深緑の火星の物語   作:子無しししゃも

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少し間が空いてしまいました第9話です!


Mind Game:第9話 守護と救済

――――――――この世界に、神などというものは存在しない。

 

 

 ページを捲る。人間とは不在の神に至る可能性である。

 

 

――――――――この世界に、神などというものは存在しない。

 

 

 ページを捲る。なればこそ、我らがその新たな神を探し出し生誕を助け仕えるのだ。

 

 

――――――――この世界に、神などというものは存在しない。

 

 

 

「おお、おお…………!」

 

 

 聖典を読み、また一ページ、一ページと読み進めると同時にぼろぼろと涙を流す彼に、傍でそれを見守る両親は慈しみの目を向けていた。

 

 

「本当の事なのよ、これが、私達に与えられた使命なの」

 

 母が、その身を抱きしめる。

 

「お前は、枢機卿の座を賜ったんだ。我らでは至る事はないが、それでも神を生む試練に生き残ったんだ、お前は」

 

 父が、威厳を持った言葉と共に頭を撫でる。

 

 

 突然、スラム街に武装した一団が現れ、子ども達を逃がそうと応戦した彼は激しい抵抗の末に昏倒させられた。

 目を覚ますと、そこには懐かしい、最早記憶の隅にしか無かった我が家と、会いたいと望んでいた両親の姿。

 

 ……感動の前に疑問が先走った彼は、歓喜に震える両親に、事情を聞いた。

 その答えとして渡されたのが、今彼の手にある聖典だった。

 

 

 彼が読むのと同時に、彼が何故突然生死をかけた生存競争をする事になったのか、その理由が語られる。

 

 

 両親が所属していた、その血に持っていた一族の一家が運営する、とある教団。

 彼らが『神を生み出すための実験』として行っていたのが、危険地帯に子どもを送り込み、困難を乗り越えていく内に強い存在として成長していく。それを観察するという実験だった。

 

 本来であれば、教義としてニュートンの一族の人間は神に至る事はできない。それは、品種改良などという自然の摂理に逆らった手段を用いた罰なのだと教義では語られる。

 だが、一族の人間は一方で人間を見下してもいた。いずれ神に至る可能性がそのごく一部に眠っていようとも、我らと比べれば彼らは遙かに弱い、だから、我らが救わねば、導かねば。

 

 ニュートンの一族が一般の人間を超越した能力を有しているのもまた事実。

 かつて、この実験の失敗……否、歪な形での成功により、恐ろしい怪物が誕生した。

 

 一般人でさえ、並みの一族の人間を容易く仕留める事が可能となる。

 

 ……ならば。一族の人間に、この試練を施せば、どうなるだろうか?

 

 

 これが、彼の半生に襲い来た不幸、その全ての顛末だった。神に与えられた試練などでは無く。ただの、狂った宗教団体による、興味本位とまで言ってもいい身勝手な実験の押し付け。 

 

「違ったの、だな」

 

 その事実を聞き、加えて何やら言い繕おうとする両親の言葉に、彼はただ、ぽつんと呟いた。

 息子の耳に言葉が入っていない事に、両親は気付かなかった。

 

 真実を知り、まだ齢にして16だった彼の心は、歪な音と共に融け堕ち。

 

 

「ああ、違ったんだ! 神は俺達を捨ててなんていなかった! アロルドが手足を捥がれて苦しい、助けて、って言いながら死んだのも! ミカヤがゴミと見分けが付かないような姿で捨てられていたのも! カストがごめんなさい、って俺に謝る手紙を残して首を吊ったのも! アニータが一生子を産めない体にされたのも! 全部、助けてくれる神がいなかったからだったのか! 嗚呼、何と、何と――」

 

 

 そして。

 

 

「―――早く、見つけなければ。見つからないのであれば、早く、このような世界から皆を解放せねば」

 

 歪な形に、再び固まった。

―――――――――――――――

 

「……ようこそ、キャロルちゃん。……今日は、お祈りに?」

 

「あなたを、逮捕しに来ました」

 

 アヴァターラは、来客を出迎える。

 先ほどキャロルを行動不能にした、ネライストキシンという化学物質は昆虫に対しては致死的な効果をもたらすが、一方で死に至らなかった場合には一定の時間の後には急速に麻痺が回復していく、という特性を持っている。

 追って来る事自体はおかしな話では無いし、そもそもアヴァターラ本人がそれを望んでいた部分もある、別にこの来客はおかしな話では全く無い。

 

 決意の瞳、彼女の髪の色と同じく、義憤に燃えているのだろうか。そのような感情を、アヴァターラは目の前のキャロルから読み取った。

 

 

「……聞かせて欲しい。あなたが何者で、何でこんな事をしたのかを」

 

 

 このフランスに突然現れ騒乱を巻き起こした目の前の男にキャロルが最初に問いかけたのは、それだった。

 

 

「ふむ、意外だな。てっきり、敵だから素性なんてどうでもいいとか、どうせ理解も納得もできないから事情を聞く必要も無い、とかで、何をしてこの状況を作ったのか、なんて聞かれると思っていたのだけれど」

 

 

「事情聴取、って言えばわかってもらえる? ……それに、あなたはアタシと同じ、ってさっき言われちゃったから」

 

 戦闘の構えを両者は崩さないが、しかし少し落ち着いている、と言ってもいい小康を保ちながら言葉を交わす。

 それは、キャロルの警察官としての自覚であると同時に、個人的な疑問でもあった。

 

「……成程、だから『何者で何故』、というわけだね。賢い、と評するには少し感情的に寄り過ぎた選択かもしれないけれど悪くない」

 

 先の交戦から、キャロルにとって問いただしたかった部分だったのだ。

 弱い人を救いたいだなんて、実に共感できる考え方だ。俺と同じじゃないか。それがアヴァターラがキャロルに語った言葉だ。

 

 否定したかったが、同時に何故そのような事を、という疑問もあった。

 キャロルの思う限りではアヴァターラは人を殺す『救済』と称する行為を、本当に正しいものであると、それこそキャロルの中の『皆を守りたい』という意思と同じように真摯に想っているように思えた。

 

 だから、知りたかったのだ。その根拠を、何故、その結論に辿り着いてしまったのか、その理由を。

 

 

「じゃあ聞いてもらおうかな、俺の身の上話でも。お茶もお菓子も切らしてしまっているのが申し訳ないね。あ、逆にカツ丼とか出たりはしないのかな? 希维ちゃん様はそんな感じの事言ってたんだけど」

 

 おそらくこれは時間稼ぎだ。アヴァターラはキャロルの行動を、こう結論付けた。

 だが、それに乗る。何故ならば、この救済の波の中でそれを防ごうとする人間がどのように抗うのか、ただそれを見たかったからだ。

 

 

―――――――――――――――――

 

「……アヴァターラ、貴様、その衣は何だ?」

 

 教団の本部で、高い階段の上に備わった玉座に座る老年の男が、部屋に入って来た青年を見て、苛立ちを隠せない様子で疑問を呟く。

 

 彼の怒りも尤もと言えるだろう。教団の、そして一族の方向性を決める重要な会合。最高位の教皇である彼と、それに次ぐ地位である七人の枢機卿が集まる時間を、既に二時間は超えていた。

 

 その末に、ようやく一人目の枢機卿が入って来た。それがまず、怒りの理由の一つ目だ。

 二つ目に、彼の纏う衣が、教団としての規則を逸脱した、枢機卿という地位を冒涜するかのようなものだったからだ。

 

 アヴァターラ・コギト・アポリエール。神の試練を生き残った、司祭の息子にして、新たな枢機卿。

 そんな彼を、教団は大々的に持ち上げた。

 神の卵ですらほぼ全てが脱落する試練を、彼は見事10年間生き残って見せたのだと。その功績から、彼は新たな枢機卿として選抜されたのだった。

 

 教義に対する信仰は十分。能力は十二分。しかし、16というその歳は枢機卿としてはあまりに若いと言わざるを得ない。権力闘争という意味でも、納得していない一族の人間はいる。だがそれでも、彼を枢機卿に選ぶ意義は十分にあるのだと議決された。

 その理由は、早い話が一般信徒に対する客寄せと一族に対するアピールなのだ。彼は、奇跡の子なのだと。こんな若い人間でも、実力さえあれば最高位にまでたどり着けるのだと。

 

 そのような経緯で彼に与えられたのは『赤色の枢機卿』という地位であった。

 アポリエール家の枢機卿には、赤・橙・黄・緑・青・藍・紫という虹を構成する七色が付属する。

 

 赤色。血の世界を生き、信仰への熱に燃える色。

 そんな彼に贈られた称号だった。

 

 七色七人揃い初めて成り立つ。そのような思いが込められた、この枢機卿という地位の規則。だが。

 

 

 目の前の若き枢機卿は、その証として彼に与えられた赤の衣を、虹の七色に染め替えていた。

 

 

「ご機嫌麗しゅう、聖下」

 

 だが、その怒りに気付かない、もしくは無視するかのように、アヴァターラは遙か上に教皇を望み、恭しく跪いた。

 

「……もう一度、問うぞ。その衣は、何だ」

 

「俺の、決意表明でございます!」

 

 再度の質問に、今度こそアヴァターラは言葉を返す。

 だが、その答えは教皇にとって要領を得ない、意味を察せない内容であった。何を言っているのか、この若造は。

 やはりこの青年、どこかおかしいのでは。教皇は最近そのような事を考えている。枢機卿の地位を与える少し前に、両親を惨殺されるという痛ましい事件が起こっている。そこから、どこかおかしくなってしまったのではないか。教義に真摯ではあるが、あまりにやりすぎだ、と思う事案が多々あった。

 

「この神のいない世界に、神にもなれないのに生き続けるのは、あまりに哀れです」

 

「……ああ、そうだ。貴様は日々救済に励んでいるな」

 

 突然、話が教義の事へと飛ぶ。

 やはり、どうにかなっているのでは? という確証が強まるが、教皇は話を合わせる。 

 

 

「だから、俺だけでいい。俺一人が、苦難の全てを担いましょう」

 

「……!」

 

 しかし、アヴァターラの次の言葉で、気付いてしまった。話は決意表明から何も飛んでなどいないのだと。

 神のいない世界で、神にもなれない哀れな人間に、死という救済を与える。それは、教義に則ったアポリエールの裏の聖なる職務でもある。だが、アヴァターラが今語っているのは、そうでは無い。彼が今話しているその対象は、一般人、では無いのだと。

 

「貴様……!」

 

 それは、あまりにも遅かった。もっと早く、間違いを認めこの青年を何とかするべきだった。

 金と権力にその信仰が汚れるのは、長く続く宗教組織では逃れられない宿命と言ってもいい。それをいかに自浄するのか、というのは重大な課題だ。だが、アポリエールというこの一家は、既に頂点がそれに汚れてしまっていた。そこに、狂信者と呼ぶべき信仰の篤い人間が入れば、どうなるのか。

 

 教皇は玉座のスイッチを押そうとする。

 だが、その手はアヴァターラの次の言葉で強張る。

 

「エドヴァルド卿をお呼びですか? それならば、俺が救いました。財産を私に提供する、と仰られていましたが、我が信仰に財など不要であるが故、お断りさせていただきました」 

 

 階段を一歩、昇る。

 

「ペトリ卿をお呼びでしょうか? 彼でしたら、俺が救いました。多くの女性と床を共になされていて、いやぁ羨ましい限りで! あれだけの方々がいたならば、あちらでも寂しくは無いでしょう」

 

 また一歩、昇る。

 

「ああ、それとも、アレクシス卿でしょうか? 彼だったら、俺が救いました。世界に信仰を広めるまで自分は死ぬわけにはいかない、と仰られていました。このような信仰に篤いお方が苦しみながら生き続けなければならないなど、俺には我慢できなかった!」

 

 

 一人、また一人と枢機卿の名をアヴァターラは語る。六者六様、結末は皆同じな、その救済の様子を。

 理解、できなかった。だが、生にしがみ付いた教皇はそこでボタンを押す。

 即座に重武装の兵士達が訪れ、この狂人を排除してくれるはず。

 

 

 だが、教皇の間には誰も訪れない。

 

「……彼らは、職務に忠実な信徒でしたね。実に、ああ、実に、これまで生きねばならなくて、可哀想だった」

 

 

「それではお休みください、聖下。どうかあちらで、我が救済の様を、御覧じろ――」 

 

 

 そして、この日は後に信徒たちの間でこう語られる。『アポリエール家、その歴史で二番目の悲劇』と。

―――――――――――――――――――

 

「……まあ、面白いものではないけれどね、こんな感じだよ」

 

 その生い立ちを、教義の紹介を交えながら語ったアヴァターラは、それを聞いていたキャロルの反応を見る。

 何故だろうか。彼女が何を思っているのか、わからない。

 

 アヴァターラは首を傾げてもう一度キャロルから何かを読み取ろうとするが、しかし結果は同じだ。

 

「よく、わかったよ。あなたに何があって、今みたいになっちゃったのか。でも、その上で、言わせてほしい」

 

 どうしちゃったかな、と思うアヴァターラであるが、答えは結局直接聞けるようだ。

 それを、少しだけ楽しみにしながら、アヴァターラは待ち。

 

 

「今のあなたは、人の事なんて愛してない。あなたが愛しているのは『神様になるかもしれない可能性』だけなんだね」

 

「…………」

 

 その答えに、沈黙した。

 何を言っているのか、到底理解できなかった。その言葉に、頭の中が一瞬、凍り付く。

 

 

「……うーん、なにをいっているのか、よくわからないが」

 

 感情の欠けた声で、アヴァターラはのんびりと言葉を繋げ。

 

 

「俺の信仰を否定されるのは、ちょっと気に入らないかな」

 

 その体から、怪物が生え即座にキャロルへと襲い掛かる。

 

 本当なら、もっと時間を稼げたのかもしれない。でも、言わずにはいられなかった。

 やっぱり、まだまだだなぁ。心の中で、少しだけ嘆きながら。でも、間違っている、と自分を否定する事は無く。

 キャロルは、己の盾を構える。そして。

 

 

「行くよっ!」

 

 襲い来た怪物の一本、その襲い来る剣を盾で受け流し、地面に叩き伏せた。

 

 

「……おや、良い動きだ」

 

 賞賛の言葉と共に、キャロルへと襲い来る何本もの怪物と、それの携える無数の刃。

 それは、数秒後の惨劇の未来を予見させるが、しかし。

 

「あれ」

 

 アヴァターラの顔に、ごく僅かな疑問が浮かぶ。

 怪物の刃は、キャロルの盾へと突き立った。正面から一斉に向かったとは言え、巧みに体を隠しその全てを盾で防ぎ切った。なるほど確かに上手な防御術と言わざるを得ないだろう。だが問題はそこでは無い。

 

 

 攻撃によって僅かに欠けた盾が、正確には盾の前面に構成されたもう一つの盾が、徐々に元通りに修復されていく。

 

――正面から押し切るのは少し難しいかな?

 

 アヴァターラが作戦を変えようと末端の怪物を動かすが、その動きよりもキャロルの動作の方が一手、早かった。

 

 キャロルの側面を取ろうとした怪物の一本が、盾で受け流され、滑る形であらぬ方向を向いてしまう。

 その隙を見逃さず、キャロルは前進しアヴァターラの本体へと肉薄する。

 

 進路を怪物の一匹が塞ぐが、しかしそれは再び、力任せに、しかし致死のものでは無い、抑え込むような形で床に組み伏せられる。

 

 

「……全く、何が何だか知らないけれど厄介な」

 

 αMO手術と、さらに加えて宿す何種もの生物の複合体。それを携えた、ニュートンの一族の強者。戦力としては幹部搭乗員にも匹敵するであろう怪物相手に、キャロルは一切退いてはいなかった。

 それは、キャロルの辿った道を表すが如き、その身に宿す生物と装備、三種類に加えて彼女自身が磨き上げた技能が合わさった結果のものだった。

 

 

 巧みに盾を操り、怪物たちを捌いていく。

 それは、他の何でもない、彼女本人が鍛え上げた技。警察組織、SWATの候補生としての制圧術。

 

 誰かを守りたいという想いから、警察官になって、その技術を高めてきた。自分でも自覚していない内に、自分は強いから弱い人達を守ってあげようなんて傲慢になってしまっていて、U-NASAにやって来た。

 

 

 それだけであれば、力負けしていただろう。絶対的な筋力は決して高くない環形動物の複合型。だが、それでもMO手術を受けている時点で常人を上回る能力を得ているのは事実だ。 

 しかし。

 キャロルの盾は、ただの盾では無かった。その先には結晶の盾が構成され、執拗な攻撃にも決して崩れない。

 よく見ると純粋に透明な結晶では無く、何かの屑のようなものが混じっている事が伺える。

 さらには、反撃に振るうその一撃は、怪物の力を上回る。

 

 

 でも、強い生き物は何も適合しなくて、雑草と呼ばれるものしか無かった。悔しくて、泣いている時に決意を問われて。改めて、自分の覚悟を問い直して。自分は決意に酔っていたのだと恥ずかしくなって。

 

 それでも、変えられない想いがあるのだと、譲れないと言い放った。

 

 

「絶対に、ここで止める! 皆を守ってみせる!」

 

 

 

 それが、彼女がここに今立っている、変えられない生態(生き様)なのだから。

 

 

 

キャロル・ラヴロック

 

 

 

 

 

 

 

 

 

国籍:アメリカ合衆国

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

23歳 ♀

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

168cm 60kg

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『アークランキング』15位 (マーズランキング9位相当)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

MO手術 “植物型”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    ―――――――――――― ”日本固有種” シモバシラ ――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“ツノゼミ累乗術式” MO手術ver『Hyde』 “昆虫型”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      ―――――――――――― ミツツボアリ ――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ――氷華の乙女(シモバシラ) & 生命の涙(ミツツボアリ)開花(フロスト)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――アタシが一人で食い止めます。

 

 

 そう言った時の島原さんの困惑を思い出す。

 相手の強さは、一度戦ってよくわかった。

 

 二人で同時に戦って、それでも勝てない相手。

 それに一人で挑むなんて、きっとアタシが聞いてもどうかしてるんじゃないか、と思っちゃうかもしれない。

 

 ……でも、そうするのが、最善だと考えたから。

 

 

「えーっと、たぶん、アタシの事、見てて危なっかしいとか、甘すぎる、とか思われてるかもしれません。島原さんみたいに、その」

 

「××を前提とした戦闘をしていないから、ですか」

 

「い、いえ、責めてるわけじゃないんです!」

 

 島原さんの言葉に、慌ててフォローを入れる。

 それが間違っている、とは口が裂けても言えなかった。きっと島原さんもあの人なりにアタシに近い想いから、優先順位を付けてその手段を取っているのだろうから。

 

「わかっていますよ。……確かに、そう考えてしまう時があるのは否定しません。でも、……それが、貴女の信念、というものなのでしょう」

 

 大人だなぁ。そんな風に思ってしまう。実際は島原さんの方が一つ年下なんだけど。 

 

「……確かに、状況としてはそれが一番です。自分も理屈ではこう動く方がいいのかもしれない、と考えています。だがラヴロックさん、他ならぬ貴女の命が、危ない」

 

 それは偽れない事実だった。相手はアタシよりもずっと強くて、楽勝です、なんてとても言えない。

 でも、自分よりも優先したいものがあるから。

 

 

「いえ、いいんです。だから、島原さん」

 

 だからアタシは、今回のこの作戦を提案したんだ。

 

「アタシが止めている間に、市民の皆さんへの救援を、お願いします」

 

 アタシが危なっかしくて心配なら、早く皆さんを助けて、こっちの方に助けに来てください。

 そんな冗談で、少しだけ心に残る怖さを、吹き払って。

 

 

 

 

 

「やあぁッ!」

 

 盾と盾が激突し、その結果として怪物が吹き飛ばされる。

 傷一つ無い盾。仮に傷ついても元通りになる盾。それはキャロルの手術ベースと専用装備が生み出しているものだ。

 

 "シモバシラ"。日本原産のこの植物は、本来であればアネックス、裏アネックス、アーク計画の上位ランカーが持つような強力な手術ベースでは決してない。

 目を引く美しさも、周囲を恐れさせる毒も、邪魔者になる繁殖力も持たない、凡庸な植物である。

 

 

 だが、とある特徴を持っている。それは、二度花を咲かせる、というものである。

 一度目は、白色の、儚いけれど他に埋もれてしまいそうな小さな花を。

 

 

 そして二度目は、冬になっても活動し続ける根が水を送り、枯れた茎から花開く、氷の華(しもばしら)を。

 

 

 その特徴を示すかのように与えられた彼女の専用装備が、氷の盾を構成する背に背負った装置だ。

 対テラフォーマー過冷却式パイクリート生成装置【アイス・エイジ】。

 

 パイクリート。それは、簡潔に言えばおが屑を混ぜ込んだ氷である。

 0℃以下でも凍っていない状態の水『過冷却水』を保持するこの装備と、キャロルの手術ベースであるシモバシラの植物片を組み合わせ、このパイクリートを形成する事を可能としている。

 銃弾すら弾き返すそれは、元々航空母艦の装甲材として用いるために研究されていたと知れば、その強度にも納得がいく事だろう。

 

 これを武器として扱いやすいように加工できるのが、彼女のもう一つの専用装備である。

 

 対テラフォーマー凍結式バリスティックシールド『ハボクック』。

 タライのような形状をしているそれを器として過冷却水と植物片を混合したパイクリートを生成する事により、何度も使用できる強固な氷の盾が完成する。

 

 ……しかし、ここで疑問に思わないだろうか?

 バリスティックシールドに、氷の盾。このような重量のある武器兼防具を、いくら警察官として鍛えているからと言って、植物型を手術ベースとしている人間が軽々と扱えるものかと。そのような量の水を、どこに置いておくのだと。

 

 

 それに答えるのが、キャロルのもう一つの手術ベースだ。

 "ミツツボアリ"。体に水を貯える生物であれば。力の強い、アリであれば。

 その問題は全て解決だ……などと、簡単には言えないだろう。

 

 

 MO手術のベースは、通常一人につき一つ。αMO手術における例外などはあるが、こちらは前提となる成功率が低すぎる。

 しかし、アーク計画に携わる天才、クロード・ヴァレンシュタインはそれに異を唱え、あらたな術式を開発した。

 

 それが、MO手術の被術者であれば誰もが身に宿している『ツノゼミ』に他の生物を累乗する事だった。

 その特性として、ツノゼミをクッションとして挟んでいる事により、必ずしも被験者に適合していなくても良い、という利点が挙げられる。

 

 利点だけを上げれば華々しい、しかし実際には欠点や制限もある技術であるが、有用な生物に適合しなかったキャロルにとっては、天啓が如き技術だった。

 

 

 

 怪物がまた一匹、刃と盾を失い組み伏せられる。

 それは即座に再生するが、身に受けたダメージ自体は残るのか、動きが鈍くなる。

 

 互いの距離は一定だ。キャロルは巧みな技で怪物を捌くが、一方でアヴァターラもまた距離を詰めさせない。

    

 

「……」

 

 

 アヴァターラの表情から、微かに余裕が消える。

 おかしい。何故だ。何故、未だ耐え続ける?

 

 連戦によりアヴァターラも先の戦闘よりは弱体化している。

 αMOの機能維持のために、再生の為のストックをいくらかつぎ込んでいる。

 

 だが、それを差し引いても戦局が思うように傾かない。

 キャロルの動きは一般人よりも遥かに洗練されてはいるが、それでも歴戦の軍人などと比べては見劣りする。

 キャロルと自身の生み出した使徒との戦い、その様子を観察し。

 

「……ああ」

 

 剛大とキャロル、その違いを、理解する。

 叩き付ける。剣と盾を壊す。抑え込む。キャロルは怪物にこうして対処している。

 

 それが、剛大との明らかな差異だった。

 

 

 

 剛大は、毒で、拳で、怪物を殺す事で対処していたのだ。

 だが、キャロルはあくまで制圧している。

 

 呪いが、ばら撒かれない。

 普通であれば、相手を殺さない、というその志はこのような戦闘においては甘い、と唾棄されて当然のものだろう。

 特に、裏社会で人生の半分程を過ごしたアヴァターラからしてみれば、お人よしとしか映らない。

 だが、だからこそ体液から揮発するギボシイソメの呪い、ネライストキシンを最低限しか放出させない。

 

 これは、いくつもの偶然が重なった結果の、ごく僅かな優位でしかない。

 

 アヴァターラが万全の状態であれば、その身から生える怪物の量は制圧、で何とかできるようなものでは無い。

 軽いヒントのようなものは出したが、キャロルが体液から放出される麻痺毒、という原理を理解した上で対処していたわけでもない。

 

「全く、厄介な――」

 

 盾と剣を再生する隙にキャロルが突貫をかけてくる。甘い。焦り過ぎだ。

 自身が取る事のできる戦闘手段は、それだけでは無い。

 

 アヴァターラは奥の手を用いようとして。

 

 

「……一つだけ、聞かせて欲しいかな」

 

「……?」

 

 キャロルに向けて、言葉を発すると同時に攻撃の手を止める。

 キャロルもまた疲労が溜まっているのか生真面目なのか、アヴァターラが手を止めたのと同時に足を止める。

 

 本来であれば、隙を見せたキャロルに対し容赦無く攻撃を浴びせるべきであるが、アヴァターラの中にはキャロルに先ほど突きつけられた言葉の事で尋ねたい事があったのだ。

 

 

「君は、俺が人間を愛していない、と言ったけど、それは何故かな?」

 

 意味が分からない、と一度は気にも留めなかった言葉。それが今になって、じわじわと疑念へと変ずる。

 自分と似ている、と評した彼女がそう考えたのならば、そこには何か意味があったのではないか、と。

 

 

「さっきの話を聞いて、思ったよ。あなたは、『救う』って言ってたけど……可哀想だから、って言ってたけど……きっと、諦めただけなんだって」

 

「諦めた……?」

 

「本当に助けてあげる事が、救ってあげる事が、できなかったから。仕方なく、『救う』なんて誤魔化してるだけなんだって。死んだ事を救われた、って思いこむようにして……誤魔化すために殺す事を愛してる、なんて言えないとアタシは思う」

 

 アヴァターラはその言葉に、しばし無言で考え込む。さて、彼女は勘違いをしているのではないかと。

 自分はそんな事など、一度も考えた事は無いと――

 

 

「たぶん、上手く説明できてないと思うから、一つだけ、質問を質問で返させてほしい」

 

 

 少し謙遜した、しかし微かな確信を持っている、という調子のキャロルのその目にアヴァターラは自身が優位であるにも関わらず、居心地の悪い感触を覚え。

 

 

「今、あなたが捨てられていた街の子どもの皆がここにいたとして、あなたは『救う』とか『試す』とか、する?」

 

「―――――――」

 

 そして、今度こそ言葉を失う。

 

 

 あの子達が、ここに。ああ、哀れな子達だった。『救って』、あげなくては。もしかしたら、今改めて見れば神の卵の資格がある子がいたかもしれない。『試練を与えなくては』。……『救う』? あの子達を、俺に本をせがんできた、帰った時には一斉に纏わりついてきた、あの子たちを。一人一人。使徒の剣で刺して? 俺自身が首を絞めて? あれ、なん、で、あの子達は、あれ、あれ、『救わ』なくちゃ、いけないのに、おれは、あの子達を救ってあげる事ができなくて。みんな、しんでしまって――

 

 

「ッーーげ ぇ あ ぁ」

 

 

 愕然とした表情と共に、胃液を床へと吐き出すアヴァターラを、キャロルは痛ましい表情で見つめる。

 

「……ごめんね」

 

 

 そして、一直線に、そのアリの筋力で強化された脚で本体へと向けて、駆ける。

 動揺しながらも、しかしニュートンの血族、その上で裏社会でのサバイバルで鍛え上げられたその反応は俊敏だった。

 

 前方に盾を構え、無防備なキャロルの背に、無数に剣が襲い掛かる。

 

 

「な――」

 

 しかし、その剣は弾かれた。先の氷の盾に当たった時と同じ感触を剣に与え。

 

 アヴァターラからは確認できないが、その背には分厚い氷の壁が現れていたのだ。

 さらには、背以外にも全身を、氷の壁が覆っていく。

 

「これが、君の切り札か」

 

 憔悴しながら、だが未だ目に暗い光を宿すアヴァターラは、怪物の剣を跳ね除けて突撃するキャロルに、しかしそれに対しては焦っていなかった。

 

 大量の水分を消費している。恐らく、次は使えない。使えないだけでは無く、脱水症状を起こしてまともに戦う事もできなくなるかもしれない。

 

 これで決める、という腹積もりなのだろう。……だが、甘い。

 

 

「あっ、ぐっ!?」

 

 

 キャロルが、苦悶の声を上げる。

 怪物の、盾を砕かれて何も持っていない右腕。その手が、皮膚ごと、まるでバナナの皮を剥いたかのようにべろりとめくれ上がったのだ。

 腕の中から姿を現したのは、肉でできた袋のような醜悪な物体だった。それも、先端に四本の牙が付いた。

 この牙がキャロルの左肩に、氷の盾を貫通して深々と突き刺さる。

 

 

 それは、アヴァターラがこれまで戦闘に用いていなかった、最後の一種だった。

 "グリセラ・ディブランチアータ"。和名ではチロリ、と呼ばれる生物の一種であるそれは、可愛らしい名称とはかけ離れた生態と姿をしている。口から伸びる袋状の吻、その先端に備わった牙は、ただの生物の摂食器官では無い。

 

 アタカマイトと呼ばれる銅を主成分としたバイオミネラルで構成された、極めて高い摩耗耐性と強度を誇る牙。さらには、その成分はそこから獲物に流し込む毒、その触媒としての機能を果たしているとも考えらえている。

 オリアンヌの鎧さえ貫いた切り札が、キャロルへと牙を剥く。

 

 

「……君はよくやったよ。……もう、諦めて眠るといい」

 

 足が鈍るだろうキャロルに、怪物たちが殺到する。常にアヴァターラがもしもに備えて身の回りに置いておく護衛の怪物すら差し向けて。一刻も早く終わらせる、という意思と共に。

 

 

「!?」

 

 しかし、彼の想定から外れ、肩の傷、加えて毒による激痛を顧みる事すらせずに全力で駆け続けるキャロルはその包囲網を突破した。

 そして、アヴァターラの本体へと、今度こそ辿り着き、盾を振るい。

 

 

「舐 め る な」

 

 瞬間、アヴァターラの姿はキャロルの眼前から消える。

 相手の視線誘導を行った、退避に用いる歩法。

 

 

「……そこッ!」

 

 そんな、消えたアヴァターラに対し、キャロルは自身から見て左に向け盾を持ち上げ、勢いよく叩きつける。

 床の埃が一斉に舞い上がると同時に空を切る音。

 

 

「ッ!?」

 

 そこには、咄嗟に飛び退いたアヴァターラの姿があった。そして、キャロルもこちらから来る、と見当を付けていたが故に盾を振るったのだ。

 だからこそ、次いでの一撃が繰り出せる。

 

「がっ!」

 

 空に打ち上げるように前のめりに振り上げられた盾がアヴァターラの顎を砕く。

 

 それでもなお、態勢を立て直そうとするアヴァターラだったが、しかし。

 

「……!」

 

 脳震盪により脳が揺れ、知覚が上手く巡らせられない。

 頭を破壊されそれを再生するだけならば、どうとでもなった。だが、思うように動けない、この状況は。

 ふらりと体が揺れ、いや背後に飛び退くくらいは、と判断し、アヴァターラはステップを切ろうとし。

 

 

「……ぁ」

 

 

 彼の足元とその周囲は、比較的狭い範囲ではあったものの、崩落した。

 

 

 地下の大穴、老朽化していた足元。重量級の一撃。偶然なのか、狙ったのか、わからないが。

 ……そうか。これが、俺の結末か。

 

 その奈落に、彼は飲み込まれ――

 

 

 

「く……ぅ……!」

 

 

――なかった。

 

 浮遊感を失ったアヴァターラは代わりに腕を掴まれ吊り下げられている感覚を覚える。

 上を見上げると、そこには穴の淵で這いつくばり、右手で踏ん張り左手でアヴァターラの手を掴むキャロル。

 

「何を、しているのかな」

 

 心からの疑問に、アヴァターラは思わず呟く。

 何故、自分をどうにか助けようなどとしているのか。心底理解ができなかった。

 彼女も大きく弱っているのは明らかで、このままでは共倒れに落下してしまう。

 

 

「……言った、でしょ……? 逮捕、するために来た……って」

 

「……ああ」

 

 キャロルの言葉には納得できなかったが、そんな事を言っていたっけな、とアヴァターラは返事をする。

 

 

「……何故、俺のような人間まで助けようと?」

 

 望んだ答えとは違ったため、アヴァターラはもう一度、意味を改めその質問を繰り返す。

 脳は揺れ、喋るのもやっとである。

 

「あなたは、罪を償うべきだと、思ったから。それに、ちょっと責任も感じてるんだ……アタシはまだ子どもだったけど、もっと力があったり、頑張ったりできたら、あなたとあなたがお世話してた、って皆も、助けられたんじゃないかって。今この瞬間に苦しんでる人も、守れるんじゃないか、って」

 

 キャロルの、見るからに表情に元気が無い、やはり脱水症状が出ているのだろう、力もあまり入っていない事が伝わる腕。しかし、これだけは伝えたいのだと、声だけは何とか振り絞る。

 

 

 

「……あぁ……君、もしかして本物の神の卵だったりするのかな?」

 

 半分、冗談で。もう半分は、本心で。アヴァターラは、弱弱しく、キャロルの目を見つめる。

 君みたいな大人が、あの時にあの場に居たのだとしたら。あの子達が、俺が辿った道は、何か違ったのだろうか。そんな事を、考えながら。

 同時に、守ろうとしてくれる彼女に対してそう思う自分に、神などという完璧な存在は、結局自分が縋った都合のいい偶像だったんだ、と自嘲しながら。

 

 

「ううん。アタシはまだまだ全然ダメで、神様、なんてすごいものはなれそうにないし……それに、アタシは、大切な友達とか、かけがえのない友人がこれ以上傷つかないように……」

 

 

 キャロルの反応に困った言葉に、真面目だなこの子、とアヴァターラは微かに頬を緩め。

 

 

「そう、見守ってやるーみたいな神様じゃなくて、同じ人間として、対等な仲間として、守りたいんだ」

 

 

 その締めの言葉で、目を見開いた。そして、その目は徐々に、眩しいものを見るかのように、細められる。

 

 

「……火星の悪魔を初めとして、白衣の狂人や神への挑戦者や槍の王、英雄のなり損ない……君の前には、これからも様々な困難や邪悪が待ち受けていると思う。それでも、君は進み続けるのかい?」

 

 

 そこで、アヴァターラは頬から笑みを消す。そこには、邪教の枢機卿と呼ぶにはあまりにも普通な、ただの一人の聖職者の顔があった。

 

 

「勿論。どうなるかはわからないけど、最期まで皆と一緒に」

 

 そんなアヴァターラにキャロルは微笑む。伝わって来る腕の震えからして、随分無茶をしているのだろう。引き上げられるなら、こんな問答をするまでもなくとっくにしているに違いない。

 

 

 

「……キャロル・ラヴロック。俺なんかに祈られても、きっと迷惑だろうけど……ヒトの子よ、どうか、君の行く末に―――」

 

 ああ、名残惜しい。そう、目の前の、これからも歩み続けていく、人間の姿を、初めて曇りを取り払って見たような気がして。

 

 

 

「―――穏やかな青空が広がっていますように」

 

 

 キャロルの握る手を、振り払った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 浮遊感に身を任せながら、アヴァターラはキャロルに謝罪をする。

 罪を償う、というのを君の望む形でできないのが残念だ、と。

 

 

 

 

―――――同じ人間として、対等な仲間として、守りたいんだ

 

 

 同時に、キャロルの最後の言葉を、何度も、何度も、心の中で繰り返す。

 まるで、極上の美酒の最後の一滴を惜しみ口の中でいつまでも転がすかのように。

 

 

 

 ああ、そうか。俺は、これまでずっと枢機卿なんて偉そうな立場にいながら、こんな簡単な事に気付かなかったのか、と自分の不甲斐なさに、笑いながら呆れて。

 

 

 全くもう、本当に。

 

 

 

 

 

「……人でもいい。人でも良かったんだ」

 

―――――何故、神にしか人は救えないと、思いこんでいたのだろうか――?

 

 

 

 

 

 大罪人の末路、と呼ぶには、あまりにも安らかに、穏やかに。

 

 彼の魂は、その肉体と共に、奈落の底に砕けて、消えた。




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