小鬼の宿命をはねのけた元人間が村を助け、
そういかないのが現実の非情さだ。そもそも助けるに達してねーよ、行動も遅かったし。そんな愚痴が溢れるのも何時もの事。あの夜に盛大に立ち往生して逝った後にも忌々しい転生は続き、早五年ほどの歳月が過ぎていた。
どうもゴブリンの討伐は新人冒険者の
遭遇する冒険者のどいつもこいつも、素人目ですら
そんな素人に毛が生えたような新入りでも、初回で討伐できるのが約七割ほど。
つまり100匹の小鬼が
現在はそれに概ねそった形で転生を繰り返していた。
さてそんな小鬼生活を積み重ねていくと、段々と自分が変容していくような感覚に陥ることもある。
混沌の性か、小鬼の持つ暴力的な衝動を最終的に受け入れることにした。
勿論、どれだけ小鬼に産まれ落ちようが自分が人間であるという
人に暴力を振るうことは殺る気マンマンの冒険者なら兎も角、一般人を手にかけるのは単純に嫌だ。なのでその矛先は概ね同族に向ける形になった。
他者の苦しみを素直に愉悦とする術を得た。小難しい言い方をしたが、要は嫌がらせが大好きになっただけだ。
仲間の死すら嘲笑し、同族に共感を持たないゴブリンでも、まさか命を賭けてまで自分達を陥れる同胞が居るなんて思い付かないのか、捻り出した嫌がらせの数々はどれも面白いくらいに引っ掛かった。
例えば「これ旨くて美味しいゾ!」と食べられるし味も悪くないが毒性の強い植物や茸をしれっと食べさせて弱らせたり、あるいはそれを煎じた毒薬を群れの備蓄に混ぜて皆殺しにしたり、シンプルに溜め込んだ略奪品を全部燃やしたり。捕らわれたばかりでまだ元気のある冒険者の女性たちに武器と装備を渡して暴れさせたり、
一番傑作だったのはシャーマンの支配する巣で配下の連中を扇動した時だ。基本的に偉そうな首領に不満を抱く事は知っていたので、精々仲違いする程度かと思ったら、少し煽ってやるだけであっという間に
用心棒のホブが率いる俺こそ長だ!派と残存の呪文使い派、そして少数の漁夫の利を狙った俺様こそ新しい首領になる!派が3つどもえの大乱戦になり、まさかの全滅。小鬼の余りの単純さに呆気にとられた。
ゴブリンの巣は首領の不信と野党からの嫉妬で構成されている。まだ見たことのない
その時は流れ弾の雷矢で死んでしまったが、手軽に巣を狩れるのでまた試してみるつもりだ。
他にも
勿論、他のゴブリンやあるいは人に殺されることも多かったが。というかホブでさえない小鬼の時はほぼそれで終わる。
そんなことを繰り返しても相変わらず小鬼の生活に変化が見られないので、想像よりもこの世にはゴブリンが多いらしく、その繋がりも矮小らしい。
(さて、今回はどうしようかなぁ)
冒険者の槍に
勿論死ぬのは嫌だし痛いのも嫌だが、
尤も、小鬼限定という枷がある限り、数を重ねてもできることは高が知れているが。
ちなみに今食しているのは小鬼の肉片だ。やれお前の飯を寄越せと煩くて不愉快だったから衝動的に締め殺したが、うむ、不味いし固いし脂身もない。うぇ。
ただ殺すだけなのも勿体無いので喰ってみたら、まぁ不味いの何の。血抜きもしたら変わるだろうが、後で試してみるのも手か。
小鬼は基本的に雑食だ。人の食えるのなら大抵食える。なので同族の体も食おうと思わないだけで喰えない訳じゃない。
他に餌があるのに仲間を貪り続ける姿に流石に驚く大人たちや怯える兄弟の顔が実に愉快だったので、暫く偏食を続けてみるのも面白いかもしれないと思った。
何も持たない小鬼は飯を手に入れるのだって楽じゃない。略奪を悪と理解できてしまう俺なら尚更だ。それに、これは人じゃない。人でなしの小鬼のガキだ。なら何も問題はない。
ひとしきり食い終わると、落ちていた石ころを拾い上げ、我先に逃げようとした愚鈍な奴を打ち殺す。
小鬼は経験で強くなる。同じステータスでも人生経験はコイツらとは段違いだ。ほら、ゴブリンはこうやって殺すんだぞ!こうだぞ!こうしちゃうぞ!
そうして小鬼転生者が食事と駆除を楽しんでいると、この巣の首領らしきシャーマンが喚きだした。呪文使いが率いているとなるとそこそこ中規模の巣だな。
「GORBGOBO!!」
子供はいずれ戦力になるから最低限死なせないようにする程度の考えは小鬼にもある。餌を奪い合って殺し合いをするのはまぁ良いが、一匹が殺しすぎるのは問題に感じたようだ。
「GORBGOBO‥‥(ごめん、俺腹減ってたスマソ)」
別に反抗しても良かったが殺されるのも癪に触るので反省した振りをする。気が弱いが攻撃的な性格をしていると思わせれば、いずれ使える駒になると勝手に気に入られて殺されることはあまりない。
「GORB‥‥GOBOR!!」
ついでに言うと悪知恵以外はあまり他の小鬼と変わらないので、適当におだてておけば気を良くして多少のヤンチャにも目をつむるパターンも多い。
おだてて褒めあげておけば気まぐれに指南するパターンはそれなりにあったし、新しい呪文を学べるかもしれない。そんな案もあり、思い付く限りの言葉と手振りで太鼓持ちをすると、面白いぐらいに効果が出る。
自分こそが誰よりも偉いと考える小鬼が、他者を敬うことなんて殆どない。配下が媚びへつらう事には馴れていても、実際に口に出して誉められるのは別なのかやたら機嫌が良くなる。
元気なのは良いことだが余り殺すなよ!首領はそう叱りつけて、ついでに側にいた孕み袋にされていた女性を蹴りあげる。
(あ、こいつ成長したら殺そう)
まだ助けられない。いや前と違って見ないふりはしないつもりだったが、普通よりは強いといっても小鬼の子供が、大規模な群れの巣穴のど真ん中で、しかもシャーマンとホブのふたりがいる場合となると流石に無計画すぎる。武器を渡したところで体力も残ってないだろうし、この人も死ぬだけだ。心苦しいがまだ耐えていてほしい。
運が良いのか用心棒も居るし、いつかやると決めていた殺っちゃいましょうよ!作戦を再び試すのもアリか、なんて考えている彼は、人というよりは小鬼らしいのかもしれない。
結論から言うと殺っちゃいましょうよ!作戦は没になった。
小鬼転生者が成長しきる前に冒険者がやって来たのだ。女を犯しながら遊んでいた呪文使いの元に慌てた様子で見張り連中が駆け込んできた。虎視眈々と殺意を募らせていたため気づかなかったが、確かに少し金具の臭いがする。
どうやらたった一人で乗り込んできたらしいが、襲撃を退けた所かあの渡りも殺したらしい。ほへー、スッゴい。なんて感心したのは俺だけで、呪文使いは口汚くなく罵った後、生き残った連中を引き連れて追撃に向かった。まだ成長しきっていない俺は戦力になるか微妙だったのか、他の
頑張ってください!なんて激励をしながらもこれからの
とそこまで考えて、転生者は急にアホらしくなった。何故今を考える必要があるのか。今回は失敗した。だが俺には次がある!ならしたいことをすればいい!
彼はまだ体に合わない
ゆっくりと振り返ると、きゅいきゅい騒ぎながら
可愛いもんじゃないか。ヘドが出る。知ってるぞ。お前が俺の
転生者は安心させるような笑顔を浮かべ、刃を突き刺した。
大人たちと比べたらあまりに感触がない。よりスカスカな肉の感触が
そのまま引き倒して腸を引き抜いてやった。後で女の人の鎖も解いてあげなくちゃな!あぁ!正義は素晴らしい!
今回は
冒険者が洞窟の最奥に到着すると、彼は漠然とその場を見渡した。天然のものなのか、それとも掘り起こしたのか、その大空洞の由来は彼にはわからなかったが、ここが
ただ、小鬼を殺すという目的のために訪れた彼にも理解できない何かが居た。
それは小鬼だ。血塗れの
汚濁にまみれた女もいた。鎖に繋がれたそれに、幼げな顔を凄惨な笑顔で染め上げ、今にも襲いかからんとしていた。彼にはそう見えた。
考えるよりも先に体が動いた。短刀を投機する刹那、此方を見る小鬼と目があった。
信じられなかった。刃が眼球から脳髄を貫通する間も、そいつは実に
かつて、何処かで同じ表情の小鬼を見たことがある気がする。
冒険者の彼は、無性に帰りたくなった。
疲労もあるが、あの小鬼が、その眼の奥で渦巻く何かがーー怖かったから。