深緑の火星の物語   作:子無しししゃも

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 ちょっと特殊な話です。
 以前コラボをさせていただいた『インペリアルマーズ』の回の続き的な回なのですが、そこに今回新たにコラボさせていただく『贖罪のゼロ』の設定、三作がもしクロスしている世界観だったら、という前提で以前の続きが、って感じです(意味不明)

 これに関してはそれぞれの作品の本編の裏で起こっててもおかしくないよなー、という後に書かせていただくコラボ本筋とは全然違い作者の思いつきによる完全にパラレルなお話となります、続くかも不明です。




EXTRA
■■■ とある世界


 2620年 U-NASA

 

「短い間でしたが、貴女は素晴らしく成長しました。我々の背中を任せるのに何の不安も無い程に」

 

「本当に、ありがとうございました!」

 

 がしっと力強く握手をする男女。

 両者の背後では、二人の所属するそれぞれの班のメンバー達がそれに立ち会っていた。

 

「……そろそろ時間だ、行くぞ、ディートハルト」

 

 握手をしていた片方、筋骨隆々の巨漢の背後に立っていたコートを来た男、彼の上司である班長が、彼の肩にぽんと手を置く。

 

「アイアイサー、ボス」

 

 それを聞いた巨漢は振り向きながら一度首を縦に振り、握った手にもう一度だけ力を込め、それを離した。

 アネックス計画ドイツ・南米第5班。その戦闘員の筆頭たる男、『ディートハルト・アーデルハイド』。彼はにいと一度笑い、改めて目の前の少女へと目を向ける。

 

 

「任されました! 誰にも、貴方達の邪魔はさせないと約束します!」

 

 それを受け、もう片方、筋骨隆々の少女もまた、巨漢の目を信頼に溢れた目で見返す。

 これが数ヶ月前まで自信なさげにおどおどしていた病弱で気弱な人間だったとはもやは誰も信じるまい。

 

 目覚ましい成長に、彼女の背後に控える部下達はさぞ誇らしい顔を……していなかった。

 裏社会を生きてきました、という感がありありと伝わって来る、凶悪な人相を人々。

 ただ、その表情は凶暴とは遠く、喜んでいいのか。それとも他の感情を出すべきなのか。皆どこか複雑そうな顔をしている。

 

 アネックス計画を支援する追加戦力、裏アネックス計画。それを構成する部隊の一つ、ロシア・北欧第3班。腕の立つ犯罪者が揃った戦闘という一点に絞れば間違い無く精鋭も精鋭というこの部隊の隊長を務める少女、『エリシア・エリセーエフ』。

 

 数ヶ月前まで、彼女は班員の庇護の対象であった。テラフォーマーにこそ通用しないものの対人戦に置いて凄まじい殲滅能力を誇る強力な手術ベース。しかしその実力の一方で本人の身体能力は低く、それをそのまま表したかのような触れれば壊れてしまいそうな色白の肌と痩せた体。

 『戦闘能力』で言えば間違いなく彼女は班員を束ねるだけの強者である。しかし日常生活において、その優しく、しかしおどおどとした性格とか弱さ、ついでに可愛らしさは班員達を引きつけてやまない。やまなかった。

 

 

「オイ、ディートハルト」

 

「……おう、レナート」

 

 握手する両者は、それぞれの所属へと戻ろうと互いに背を向けた。

 だが、そんなディートハルトに乱暴な調子の声がかけられる。

 

 それに答え名を呼び振り返るディートハルト。そこには、ディートハルトには及ばないものの筋骨隆々の大男が、優し気な雰囲気のディートハルトとは真逆の凶悪な人相で立っていた。

 

 『レナート・ベレゾフスキー』。裏アネックス第3班の二人の副官、その片割れである。

 エリシアが自分の体力の無さ、それによって集団で動く際に班員の足を引っ張っているという事を気に病んでいた事を聞きつけた彼が、今のエリシアをこうなるようにした張本人。ある意味では元凶と言える存在である。

 

 

 ビキビキという効果音でも聞こえてきそうな表情で、レナートはディートハルトに近づいていく。

 それに、アネックス第5班の班員達は不安そうな表情を浮かべる。今ここで喧嘩沙汰になるのではないか、と。

 

 先に手を出したのは、レナートだった。

 

 

 ……誤解がある。手を出した。それは、殴りかかったとかそういう意味では無く、言葉そのまま、腕を前に差し出した、という意味だ。

 

 ディートハルトもそれに応じ、差し出された手を握る。

 

「死ぬんじゃねェぞ」

 

「お前もな」

 

 互いが本気で力を込めて手を握っている。それは両者の腕の筋肉の張りと小刻みな震えから伺える事だった。

 根負けしたレナートがそれを離し、相変わらずだテメェは、と凶悪な表情のまま口端を歪め、ディートハルトもそれを返す。

 ……何だかよくわからないが、これが彼らなりのコミュニケーションなのだろうか。ほっと息を付いた第五班の班員達。少し呆れた様子の、彼らの班長。

 

 レナートは、エリシアの体を鍛えたいという願いを知り、それを託せる相手を探していた。その過程で見つかり、激突を経て了承を得たのが、ディートハルトだった。

 そしてエリシアの肉体改造計画は始まり。その結果が今のこの状況だ。

 

 か弱かったお姫様はこのような経緯によりこの筋肉がすごい~表裏アネックス編~の女性部門1位を誇るマッスルへと成長し、そのランキングは2位の強者を総合評価で上回り新たな2位へと就く事となった。

 

 

 ど う し て こ う な っ た。

 

 最近あのディートハルトが未成年の女の子に熱を上げている。そんな尾ひれの付いた噂を面白がって見に行った彼の同僚は最初こそまあ言葉遊びの誤解だよね、と納得し微笑ましくエリシアを眺めていたが、見る見る間に筋肉が付き始めて何故か身長まで大幅に伸び変貌していくその姿に何も言えなくなった。

 

 エリシアの部下達は自分達に迷惑をかけないように苦手な運動を頑張りたい、というその気持ちに尊い……とさめざめと涙を流しさらに団結を深めていたが、見るたびに強そうになっていく(マイルドな表現)その姿にこれまた何も言えなくなった。

 

 かくして、テラフォーマーの甲皮を己が筋肉で貫き毒を体内に流し込む強者、裏アネックス第2位、エリシア・エリセーエフは完成した。

 

 別れを交わす両者。アネックス一号出発の刻限だ。次に会う時は、師弟では無く共に背中を預ける戦士として。

 そして、人類の未来を賭けた戦いに臨む宇宙艦は空へと飛び立っていった。

 

 

 ……そして、それからわずかな時を経て、彼女にも出発の日が訪れる。

 

「全隊、整列!」

 

 掛け声と共に、6つの宇宙艦とその前に立つ6つの集団、その先頭に立つ、いずれも譲らぬ強者たちが、号令を出す。

 

「北米第1班、準備完了だよ」

 

 赤毛の青年が、背後の班員達を見て、その緊張する姿に愛おしそうに微笑み、号令を出す。

 上位戦闘員の数こそ多くは無いが、裏アネックス最強の戦力を保有する班である。

 

「日本第2班、問題ありません」

 

 腰に太刀を差した少女が、凛とした声で。

 あれ、あいつここだっけ? などという班員のおしゃべりが聞こえたため、それをちょっと困った顔で手で制しながら。

 

 

「ロシア・北欧第3班、大丈夫です!」

 

 筋骨隆々の少女が、力強く。班員達も威圧的な気配に溢れ、早く暴れさせろとでも言いたげだ。

 

「中国・アジア第4班。仔細無い」

 

 大柄な、見るからに厳格な武人という面持ちの男が、静かに告げる。

 何故か、定員より一人少ない気がするが。

 

「ドイツ・南米第5班。準備は万全です」

 

 マントを羽織った真面目そうな青年が、覚悟の面持で静かに頷く。

 戦闘員こそ少ないが、MO手術関係の研究員の技術では他の追随を許さぬ技巧派の班だ。

 

「ヨーロッパ・アフリカ第6班。大丈夫よー」

 

 のほほんとした空気さえ醸し出す、先頭に立つ老婆。だが、殺気という点では、どの班長よりも強い。

 背後に続く班員達は、言葉一つ無く、動きの一つも無い。

 

 

 裏アネックス計画。地球を救うための部隊の戦力増強として、裏ではアネックス計画の背後に潜む『裏切り者』を排除するために計画された、舞台裏の戦士達。

 

 それぞれの目的を胸に抱き、彼らは宇宙艦に乗り込んでいく。

 人類の存亡をかけた戦いが、今始まろうとしていた。

 

 

――――――――――――――――

 

『なぁんて、皆クソ真面目だよねぇ!』

 

 ライブ中継! と右上に表示された、今まさに裏アネックス計画宇宙艦が飛び立っていく様子が映し出されたモニター。その横のもう一つのモニターでは、一人の人間が映っていた。

 

 それは、ただ者では無いと同時に、ただ者である、と表現するのが相応しい、一人の少年だった。

 西洋人系の少年だ。白衣を着ている事以外にこれといって特別説明する事も無い、道ですれ違っても数分もすれば忘れてしまいそうな、そんなどこにでもいる容姿。

 

「……私には、関係の無い事だ」

 

 何がおかしいのか、ハイテンションでケラケラ笑うモニターの向こうで笑う彼に対し、男は感慨も無く、感情の籠っていない声で返す。感情が籠っていないのは声だけでは無く、その目もまたこの世界に絶望しきった、とでも言いたげに、酷く濁っている。

 

『つれないなぁ! もっと楽しく行こうよ! それが僕らだろう?』

 

 先程の映像。宇宙艦が飛び立っていくだけであれば、それはごく普通の中継映像と言えただろう。

 重要な部分は隠蔽されているとはいえ、火星へ人員を派遣するという大それた計画なのだ。メディアが注目しないわけが無い。

 

 ……だが、明らかにおかしい点は、その数分前にあった。

 

『ところでさぁ、なんか反応してた気がしたけど、君、ロリコンなの? それとも筋肉フェチ? 僕はどっちも違うから期待に応えられないよごめんね! ああでも僕ら全体としては大丈夫! 下半身が大好きな人とかいたし! もう死んじゃったけど!』

 

「……」

 

 数分前、モニターには、その計画の参加人員が映し出されていた。

 そう、一般には公開されるはずも無い情報を、紹介と共に添えて。

 

 班員達の手術ベース。死刑囚、実験体のクローンといった一般に公開されようはずも無い幹部搭乗員の経歴。

 それが、今モニターから男に話しかけている彼の声で、面白おかしく語られていた。

 

『だんまりかよ! わかったわかった、話を変えるよ! ……キミの夢、いいよね!『世界を滅ぼしたい』だなんて、まるで小学生みたいだ!』

 

「ああ、そうだとも。私は、世界を滅ぼしてやりたい」

 

『そんな君は僕ら『アダム・ベイリアル』には向いてないんじゃないかな? でもいいよ、面白おかしく、君のカワイソーなお涙頂戴の過去なんてどうでもいいけど、おもしろおかしく、皆で世界滅ぼすプロジェクトなんて楽しいんじゃないかな!』

 

 男は、独り言でも呟くように吐き捨てる。

 『アダム・ベイリアル』。それは、一種の称号だった。世界でも特に優秀な科学者に贈られる、ある種の天才の証明と言ってもいいだろう。だが、それが世界で賞賛され、羨望の目で見られる事は無い。

 

 研究のためならば家族も友人も研究材料とし、戦争すら引き起こす。それを日常的に行う狂人。

 何が目的でそんな事をするのか、と言われれば、人々はこう答えるだろう。

 

『名誉のため』

 

『誰かのため』

 

『欲望を満たすため』

 

 では、彼ら『アダム・ベイリアル』にそれを聞くとしよう。答えはこうだ。

 

『何となくだけど?』

 

 彼らに、大層な動機など存在しない。刹那的な快楽。衝動。何となく。

 それは、物語に登場する正義の味方のあり方などでは当然なければ、悪の組織のあり方でもない。

 

 しいて言えば、人格破綻者のそれだ。

 

 それに加えて個々人の感情こそ入って来るが、総括すれば『悪ふざけ』以外の何ものでもないのだ。

 

 

『僕らからすれば、復讐なんて立派すぎて目が潰れちゃうよ! キミは何て人格者なんだ!』

 

 

「……私を招きいれてくれた事に感謝はしている」

 

『でも、たった二人? いや四人だっけ? それだけの命を何十億人と交換だなんて、算数できてない感凄くて大好きだよ!』

 

 男は、優秀な科学者だった。それこそ、天才と言われてもおかしく無い程に。

 だが。その道はたった一度の不幸により崩れ落ちてしまった。

 

 そして男は門戸を叩いた。輝かしい学会を捨て、いいやもはや表の社会に帰る場所も無かったが。

 この、狂人達の集会場へと。彼の功績はその狂人の先達たちと比べて小さかったが、それでもと。

 

『うんうん、感謝してくれたまえ! ……あ、あと僕ん家の軒下貸してる同居人が君に会いたい会いたいって煩いんだけど、何とかしてもらえる?』

 

「それはすまない」

 

 彼の話を聞き流し、男は目線をモニターから外して己のデスクへ移す。

 

 いくつもの素朴な写真立てを順々に見ていく。

 

 赤ん坊を抱く男と、笑顔の女性。友人二人と男の三人。どこかの幼稚園か、子ども達と男。

 

『あーあー、もう話聞いてないなこりゃ……じゃあ、まあキミも近い内にわんわんに狩られちゃうだろうけど、どうかよき終末を、アダム・ベイリアル……ごめん頭文字被って言いにくいや』

 

 その言葉はもはや男には聞こえず、頭の中は、幸せな記憶とそれを奪われた時の記憶、その二つが交互に回っていた。

 一度、自分に言い聞かせるように、もう一度頭の中へと説明するかのように、呟く。 

 

「私は、未来を奪いたいのだよ。彼女達への手向けとして」

 

 同時に、最後の言葉を残し、モニターからの通信は切れる。

 

 真っ暗な部屋。そこには、菫色の宝石がはめられたペンダントを握りしめる、一人の男だけが残された。

 

 

 

 

『じゃあね、アダム・ベイリアル・ベルトルト……ヨーゼフ・ベルトルト君』




ご観覧ありがとうございました。

 誰かが幸福になって誰かが不幸になった世界の物語。

 
 エリシアがムキムキに! という以前のコラボでのお話と順位が2位という事で、ムキムキになった程度で勝てなさそうな元々2位の人はどうしたのか、今度コラボさせていただく『贖罪のゼロ』にそれと絡ませられそうな設定あるじゃないですか、暗いエピソード加えたろ! という一緒に過ごす相手のいない作者の当てつけによりクリスマスに書かれた悲しいお話です。

 そもそもエリシアムキムキ世界がパラレルワールド的なものでそこから
『インペリアルマーズ』単独コラボ→エリシアムキムキのまま他の幹部搭乗員も変わらない
三作合同コラボ→今回
にルート分岐します(

 『インペリアルアーズ』作者の逸環様、『贖罪のゼロ』作者のKEROTA様にはここで改めてお礼を申し上げると共にコラボ本編、もう少し後になりますが頑張らせていただきますという宣言を!
 
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