルクの左胸から、刃物が生えた。

 

「……おや?」

 

 傷口から流れ始める血を見て、マルクは不思議そうな表情でゆっくりと背後を振り向く。

 

「君は恥ずかしがりやですが……ちゃんと自己紹介をしないと……誰で、どこの人間なのかを」

 

 一足遅れて状況を把握したプラチャオも、マルクの背後にいる人間を見て、痛みの中に何とか笑みを浮かべる。

 マルクの背後、そこには、一人の黒髪の少女が立っていた。

 

 

 

「……第四班所属、雅维! 姓はありません、槍の一族じゃありません、私は、第四班のただの班員、雅维です!」

 

 弱気な自身を精一杯奮い立てるように、マルクの胸にナイフを突き立てた少女は叫ぶ。

 

 

「おやおや……裏切ったり裏切られたりで本当に忙しい……そう決めたのなら仕方ない、じゃあね、雅维」

 

 しかし、それさえも再生能力を持った今のマルクにとっては致命傷にならず、その左腕で雅维の首を掴み、締め上げようとする。

 わかっていた。それがトドメにはならない事も、自分がすぐに殺される、という事も、雅维にはわかっていたのだ。生まれてから自分に決定権なんてなかったけど、それでも主には恩義もある。だが。

 

 これまでずっとお世話になっていた班員の皆と班長達。裏切った自分をまだどこかで信じ、再び受け入れてくれたプラチャオと鈴を始めとする皆。最期くらい、自分の意思で誰と、誰の心と共にあろうか、決めてもいいじゃないか、と。

 せっかく、罪滅ぼしと仲直り、と考えてたのにここで終わりか、と。嫌だなぁと首にかかる圧力を感じ、目の端に涙を浮かべる雅维。

 

 

「……これまで流されてばかりだった君が自分でそう決めた事、個人的には好ましいけど……ん……?」

 

 雅维の意識が途切れようとする、その一瞬前に、マルクの左腕は、崩壊した。

 まるで肉が腐っていく映像を高速で再生したかのように、どろどろと皮膚が、筋肉が崩れ、中身の骨を晒していく。

 それと同時にマルクは膝を突く。外傷は無い。だが、体内は、そうとはいかなかったのだ。この戦場を生き残った五人の戦士達の一撃は、確かにその身に深い傷を負わせていたのだ。

 

「あー、やっぱ限界だったか、失敗、だねぇ」

 

 雅维を救う為駆けだした五人は、そのままマルクに攻撃を仕掛ける。驚くほど呑気な声のマルク、それは自身の肉体が今滅びようとしている人間のそれではなく。

 

「だがまあ概ね満足としておこうかな。ではまたね、諸君」

 

 残った右腕を振って楽し気なマルク。それが、最後の姿だった。真っ先に到達した健吾の槍が、再度首を貫き、さらにその状態から左右に動かしそれを胴体と接続している部分を完全に切り離す。

 

 

 死体をどうこうする趣味は無い他の四人は、それで手を止めた。

 この死体が動き出す可能性は無きにしもあらずであるが、先ほどの腕が崩れ落ちた様から見るに、もう肉体に限界が来ていたのだろうと納得し、それ慎重に動かす。

 

 

「……僕たち、情けないですね、剛大さん」

「ああ……だが、いい部下を持った」

 

 各班が、敵であったはずの第四班もが同じ敵を相手に戦い勝利を収める、その光景を見て、疲労の限界で岩に背を預けていた剛大と両肩を砕かれ戦闘不能で能力の特性から打ち合わせ無しで攻撃できず参戦できなかったダリウスが両者とも苦痛に顔を歪ませながらも笑い合う。

 

 

「……これで、俺達の任務は終了、だ。結果が残せたのか残せなかったのかは……アネックス計画(かれら)を信じるしか無いがな」

 

 

 第四班の宇宙艦。"裏切り者"の指揮管制を行う為の大量の通信機材は既に先の脱出の際に自主的に破壊し、その艦はU-NASA主要国共同設計のものと変わり無い。生き残った搭乗員達はそれに乗り込み、数時間後、邪魔も無く艦は空へと飛び立つ。

 

 地球に帰ってからが本当の戦いになる……などとは剛大は言わない。それは、この火星で散って行った仲間達を侮辱する事に思えてならないからだ。だが、帰ってからさらなる厄介事になるのは確定しているといえよう。

 

「……剛大殿、仲間を守る為手を貸していただいた事、感謝いたします」

 

 司令室で指示を出す剛大の元に訪れたプラチャオは一度頭を深く下げ、それだけを言って自身の作業に戻っていく。

 第四班、彼らの事も、どう説明したものだろうか。

 結論から言えば、この火星の騒動は、U-NASA第四支局とその大本、中国によって仕込まれたものだった。しかし、その裏で別の何かが蠢いていた事もまた事実。

 

 彼らを許す事などできない。できようはずもない。彼らと彼らが火星に引き連れていった"裏切り者"によって剛大の直接の部下を含む本来流れなくてもいいはずであった多くの血が流れ、裏アネックスの側としてそれらは抑え込む事ができたものの、恐らくアネックス計画にもあちらの第四班の行動により支障が出ただろう。

 

 だが。

 

「あの時はその……ごめんなさい……」

「おっ、よく見ると可愛いね! どう? 俺と今夜一緒に……」

「えぇ……あのぉ……」

「それ以上ナンパを続けるなら蹴り殺しますよ、健吾」

 

「なぁダニエルとやら……別に気にしてとか無いんだけどな、第二班のトリ女、無事かなぁって……」

「それは僕も心配だけど……君も確か鳥だったよね?」

 

 

 それを糾弾するのは今でなくてもいいか、と剛大は日誌を閉じ、それで健吾の頭を勢いよく叩いた。

 

――――――

 

「……エリシアちゃん、少し来てくれって」

 

 それは、第三班の宇宙艦が宇宙に飛び立った二日目の事であった。

 火星を飛び立ってからの指揮、レナートの手伝いこそあったが様々な班の入り混じる脱出者たちの役割分担や命令に目を回していてようやく落ち着き、体調もあまり優れないという事で自室で眠っていたエリシア。

 

 部屋の扉が開かれてそこに立っていたのは、恭華だった。

 "裏切り者"の総指揮官、アナスタシアの直属の幹部であったこの少女は、エリシアの説得により同じく元幹部のヨハンと共に現在この第三班の宇宙艦に身を寄せている。

 

 普段からハイテンションな恭華には珍しい、少し緊張した様子。それで何か良くない事態が起こった事を察し、エリシアは起き上がり、司令室へと向かう。

 

 小型の宇宙艦であるため、司令室は艦長室、すなわちエリシアの自室から出てすぐの場所にある。

 そこでは、班員達からの不安の声が次々に上がっていた。

 

「艦長、おはようございます」

「体は大丈夫か、お嬢」

 

 その空気に気圧されるエリシアを最初に迎えたのは、二人の男。

 

 心配げに声をかけるのは、見るからに表舞台の人間ではない、という事が感じられる凶悪な人相の大男、裏第三班副官、レナート。

 そしてもう一人、かしこまった様子でエリシアに敬礼する軍服を身に纏った気難しそうな青年、ヨハン。

 体の弱いエリシアが休息中の時は宇宙艦の操作と隊員達の指揮を任されている二人。大抵のトラブルなどはこの二人が処理しているのだが、わざわざこの艦で最も権限を持っているエリシアを起こしてくるという事は、それ相応の事態である、という事だ。

 

「率直に報告させていただきます。……所属不明の宇宙艦が前方に確認されました」

 

「……皆さん、艦制御担当以外の方は自室に戻ってください」

 

 ヨハンの表情から何かを察したエリシアの言葉に、不安の声を上げていた班員達は部屋を出ていく。

 本来ならばこんな命がかかっているかもしれない非常事態に小娘の言う事など聞けるか、という話が出てきてもおかしくはないが、レナートの威圧とエリシアが自分達を先導して助けてくれた命の恩人である事、そしてもう一つの理由があり。

 

「……剣はしまっておけ」

 

「わかりましたよ、元上司様」

 

 古臭い剣を持ち、周囲に殺気を放っていた一人の男を、ヨハンが窘める。

 "裏切り者"兵士であった青年。あの脱出劇の際に追い詰められ、今にもテラフォーマーに殺されそうであったところを救出され、今現在"裏切り者"の捕虜としてこの場に乗せられている。

 ……帯剣を許されさらには自由に振る舞っている所は、捕虜という立場とは思えないものであるが、エリシアが許可したという事で尋問の際に何かがあったのだろう、という事で第三班は納得している。

 

「……ヨハンさん、本当は、何なのですか?」

 

 艦の制御要員とレナート、ヨハン、恭華の三人だけが残った司令室で、エリシアはヨハンに問いかける。

 先ほどのヨハンの表情がエリシアに伝えていた事、それは艦の全員には聞かせたくない情報がある、というようなものであった。

 そして、その答えは、無言でモニターを表示する事。

 

 そこにあったのは、人の乗り物であるかも疑わしい異形の宇宙艦であった。

 背後の宇宙に溶け込むかのような漆黒の球体と、それに繋がった円筒状の胴部、球体が付いている逆側の胴の端には、六本のアーム。

 

 

「あれは"星之彩(ほしのあや)"。……U-NASA第四支局所属の小型有人戦略宇宙艦です」

 

 ヨハンはエリシアに、その機体の情報を語る。

 成程、それは聞かれたくないわけだ、とヨハン以外の三人は納得し、同時に冷や汗を流す。制御要員の隊員もその事実を聞きエリシア達に怯えた目を向けているのだ、やっと生き残れたと安心したその後にこの仕打ちでは、一班の班員達がパニックを起こしかねない。

 

 中国の戦略宇宙艦。それがこんな場所に、何故。

 裏アネックス計画の宇宙艦は火星と地球間の高速移動のみを目的に設計されており、武装は積まれていない。

 もし仮に戦闘になれば、一方的な虐殺劇となる事は間違いないだろう。

 

 さらには、『裏切り者』の存在を知っている裏アネックス計画の搭乗員、という中国にとって消さねばならない理由も残念なことに自分達は備えてしまっている。

 

 降伏すべきか。それとも、逃げてみる?

 

 この場にいる全員の命を預かる指揮官として、エリシアは目を閉じて考える。

 降伏すれば、果たして命を助けてもらえるのか。逃げ切れる戦力差なのか。

 

 リスクとリターン、それぞれを考えるが、答えは中々出ず。

 

[あー、聞こえますか、三号機の皆さん!]

 

 悩むエリシアとそれを見守る三人、緊張に満ちた司令室に、唐突に声が響く。

 

「回線への介入……恐らく、前方の艦からです」

 

 それは、通信回線に無理やり割り込む形でのものであった。

 電子戦能力でも大きく劣るであろう事もわかり、不利な状況であるという情報はさらに追加される。

 

[私、この機体"星之彩(ほしのあや)六号"を預かる者でございます。皆様、どうかご安心ください]

 

 映像が無いので声だけだが、それで判断するならば、エリシアと同年代の少女の声。

 それが、相手方の司令官のようだった。

 

 何が安心できるんだ、と吐き捨てるレナート。交渉をしたい所であるが、一方的な通信のためそれも叶わない。

 

[皆さん、火星での戦い、本当にお疲れ様でした。きっとこの苦難を乗り越えた貴方達は、人間というものの次の存在へと足を踏み入れる可能性を手にしているのかもしれません。そんな貴方達をここで始末する事は私には考えられません]

 

 穏やかな、慈愛が感じられる優し気な声。だが、その内容には表向きの見逃す、という優しさ以外には何も無かった。内容も理解できるそれではない。それでも、その内容はエリシア達には幸運と呼べるものであったが。

 

 

[私達には火星での任務がありますのでこの辺りで。それでは皆さん、良い旅を――]

 

 その言葉と共に、回線は切れた。それと同時に、星之彩が動きを見せる。姿勢制御を行い、その球状部分を火星の方向に向け、移動を開始する。

 それはほんの数十秒でエリシア達の宇宙艦の横を通り、去っていった。

 

 動きをモニタリングしていた人間は、その光景に目を見開く。

 姿勢制御と前進、機体にスラスターのようなものも見られなければ、何かを噴射しているわけでもない、奇妙な機動。

 そう、それはまるで、重力そのものを制御しているかのような。

 

 

「……地球への連絡を……って、ジャミングされてますよね、きっと」

 

 その言葉通り、地球への通信機器は使用できず。星之彩の電子妨害の圏内を抜ければ、という所であるが、あとどれくらいかかるのか。

 

「皆さん……ごめんなさい、もう少しだけ、頑張ってください」

 

 急がなければ、とエリシアはいつも苦労しながら協力してくれているレナート達と艦を制御する皆に謝り、頭を下げる。

 

 

 地球への道はまだまだ遠い。問題は山積みだ。まだまだ自分は休めないんだろうな、とエリシアは憂鬱な気分になる。

 

「……メシにしようぜ、お嬢」

「私も同伴しよう」

「あたしカイコは嫌なんですけどー」

 

 でも、騒がしい身の回りの人達を見て、こんな生活もある意味では悪くないか、と思ったりもする。

 

 そんな事を考えながら、火星を生き残った幹部搭乗員の一人、病弱でひ弱な、戦士という言葉とは程遠い少女は三人と共に食堂に向かうのであった。

 

――――――

 

「おや、同期が切れてしまった」

 

 高さ十数メートルはあるかという巨大な機械がその多くを占める大広間。

 そこに佇む男は、ふと頭の中に知らせが来た事に対して独り言を話す。

 

 失敗は成功の母。今回の事例を参考に、今度こそ成功させようじゃないか。

 一つ伸びをし、男はその機械の一部、無数に並んだ巨大な透明のシリンダーをそっと撫でる。

 

「火星を生き残った人達……いやはや、また会うのが楽しみだね」




 観覧ありがとうございました。

 あまり最終回感の無い最終回なのですが、二部に続く……感が強い感じという事で何とかお許しを……

星之彩のデザインが私の表現力のせいで想像しにくかったとは思いますが、簡単に説明しますと頭部が球形なバクテリオファージ、という形状です。
 数話幕間のお話(後始末的なものと二部に繋がるもの)を挟んで二章がスタートします。

 長い間お付き合いありがとうございました、ここまで続ける事ができたのも読んでくださっていた皆さまのおかげです。よろしければ今後もよろしくお願いします!
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