奏物語   作:ラトリラ

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かなたルーツ
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如月奏音という存在の、生い立ち。あるいは成り立ちについて、いい加減語らなくてはならない頃だと思う。俺にはきっと、その義務がある。高校三年生の11月下旬、一般的に学校行事がたくさん詰まった時期に──俺は死んだ。それは衝撃的な出来事であったし、壊滅的な出来事でもあった。いずれにしても、俺は運が悪かったのだと思う──勿論、俺がその不運をたまたま避けられなかったのと同じような意味で、その不運をたまたま避けられていたとしても──俺ではないほかの誰かが同じ目に遭っていたかと言えば、多分、そんな事はないのだろう。運が悪かったなどというのはあるいは非情に無責任な物言いであり、俺が悪かったと、素直にそう言うべきなのかもしれない。結局あれは、俺が俺だったがゆえに起きた。そう言う一連の事件だったのだと思う。

 

一連の事件。

 

迂闊なことに大した思い入れもなく、そう表現してしまったものの──仮にそんな風に『一連の事件』と言ったとき、どこからどこまでの事象が含まれるべきなのか、実のところ俺にはよく分からない。一体どこから事件は始まっていて、そしてどこでどういう経緯を辿り、そしてどのように終わったのか──その正確なところは俺にも断言できない。ひょっとすると、それは今を持って終わっていないのかもしれないと──ただの外連味や言葉遊びで言うのではなく、俺は真剣にそう思うのだ。

 

結局、俺は俺の視点からでしか事件を観測することはできないし、だから俺以外の人間にとって、あの一連の事件が本当はどのような意味を持っていたのか──そして、どのような意味を持っていなかったのか、それを知ることは永久にできない。『彼女』に話を聞くことができれば、ある程度の事情を把握することはできるのかもしれないが──それだって、それが本当のことなのかどうか、分かるはずがないのだった。

 

あるのは真実ではなく認識なのだ。

 

そしてそれで十分なのかもしれない。

 

しかし、そもそも(それだけは間違いなく断言できる)、ことの中心であった俺──如月奏音。太陽系第三惑星地球、日本国近畿地方兵庫県生誕没、■■■■は、そういう存在なのだ。

 

観測者にとってのみ意味を持つ。

 

観測者によって意味が違う。

 

観測者同士にとっての意味が一致しない。

 

それが──転生者である。

 

とはいえ、転生者という存在について詳しい説明は、多分不要だろう。漫画であれ映画であれ小説であれ、それはもう散々に掘り尽くされた鉱脈だ。日本国で生まれた文化だからかもしれないが──大半の日本人にとってはとても馴染み深い存在だろう。一周半して、今はちょっと古い概念と言ったところか。

 

しかし、11月下旬。

 

俺はその、一周半して古い概念であるところの転生者になってしまった。

 

間が抜けていると言える。

 

実際、間抜けだったと思う。

 

そしてその、他の誰でもない、俺自身の間抜けさのせいで──俺は途方もない、数えるのも億劫になるほどの時間生きることになってしまった。

 

人の生を遥かに超え、死に物狂いで必死に生きて──人外になった。

 

地獄のような冗談で、冗談のような地獄だった。

 

一連の事件がどこから始まり、どこでどういう経緯を辿り、そしてどのように終わったのか──先にも言ったように、それは俺にとっては永遠の謎、けっして解けないパラドックスのようなものだけれど、たったひとつのあの地獄が、いつから始まりいつ終わったのかは、俺にとってはっきりしている。

 

西暦2006年11月26日から西暦2004年5月15日まで。

 

時間を遡行し、次元を超えて──解決した。

 

無限の欲望(アンリミテッド・デザイア)森羅万象の蒐集家(マテリアル・コレクター)無限の欲望の蒐集家(アンリミテッド・コレクター)──後に俺は、その生き様から蔑称も込めてそう呼ばれるようになる。

 

神様。

 

特典。

 

転生者。

 

ならばやはり、俺があのとき、あの場所で、そういう風に彼女を観測してしまったことが──俺が人外に成り果てた、最大の要因なのだと思う。

 

観測者としての俺は、はなはだ不適合で。

 

そしてやっぱり、間抜けだった。

 

俺のことを話そうと思えば、それは必然的にも自分の間抜けさを余すところなく、晒さねばならないのだけれど──ともすればその行為は自虐的に見えるかもしれないけれど、それでも俺は、やっぱりこの生涯のことを、語らなければならないのだろう。

 

彼女から(かな)でた()色の物語を。

 

俺を彼女が奏音(カナタ)とした物語を。

 

語らなければならないのだろう。

 

語る義務があるのだろう。

 

それが僕の責任だ。

 

・・・・・・前置きが随分と長くなったように思うが、これについては勘弁を願いたいところである──責任だ何だと偉そうに言ったところで、所詮それは間抜けな道化の責任だ。どこで挫けるのかわかったものではない──弱気なことを言ってしまえば、正直なところ、俺にはまるで、この物語を話し終える自信がない。だから俺はこんな風にうだうだと、もっともらしい前振りを並べているのだ。

 

それも流石に限界で、それにいざ語り始めてしまえばその後はもう石が坂道を転がるがごとしで、途中で止める方が難しいだろうけれど、しかし念のため、万が一、俺の覚悟が足りなかった時のために、この物語の結末をあらかじめ、最初に宣言しておこうと思う。

 

転生にまつわるこの物語はバッドエンドだ。

 

みんなが不幸になることで終わりを迎える。

 

それだって地獄の終わりというだけであって、一連の事件はやっぱりまだ終わっていないのかもしれないし、いずれにしたところで、俺の彼女(オレ)に対する責任は、一生かかっても終わることがないのだけれど。

 

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