例え、策を思い付いたとしても、それを実行する手段がなければ勝ち目はない。
しかし、僕は何でも入る倉庫を常日頃から、持ち歩いていて尚且ついつでも開けるのだ。
ただし、実行するにしてもバレてしまっては意味がない。
何とかして気を逸らせれば良いんだけれど。
どうするべきか──
「正直、僕はなりたてのきみがドラマツルギーさんやエピソードくんに勝てるわけがないと思っていたんですけれどねえ──あの二人も案外情けない」
「よく言うぜ・・・・・・お前が最初に出てこなかったのは、あのふたりを当て馬として使いたかったからなんだろう? そしていざ自分の番が回ってきたときに、有効な作戦を取ろうとしたんだ──」
交渉は三人バラバラに行なった忍野だが、ドラマツルギー、エピソード、ギロチンカッターという順番を決めたのは、向こうのチームの事情だったという。
ドラマツルギーがトップバッターに名乗りを上げ、エピソードは何番目でもいいと言った。
そしてギロチンカッターは──しんがりを志望した。
「別に、そこまで深い考えがあったわけではありませんよ。エピソードくんは、目上の僕とドラマツルギーさんに順番を譲っただけでしょうし・・・・・・、ドラマツルギーさんは褒賞目当ての一番手ですかね。
「ああ、いや・・・・・・そう言えばドラマツルギーさんは君を仲間にしようとしたのでしたっけ?
「では、先に僕やエピソード君に倒されてはたまらないという考えだったのでしょう。まあ勿論、僕もきみの言うようなことも考えないではありませんでしたが、しかし、あのふたりのどちらかがハートアンダーブレードさんを退治したところで、結局、手柄は僕の教会が得る運びになっていましたからね」
「・・・・・・楽をしたかったってことだな」
褒賞を出すのはお前だったのか。
じゃあお前の目的は?
ドラマツルギーの目的が褒賞と勧誘ならば、エピソードはきっと褒賞が二の次の私情──だから順番にこだわらなかった──すると、ギロチンカッターの目的は?
訊くまでもない。
使命──だった。
「まあしかし、よいでしょう。僕は手間を惜しむ者ではありません──世の中をより良くするためにならば、どんな労をも厭いませんよ」
雑談が過ぎましたね、とギロチンカッターは言った。
確かに口数が多い。
元々口数の多い男でもあるのだろうが──舌のすべりがいいのは、油断している証とも言えた。
格上相手に勝つ方法は二つ。
油断させて勝つか、緊張させて勝つか。
相手が格下ならばヒトは簡単に油断する。
かの英雄王も言っていた。
慢心せずして何が王か、と。
要するに──
ギロチンカッターは、今、油断している。
自分が圧倒的優位にあると思って、調子に乗っている。
だからそこをつく。
「羽川」
僕は、ギロチンカッターの言うことを無視して、その腕に抱きかかえられている形の羽川に、そう声をかけた。
「大丈夫だから」
羽川は言葉を返せない。
首を絞められているから。
ただ──僕を見るだけだ。
僕は続ける。
「僕が絶対に、助けるから」
「・・・・・・不愉快ですねえ」
ギロチンカッターは、穏やかな口調ままで言う。
「高校生の友達ごっこに付き合ってあげるほど、僕は寛容ではありません。神、つまり僕は仰っています──そろそろ始めましょうとね」
「それで・・・・・・始めるって?」
僕はギロチンカッターに向き直って、言う。
「どうするんだよ。羽川を人質に取っている限り、僕にはなにもできない。そして、僕はどうするつもりもない。お前の言うことに絶対服従する──こんな有様で、勝負なんか成立しないだろう」
「神、つまり僕はこう仰っています──勝負が始まった瞬間、あなたは両手を上げて『参った』と言ってくれればいいんです、とね。つまり勝負は始まった瞬間に決着するというわけです」
「そうか」
そうすれば羽川の命は助けてもらえるんだな。
「ええ。使う必要の無くなった武器は、要りませんから。さあ──始めましょうか?」
「──だが断る」
そうだ。
降参するわけには──いかない。
「この如月奏音が最も好きな事の一つは、自分で強いと思ってるやつに「NO」と断ってやる事だ」
それに、もう──手がないわけでは無いのだ。
人生で一度は言いたい台詞ランキング──かなり高位に入っているであろう台詞である。
無関係のものを巻き込んではいけないというルールはあるが、羽川が無関係かどうかはよく分かっていない。
だから、目の前にいるこいつがルール違反をしているかどうかは分からない。
ただ──ひとつ、わかることはある。
まだ開始のホイッスルは鳴り響いていないのだ。
「人が神を名乗るなんざ、傲慢が過ぎる。聖職者なんて大抵が神様の代理人だったりするが、自ら神を名乗る阿呆なんて僕は初めて見たよ」
だから、これ以上ないほど煽ってやる。
意識を僕に向けさせるために、それ以外に、目を向けさせないために。
「一ついいことを教えといてやろう。神様なんてのは元来、人の形なんかしてないものだ。目の前で起きた現象や不可思議な出来事に、理由と形を与えたのが神様の始まりだからな。
「人の自分勝手で生まれた存在が、僕の目の前にいるって言うだけで納得しちゃうよ。
「だって、お前は──どこからどう見ても、自分勝手だから」
そして──時は来た。
「【
僕は、今まで手元に出現させた魔法陣から、わざわざ取り出していた蒐集物を、今この時初めて──
敵に向かって撃ち出した。
布製の、幼児が遊ぶようなボールではあったが、寸分違わず狙った的に当たってくれた。
ギロチンカッターの顎に──である。
どの程度の速度で撃ち出したのか、それは僕にもわからない──管理妖精が教えてくれなかったが、それでも脳震盪は確実に起こしていることだろう。
どうだ、忍野。
僕はこんなことだってできるんだ。
学園異能バトルの主人公ではないが、僕の外付けハードディスクはとても優秀だろう。
僕はこの、ハードディスクという表現が、とてもはまり役だとあとから気付いて、その後数日間思い出し笑いをすることになるのだが──今はいいだろう。
忍野は人間をやめろと、僕にそう言ったが──案外なんとかなるものである。
それに、僕はもう、どうしようもなく化物なのだから。
誰に言われるでもなく、自発的に、自ら、化物になりに行ったのだから。
そこでようやく思い出して、気絶したギロチンカッターのそばにへたり込む羽川の元に駆け寄った。
駆け寄るだけではない。
そばにギロチンカッターがいるというだけで、トラウマになりそうだったから、駆け寄ると同時に転がしておいた。
十メートルほど。
「羽川──大丈夫か」
僕は羽川を抱き寄せて、その首を見る──指の跡が痛々しくくっきりと残っているが、しかし、内出血というほどのこともない。これならば、すぐに後は消えるだろう。他に何かされている様子も──どうやら、ないようだ。
よかった・・・・・・。
本当に、よかった。
「あ──あ、あの、如月くん」
と。
羽川が、ぐい、と両手で僕の物語を押すようにした。何をしているのだろうと思ったが、どうやら僕から離れようとしているらしい。
「ちょ、ちょっと離して」
「え・・・・・・うん」
腕を解くと、羽川は更にもう少し離れる。
距離を取られた。
「えっと・・・・・・は、羽川」
「あ、ありがとう、如月くん」
僕から目を逸らして、羽川は小さな声で言う。
「で、でも、その──近寄らないで。こ、こっちに来ないで。て言うか、触らないで」
「な、何で?」
どうしてそこまで嫌われる理由があるのだろうか。
嫌われるというか──拒絶か。
「だってさ」
羽川ははにかみながら。
乱れたスカートの裾を直しながら、言った。
「今私、パンツ穿いてないし」