奏物語   作:ラトリラ

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吸血鬼退治は、時間と場所を選ばない。

 

つまり、周辺に対する被害やあれやそれやを無視して行うのである。それこそ、漫画やアニメみたいに。

 

こちらとあちらの橋渡し──

 

さすがにそう嘯くだけのことはあり、忍野は、人気のない、そこで暴れても誰の目にもつかない決戦場所をセレクトしたのだった。

 

学校のグラウンドというのは、言われてみればなかなか悪くない選択かもしれなかった。

 

夜の学校というのは、ある意味盲点だ。

 

セキュリティのないグラウンドに入るのに余計な手間はいらない。

 

短時間なら──目撃者もまず出まい。

 

いい決戦場所だった。

 

 

「・・・・・・でも、なんで直江津高校なんだ?」

 

「きみの通っている高校だからさ」

 

「いや、だからなんで僕の通っているところを選んだって訊いてんだよ──まああの学校、人家からは離れたところにあるから、戦いの場としてはそれなりに相応しいかもしれないけど、でも、なんていうか、僕的にやりづらいだろう」

 

「やりづらい? 違うよ。やりやすいんだよ」

 

 

忍野は指を振って、そう言ったのだった。

 

 

「きみ的にやりやすいんだ、如月くん。吸血鬼退治の専門家を相手に、昨日今日吸血鬼になったばかりの、なりたてのきみが戦うんだぜ──地の利くらいあった方がいいだろう?」

 

「血糊? 死んだフリでもするのか? 僕はあいにくそんな小道具は持ってなくてだな、絵の具でいいか?」

 

「地の利だよ」

 

 

そうでないと、公平でないから。

 

サービスだよ──と。

 

そんな風に忍野は言った。

 

僕からすれば、自分の通っている高校で戦闘をするなんて、トラウマになりそうだ。

 

まあ、いいや。

 

じゃあ──まさしく学園異能バトルと行きますか。

 

 

「・・・・・・待たせたな」

 

 

どこぞの傭兵のような挨拶をして、僕はグラウンドに足を踏み入れる。

 

筋肉隆々の巨漢、ドラマツルギーがグラウンドの中央に胡座をかいていた。

 

 

「■■■■・・・・・・ああ、現地の言葉で──だな」

 

 

そう言って、彼は立ち上がる。

 

あれ? 丸腰か?

 

 

「勘違いするな──同胞よ。私は、お前を退治しに来たわけではない。あの男──あの軽薄そうな男の言に従って来たのは、決してお前を退治したいがためではないのだ」

 

「退治しに来たんじゃなけりゃ──なんだよ」

 

 

軽薄そうな男。

 

忍野のことだろうか。

 

あいつ向こうからもそう見えるのかよ。

 

 

「勧誘しようと思っている」

 

 

ドラマツルギーは、順序を踏まずに、いきなり本題に入る。

 

 

「お前に訊く。私と同じように吸血鬼狩りに身を窶すつもりはないか」

 

「・・・・・・何、言ってんだあんた。この前、問答無用で斬りつけてきておいて──今度は何を言ってるんだ」

 

「あの時は、エピソードとギロチンカッターがいたからな。あのふたりの前で、このような誘いをかけるわけにはいかない。しかし、ハートアンダーブレードの眷属という稀有な存在は──殺すには惜しい」

 

「僕がお前の仲間になれば、キスショットの右脚を返してもらえるって、そういう取引か?」

 

「・・・・・・あの女をキスショット呼ばわりとは大した度胸だが、その推測は違う。ハートアンダーブレードを殺すのが、お前の最初の仕事になるだろう」

 

「・・・・・・なら交渉決裂だ」

 

 

話にならない。

 

 

「そうか、惜しいな。実に惜しい。今のところ、私には五十三名の同胞がいるが──どうやら主人からの支配力が薄いらしいお前なら、その仲間になるに相応しいと思っていたのに」

 

「五十三名とは、また随分と多いな。そんなに群れて、楽しいか? この前言っただろ? 僕は仲間なんかいらないって」

 

「そうか、お前ならすぐにでも私達のギルドのナンバーワンになれた」

 

「興味ないね」

 

「ちなみに私は現在のナンバーワンだ」

 

 

それこそ興味ない。

 

でも、まあ、漠然と、すごいやつに狙われるキスショットまじすげぇって感じだ。

 

 

「──次からはもっとうまく観察するんだな。僕は支配力は薄いけど、忠誠心は高いんだ」

 

「そうか」

 

 

どうでもいいみたいだ。

 

僕に対する関心はなくなったのかな。

 

 

「それでは始めるとしよう──哀れな少年よ。ハートアンダーブレードの眷属よ。あまり時間をかけるわけにもいかないのだろう?」

 

「まあな、でもその前に条件を確認させてくれ。相互の認識に齟齬があると困る」

 

「いいだろう。確認しろ」

 

「僕が勝てば──お前はキスショットの右脚を返してくれる」

 

「私が勝てば、お前がハートアンダーブレードの居場所を教えるならばな」

 

「それでいい」

 

「こちらも、それでいい」

 

 

では始めよう。

 

回していた腕を──そう言って。

 

ドラマツルギーは、僕に向けて打ち込んできた。

 

 

「うっわ」

 

 

思わず声が漏れた。

 

吸血鬼の先輩はさすがですな、僕は少し準備体操はしているけど、そこまで適応しているわけじゃあない。

 

とりあえずいつも通り、脊髄反射で腕の軌道を逸らしながら避けようと、左腕を拳に向けて放つ。

 

まぁ、もちろん。

 

次の瞬間──僕の左腕はぶっ飛んでいた。

 

跡形もなく、爆散していた。

 

 

「・・・・・・・・・・・・ッ」

 

 

ドラマツルギーから距離をとる。

 

そんな僕の散らばった血が、渦を巻くように左肩付近に集まり──左腕を形成する。

 

もちろん服も修復済みだ。

 

うん、美しい。

 

 

「お前が吸血鬼と聞いて、こっちだって準備はできてんだ」

 

 

白銀に輝く魔法陣が僕の手元に出現、その中から僕に向かってとあるものが射出された。

 

それを右手でキャッチして構える。

 

 

「それじゃあ、死んでくれるなよ? 死なれたら、色んな意味で面倒なんだ」

 

 

面倒だけど、鉛の銃弾で吸血鬼が死ぬわけがない。

 

だから、

 

 

「あたれば死ぬぜ? 何せこいつに込められた弾は銀の弾丸(シルバー・ブレット)だからな!」

 

 

完全に趣味で作っていたこいつが役に立つ時が来た。

 

.454カスール弾を使用するオートマティック拳銃、加えて銀の弾頭弾を放つときたら、僕の知る限り一丁しか存在しない。

 

引き金を引けば、夜空に咲く花のような轟音とともに、銃身がスライドし薬莢を排出する。

 

人であれば耐えきれないような衝撃も、吸血鬼の腕力が片手で足りると、頼もしいことを言う。

 

 

「ぐうっ・・・・・・!」

 

 

打ち出された弾丸は、まっすぐこちらに向かってきていたドラマツルギーの脇腹を──見事に消し飛ばした。

 

 

「チェックメイトだ、ドラマツルギー。それともこのまま頭を吹き飛ばされてみるか?」

 

 

ゴリッと、銃口を額に突き付けて僕は言う。

 

 

「参った。降参だ」

 

「・・・・・・そうか」

 

 

僕は銃を下す。しかし、その銃はいまだに、撃てばドラマツルギーに当たる向きで──止まっている。

 

 

「キスショットの右脚。返してくれるんだろうな」

 

「ああ」

 

 

ドラマツルギーは頷き、そして。

 

体から力を抜いた。

 

 

「今はある場所に隠して保管してあるが――すぐにでも、あの軽薄な男に渡しておく。それでいいんだろう?」

 

「・・・・・・ああ」

 

「では、示談成立だ」

 

 

そう言うやいなや、彼の体が()()()()()()

 

 

「ハートアンダーブレードの眷属よ」

 

「・・・・・・なんだ」

 

「もう一度誘おう。私たちの仲間になってはくれまいか」

 

「仲間は要らんつってんだろ。まあ、気が向いたら見学に位は行ってやる。可愛い女の子用意しておけ」

 

「・・・・・・極悪人め」

 

「好きに言え」

 

 

徹頭徹尾、僕は自分のために行動する存在だ。

 

極悪人で間違っていない。

 

ただ、誰にも裁けないだけだ。

 

 

「・・・・・・とりあえず、右脚ゲット」

 

 

これで、四分の一。

 

時間にすれば三分にも満たないことだった。

 

さてと、帰るか。

 

地面に落ちた薬莢を拾い上げ、手元に出した陣に入れる。捨てるわけではないが、再利用もできない。まぁ、いつか大量の鉄が必要になった時に、使うだろう。

 

 

「まあ、ほとんどゴミだけど」

 

 

というか、今時弾薬に薬莢を使う馬鹿は居ない。

 

確か特殊な合成薬品が使われているとかなんとか、あれ、電気だったっけ?

 

僕は興味がないことにはとことん知識がないんだなあ。

 

一応、何かの間違いで肉片や、血痕が残っていないか確かめてから帰路につくことにする。

 

 

「き、如月くん?」

 

 

キスショットの待つ学習塾跡へ帰ろうと、校門を乗り越えたところで後ろから声をかけられた。

 

ついさっき──聞いた声だ。

 

まさかと思い振り返ると、羽川が僕を見つめていた。

 

追ってきたのか、こいつ。

 

 

「ッ!」

 

 

そのまま踵を返して、全速力でその場を離脱しよう。

 

捕まったら絶対面倒だし、って言うか、死にたがりの面倒見ている暇なんてないんだよ!

 

 

「待って、如月くん! パンツが好きな如月くん!」

 

「黙らっしゃい! 僕の間違った情報を拡散するな!」

 

 

いくら住宅街から離れているとは言え、聞いていない人が居ないとは限らない。

 

っていうか、足を止めてしまった。

 

 

「よかった、やっぱり如月くんだ。・・・・・・今さっきの、何?」

 

「見てたのなら分かるだろ? 学園異能バトルだよ」

 

 

誤魔化す、と言うよりもうどうにでもなれという気持ちが強い。

 

 

「なんでそんなことしてるの?」

 

「関係ないだろ。もしかして主人公を庇って怪我を負うヒロインポジションでもやりたいのか?」

 

 

ちょっとからかってみよう。余裕が出てきた。

 

 

「つーか、何で僕のことつけてるんだよ。ストーカーはお前の方じゃねーか」

 

「もうストーカーでいいから、何してたのか教えて」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 

こいつ。

 

ストーカーでいいのか。

 

通報するぞ、多分捕まるのは僕だけれど。

 

 

「私が、そういうことを言わせちゃってるっていうのは悪いと思うけれど──そんなことを言わなくちゃいけないような状況に、今の如月くんはあるってことなのよね?」

 

「・・・・・・違う」

 

「気づくのが遅れて、ごめん」

 

 

でも、と彼女は続ける。

 

 

「だったら私、力になりたい」

 

「・・・・・・僕がいつ、力を貸してほしいって言った? 助けを求めたか? 余計なお世話で迷惑だ。僕に協力するというのなら、見たこと、僕のことも全部忘れて今すぐ帰れ」

 

 

それが一番、僕のためになる。

 

 

「嫌だよ。如月くんが帰れって言うなら帰ってもいいけど、またここで待つよ。如月くんが現れるまで」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 

重い女だ。初めて見た。

 

 

「言っておくけど、関わったところで僕はお前を守らない」

 

「いいよ。自分の身くらい自分で守る」

 

「クラスメイトでもない相手を気にかけるほど暇じゃない」

 

「三年生で同じクラスになるかもよ?」

 

「それでも、今は何の関わりもない」

 

「・・・・・・友達じゃないんだ」

 

「いつ僕とお前が友達になったんだ?」

 

「私と楽しそうに話してた」

 

「都合の良い幻覚だ。僕はそんなことをした覚えはない」

 

「嘘」

 

「・・・・・・手を貸す条件だ。

 一つ、勝手な行動はしない。

 二つ、関わった時点で全て自己責任。

 三つ、僕はお前を頼らない。

 四つ、僕の迷惑を考えろ」

 

「最後のは愚痴だよね?」

 

「五月蝿い」

 

 

目の前で死なれたら後味が悪いし、無関係の一般人を巻き込むのも胸糞が悪かったのだが、折れる事にした。

 

その代わり、羽川が殺されようが、死のうが、僕は一切気にしないことにする。

 

それが、自己責任の意味だ。

 

別に、羽川は嫌いじゃない。

 

好きでもない。

 

心底鬱陶しいどうでも良い奴だ。

 

だって、面倒だから。

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