翌日、目が覚めた私は起こしに来てくれた式に連れられて食堂に案内された。
「おーすごい! でもこの料理って誰が作ってくれたの?」
「おはよう。この料理はなぜか動いているうちのメカ琥珀さんが作ってくれるているんだ」
「メカ……?」
「うん。メカ」
またまた御冗談を、と思ったところで、キッチンであろう奥から一体のメタリックなメカメカしい、でも割烹着を着たロボが料理を運び込んでいた。
「志貴さま、こちらが最後の料理になります。何かありましたらお呼びください」
「ありがとう琥珀さん。何かあったら呼ぶね」
「はい」
そう言うと、メカ琥珀さんはすたすたとキッチンに戻っていった。
唖然としている私に気が付いたのか、式が軽く肘打ちをする。
「おい、とりあえず座ろうぜ」
テーブルを見ると、そこには昨日は見なかったイリヤもお行儀よく座ってみんながが席に着くのを待っていた。
「おはようイリヤちゃん。私は昨夜から遠野さんのこの家にお邪魔しているんだー」
「おはようございますマスターさん。私の方こそ昨夜は寝てしいてごめんなさい」
「いいよいいよ。あ、志貴さんおはようございます。朝食ありがとうございます」
「気にしないで。なぜか食材はなくならないから」
「え、それって大丈夫なんですか?」
「まぁ、今のところ俺を含めて誰にも悪影響はないみたいだよ? とりあえずご飯食べ始めよう」
なくならない食材という不思議現象が気になって仕方ないが、他のみんなも大丈夫って感じなのであまり気にしないことにする。
それにしてもおいしそうだ。ごはんに目玉焼きに納豆。お味噌汁に焼き魚に焼きのり。これぞザ・和食というラインナップだ。
「あ、美味しい」
「カルデアの状況を聞いていたからね。洋食が多いようだからここにいる間は和食メインで作ってもらうよう琥珀さんには伝えてあるんだ」
「ありがとうございます! すっごく懐かしいです」
「さ、冷めてしまう前に食べちゃってよ」
きれいな紅い瞳を柔らかく丸めて、志貴さんは自身の食事を開始した。
もちろん私もいただきますをしてから食べ始める。
15分ほど黙々と食事をするみんな。しかし、その沈黙に耐えられなかったのが食べる必要のない無機物だ。
「暇です! イリヤさーん何か面白いお話してくださーい」
「面白い話ってなに!? せっかくおいしいご飯食べているんだから食べ終わるまで待っててほしいんだけど!」
「えー 志貴様には申し訳ありませんが、どう食べようが味は変わらないじゃないですか。もっとこう皆さんが朝から頑張れるぞーって感じのお話とかしてもいいと思うんですよ。例えばクロエさん達との温泉でのお話とか……」
「ちょ! それこそやめてよ! あれはホントに恥ずかしかったんだからね!! それにそれが頑張れるぞーっていう内容にはならないから!?」
すっごく気になる。クロエって普段からあんなだからきっとものすごくアレな感じだったんだろうなぁと思いつつお味噌汁をずずっと飲む。
そして、私がお椀を置いたところでサンタオルタが口を開いた。
「面白いかどうかは置いておいて、マスターいいか? 食べながらでいいのでもう少し詳しい状況を説明しようと思う」
「あ、それは聞いておきたい。……ってもう食べ終わったの!?」
「うむ。あのくらいの量ならな。でだ、マスターと式は昨夜は遭遇しなかったようだが、この三咲町には現在厄介な敵が何体かいるのを確認している」
「カラスとかって言ってたアレ?」
「そうだ。カラスはその厄介な敵の使い魔だが…… その使い魔も常にこの屋敷の前に居座っているからすでにマスターのことは知られているはずだ」
「気が付かなかった……」
「カラスも黒いからな。だが、ほら窓の外を見てみろ」
サンタオルタに言われるがまま窓の外を見ると、こちらを見張るかのようにカラスが3羽電線の上にとまっている。
それを確認するとイリヤが会話に混ざる。
「志貴さんがそのあたりのこと詳しいよ」
そして、名前が出てきた彼も会話に加わった。
「ああ、以前この三咲町で起こった吸血鬼事件なんだけど、今この町を襲っている脅威はその時の連中のようなんだ」
「連中ってことは複数いるのか」
「式さんの思った通り複数いる。わかっているのは少なくともネロ・カオスとミハイル・ロア・バルダルヨォンの2体の死徒かな。もしかしたらワラキアの夜や軋間紅摩なんていうのもいるかもしれないけど」
「どういう連中なんだ?」
「軋間紅摩以外は死徒っていう27体いる吸血鬼の親玉みたいなやつらの内の2体さ。ネロ・カオスは身体に666の獣の因子を取り込んで命が666あるっていうやつで、その因子を使い魔として受肉させてカラスやネズミなんかにして町中に放っている。この因子を複数用いれば用いるほど強力な使い魔にできて、俺が知っているのはワニとか恐竜とか出してきたかなぁ? 先輩の話では幻想種なんかも作り出せるっていうことだよ」
「666もの命……ヘラクレスの宝具がかすんじゃうね」
でもカラスとかなら大丈夫かなぁ?
「カルデアにはヘラクレスなんてのもいるんだ? うん、それで次のロアだけど、これは無限転生者っていうやつで、殺しても他の誰かに転生して生き永らえるっていう吸血鬼。こいつは転生した人物の肉体にスペックが依存するからそう強くないんだけど、おそらく相対したときは魔眼が厄介かなぁ?」
「ほう、魔眼か」
同じ魔眼を持っている式が反応する。
「そう、名前は知らないけど、『モノを生かしている部分』を視ることが出来るらしい」
「モノを生かしている? それってどういうことなんですか?」
イリヤが首を傾げながら質問する。可愛い。
「表現が難しいんだけど、生きている存在には血液とは違うけど生きるためのエネルギーのようなものが流れているみたいで、そこを傷つけられると問答無用でその生き物の生命力を削ぐことが出来るってことかな? 処置が早ければ手当はできるから大丈夫だと思う。特にサーヴァントの皆さんはマスターから魔力を供給してもらえれば回復は簡単なはずだ」
「……式のとは違う?」
「と、思うぜ」
「ん? 式さん?」
「なんでもない」
流石に式の切り札ともいうべき能力を簡単に公開するわけにもいかないし、ここは黙っておいた方がよさそうだ。
「それに、いるかわからないんだけど、ワラキアの夜。こいつは噂を操作して、その人が想像する中で一番の恐怖対象を具現化する能力を持っているけど、今の三咲町はここにいる人たち以外見かけないから多分いない気がする。でももしいたら本当に気を付けてね。人理なんてものを修復してきた君たちのかつての敵が出てくるから」
「うへー、それはやばいなー。んーまんじゅう怖いとかはだめだよね?」
「落語の? あはは、それでまんじゅうが空から降ってくるだけならいいんだけどね。まぁいないことを祈ろう。そして最後の軋間紅摩だけど、彼はこの遠野と同じ化け物との混血で、先祖返りをした紅赤朱という存在だ。ただただ力が強く、再生能力も高い破壊の化身って感じかな? 英霊となっている皆さんにとってはそこまで強いという感じではないかもしれないけど注意おいてください」
「解説サンキューな志貴さん。それで、一応確認したいんだが」
「えぇどうぞ、式さん」
喉を潤すために一口お茶を飲んだ志貴さんが探るように式を見つめる。
「あんたは、この世界が特異点というもともと自分たちがいたところとは違う世界だということを知っているのか?」
「ああ、君たち二人が来る前にイリヤちゃん達からある程度のことは聞いて知っているよ。まぁ街に誰もいないから普通のことじゃないなぁとは思っていたけど」
「へー、それにしてはあんまり慌てたりはしないんだな」
「これでもそれなりに修羅場をくぐっているからね」
「……ちっ」
どうやら式は志貴さんから何かを聞き出そうとしたらしい。でもうまくいかなかったってことかな?
いつの間にか現れたメカ琥珀さんが淹れなおしてくれたお茶を飲んで考える。
「あ、じゃあさ志貴さん」
「何かな?」
「調べておいた方がいい場所って検討ついてる?」
私の質問に、彼はしばらく目をつむって考えていたが、しばらくするとゆっくりと口を開いた。
「一つは学校。一つはこの屋敷の地下牢。……あとは近づけないあそこかな」
「近づけない?」
「学校に行けばわかるんだけどね、学校の敷地内に入ると見える場所なんだけどどうやっても近づけないし入れない場所があるんだ」
私はイリヤちゃんを見ると。
「うん。私とサンタオルタさんは一度様子見で行ったけど、確かにそうだったよ」
「どんな場所なの?」
「城だ」
「へ? サンタオルタ、城って?」
「城以外に表現できん。学校の背後に巨大な真っ白な城が聳え立っている」
「昼間は吸血鬼の行動も制限されるから、このあと見に行ってみたらいいよ」
そう言って志貴さんは微笑んだ。
会話中心になってしまう……
月姫で登場する場所って遠野家、学校、路地裏くらいですよね。
まぁ有馬家とかシエルさんの家とかアルクの家とか七夜の家とかもありますが。アニメだと遊園地もありましたか……?
原作はメカ翡翠さんですが、ここでは琥珀さんになっています。
料理作る担当で登場しているので、ストーリーには影響ないオリキャラです。
貴方を、犯人です。(ぐるぐるおめめ)